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猫耳っ娘とのそれなりの日常
#5 匂い飲ん兵衛
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更新が遅くてすみません、引き続き頑張ります!!
♢♦︎♢♦︎
「御用申すのにゃー!!」
カドルサムに手を引かれながら俺はのれんをくぐり抜ける。足を踏み入れた先からほんのりと香る青葉のような匂い。そこには木製の棚やカウンターなどの木で作られたもので統一された空間が広がっていた。
「すみませーん、誰かいますかにゃー!?」
彼女が口元に手を当てて声を張り上げるものの、店の奥から返事は全く帰ってこない。それどころか店内は変わらず静まり返っている。
「誰もいないのかにゃ?」
「……そうみたいだな。
でも店を開けて出掛けるとは考えづらいし……」
「確かににゃ、そのうち誰か来るに決まってるにゃ。
それまでの間、店内の散策でもしてるのにゃー」
彼女に言われるがまま店内の散策を始める。照明の加減といい、木ならではの温もりといい、安らぎが感じられる空間だ。壁際には所狭しと棚が設置されていて、よく見るとその一段一段には葉っぱが詰められた瓶のようなものが幾つも飾られていた。
「……お茶葉ならではの香りをご堪能ください?」
俺が視線を送る棚の段にはそう記した書き置きが置かれていた。そのすぐ隣には葉っぱの入ったボトル瓶が並べられており、そのボトル瓶にはラベルシールが貼られている。アサツユ、ハーブ、ヤブキタ……とお茶葉の種類のことだろうか。
試しにその一つを手に取って瓶のコルクを開けてみた。なんて表現したらいいんだろうな……、雨露で濡れた落ち葉のような匂いだ。
「にゃ!? なんだか面白そうなことをしてるのにゃ!!
ドルドルにもそれをやらせてほしいのにゃ!!」
クンカクンカと匂いを嗅ぎ取り、俺の元へと駆け寄る。
しかしそれらの段は彼女が届かない位置に設置されていたこともあり、は俺の体をヨジヨジと上り詰めてボトル瓶を手に取った。おそらくは子供にいたずらをされることがないよう、あえて手の届かない上段に設置されていたのだろう。背があまり高くない彼女が届かないのも当然である。
「いい匂いだにゃ~、一日中嗅いでいても飽きない香りにゃ~」
「お茶葉ってみんな同じ匂いって思ってたけど、案外違いがあるんだな」
手で仰いで香りを楽しんでは、そっと棚へと戻しま別のを手に取ってみる。そんなことのただ繰り返し。しかしあるボトル瓶をカドルサムが手にとって嗅いだのを堺に、彼女が身震いをしたのが分かった。彼女の肌からその感覚が伝ってくるーー。
「ふにゃぁ~、このお茶葉とてもいい感じなのにゃ~」
「ん、そんなにいい匂いなのかそれ?」
「そうにゃぁ、そうにゃ……。
カナタも嗅いでみるとわかるのにゃ~…」
「そんないい匂いか? 他のとあまり違いがない気がするけど」
「にゃ……、そんなはずはぁ……」
「カッ、カドルサム!? お前一体どうした!?
急にっ……おいっ、カドルサム!?」
負ぶっていたカドルサムの体が突然ふらついた。あまりに急な出来事だったので傾く重心に対応することができず、そのまま俺の体は床へと真っ逆さまーー
「うわああああーー!!」
パリーンッ……!!!!
カドルサムが手に握っていたボトル瓶は彼女の手から滑り落ちて割れてしまった。彼女が地面に投げ出されることも、叩きつけられることもなかったのが唯一の救いといったところだろうか。
『な、なんですか今のすごい音は!?』
階段を慌ただしく駆け下りる音が聞こえる。やがて店の奥に吊るされたのれんがほんの僅かに揺れ、誰かこちらへと走って来た。
……やって来たのは少女なのだろうか?
その澄んだ声と共に、沈んだ視界の先から褐色の綺麗な足がはっきりと見える。
そしてお茶葉を盛大に被った俺と対面。
『……えっと生きてますか?』
「はい、これでも一応生きてます」
♢♦︎♢♦︎
「その……、猫ちゃんがそうなった原因ーー。
多分なんですけど、あのお茶葉が原因だと思うんです」
「あのお茶葉が原因?」
口の中に含んだお茶葉を受け取ったお茶で体内に流し込もうとする。それがあまりにも苦かったものなのでむせてしまった。そりゃ、お茶葉をそのまま流し込んだらそうなるか……
「ええ、あの猫ちゃんが嗅いでいたと思われるあのお茶葉ー…
"マタタビ"で作ったお茶葉なんですよ」
「そういうことなんですね、道理であんな感じって訳か」
そう呟きつつ、俺が送る視線の先でカドルサムは真横のベンチの上で気持ち良さそうに眠っている。
マタタビとは猫に一種の興奮状態を促すとして知られている植物のことで、中には彼女のように酔ったような様子を見せる個体もいるという。まあ、彼女は猫の魔物の一種だからな……、その反応が出てしまったのだろう。顔を真っ赤にしてゴロンと横たわる彼女の姿はいかにも酒に酔い潰れているって感じだ。
「まあ、猫がマタタビに酔った反応を見せるのは数十分程度らしいですからね……。それまでの間といってはなんですが、ゆっくりくつろいでいって下さい」
「ありがとうございます、何から何まで……!!
良かったな、カドルサム」
「……ムニャムニャ、大好きなのにゃ」
♢♦︎♢♦︎
「御用申すのにゃー!!」
カドルサムに手を引かれながら俺はのれんをくぐり抜ける。足を踏み入れた先からほんのりと香る青葉のような匂い。そこには木製の棚やカウンターなどの木で作られたもので統一された空間が広がっていた。
「すみませーん、誰かいますかにゃー!?」
彼女が口元に手を当てて声を張り上げるものの、店の奥から返事は全く帰ってこない。それどころか店内は変わらず静まり返っている。
「誰もいないのかにゃ?」
「……そうみたいだな。
でも店を開けて出掛けるとは考えづらいし……」
「確かににゃ、そのうち誰か来るに決まってるにゃ。
それまでの間、店内の散策でもしてるのにゃー」
彼女に言われるがまま店内の散策を始める。照明の加減といい、木ならではの温もりといい、安らぎが感じられる空間だ。壁際には所狭しと棚が設置されていて、よく見るとその一段一段には葉っぱが詰められた瓶のようなものが幾つも飾られていた。
「……お茶葉ならではの香りをご堪能ください?」
俺が視線を送る棚の段にはそう記した書き置きが置かれていた。そのすぐ隣には葉っぱの入ったボトル瓶が並べられており、そのボトル瓶にはラベルシールが貼られている。アサツユ、ハーブ、ヤブキタ……とお茶葉の種類のことだろうか。
試しにその一つを手に取って瓶のコルクを開けてみた。なんて表現したらいいんだろうな……、雨露で濡れた落ち葉のような匂いだ。
「にゃ!? なんだか面白そうなことをしてるのにゃ!!
ドルドルにもそれをやらせてほしいのにゃ!!」
クンカクンカと匂いを嗅ぎ取り、俺の元へと駆け寄る。
しかしそれらの段は彼女が届かない位置に設置されていたこともあり、は俺の体をヨジヨジと上り詰めてボトル瓶を手に取った。おそらくは子供にいたずらをされることがないよう、あえて手の届かない上段に設置されていたのだろう。背があまり高くない彼女が届かないのも当然である。
「いい匂いだにゃ~、一日中嗅いでいても飽きない香りにゃ~」
「お茶葉ってみんな同じ匂いって思ってたけど、案外違いがあるんだな」
手で仰いで香りを楽しんでは、そっと棚へと戻しま別のを手に取ってみる。そんなことのただ繰り返し。しかしあるボトル瓶をカドルサムが手にとって嗅いだのを堺に、彼女が身震いをしたのが分かった。彼女の肌からその感覚が伝ってくるーー。
「ふにゃぁ~、このお茶葉とてもいい感じなのにゃ~」
「ん、そんなにいい匂いなのかそれ?」
「そうにゃぁ、そうにゃ……。
カナタも嗅いでみるとわかるのにゃ~…」
「そんないい匂いか? 他のとあまり違いがない気がするけど」
「にゃ……、そんなはずはぁ……」
「カッ、カドルサム!? お前一体どうした!?
急にっ……おいっ、カドルサム!?」
負ぶっていたカドルサムの体が突然ふらついた。あまりに急な出来事だったので傾く重心に対応することができず、そのまま俺の体は床へと真っ逆さまーー
「うわああああーー!!」
パリーンッ……!!!!
カドルサムが手に握っていたボトル瓶は彼女の手から滑り落ちて割れてしまった。彼女が地面に投げ出されることも、叩きつけられることもなかったのが唯一の救いといったところだろうか。
『な、なんですか今のすごい音は!?』
階段を慌ただしく駆け下りる音が聞こえる。やがて店の奥に吊るされたのれんがほんの僅かに揺れ、誰かこちらへと走って来た。
……やって来たのは少女なのだろうか?
その澄んだ声と共に、沈んだ視界の先から褐色の綺麗な足がはっきりと見える。
そしてお茶葉を盛大に被った俺と対面。
『……えっと生きてますか?』
「はい、これでも一応生きてます」
♢♦︎♢♦︎
「その……、猫ちゃんがそうなった原因ーー。
多分なんですけど、あのお茶葉が原因だと思うんです」
「あのお茶葉が原因?」
口の中に含んだお茶葉を受け取ったお茶で体内に流し込もうとする。それがあまりにも苦かったものなのでむせてしまった。そりゃ、お茶葉をそのまま流し込んだらそうなるか……
「ええ、あの猫ちゃんが嗅いでいたと思われるあのお茶葉ー…
"マタタビ"で作ったお茶葉なんですよ」
「そういうことなんですね、道理であんな感じって訳か」
そう呟きつつ、俺が送る視線の先でカドルサムは真横のベンチの上で気持ち良さそうに眠っている。
マタタビとは猫に一種の興奮状態を促すとして知られている植物のことで、中には彼女のように酔ったような様子を見せる個体もいるという。まあ、彼女は猫の魔物の一種だからな……、その反応が出てしまったのだろう。顔を真っ赤にしてゴロンと横たわる彼女の姿はいかにも酒に酔い潰れているって感じだ。
「まあ、猫がマタタビに酔った反応を見せるのは数十分程度らしいですからね……。それまでの間といってはなんですが、ゆっくりくつろいでいって下さい」
「ありがとうございます、何から何まで……!!
良かったな、カドルサム」
「……ムニャムニャ、大好きなのにゃ」
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