フットサル、しよ♪

本郷むつみ

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サッカーとフットサルの違いです♪

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 この大会の規定は前半7分、ハーフタイム2分、後半7分。つまり7分後にはスクラッチ戦は終了している。

(勝ちたい。このメンバーでスクラッチに勝ちたい。その為には点を取る)

 志保は気合を入れてコート内を走り回る。それに連動して亜紀や柚季も連動してコート内を動き回る。
 メンバー達の動きに理沙が最後尾からゲームを作る。しかし、再三の得点チャンスもスクラッチにことごとく潰されていた。

(さすがに守りが硬い。しかも、守り一辺倒じゃなく、得点狙っているし)

 スクラッチも時折カウンターで得点チャンスを作る。こちらは舞が孤軍奮闘してなんとか守りきっている感じだった。もちろん、理沙を筆頭に志保と柚季は相手の攻撃になるといち早く自陣に戻る。

(さすがにきつい。でも、攻めないと。点を取らないと勝てない)

 後半も半分が過ぎようとしているのに、スクラッチは一向にメンバーチェンジをする気配がない。つまりそれはフローラルが強敵だと認められた証拠であった。自然と志保の顔が緩む。

(どうせ勝つならやっぱり正規メンバーに勝ちたい。これはこれでありでしょ!)

 フットサルが楽しい。もっともっとボールを蹴っていたい。このメンバーでもっと強く、もっと楽しくフットサルがしたい。
 志保は心の底からそう思っていた。満足感が志保の心の中を一杯にする。そんな時だった。志保は満足感から一瞬だけ油断をした。ほとんどの選手なら気付かないような小さな油断。
 しかし、志保をマークしている相手はバスケで全国大会まで行った選手、スクラッチのエースの奈央。当然、そんな油断を見逃すことは無く、志保はボールを奪われた。

 しかも奪われた場所が最悪だった。ハーフウェイライン近くで攻め上がろうとしていた為に理沙も自陣にいなかった。つまり、志保の後ろにはゴレイロの舞しかいない。奈央はバスケで培った瞬発力で、志保を一瞬で置き去りにした。
 ゴレイロの舞も志保がボールを奪われるなんて思っていなかった。そんな思いが判断を遅らせる。

(しまった! 判断が遅れた)

 心の中で少しだけ後悔した後、すぐに気持ちを切り替える舞。今の状況をすぐに確認し頭の中で整理する。志保が奈央を後ろから追って来ている。志保ならばシュートを打たれる前に奈央に追いつく事が出来るはず。そう信じた舞は飛び出すことを止め、ロングシュートに備える為に身構えた。

 志保が少しずつ奈央との距離を縮めていく。自分の失態からピンチを迎えて志保は少し焦りを感じていた。残り時間も少ない中、ここで得点を取られれば勝敗に大きく影響する。

(何とか追いつける。あと少し! もうあと1歩……あっ!)

 考えるよりも先に身体が動いていた。小学校からやっていたサッカーの習性だった。志保の耳にファールを告げる笛の音が届く。自分の目の前には倒れた奈央が横たわっていた。
 
 サッカーとフットサルの大きな違い。それはボディコンタクト、つまり身体に接触するプレーが許されるか許されないか。
 フットサルは基本的にボディコンタクトを禁止にしている。スライディングタックルはもちろん、ショルダーチャージも基本的には禁止。
 志保もフットサルをやり始めた当初は条件反射的に何度もタックルなどをしてしまい、健によく怒られた。

(やっとフットサルに慣れて、無駄なチャージをしなくなっていたのに。なんでこんな時に)

 目の前に倒れている奈央に手を差し伸べる事も忘れるぐらい呆けていた。せっかく皆が頑張っていい試合をしていたのに自分のたった1度のプレーで台無しにしてしまった。いくら経験者の舞でもPK(ペナルティーキック)はまず止められない。
 残り時間を考えれば、ここで点数を取られて逆転出来る可能性はほとんど無い。いつも、どんな時も笑っている志保の顔から笑顔が消えた。
 
 そんな中、理沙が志保に近づいて行く。そして奈央に手を出して引き起こし、小さく「ごめんなさい」と頭を下げた。奈央は「大丈夫。なんともないから」と言ってチームメイトの所に戻っていく。理沙がまだ座って呆けている志保を無理矢理引き起こす。

「おい、まだ試合は終わってないんだぞ。まだ負けたわけじゃない」

「でも……でも……私……」

 今にも泣き出しそうな志保。理沙がさらに志保に声をかけようとすると、いつの間にか近づいて来ていた舞が志保の肩を叩いた。

「大丈夫。私に任せて。私はこのチームの守護神。神様だよ。だから祈っていて」

 そう言いながらゴールに向かう舞。頼もしさが背中から滲み出ているような雰囲気に志保も理沙も言葉を失った。亜紀と柚季もいつの間にか志保の元に来ていた。

「まだ、試合は終わっていませんわ。いつまで呆けているのですか? 私はそんな人をチームメイトにした覚えはないですわ」

「舞さんを信じるの。例え止められなくても絶対に逆転するの」

 そう言いながら2人は舞の背中を見詰めていた。理沙が志保の肩を叩き、「行くぞ」と声をかけてPKの準備に入る。舞が弾いたりした場合にすぐにフォローに入れるよう為の準備だ。もちろんスクラッチのメンバーも弾かれた場合、ボールをゴールに押し込むためにポジションをとり始めた。

「いいか、舞さんが止め切れない場合を想定するんだぞ。弾いたらクリアでいい。中途半端に攻めようと思わなくていい。ボールを外に出してゲームを切ればいいから」

「わかっていますわ」

「わかったの」

 亜紀、柚季からは力強い返事が返って来るが、肝心の志保からは声が聞こえない。

「志保、切り替えろ! 舞さんを信じろ!」

「う、うん。信じる。祈ってる」

 志保もポジションに移動してPKに備える。スクラッチのキッカーは元空手部の由香が準備に入る。審判の笛が鳴るのを待つ。コート内の空気が緊張で張り詰めていた。


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