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鑑定以降、エリーは王宮に住み、学園に来る事は無かった。

《聖女》となれば、様々な儀式やお披露目、聖女教育等がある為、
「当分の間、学園には来られないだろう」、「学園を辞めるのではないか?」と囁かれていた。

わたしは知っているが、彼女は学年末試験には顔を出し、試験を受け、進級となる。

そして、次にエリーが学園に来るのは、試験終わりにある、学園パーティだ。
アンドリューと共に、わたしを断罪する、大イベントだ___


「アラベラ様、学園パーティのドレスは新調なさいますの?」
「アラベラ様ですもの、当然、仕立て屋をお呼びになっていますわよね!」
「最新のドレスが見られるなんて、楽しみですわ!」

ドロシアとジャネットが珍しく話し掛けてきて、わたしはそれを思い出した。

「ああ、ドレスは新調しないの、今ある物で十分だわ」

わたしが肩を竦めると、ドロシアとジャネットは愕然とし、わたしを凝視した。

「アラベラ様がドレスをお作りにならないなんて…」
「これは、深刻な事態ですわよ、ドロシア」
「ええ、ジャネット、私たちが、アラベラ様を元気付けなくては…」

ドレスを新調しないだけで、精神を疑われたわ…
まぁ、これまでの事を思えば、それも仕方はないでしょうけど…

「あのね、ドロシア、ジャネット…」と、言い訳をしようとした矢先、
二人が笑顔を張り付かせ、こちらを振り返った。

「アラベラ様、ファンダムの子たちが仕入れてきた、とびきりの情報がございます!」

とびきりの情報?
わたしは全く期待していなかったが、二人はどうしても話したい様なので、
「聞かせて頂けて?」と促した。

「王都郊外に、《オースリー》という丘がございます。
その丘で、想い人と一緒に虹を見ると、両想いになると言われておりますの!」

ジンクスの類かしら?
でも…

「いいわね…詳しく場所を教えてくれる?」

「はい!場所は…」

ジャネットが地図を描いてくれた。

「アラベラ様、行かれるのですか?」

「ええ、行くわ!あなたたちも来る?ジェロームを誘って皆で行きましょうよ!」

わたしが言うと、ドロシアとジャネットは顔を合わせた。

「ジェローム様はもう卒業ですし…」
「最後の思い出作りになるかもしれませんわね…」
「ああ、素晴らしい案ですわ!」
「流石、アラベラ様ですわ!」

《最期の思い出作り》は、わたしの方よ…

二人が出て行き、わたしはパトリックを誘った。

「パトリック、週末に《オースリー》の丘にピクニックに行きましょうよ、
クララを誘っておくわ」

これまでの話が聞こえていたのだろう、パトリックは顔を真っ赤にした。

「ええ!?僕はその、迷信なんて信じないよ!
だけど、どうしてもって言うなら…行っても、いいけど…」

「行くのね、ブランドンも来る?お弁当作ってあげるわよ」

「行く!!俺、マジで沢山食うからな!覚悟しとけ!」

「分かった、食べ切れない量を用意したら、丁度いいのね?」

「流石!分かってるー!」

分かりたくないわ…


その後、クララに声を掛けた所、食い気味に返事がきた。

「行きます!アラベラ様と一緒にピクニックに行けるなんて、うれしいです!」

「わたし?パトリックじゃなくて?」

「パトリックとも、勿論うれしいです。
でも、アラベラ様と出掛けるなんて、初めてで…ドキドキします」

他にも沢山来るけど…

「そうだわ、ハンナも誘っていい?」

「私はうれしいですが、よろしいのですか?」

「勿論よ!ハンナにも来て欲しいわ、きっと楽しいわよ!」

わたしの侍女であると共に、友であり、姉の様にも思える。
思い出作りに欠かせない存在だ。
わたしは寮に帰るや否や、ハンナを誘った。

「ハンナ、週末にクララや学園の友達とピクニックに行くんだけど、あなたも来てくれる?
侍女としてじゃなく、クララの姉として、わたしの友としてよ」

ハンナは驚き、恐縮した。

「大変うれしいのですが、私などが友など…恐れ多いですわ」

「恐れ多くなんかないわよ!わたしはハンナが好きだし、ハンナもわたしを好きよね?
仕事を離れれば、友と呼んでもいいんじゃない?
わたしはあなたと一緒にピクニックに行きたいの、いいでしょう?」

ハンナはうれしそうに微笑み、頷いた。

「ありがとうございます、是非、ご一緒させて下さい」


◇◇


「クララ、三人でお弁当を作りましょうよ!」
「お弁当を作るなんて、初めてです、頑張ります!」

学園で、クララと弁当の話をしていた所、ドロシアとジャネットに気付かれた。

「アラベラ様!抜け駆けはいけませんわ!」
「私たちファンダムも、一緒にお弁当を作らせて下さい!」

そんな訳で、皆で弁当を作る事になった。

寮の調理場を借りる許可を取り、それぞれが献立を考え、材料や容器等、必要な物を揃えた。
当日は早起きをして、調理場に集まり、弁当を作った。

パトリック、ブランドン、ジェロームは、敷物や馬車の手配をしてくれていた。
大勢という事もあり、用意されたのは、荷馬車三台だった。
荷馬車の乗り心地は正直、良くは無いのだが、
《オースリー》の丘の麓までは、学園から一時間程度なので、許容範囲だった。

ファンダムの子たちは、ジェロームと一緒に乗りたがった為、くじ引きをしていた。
ジェロームはまんざらでも無い様だ。
それらを横目に、わたしはハンナをブランドンに紹介した。

「パトリックは知っているわよね、ブランドン、彼女はクララのお姉さん、ハンナよ。
わたしの侍女をしてくれているの、今日は友達として来て貰ったの。
ハンナ、彼はブランドン、同じクラスなの、ぶっきら棒だけど、怖くないわよ」

「おい!変な紹介すんな!」

気に入らなかったらしく、横からツッコミが入った。
無神経とか、デリカシー無しとかよりは良いと思ったんだけど?

ハンナは気にする事無く、いつも通り、穏やかに挨拶をしていた。

「妹がお世話になっています、ハンナです、よろしくお願いします」

「ああ、はい!前にお姉さんから頂いたクッキー、マジで美味かったっす!」

ブランドンが柄にもなく、改まった様子で言っている。
そういえば、前にクッキーをあげた際、
『クララのお姉さん、ハンナと一緒に作った』と言った気がする。
食べ物に関する、ブランドンの記憶力は、素晴らしく良いらしい。

「私は少しお手伝いをしただけで…」

「ああ、そうなんっすか!けど、めっちゃ美味かったっす!」

ブランドンは余程クッキーが気に入っていたのか、頻りに感想を言っていた。
ハンナは分かっていない様だが、人が好いので、穏やかに聞いている。
堂々巡りなので、わたしは助け舟を出した。

「挨拶はその辺にして、馬車に乗るわよ!」

わたし、クララ、ハンナ、パトリック、ブランドンは、一緒の馬車に乗り込んだ。
すると、黒いものが飛び乗って来た。

「きゃ!」
「何だ?」
「猫?」

皆が驚く中、黒猫は華麗に着地すると、迷わずにわたしの膝に上がって来た。
そして、我が物顔で収まった。

「食べ物の匂いに釣られて来たのね?相変わらず、察しが良いわね!」

わたしは丸い体を撫でた。
黒猫は答える事無く、眠りについた。

「アラベラ様の猫ですか?」

「ああ、違うのよ、学園に棲み付いてるみたいなの。
ブランドン並みの食いしん坊で、わたしの友達よ!」

「俺は食いしん坊の代名詞か!」

ブランドンがツッコミ、皆で笑った。





荷馬車を降り、荷物を持って丘に向かった。
丘の上には、明るい緑色の草原が、なだらかに広がっていた。

「素敵な丘ね!空気も美味しいわ!」

皆、荷物を置き、歓声を上げて走り出した。
風を切って走る___
こんな事は、学園でもした事は無い。

空は高く、周囲には建物も無い。
まるで、世界にわたしたちしか居ないみたいだ。

気の済むまで草原を走り回り、満足した者たちは荷物の所へ戻り、
ピクニックの準備を始めた。
敷物を大きく広げ、荷物を置く。

「おーい!皆ー!飯にすっぞ!」

声を掛けたのは、ブランドンだった。
散っていた場所から、一斉に、敷物の方へ集まって来た。

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