上 下
3 / 73
ダンジョンのモンスターと仲良くなった!

赤子との出会い

しおりを挟む
「これはグーでこれがパー」
「グー。パー」
 スラ子は僕の真似をして拳を作ったり手のひらを広げたりする。

「パーはグーより強い」
「強い?」

「勝ちってこと」
「勝ち?」

「勝つとこうするの」
 頭を撫でながら笑いかける。すると嬉しそうに笑顔を作る。

「勝った!」
 満面の笑みに嬉しくなって抱きしめる。そうするとスラ子も抱きしめてくれる。

 とても楽しい! 友達だ!



 遊びに夢中になっていると、外が騒がしくなる。
「足音? まさかもう朝!」
 慌てて空洞を飛び出す!
 入り口から燦燦と日が入り込む!

「不味い! あいつらが来る!」
 チラチラと人影が見える。まだ中に入ってきていない! 逃げるなら今だ!

「付いてきて!」
 スラ子の手を引いてダンジョンの奥へ逃げる! 罠があるかもしれないけど、あいつらのほうがよっぽど危険だ!

「何だ? スライムが居ねえ!」
 よりにもよってミサカズの声だ!

「走って!」
 スラ子の手を握って走る! 幸いスラ子は平気そうだった!

「苦しい?」
 しかし不安そうだ。僕が嫌な顔をしているからだろう。

「あいつらは敵だ!」
 走りながら階段を下る。どこまで来るか分からないけど、逃げないと!

「敵?」
「僕やスラ子を苦しめた奴だ!」
 ガチャガチャと足音が迫る! あいつら! よりによって階段を下る気だ! しかも完全武装! そんなに僕を虐めたいのか!

「敵? 苦しめる。敵? 敵。敵」
 スラ子が足を止めて振り返る。

「関わっちゃダメ!」
 無理やり手を引く。
「敵」
 スラ子は僕と同じく険しい顔で走った。



「ここまで来たら大丈夫かな」
 足が動かなくなったので座り込む。心臓が破裂しそうなほど息苦しい。

「苦しい?」
「大丈夫」
 不安そうに前に座るスラ子を撫でる。

「大丈夫?」
「こういうこと」
 ギュッと抱きしめる。スラ子の温かさで体の震えが止まる。

「大丈夫」
 スラ子もギュッと抱きしめ返してくれる。息が整った。

「しばらくここに居よう」
 スラ子を撫でながら冷静に通路を見る。

 ヒカリゴケが天井に生えただけのレンガ造りの通路だ。心なし上層よりも埃がある。
 どうも相当深い下層へ来てしまったようだ。

 おまけに無我夢中で逃げたため道に迷った。

「じっとしているしかないか」
 スラ子を抱きしめていると眠くなる。

「大丈夫?」
「大丈夫。ちょっと眠るだけ」

「眠る?」
 スラ子が聞き返したけど、答えることができなかった。



「大丈夫?」
 耳元の囁き声と頭を撫でられる感触で目を覚ます。

「大丈夫だよ」
 笑いかけるとスラ子も笑う。とても可愛らしい。

「そろそろ戻ろう」
 立ち上がってスラ子の手を握る。

「大丈夫」
 スラ子は手に頬ズリする。照れ臭い。

「行こう」
 すっかり落ち着いた足を動かす。

 しかし、ここはどこだ?

「スラ子はここがどこか分かる?」
「スラ子はここがどこか分かる」
 半透明な目をキラキラさせて顔を近づける。

「いい子いい子」
 撫でるとふにゃりと顔を崩す。たった一日で表情豊かになった。

「いい子いい子」
 ぐりぐりと頬と頬をくっつける。プニプニして気持ちいい。

「行こう」
「行こう」
 オウム返しするスラ子が可愛く、笑顔のまま足を進める。

 薄暗い通路もスラ子が居れば明るい。



「行き止まりか」
「行き止まりか」
 肩に乗っかる頭をナデナデする。

「大丈夫」
 先ほどから和みっぱなし、ついには体に巻き付いてきた。

「可愛いね」
「可愛いね」
 肩にできた頭を撫でるとクリクリ額を押し付けてくる。迷っているとは思えないほど楽しい。

 そうやって和気あいあいと歩いていると、気になる場所を見つける。

「真っ暗? ヒカリゴケが生えていない」
 壁や床、天井を見ると動いた形跡がある。隠し部屋か?

「何で開いたんだろう?」
 試しに中へ入る。

「敵!」
 突然スラ子の締め付けがきつくなる!

 黒い影の中に揺らめく赤い影が見える!

「誰!」
「誰?」
 赤い影が目の前に広がる! スラ子がブルブルと震える!
 急いで通路まで下がる!

「お前、私の言葉を話せるのか?」
 赤い影が目の前に集まってフヨフヨと浮遊を始める。

「わ、分かります!」
「右手を上げろ」
 言われたとおりに右手を上げる。

「左手を上げろ」
 左手を上げる。

「腹が減った」
 空気が冷たくなる。

「何が食べたいんですか?」
「血だ」
 スラ子の震えが激しくなる。通路の空気が肌に刺さる。

「分かりました。スラ子、退いて」
 何かあると困るのでスラ子の頭を撫でる。

「退いて?」
 スラ子は険しい顔をしたままだ。
「そう、退いて」
 微笑みながら、ぐっと体を押す。

「敵」
 スラ子は僕の考えと裏腹に、頑なに離れない。

「腹が減った」
 その間にも心臓が縮み上がる。

「すぐに用意します」
 仕方がないので、持っていた予備のナイフで手首を切る。

「どうぞ」
 ボタボタと滝のように手首から血が流れる。恐怖を振り払うために気合を入れすぎた。

 赤い影が手首に集まり、ゴクゴクと音を立てる。
「美味い」
 殺気が収まる。赤い影が一瞬にして凛々しい女性の姿になる!

「ようやく私と対等の存在が現れた」
 女性が口を離すと、傷口が綺麗に塞がる。

「我が伴侶よ。この世界を我が子らで埋め尽くそう」
「服を着てください!」
 上着を被せる! 恥ずかしすぎて顔から火が出そうだ!



「これは服という奴だな。これは、服だ」
 上着で上を、シャツで下を隠してもらう。不思議そうに上着やシャツの端を持つと、胸元や下がはだける。

「あなたは誰ですか?」
 上半身裸になったけど、まだまだ暑い。

「私だ。お前も知っているだろ」
 凄まじく尊大な態度だ。それなのに嫌味っぽさが無い。綺麗な人だと思うだけ。

「その、分かりません」
「何だと?」
 腕を組んで天井を仰ぐ。

「大した問題ではない」
「えぇ……」

「それより、腹が減った。血を飲ませろ」
 切ない表情でお腹を両手で押さえる。

「分かりました」
 今度は手のひらを切る。
 女性は手のひらに口づけする。

「お前は私の言葉が分かる。私はお前の言葉が分かる。重要なのはそれだけだ」
 女性は飲み終わると舌なめずりする。



「それはそれとして、その生ものは何だ? お前の食料か?」
 女性は睨むスラ子を指さす。

「僕の友達のスラ子です」
「友達?」
 女性はふんふんとスラ子の臭いを嗅ぐ。

「これは食えないぞ」
 顔をしかめる。

「敵?」
 スラ子は険しい表情で見つめる。

「……敵じゃないよ。僕たちの友達」
 頭を撫でると笑顔になる。警戒心を解いてくれたのかな?

「お前はなぜその下等生物に話しかける?」
 女性は突然イライラしたように目を吊り上げる。

「か、下等生物じゃないです! 僕の友達です!」
「下等生物じゃない? 友達? つまりお前は、こいつがお前と対等の存在と言っているのか?」

「そ、そうです」
「……それなら試してやろう」
 女性はスラ子に顔を近づける。

「頭を下げろ」
 スラ子は女性の顔を見るだけ。

「顔を左に傾けろ」
 スラ子は女性を無視して、僕に顔を向ける。

「やはり下等生物だ! 私の言葉を理解していない!」
「え!」
 よく分からない事態になった!

「スラ子? この人の言葉が分かる?」
「この人の言葉が分かる」
 期待のまなざしを向けられたので頭を撫でる。
 場を鎮めよう。

「この子はまだ言葉を覚えている最中なんです。だから許してください」
「下等生物ということに変わりは無いだろ」
 女性はスラ子を引っ掴む。

「敵!」
 スラ子がウニのように針を作り出す! 針が女性の手を貫通する!

「こいつ!」
 女性は痛みも訴えずにスラ子を引きはがそうとする!

「ちょっと待ってください!」
 二人の間に割って入り、騒ぎを止める。

「敵……」
「なぜ止める?」
 二人とも文句を言いつつも止めてくれた。

「スラ子、この人は敵じゃないよ」
「敵じゃない?」
「そう。だから棘を締まって」
「棘を締まって?」
「このトゲトゲを小さくして」
 困惑するスラ子を宥めながら、針を収めてもらう。

「なぜお前は下等生物を連れている?」
 スラ子の棘が引っ込んだので女性に顔を向けると怒られる。

「下等生物じゃないです。スラ子です」
「下等生物だ。私の言葉を話さない」
 眩暈がしたので頭を押さえる。状況が理解できない。

「色々とお話していいですか?」
「もちろん良いぞ」
 女性はとても嬉しそうだ。

「あなたの名前は何ですか?」
「名前? 名前?」
 女性は貧乏ゆすりをする。

「名前ってなんだ?」
 ぼそりと信じられない言葉を聞いた!

「名前の説明をしていいですか?」
「良いぞ」
 女性は素直に耳を傾ける。

「名前は記号です。例えば、人間は沢山居ます。その中の一人を指す際に必要な記号です」
「ふむふむ。確かに、下等生物はうじゃうじゃ居る。そうなると、記号が必要だ」

「そうです」
「ならば私には存在しない。私は唯一の存在だからな」
 凄い展開になった。

「ごめんなさい。僕は名前を呼び合うのに慣れているから、名前が知りたいんです」
「なるほど。お前がその下等生物を連れているのも、下等生物と接した経験が長いためか」
 女性はとりあえず納得してくれたみたいだ。

「私には名前など必要ない。しかし、私と同等の存在であるお前が必要と考えるならば付けよう」
 女性はピタリと固まる。

「どんな名前が良い?」
 非常に険しい顔だ。
赤子あかことか?」
 髪と瞳が赤いため一番に思いつく。

「ならば私は赤子だ」
「僕はゼロです」
 手を差し出す。

「握手をしましょう」
「握手?」
「こうします」
 赤子さんの手を握り合う。

「これが握手です」
「なるほど! これが握手!」
 赤子さんは両手でナデナデと手を撫でる。

「これが温かい、心地よいという意味か」
しおりを挟む
感想 166

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

転生墓守は伝説騎士団の後継者

深田くれと
ファンタジー
 歴代最高の墓守のロアが圧倒的な力で無双する物語。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

処理中です...