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第7話
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黒髪の少年は、長い前髪から狼のような鋭い目を覗かせ私たちを力いっぱい睨んだ。まるで敵に追い詰められたねずみのようだ。よく見ると傍らには大量のリンゴが入った袋がある。想像よりたくさん盗んでいたらしい。
「ひっ!」
三番目のベルタが、まるで化け物を見たかのような反応を見せた。おそらく彼女は少年の目付きではなく、髪色に怯えている。
私は日本人としての記憶があるから嫌悪感を抱いたことはないが、この世界に黒髪差別は根強く浸透しているのだ。
というのも、黒髪とは魔族の象徴。人の姿をしているということはこの子は魔族と人間の間に産まれた子なのだろうが、異種族というのはどうしても差別の標的にされやすい。
「こ、こんな黒髪はやく始末した方がいいと思いますわ!だってとっても危険ですもの……!どんな力が秘めてるかわかりませんのよ、今この瞬間お父様が殺される可能性だってありますのよ!」
「ふむ、ありがとう。一番目のベルタはどう思う?」
「えっと、あの……私は……、お金をたくさんあげて解放してあげたらいいと思います……」
そんなことして何になると言うんだ。根本的な解決にも処罰にもならない、それなら過激ではあるがまだ危険から当主を守ろうとしている妹の方が立派だ。
「二番目は?」
お父様が私に視線を向ける。えー……。
どうでもいいと思っていることに意見を求められることほど困るものは無い。私は考えるふりをしながら、少年の目を見た。
「ッ、なあ、そこのあんた!」
すると目が合った瞬間、少年が私に何かを叫んできた。驚いた姉と妹はお父様の後ろへ隠れ、少年は万一を危惧され兵に身体を押さえつけられている。私だけが、その場で歳不相応な淑女然とした姿勢を変えずにいた。
変える必要が無いからだ。一応私はこの二日間思う存分ぐうたらしたばかりなのだ。ここで殺されたって、きっと前の人生よりマシだろう。
「俺はマーメイドと人間の子だ!マーメイドは人型だから魔族とのハーフでも俺はちゃんと知性は持ってるし、逆に貴族の寝首をかけるような力は何も持ってない!」
……急に、少年は自己紹介を始めた。私が何も言わなくても少年は言葉を続ける。お父様は珍しく少し驚いた顔で少年を見ていた。そういえば、確かこの世界でマーメイドは希少種だったような。
知性があるという主張も、コーディリア家に侵入を果たせている時点で本当のことなのだろう。結果捕まってしまったけど、盗むものをリンゴに留めたのもまあ教育を受けていないスラムの者にしては賢い選択だろう。
「身体は丈夫だし、スラムに住んでるが読み書きと簡単な計算もできる、だからさ……あんた、俺を雇わないか」
しん、と辺りが静まりかえる。ええとつまり……就職面接?彼の意図は分からないが、縋るような目から雇ってほしいことは本当に思える。妹が私のために声を荒げたが彼は怯まない。
しかし何故私に?さっきまであんなに色んな人に睨みをきかせてたというのに。お姉様の案にしないと何をするか分からないぞとか適当に脅しをかけるでもなく、さっきから微動だにしていない私に雇えと?
「ん~……別にいいわよ」
「お姉様!?」
まあしかし断る理由もない。私としてはお父様からの質問に答えるのに迷っていたから、ちょうどいい。
少年が、まるで信じられないとでも言うような顔でこちらを見ていた。提案した本人が1番驚いているらしい。私を案じ止めてくれる妹に、ただ笑みを返した。
「ひっ!」
三番目のベルタが、まるで化け物を見たかのような反応を見せた。おそらく彼女は少年の目付きではなく、髪色に怯えている。
私は日本人としての記憶があるから嫌悪感を抱いたことはないが、この世界に黒髪差別は根強く浸透しているのだ。
というのも、黒髪とは魔族の象徴。人の姿をしているということはこの子は魔族と人間の間に産まれた子なのだろうが、異種族というのはどうしても差別の標的にされやすい。
「こ、こんな黒髪はやく始末した方がいいと思いますわ!だってとっても危険ですもの……!どんな力が秘めてるかわかりませんのよ、今この瞬間お父様が殺される可能性だってありますのよ!」
「ふむ、ありがとう。一番目のベルタはどう思う?」
「えっと、あの……私は……、お金をたくさんあげて解放してあげたらいいと思います……」
そんなことして何になると言うんだ。根本的な解決にも処罰にもならない、それなら過激ではあるがまだ危険から当主を守ろうとしている妹の方が立派だ。
「二番目は?」
お父様が私に視線を向ける。えー……。
どうでもいいと思っていることに意見を求められることほど困るものは無い。私は考えるふりをしながら、少年の目を見た。
「ッ、なあ、そこのあんた!」
すると目が合った瞬間、少年が私に何かを叫んできた。驚いた姉と妹はお父様の後ろへ隠れ、少年は万一を危惧され兵に身体を押さえつけられている。私だけが、その場で歳不相応な淑女然とした姿勢を変えずにいた。
変える必要が無いからだ。一応私はこの二日間思う存分ぐうたらしたばかりなのだ。ここで殺されたって、きっと前の人生よりマシだろう。
「俺はマーメイドと人間の子だ!マーメイドは人型だから魔族とのハーフでも俺はちゃんと知性は持ってるし、逆に貴族の寝首をかけるような力は何も持ってない!」
……急に、少年は自己紹介を始めた。私が何も言わなくても少年は言葉を続ける。お父様は珍しく少し驚いた顔で少年を見ていた。そういえば、確かこの世界でマーメイドは希少種だったような。
知性があるという主張も、コーディリア家に侵入を果たせている時点で本当のことなのだろう。結果捕まってしまったけど、盗むものをリンゴに留めたのもまあ教育を受けていないスラムの者にしては賢い選択だろう。
「身体は丈夫だし、スラムに住んでるが読み書きと簡単な計算もできる、だからさ……あんた、俺を雇わないか」
しん、と辺りが静まりかえる。ええとつまり……就職面接?彼の意図は分からないが、縋るような目から雇ってほしいことは本当に思える。妹が私のために声を荒げたが彼は怯まない。
しかし何故私に?さっきまであんなに色んな人に睨みをきかせてたというのに。お姉様の案にしないと何をするか分からないぞとか適当に脅しをかけるでもなく、さっきから微動だにしていない私に雇えと?
「ん~……別にいいわよ」
「お姉様!?」
まあしかし断る理由もない。私としてはお父様からの質問に答えるのに迷っていたから、ちょうどいい。
少年が、まるで信じられないとでも言うような顔でこちらを見ていた。提案した本人が1番驚いているらしい。私を案じ止めてくれる妹に、ただ笑みを返した。
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