夜の君に愛を告げる

一味

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夜の君に愛を告げる

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 「かこ、行ってきます!」

 
 私とかこは幼馴染みであり、恋人でもある。
恋人になって2ヶ月で病気で倒れてしまった。

かこの病気は治せないといわれ、そこから私と一緒に暮らしている。

一緒に暮らして、少しずつ重くなった。あるときから、かこは一日のほとんどを外でいるようになった。



「ただいま。」

かこはまだいなかった。
いつも、かこはいない。
仕方ないことでも、かこの声が聞こえなくて寂しい。

でも、私がお酒を飲むとかこは帰ってくる。
私が仕事から帰って晩酌をすると突然かこは帰ってくる。
私を止めるためだけに帰ってきてくれ、またはそれのためにしか帰ってきてくれない。


 今日もお酒を飲んでいると、かこが帰って来た。

「駄目だよ。飲みすぎだよ。」

 酔っ払っているのか、かこが透けているような気がした。

 「かこ、来てくれたんだぁ。」

かこは困ったように笑った。

 「未来、身体に悪いから。もう寝よう?」

 いつもいないのに、寝たらまた居なくなっちゃうのに。

 「かこ、いなくなるでしょ?いやなの。」

 「でも、これ以上飲んだら、危ないから。」

 心配そうな声だ。
 いつもはいないくせにこういう時だけ心配するから。
 私は、昔からかこに弱いから。
 仕方がないので、布団に潜り込んだ。
 かこは傍に座った。

 「おやすみぃ。」

かこはほっとした表情でこちらを見ていた。
布団に入っただけで、すごく眠くなる。
ふっと意識を手放した。



朝になると、またかこはいなかった。
いつもと変わらない朝だ。
いつものように頭がボーッとして、前日の記憶が朧気だった。
眠い訳じゃないけど、なんだか気だるい。
いつものことだからと水を一杯飲み、着替える。

「行ってきます」

 やっぱりかこはいなかった



突然、大学の友人と会うことになった。
かことは大学が違ったため、二人は会ったことがない。

「そういえば、未来の彼女、どんな人なの?」

「かわいいよ。それに、私のことを考えてくれて。」

 「へー。会ったことないから気になる。また、会えないかな?」
 
「んー、かこ、人見知りだからね。それに、病気だし、普段は出掛けてるから。会わすのは無理っぽい。」

「そっか。じゃあ写真見せて。」

 数ヵ月前の写真を見せる。
 家にたてている写真と同じものだ。

 「へぇー、かわいい子だね。」

 「うん、そうでしょ?花みたいに笑うんだ。優しいし、私の心配を良くしてくれる。」

 心配、と聞いて友人は私の方を見た。

「ねぇ、未来。顔色悪いよ。」

 え、と口を出す前に友人は続けた。

「彼女が心配するのも良く分かる。あんた、死にそうだよ。本当に大丈夫なの?」

 最近は、ずっと気だるいし、頭痛がしている。
 でも、死ぬなんて大袈裟だと思う。

 「大丈夫だよ。私、最近部署が変わったからそのせいかも。」

 そっか、と納得がいかなそうな顔で返事した。
 これ以上何も言うまいと判断したらしい。

 「とりあえず、ゆっくりしなよ。また時間があれば温泉にいくとかさ。」

 かこと温泉に行くのもいい気がした。
 もちろん、かこはいつもいないのだけど。



 家に帰って、二度目の飲酒をする。

 もともと、酒には特別強いわけでもない。
 けれど、ある時なぜか酒を大量に飲んで、するとかこがやって来たのだ。
 数日前からかこは出かけるようになっていたから、まさか来たことに驚いた。
 それから、私はずっと酒を飲む。
 飲みたい訳じゃないけど。

 「もう、やめなよ。」

 かこが酒を奪い取ろうとしてきた。
 家に入ってきていたことには気がつかなかった。

 「さっきまでも飲んでたんでしょう?このままだと突然倒れちゃうよ?」

 そんなこと、どうでもいいのに。
 自分が倒れることなんて、どうでもいい。
 そう思うのなら、飲んでいないときもかこが来てくれればいいのに。

 「普段、いないのに。しかたないじゃない。」

 かこはハッとしたような表情をした。
 これは、言いすぎたのではないか。

 「…私だって、こんな…」

 かこが、ぼそりと呟いた。
 かこは私を心配しているだけなのに、私が当たるようなことを言ったのが悪かった。

 「…私、もしかして帰らなきゃよかった?」

 それは違うと、答えたかった。
 でも、かこが原因なのは確かで。

 かこはまた、いなくなった。


 それから、酒を飲んでもかこはやってこない。
 一度死んでやろうと睡眠薬を買ってみたけど、かこが病気の時にひどい目にあったから、何となくやめた。

 少しずつ、飲む意味が分からなくなって酒はやめた。
 やめたらまた帰ってくるかもと期待もあったけど、やっぱり帰ってこない。

 かこがいないと、やる気が起きない。
 酒を飲まないから、無駄にだるさがなくなった。
 頭が冴えているから、仕事もうまく行くようになった。
 かこはいないのに。



 「あ、未来、偶然だね。」

 たまたま出会った友人に声をかけられた。
 時間もあったし、近くにあったカフェで話すことになった。
 
 「アイスコーヒー、ふたつで。」

 何も頼まないわけにはいかないので、安かったアイスコーヒーを頼む。
 隣の席では、ホイップクリームがたくさん盛られたパンケーキを二人で食べる女子高生がいた。

 「パンケーキ、頼む?」

 あわてて首を振る。

 「いや、食べきれないと思うし。ボリュームすごいなって思って。」

 友人も笑った。

 「すごいよね。私も見るたびビックリする。一瞬迷っちゃうけど食べきれないからやめるんだ。あ、二人で食べる?」

 特別食べたいわけではないけれど、その提案を受け入れる。

 「そうだね。二人でチャレンジしよう。」


 「前にあってから一月くらい?なんか顔色よくなったね。」

 それは酒をやめたからだろう。
 でも、それを言うと心配するから、言わないでおく。

 「そう?かこといろいろあったからかな。」

 いろいろ、とだけ伝えると、察してくれるだろう。
 この友人はその点が付き合いやすい。

 「へー、でも、なんか元気ない?」

 心配そうだ。
 今回、声をかけたのはそれがきっかけらしい。

 「あー、かこが最近帰ってこなくて。でも、大丈夫だよ。事件性はないから。」

 ふーんとだけいって、黙ってしまった。
 なにを言うべきか迷っているらしい。
 そうしているとパンケーキとアイスコーヒーが届いた。

 「わ、すごいね。クリームたっぷり。」

 パンケーキが4枚と、そのうえにクリームがタワーになっている。イチゴとバナナものせられていた。

 「ね、食べきれるかな。がんばろうね。」


 これほど積まれていると、皿に取り分けるのも難しい。
 なんとか取り分け、一口食べる。

 「あ、おいしい。」

 見た目ほど重くなかった。

 「ね、こんなにガッツリしたパンケーキなんて学生以来だけど、すごくおいしい。」

 まだ、友人だった頃にかことパンケーキを食べたことを思い出した。
 私が食べるのは、それ以来だった。

 最後はアイスコーヒーでなんとか流し込む。

 「意外と食べきれた。でも、しばらくはいいかも。」

 友人は笑っていた。
 これは、前にかこが言っていたのと同じ言葉だった。



 友人とのお喋りは、楽しい。
 でも、何をしてもかこを思い出す。
 かことはいろいろなことをしたから。

 全てにかこがいる。

 「かこ、好きよ。一番愛してる。」

 かこの写真にキスをした。

 「かこ、なんでずっといてくれないの?病気、なんで治らないの?私のこと、愛してくれるって、絶対治すって、言ってたのに。」

 強い酒を飲む。そうすると帰って来て私を止める、筈だったのだ。
 それがいつものルーティンだったのに。

 いつも以上の強い酒を飲む。
 久しぶりだったからか、酔いが早い。

 「かこ?かこ、どこ行ったの?」

 かこの行きそうなところを考える。
 でも、かことの思い出が思い出せない。

そういえば、かこはいつから外を出歩くようになった?
かこは、昔から酒を飲み過ぎると止めてきていた。
でも、家に連れ帰ってからはもう、止める気力もなかったし、私もかこに悪い気がして飲まなかった。
私が変わったのは、かこが変わったのは、いつから?

 なんだか、寒い気がする。
 もしかして、気温が低かったのか。
 急いで暖房をつけた。

 すると暑すぎたのか、吐き気がした。
 頭がボーッとしている気もする。

 かこは、大丈夫かな?
頭が回らないが、それだけ気になった。

 かこが帰ってきたら、何て言うかな。

 かこの写真を見るとなにかを思い出すような気がした。
 やっぱり頭が痛い。

 私は意識を手放した。
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