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猫耳っ娘とのそれなりの日常
#2 ドーナツを尻尾に巻き付けて
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「ドーナツ、お買い求めありがとうございました。
またのご来店お待ちしていまーす」
ドーナツ片手に笑みが溢れる昼下がり。カドルサムと俺は、軽い体慣らしということで出店が立ち並ぶ街までやって来た。
「お前、そんなに沢山食べ切ることできんの?」
「食べきれない場合はこうするにゃ。ほれ、尻尾に装着っと。これでいつお腹が減った時でも食すことができる保存食に進化したにゃ」
「ふーん、そうなんだ……」
「いや、”そうなんだ”って!! 聞いてきたのはお前にゃのに、その反応はいったいなんなのにゃ!?」
爪でバリバリバリ……。
ーーうん、お顔真っ赤っか。
お顔ヒリヒリ。
かなり痛い。
今日は王国の祝日ということもあって街にはいつも以上に喧騒で満ちている。街を行き交う人々の中には、カドルサムのような契約獣も多く見られた。
契約獣とは、人間と契約を交わした魔物のことだ。話は変わるが、この世界には人間やエルフ種、魔人種といった種族の他に魔物というものが存在している。カドルサムも、こうして人型の姿をとっているが歴とした魔物の一種なのだ。
魔物と契約獣の違い、それはまず姿形の違いにあるといえるだろう。前者は全身が毛に覆われていたり、牙が剥き出しになっていたりと獣感が溢れている姿だが後者の場合は一目瞭然、人間のような姿をしている。
契約を交わす意味としては生活の手助けをしてもらったり、戦闘をより有利に進めるがためと、様々であるが俺の場合はギルドでの仕事の手助けをしてもらうため、カドルサムと契約した。
カドルサムが契約をする前の姿、それは三寸ほどしかない頼りない猫のような姿でだった。彼女によると魔物は人間と契約することによって初めて人間態を取ることができるようになるらしい。人間態になっても魔物の姿であった頃の何らかの外見の特徴を残しているとのこと。
「にゃ? カナタ、どこへいくのにゃ?」
ドーナツを片手に華やぐような笑みを浮かべているカドルサムにふと、疑問が過ぎる。
「どこへってギルドに決まってんだろ? 依頼を受け行くんだよ」
「え~、今日もギルドに行くのかにゃ!?
せめて今日ばかりはゆっくり過ごそうにゃー」
気怠そうな一言と共に、彼女の尻尾がしゅんと垂れ下がったのがはっきりわかる。
「祝日だからって、仕方ないだろ? 生活にあまり余裕がないんだから。
ーーほら、そんなにしゅんとしているとドーナツが落ちるぞ?」
「べ、別にしゅんとしているわけじゃ……、
にゃぁぁ!! さっさと終わらせて帰るにゃ!!」
毛を逆立ててカドルサムはギルドへの道を突っ走る。俺もその後に続いていった。
♢♦︎♢♦︎
「御用申すにゃっ!!」
猫さながらのパンチをお見舞いしてギルドの扉を勢いよく開いた。ドアベルの鈴の音が”カランカラン”と荒々しく一室に響き渡る。
「わわっ!? カドルサムちゃん!?」
あまりに急な出来事だったもので部屋をホウキで履いて掃除をしていた受付嬢は目を大きく見開いた。カウンターに山積みになっていた書類の山はカドルサムの駆け走る烈風に吹かれ、辺り一面に散らばった模様。
カドルサムの勢いは止まることを知らない。
そのまま勢いに身を任せ、受付嬢に飛び掛かるーー
体に走った衝動に駆られるがまま、重心が崩れゆく受付嬢は「わっ!?」と思わず声を上げて転んでしまった。
「依頼は!? 何か依頼はないかにゃ!?
できれば、達成難易度が低くて、ほんの数十分で終わって、そんなに歩かないで済むようなやつで且つ、報酬は……別にどうでもいいにゃ!!」
「”できれば”ってかなり拘わっているじゃないですかっ……!!」
自身の上に馬乗りになった猫に対して叫ぶ。
「こらっ、カドルサム……!!
他にいる人の迷惑になるようなーーあっ、
ミリアさん!! うちのバカ猫がすいません」
脇を掴んでミリアさんからカドルサムを引き離す。ペコペコと何度も頭を下げながら、
「……ドルドルはバカ猫なんかじゃないにゃ!!」と、腕の中で暴れ続ける猫をなんとか押さえつける。しばらく経った後、カドルサムは自らの攻撃が届かないと察知したのか、顔をぷうっと膨らませてどこかに行ってしまった。
ミリアさんはカドルサムが立ち去ったのを見届ける否や、立ち上がると軽く会釈をしてくれた。
「いえいえ、お気になさらず。大丈夫ですよ。
それに今日は休日ということもあって……今日はずっとこの有り様なんですよね」
散らかった書類を一緒に拾い集める。
部屋を見渡してみると彼女の言う通り、
このギルドにいるのは俺達だけだった。
部屋の片隅ではカドルサムと、このギルド施設内で飼われている保護猫ククがネコ語で話をしている。何の話をしているのか全く分からないのだが、なんだか会話が弾んでいるらしい。
「やっぱり、休日と平日の落差が激しいんですよ。どうやらみんな、ギルドのことなんか忘れて遊び呆けているみたいですね……」
ミリアさんは腕を組んで困り果てたかのような表情を浮かべて言う。
「そ、そんなことないですよっ……!!
だから、隅っこで蹲るのとかやめてください!!
そうだ、依頼!! 今日入った新しい依頼で何かいいのありませんか!?」
気が沈んだ彼女になんて声を掛ければいいのか分からず、咄嗟に言葉を紡いで出たのがその一言だった。
「……依頼?」
「そうです、依頼です!!
今日何か、新しい依頼が入りませんでした!?」
「……今、依頼って言いました?」
「はぁ、そうですけど……」
その瞬間、彼女の瞳から消え失せていたはずの何かが灯った。やがてそれらは燃え上がる炎の如くその勢いを増していくーー。
「仕事…今日一日待ちに待ち望んだ仕事‥‥!! やってやらあぁぁぁ!!!!」
♢♦︎♢♦︎
一方その頃。
カドルサムとクク。
「なんだかカウンターがジタバタと騒がしくなってきたけど、一体何がどうしたんにゃ?」
「……狂ってるんじゃね?」
またのご来店お待ちしていまーす」
ドーナツ片手に笑みが溢れる昼下がり。カドルサムと俺は、軽い体慣らしということで出店が立ち並ぶ街までやって来た。
「お前、そんなに沢山食べ切ることできんの?」
「食べきれない場合はこうするにゃ。ほれ、尻尾に装着っと。これでいつお腹が減った時でも食すことができる保存食に進化したにゃ」
「ふーん、そうなんだ……」
「いや、”そうなんだ”って!! 聞いてきたのはお前にゃのに、その反応はいったいなんなのにゃ!?」
爪でバリバリバリ……。
ーーうん、お顔真っ赤っか。
お顔ヒリヒリ。
かなり痛い。
今日は王国の祝日ということもあって街にはいつも以上に喧騒で満ちている。街を行き交う人々の中には、カドルサムのような契約獣も多く見られた。
契約獣とは、人間と契約を交わした魔物のことだ。話は変わるが、この世界には人間やエルフ種、魔人種といった種族の他に魔物というものが存在している。カドルサムも、こうして人型の姿をとっているが歴とした魔物の一種なのだ。
魔物と契約獣の違い、それはまず姿形の違いにあるといえるだろう。前者は全身が毛に覆われていたり、牙が剥き出しになっていたりと獣感が溢れている姿だが後者の場合は一目瞭然、人間のような姿をしている。
契約を交わす意味としては生活の手助けをしてもらったり、戦闘をより有利に進めるがためと、様々であるが俺の場合はギルドでの仕事の手助けをしてもらうため、カドルサムと契約した。
カドルサムが契約をする前の姿、それは三寸ほどしかない頼りない猫のような姿でだった。彼女によると魔物は人間と契約することによって初めて人間態を取ることができるようになるらしい。人間態になっても魔物の姿であった頃の何らかの外見の特徴を残しているとのこと。
「にゃ? カナタ、どこへいくのにゃ?」
ドーナツを片手に華やぐような笑みを浮かべているカドルサムにふと、疑問が過ぎる。
「どこへってギルドに決まってんだろ? 依頼を受け行くんだよ」
「え~、今日もギルドに行くのかにゃ!?
せめて今日ばかりはゆっくり過ごそうにゃー」
気怠そうな一言と共に、彼女の尻尾がしゅんと垂れ下がったのがはっきりわかる。
「祝日だからって、仕方ないだろ? 生活にあまり余裕がないんだから。
ーーほら、そんなにしゅんとしているとドーナツが落ちるぞ?」
「べ、別にしゅんとしているわけじゃ……、
にゃぁぁ!! さっさと終わらせて帰るにゃ!!」
毛を逆立ててカドルサムはギルドへの道を突っ走る。俺もその後に続いていった。
♢♦︎♢♦︎
「御用申すにゃっ!!」
猫さながらのパンチをお見舞いしてギルドの扉を勢いよく開いた。ドアベルの鈴の音が”カランカラン”と荒々しく一室に響き渡る。
「わわっ!? カドルサムちゃん!?」
あまりに急な出来事だったもので部屋をホウキで履いて掃除をしていた受付嬢は目を大きく見開いた。カウンターに山積みになっていた書類の山はカドルサムの駆け走る烈風に吹かれ、辺り一面に散らばった模様。
カドルサムの勢いは止まることを知らない。
そのまま勢いに身を任せ、受付嬢に飛び掛かるーー
体に走った衝動に駆られるがまま、重心が崩れゆく受付嬢は「わっ!?」と思わず声を上げて転んでしまった。
「依頼は!? 何か依頼はないかにゃ!?
できれば、達成難易度が低くて、ほんの数十分で終わって、そんなに歩かないで済むようなやつで且つ、報酬は……別にどうでもいいにゃ!!」
「”できれば”ってかなり拘わっているじゃないですかっ……!!」
自身の上に馬乗りになった猫に対して叫ぶ。
「こらっ、カドルサム……!!
他にいる人の迷惑になるようなーーあっ、
ミリアさん!! うちのバカ猫がすいません」
脇を掴んでミリアさんからカドルサムを引き離す。ペコペコと何度も頭を下げながら、
「……ドルドルはバカ猫なんかじゃないにゃ!!」と、腕の中で暴れ続ける猫をなんとか押さえつける。しばらく経った後、カドルサムは自らの攻撃が届かないと察知したのか、顔をぷうっと膨らませてどこかに行ってしまった。
ミリアさんはカドルサムが立ち去ったのを見届ける否や、立ち上がると軽く会釈をしてくれた。
「いえいえ、お気になさらず。大丈夫ですよ。
それに今日は休日ということもあって……今日はずっとこの有り様なんですよね」
散らかった書類を一緒に拾い集める。
部屋を見渡してみると彼女の言う通り、
このギルドにいるのは俺達だけだった。
部屋の片隅ではカドルサムと、このギルド施設内で飼われている保護猫ククがネコ語で話をしている。何の話をしているのか全く分からないのだが、なんだか会話が弾んでいるらしい。
「やっぱり、休日と平日の落差が激しいんですよ。どうやらみんな、ギルドのことなんか忘れて遊び呆けているみたいですね……」
ミリアさんは腕を組んで困り果てたかのような表情を浮かべて言う。
「そ、そんなことないですよっ……!!
だから、隅っこで蹲るのとかやめてください!!
そうだ、依頼!! 今日入った新しい依頼で何かいいのありませんか!?」
気が沈んだ彼女になんて声を掛ければいいのか分からず、咄嗟に言葉を紡いで出たのがその一言だった。
「……依頼?」
「そうです、依頼です!!
今日何か、新しい依頼が入りませんでした!?」
「……今、依頼って言いました?」
「はぁ、そうですけど……」
その瞬間、彼女の瞳から消え失せていたはずの何かが灯った。やがてそれらは燃え上がる炎の如くその勢いを増していくーー。
「仕事…今日一日待ちに待ち望んだ仕事‥‥!! やってやらあぁぁぁ!!!!」
♢♦︎♢♦︎
一方その頃。
カドルサムとクク。
「なんだかカウンターがジタバタと騒がしくなってきたけど、一体何がどうしたんにゃ?」
「……狂ってるんじゃね?」
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