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廊下で転んだわたしをお姫様抱っこで医務室へ運んでくれ、
傷の手当てをしてくれた処までは、良い感じだったのに、
その後、急にイレールが素っ気なくなってしまった…

何故なのか、理由が分からない。

「てっきり、親しくなるご褒美クエストか何かだと思ったのに…」

くうう、現実は厳しいのね!!

「そういえば、廊下で何に躓いたのかしら?」

それを思い出したが、それ程重要とも思えず、気にしない事にした。
何だったにせよ、イレール様にお姫様抱っこで運んで貰えたのだから、感謝したい位だ。


気を取り直し、昼休憩になって直ぐに、サンドイッチを持ち、音楽室に突撃し、
イレールを待ったが、結局、イレールが音楽室に姿を現す事は無かった。
放課後も同じで、何処を探しても、イレールを見つける事は出来なかった。

「イレール様に、避けられてる気がする…」

気の所為であって欲しいけど…

共同の居間のソファで膝を抱えて座っていると、メロディが帰って来て、前の椅子に座った。

「お義兄様に抱えられて運ばれたと、噂になっていましたが、違うのですか?」
「それはそうなんだけどぉ、その後よ…急に塩対応になっちゃったの!」

わたしはそれをメロディに話した。

「わたし、何か悪い事したかなぁ?」
「それは無いと思います、お義兄様にも何か考えがあるのかもしれません…」
「それを知りたいのに、避けられてたら、聞く事も出来ないわ!」
「そうですよね…分かります、アラン様も同じです…」

わたしは、メロディの表情が暗い事に気付いた。

「そういえば、アランに会ったの?リボンの効果はどうだった?」

メロディは頭を振った。

「廊下で会ったので、昨日の事を謝ろうとしたんです、でも、あたしを見るなり、
顔を背けて行ってしまったんです!絶対に、あたしに気付いた筈なのに…
まだ、怒っているのでしょうか…生意気な女だと嫌われたのかも…」

メロディもわたしと同じ様に膝を抱えた。

「そんな事無いわよ!アランがメロディを嫌う筈無いもの!」

わたしは断言したが、「何故ですか?」と聞かれ、閉口した。
理由は説明出来ないわ…

「兎に角、早合点は駄目よ!アランには、わたしがとっちめて聞き出してあげるから!」

「それでは、お義兄様にはあたしから、ヴィオレット様とお話する様に言ってみます、
心の内を話す様な方では無いので…」

確かにそうだわ、イレールは繊細だから、難しいのよね…
でも、その繊細さにキュンとくるのよね~♪
守ってあげたい、支えてあげたい、甘やかしてあげたい~~って♪
それに、わたしの事を沢山考えてくれて、悩んでくれるのよね~

わたしは独り、胸キュンしていた。
メロディと協定を結んだ事で、気持ちも晴れ、元気に食堂へ向かったのだが、
ふと、それに気付いてしまった。

違うわ!
ヒロインはメロディだもの!
イレールが悩むのはメロディの事で、わたしの事じゃない…

そうだ、イレールは、メロディの事が好きだったんだわ!!

イレールがわたしに素っ気なくし、避けているのは、わたしの気持ちに応えられないから?
そうよ、わたしはイレールに気持ちを伝えたもの…
これは、彼なりの思いやり…?

「そんなぁぁぁ…」


◇◇


翌日、わたしは不機嫌を隠さず、アランに会いに行った。

「アラン!ちょっと、顔を貸しなさい!」

教室を覗き、アランを呼び出すも、案の定、イレールの姿はそこに無かった。
どうして、わたしが来る事が分かるのかしら??
その能力、わたしにも欲しいわ!

アランはギョっとしていたが、「何だ?」と大人しく出て来た。

「イレール様は何処に行ってるの?」
「イレールなら当番だ、資料を持って行っている」
「そう…」

別に避けられてる訳じゃないのかしら?

「用はそれだけか?」
「いいえ、イレール様の時間割を教えて頂戴!」
「他人に勝手に教えられるか、そういう事は本人に聞け」

くうう…!
アランってば、こういう処は厳しいのよね!規則に煩いっていうの?

「それじゃ、わたしが知りたがってる事は匂わせておいて」
「匂わせる?どういう事だ」
「直接的だと慎ましくないでしょう?『知りたいんじゃないか?』と言って頂戴」
「おまえが慎ましい事があったか?」

アランの指摘は無視しよう。

「それだけなら、さっさと教室に戻れ、授業に遅れるぞ」

「本題はここからよ、昨日、メロディが落ち込んでたわよ?
アラン様に生意気な女だと思われたんだ、嫌われたんだわ…」

わたしが言うと、アランはさっと表情を変えた。

「まさか!その様な事は無い!!」

アランが強い口調で言うので、教室から様子を伺っていた生徒たちがざわついた。
わたしは噂にならない様に、アランの腕を引き、人気の無い処まで連れて行った。

「それじゃ、何故、メロディに冷たくしたのよ?無視したんでしょう?」
「それは…喧嘩した翌日に、着飾っていれば、良い想像など出来ない…」

アランがぼそぼそと言う。

「自分に当てつけてるとか?他の男子の気を惹くためだとか?」

アランが頷いたので、わたしは思い切り嘆息した。

「メロディがそんな意地の悪い子じゃないって、あなただって知ってるでしょ?」
「それは…そうだが…他に考えられないんだから、仕方かないだろう!」
「逆ギレしないでよ、全く、アランは女性の事には疎いんだから…」

そこが魅力でもあるわね。
王子で、完璧な人に見えて、女性に疎いなんて!母性をくすぐるわね。

「リボンの色を見た?」
「ああ、それがなんだ?」

わたしは『やれやれ』と頭を振った。

「緑色よ、それって、誰かの瞳の色と同じよね?」

アランが難しい顔をした後、「はっ」と目を見開いた。

「メロディはあなたと喧嘩して、後悔していたの。
あのリボンは、あなたに謝りたいって意思表示よ、あなたを想っていますってね」

「そうだったのか…そんな事にも気づかずに、俺は…」

アランはかなりショックを受けたらしい。

「分かればいいわ、メロディに謝って優しくするのよ!」
「ああ…彼女の気持ちを踏み躙る真似をしてしまったんだからな、当然だ…」
「それから、リボンを褒めてあげるのよ、似合ってる~とか。
それとも、『これ以上可愛くならないで欲しい、君の可愛い姿を他の男に見られたくないんだ』
とか、どう?カッコ良くない~??」

ゲーム内のアランを思い出し言ったのだが、嫌そうに顔を顰められた。

「止めろ!そんな、優男のような真似が出来るか!俺は王子だぞ!」
「はいはい、思った事を言えばいいわよ、それじゃ、頑張ってね」
「おい!」

帰ろうとしたが、アランに引き止められた。

「世話になったな…礼を言うぞ」
「礼なんていいわよ、親友の為にしてるんだから、メロディもだけど、あなたもよ、アラン」

ゲームのお気に入りキャラは、全員に愛着あるもの☆
だが、アランは暗い顔をした。

「俺は、今のおまえを好ましく思う…だが、おまえが好ましい者である程、
以前のヴィオレットとの違いで、違和感を覚えるんだ。別人では無いかとすら思う。
おまえには悪いが、俺はおまえを受け入れられない、はっきりとするまでは…」

わたしを《ヴィオレット》とは思えず、得体が知れないと疑っているのね…
その様な者を『友』には出来ないと。
アランは正直だし、疑うのは王子として当然だろう。
的外れな心配だと安心させてあげたいが、本当の事を話す訳にはいかない。
魂が入れ替わっているとか、女神の事など言えば、強制的に抹殺されそうだもの!
折角、イレール様と一緒の世界に生きているっていうのに、それは嫌だわ!!

なんとか、同一人物だと思って貰わなければ!!
わたしは意を決し、深く息を吸った。

「アラン…わたしは、一度死んだの」

「どういう意味だ?」

「学園パーティで断罪されると知り、部屋で独り、首を吊ったの」

わたしは淡々と告げたが、アランは目を見開き、息を飲んだ。

「途中でロープが切れて助かったんだけど、そうでなければ、死んでいたわ。
あなたは気付かなかったかもしれないけど、
パーティの時、わたしは首の痣をチョーカーと化粧で隠していたの。
わたしは生まれ変わりたかったの、だから、努力している…」

嘘は言っていない。
真実であれば、アランの心にも届くだろうと願った。

「信じてくれなくてもいいわ、でも、わたしはもう、あのヴィオレットには戻らない。
わたしはわたしの為に生きるの___」

わたしはスカートを翻す。

「俺が!俺が、追い詰めたのか…」

アランは責任を感じてしまった様だ。
確かに、学園生が集まる中で見せしめの断罪を行うのは、悪趣味この上無い。
アランも調子に乗っていたのは確かだ。
まぁ、女神は楽しみにしていたけど。

「悪人でも、繊細な心を持っている者もいるって、分かってくれたらいいわ。
それに、あなたは切っ掛けよ、全て、わたし自身の問題なの___」

断罪を死ぬ程嫌がったヴィオレット。
そんな彼女の人格を作ったのは、彼女の家と彼女自身だ。
彼女の性格ならば、どちらにしても、いつかは破滅が訪れただろう。
いえ、もし、彼女が受け入れる事が出来ていたら、立ち直る切っ掛けになっていたのかもしれない…
まぁ、女神に諭されても、厳として死を選ぶ位だから、無理だったかもしれないけど。

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