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第26話

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私の不安はよそに、パーティーの日はなんの滞りもなくやってきた。空は青く、快晴だ。柄にも無く少しワクワクしてしまう。

のんびり主義の私にしては、久しぶりにこんなに働いた気がする。
パーティー会場である庭園では、先程まで私が直接指示をだしていたが、一通り準備が終わった段階で切り上げ私は一旦自室へ戻っていた。そろそろディランたちを馬車で迎えに行かなくてはいけないからだ。


「この格好じゃ……少し夢がないかしら~?」


馬車の準備をしようとしたとき、ふと鏡を見て気付いた。私は今、比較的作業に適した地味なドレスを着てしまっている。
ドレスコードなどないパーティーだが、私は一応主催の身だ。パーティーらしい服に着替えてからで迎えに行った方がいいだろう。

まだ時間に余裕はある。私は、控えていた侍女に着替えの準備を頼もうとした。

自室の扉が乱暴に開かれたのは、その時だった。


「二番目のベルタ様!大変です!」

「貴方は確か……。そんなに慌ててどうしたの……?」


乱暴に扉が開かれる。そこにいたのは、三番目のベルタの専属をしている若いメイドだった。専属ということで今日のパーティーにも招待したため面識はあるが、普段挨拶もせず部屋に入り込んで来るような人では無いはずだ。

妹になにかあったのだろうか、胸騒ぎがして私はその息を切らしているメイドに歩み寄った。


「今……!!王国騎士団の方々が二番目のベルタ様に用があると、そこまで来ておられるのです……!!現在旦那様も奥方様もいらっしゃらないため、三番目のベルタ様がご対応しているのですが……!」

メイドが話す一言一言に、血の気が引いていくのがわかった。

「なんですって……?どうして私を早く呼ばなかったの!?あんな小さい妹に対応を任せるなんて、一番目のベルタは何をやっているの!?」


思わず怒鳴り声がでてしまう。どうしてあんな小さい子にそんな人達の対応を任せられるのか。一番目が対応しないなら、どうして妹は私を呼ばなかったのか。頭が混乱のあまりぐるぐる回る。


「一番目様は現在ご不在で……!三番目のベルタ様は二番目様をお庇いになって、穏便に済ませようとしているのですが対応しきれず……!私もう見ていられなくなって!」

「……わかったわ、伝えに来てくれてありがとう。すぐに行くわ」


メイドに怒鳴るのは検討違いだったと、今にも泣きそうな彼女に優しく声をかけた。冷静にならなくては。

妹は私を庇って、王国騎士団が尋ねてきたことを私の耳に入らないうちに何とか対応しようとしたらしい。姉も将来聖女になるほどの者のくせに、肝心な時に役に立たない。


私は地味なドレスのまま、部屋を飛び出した。

そのまま夢中でかけだして、応接間の扉を勢いよく開ける。応接間にいた人物全ての視線が、私に集中した。ドレスが地味だろうが、髪が乱れていようがもうどうでもいい。

そこには、数人の王国騎士団の人達と一人で対峙する涙目の妹がいた。


「……っ!!」

「二番目のお姉様あっ!うっ、うう……ごめんなさい!私、二番目のお姉様は悪いこと何にもしてないって、一人でなんとかしようとしたんですのよ!でも結局、どうすればいいかわからなくって!」


堰を切ったように妹の大きな瞳から涙がこぼれ落ちる。いくつになっても感情に素直で、すぐに泣いてしまう可愛い妹。
妹が泣いてしまったのを見て、王国騎士団の人達が少し居心地が悪そうにしているのがわかった。

……わかっている、騎士団の人達が悪い人ではない。ただちょっと、妹が無理に1人で頑張ろうとしてその重荷に耐えられなかっただけ。私は唇を噛んで、騎士団の方々に貴族令嬢として挨拶をした。


「……はじめまして騎士団の皆様。私コーディリア家の二番目のベルタと申します。ここらは私が対応させて頂きますのでどうか妹のことは御容赦ください」

「お姉様……!」

「私は大丈夫よ、可愛い妹。すぐに戻るからお部屋で待っていて」


私の言葉に妹は、悔しそうな顔で頷きつつメイドに連れられて部屋を退出した。その様子に少しほっとした私は、先程よりかは冷静な態度で騎士団の人達に顔を向けた。

屈強な男たち3人を後ろに控えさせ、椅子に座っている……なにやら位が高そうな若い金髪の男が私ににこりと微笑む。……いや、若いというか、若すぎる気がする。

その金髪の男は、未成年どころか姉と同い年くらいの少年に見えた。


「貴方が二番目のベルタ様、ですね?ちゃんと来て頂けて良かったです。妹様は『お姉様は何もしていないので帰ってください』としか言わなかったので困っていたんですよ」

「……、……それは失礼しました。何の知らせもなく、突然来て頂いた失礼な方々を歓迎する方法を妹に教えていなかった私の責任ですね」


火花が散る音が聞こえた。私の言葉に、金髪の少年は肩を竦める。
この人たちは私に用があって来たと言っていた。さっさと本題を話せというように睨むと、彼も真剣な眼差しをこちらに返す。

緑色のその瞳は、どこかで見た事あるような気がした。


「コーディリア家の二番目のベルタ様、貴方に人身売買の関与の容疑がかかっています」


場違いにも、目の前の少年はにこりと微笑んだ。
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