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第23話

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パーティの準備とは言っても、大抵のことは侍女がサポートしてくれる。私は料理やデザートを選び手配するだけだ。
庭園にはバラの植木が迷路のように植えてあるから、そこで鬼ごっこをしてもいいかもしれない。ディランの弟たちはテーブルゲームのルールを知っているだろうか。

私は上機嫌で、楽しいパーティの計画を練る。私が遊ぶためというより、ディランたちや妹の楽しむ顔が見たかった。案外私は年下が好きなのかもしれない。

注文するデザートのリストアップをしていると、部屋にノックの音が鳴った。誰だろうか。


「入りなさい」


私がそう言うと、扉が開かれる。……背の高い、茶髪の青年がそこにいた。一番目のベルタと同年代だろうか?使用人にしては若い方だが、私達よりかは何歳か年上だ。


「失礼します、二番目のベルタ様。ディランの友人のカイロスです。この度の任務、精一杯務めさせて頂きますのでよろしくお願い致します」


使用人らしく、礼儀正しく礼をした。ディランの友人、ということは彼がディランの協力者だろう。とても強くは見えないが、こども2人の保護者としては十分……だろうか?

当日は彼らの羽や髪をローブで隠して市場まで行き、そこから私の乗ったコーディリア家とは分からないようなカモフラージュを施した馬車で館まで行くつもりだ。護衛、というほど大それた任務じゃないから多分大丈夫だろう。

……それより。


「カイロス。貴方確か……一番目のベルタの専属従者ね?」


私の言葉に、彼は人の良さそうな笑みを浮かべた。ディランの信用できる使用人が、まさか姉の専属とは。姉が先程私に行った言葉の意味をようやく理解した。


「あの、なにか不都合でも……?」

「いえ。いいのよ~……、当日はよろしくね。私もディランも、貴方を頼りにしてるわ」


私がそう言うと、カイロスは安心したように微笑む。……そう、前の人生とは違って表向きは私は誰とも敵対していないのだ。ただちょっと私が姉を避けている節はあるけど、喧嘩も何もしたことがないし。


「……一番目のベルタはどう?カイロス」

「とてもお優しいですよ」

「そう。これからも姉をよろしくね」

「はい、勿論です」


カイロスは快活に笑う。どらちかというと影属性であるディランと比べて、光属性といった感じだ。

……私が一方的に苦手なだけで、傍から見れば一番目のベルタと二番目のベルタの関係はむしろ良好だった。


昔ディランの教育係だった男が、ディランに暴力を伴う尋問を行ったことはあった。部屋に閉じこもっている私が何をしているのか気になったというのが尋問の理由だ。
でもそれは、教育係の独断で一番目のベルタは関与していなかったと聞いている。

欲深い使用人が、幼い主人を影で操ろうとするのは残念ながらよくある事だ。特殊な家系であるこのコーディリア家なら尚更。
尋問を行ったのはあの男の独断、というのは誰もが信じたし私だって信じている。


だけど、姉が悪人な筈ないと何度そう思ってもこびり付いた冬の記憶はなくならない。私が父親に撃たれた時、冷静に私を見下していたあの姉の目。
ディランの信用している人を疑うのは心苦しいが、この違和感は覚えておいた方が良さそうだ。


「ところで今彼はどこに?」

「ああ、ディランならそこのソファで居眠りをしているわよ~。今は休憩時間なの」

「いや流石にディランお前これは……」


困惑を隠せないカイロスが彼を起こそうとしている。何も知らないディランは、私の対面にあるソファで呑気に眠っていた。
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