フットサル、しよ♪

本郷むつみ

文字の大きさ
上 下
45 / 61

亜紀ちゃんの決意です♪

しおりを挟む

 理沙が相手からボールを奪い、走り出していた亜紀にパスを出す。だが、亜紀はトラップミスをしてボールがコートの外に転がっていく。

(せっかく私の、いやフローラルの初得点を取る為に皆が舞台を整えてくれているのに。この私ときたら)

 この試合、亜紀は早くもシュート数は4本に達している。しかし、ゴールの方向に飛ばなかったり、当たりそこないで小学生でも取れるようなボールの勢いだったりとここまでは全くチームに貢献していない。
 それでも理沙や志保は何回も自分にパスを送ってくれている。その期待に応え切れていない自分に亜紀は試合中にも関わらず、少しづつ自信を無くしていった。

(私はこのチームのストライカーなのに……)

 練習では志保には劣るが速いボールも蹴れるし、同じ女性なら競り合っても負ける気はしない。健もそんな自分を見て相手のゴールに一番近い場所にしたと思っている。
 だが、試合になるとやはりプレッシャーが違う。簡単なトラップでさえミスをする。そんな自分でも信じてパスを送り続けてくれている仲間たち。

(相原財閥次期党首のこの私が期待に応えてないなんて、ありえないですわ)

 今までどんな事に対しても亜紀は常に結果を出してきた。
 勉強は当然、華道などの作法や料理など。親や周囲の期待に応え、それ以上の結果を出した。そうして今の自分の地位を作り上げてきた。

「こっち!」

 敵のエリアで動き回り、少しでも自分の有利な体勢でボールを受けようとする亜紀。前からの守備に加え、味方がボールを奪取した瞬間、誰よりも早く敵のゴール前に走り出す。
 体力に自信のある志保や舞の目から見ても亜紀は異常なほど走っていた。控えのいないフローラルは選手交代が出来ない。無謀とも言える亜紀の行動。しかし、誰1人亜紀を止めるものはいなかった。
 実際、亜紀が前線でプレスをかけてくれているからこそ、守りきれている要素が大きい。後ろで動いている3人は亜紀の動きで守備位置を変えてパスカットをする。亜紀のおかげで何とか無失点で抑えていると言っても過言ではなかった。

(点が取れないのなら守備で貢献しなくてわ。私の存在価値を示さなければ)

 相原財閥の1人娘として生まれ、周囲から常に特別扱いされていた。結果が出なければ非難され、結果が良ければ当たり前。そんな生活が亜紀は嫌でしょうがなかった。
 しかし、フローラルのメンバーは違っていた。みんな色眼鏡で自分を見ることなく、自然体の、1個人の相原亜紀として見てくれる。それが亜紀には嬉しかった。失敗しても結果が出なくても自分を信じてくれる。常に完璧な相原亜紀で着飾って生きてきた。
 だが、フローラルのメンバーは着飾った自分を壊してくれる。素の自分を出せる。亜紀にとって本当の友達が出来た気がした。それゆえに余計にみんなの期待に応えたい。その思いが亜紀をさらに空回りさせていた。
 7分が過ぎ、ハーフタイムを告げるブザーが鳴り響いた。疲労が隠し切れない亜紀がベンチに戻ってくる。志保がすぐに亜紀に駆け寄った。

「亜紀ちゃん、頑張らなくていいよ。もっと私達を信用してよ」

「そうだぞ、亜紀。自分で全部を背負うな。私達はチームなんだから」

「亜紀ちゃんの気持ちは分かっているから」

 理沙も舞も後に続いて亜紀に声をかけてくる。そんなメンバー達に亜紀は顔を赤くしながら否定し始めた。

「な、何の事ですわ? 私はいつものようにプレーしているだけですわよ」

「そんなことないの。完全に膝が笑っているの」

 柚季が亜紀の意見を即座に否定する。

「亜紀ちゃんは1人でやりすぎですの。そんなに僕達は必要ないかの? 僕たちは仲間じゃないのかの?」

 普段は口数の少ない柚季がこう言うとかなりの迫力がある。その迫力に押され亜紀は何も言えなくなった。

 「僕たちはチームメイトで仲間で友達なの。亜紀ちゃん1人の力で勝っても嬉しくないの。勝利するならみんなの力でなの。もっと私達を使って欲しいの」

 力強い目で亜紀を見詰める柚季。しばらく沈黙が続いた後、亜紀がゆっくりと口を開いた。

「分かりましたわ。私は何とかボールをキープしますのでフォローをお願いしますわ。やはり私の技術ではまだ得点を取るには難しいみたいですし。まあ、私はストライカーなので打てるチャンスがあれば打ちますわ」

 憎まれ口を叩きながらも顔は真っ赤になっている亜紀を見て志保たちが笑い出した。

「な、なんですの? 人の顔を見て笑い出すなんて。失礼にもほどがありますわ」

 今度は怒りで顔を赤くする亜紀。そんな亜紀に志保達は笑いながら返事をした。

「何でも無いよ。亜紀ちゃん、期待しているね。必ずフォローするから」

「うん、私がゴールを守るから。私は私に出来る事を出来る範囲で。だから亜紀ちゃんもね」

(コクコク)

「さあ、フローラル。行くぞ」

「おぉー!」




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

GIVEN〜与えられた者〜

菅田刈乃
青春
囲碁棋士になった女の子が『どこでもドア』を作るまでの話。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

青天のヘキレキ

ましら佳
青春
⌘ 青天のヘキレキ 高校の保健養護教諭である金沢環《かなざわたまき》。 上司にも同僚にも生徒からも精神的にどつき回される生活。 思わぬ事故に巻き込まれ、修学旅行の引率先の沼に落ちて神将・毘沙門天の手違いで、問題児である生徒と入れ替わってしまう。 可愛い女子とイケメン男子ではなく、オバちゃんと問題児の中身の取り違えで、ギャップの大きい生活に戸惑い、落としどころを探って行く。 お互いの抱えている問題に、否応なく向き合って行くが・・・・。 出会いは化学変化。 いわゆる“入れ替わり”系のお話を一度書いてみたくて考えたものです。 お楽しみいただけますように。 他コンテンツにも掲載中です。

Cutie Skip ★

月琴そう🌱*
青春
少年期の友情が破綻してしまった小学生も最後の年。瑞月と恵風はそれぞれに原因を察しながら、自分たちの元を離れた結日を呼び戻すことをしなかった。それまでの男、男、女の三人から男女一対一となり、思春期の繊細な障害を乗り越えて、ふたりは腹心の友という間柄になる。それは一方的に離れて行った結日を、再び振り向かせるほどだった。 自分が置き去りにした後悔を掘り起こし、結日は瑞月とよりを戻そうと企むが、想いが強いあまりそれは少し怪しげな方向へ。 高校生になり、瑞月は恵風に友情とは別の想いを打ち明けるが、それに対して慎重な恵風。学校生活での様々な出会いや出来事が、煮え切らない恵風の気付きとなり瑞月の想いが実る。 学校では瑞月と恵風の微笑ましい関係に嫉妬を膨らます、瑞月のクラスメイトの虹生と旺汰。虹生と旺汰は結日の想いを知り、”自分たちのやり方”で協力を図る。 どんな荒波が自分にぶち当たろうとも、瑞月はへこたれやしない。恵風のそばを離れない。離れてはいけないのだ。なぜなら恵風は人間以外をも恋に落とす強力なフェロモンの持ち主であると、自身が身を持って気付いてしまったからである。恵風の幸せ、そして自分のためにもその引力には誰も巻き込んではいけない。 一方、恵風の片割れである結日にも、得体の知れないものが備わっているようだ。瑞月との友情を二度と手放そうとしないその執念は、周りが翻弄するほどだ。一度は手放したがそれは幼い頃から育てもの。自分たちの友情を将来の義兄弟関係と位置付け遠慮を知らない。 こどもの頃の風景を練り込んだ、幼なじみの男女、同性の友情と恋愛の風景。 表紙:むにさん

令和の中学生がファミコンやってみた

矢木羽研
青春
令和5年度の新中学生男子が、ファミコン好きの同級生女子と中古屋で遭遇。レトロゲーム×(ボーイミーツガール + 友情 + 家族愛) 。懐かしくも新鮮なゲーム体験をあなたに。ファミコン世代もそうでない世代も楽しめる、みずみずしく優しい青春物語です!  第一部・完! 今後の展開にご期待ください。カクヨムにも同時掲載。

Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説

宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。 美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!! 【2022/6/11完結】  その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。  そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。 「制覇、今日は五時からだから。来てね」  隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。  担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。 ◇ こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく…… ――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――

処理中です...