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練習試合だけど真剣です♪
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試合開始の笛の音が鳴り響き、両チームの選手が動き出した。ゆかりがハラハラしながら試合を見守っていると、健がゆかりの元に歩いてきた。
「そんな心配しないでください。どうせ試合にならないですから」
と、ゆかりの元にやってきた鳳斗がそう言って声をかける。可愛い教え子を侮辱された感じしたゆかりが憤然として怒り出した。
「それ、どういう意味ですか?」
「気を悪くしないでください。でも、試合をした事の無い彼女たちにいきなり勝利はさすがにないですよ。良くてドローです。これは冷静な分析です」
言葉使いは丁寧だが、ゆかりにとっては大切な生徒たちが侮辱されているようにしか聞こえない。
怒りが顔に出たゆかりを見て健は苦笑する。
「すいません。でも、試合経験の差があり過ぎるのは確かです」
「私達には全国クラスの志保ちゃんと舞ちゃんがいるし、技術的には失礼ですが、そちらのチームの方々には劣っていないと思います」
そう言いながらゆかりはコートの中で走り回っている生徒たちに目を移した。
志保と舞が中心に声を出し、他の3人が動き回っている。ボールをキープして試合をコントロールする志保。素人のゆかりから見ても志保の技術はコート内の誰よりも1つ上のランクにあるように思えた。
(ほら、負けていないじゃない)
どうだ、と言う顔を健に見せるゆかりだったが、健の顔は全然焦りの色は浮かんでいなかった。
「技術は絶対に必要です。サッカーの技術じゃなく、フットサルの技術ですけどね。でも、それと同じぐらい重要なのが、戦術と戦略の2つです」
健がそう言った瞬間、志保からパスを受けた亜紀がミスをしてボールを奪われる。慌てて自陣に戻る生徒たちだが、スクラッチの女性陣はボールをゆっくりと回しながらジリジリと舞が守るゴールへと迫っていく。
「今、ボールと取ったのは偶然だと思います?」
ゆかりに健が質問していく。急に話しかけられたゆかりは少し驚きながらも自分の思った事を正直に話し始めた。
「その言い方だと必然だって事ですか?」
「スクラッチからすると取るべくして取りました。狙い通りです」
フットサルは攻守交替の早い競技。
健とゆかりが話をしている間にボールはまたもや志保がキープしていた。ゆかりが心の中で生徒たちに声援を送る。
(志保ちゃん、理沙ちゃん、みんな、頑張れ)
少しずつ相手陣内に攻め込んで行く。しかし、ある程度の所まで行くと小柄な女性が志保をマークし始める。さっきから見ていると志保がドリブルで抜こうとするのだが、その女性のマークを外せないでいる。
(どうして? 志保ちゃんはサッカーでは全国レベルの選手なのに?)
ゆかりに不安の色が浮かんでくる。そんなゆかりを横目で見ていたのか、健が解説をし始めた。
「あのポニーテールの子がサッカー経験者だっていうのはプレーを見てすぐに分かりました。かなりのレベルの選手っていうのも。あの子のポジションがフィクソって言うのも聞きましたしね。だから、あの子のマークはこっちもエースの奈央さんなんです。奈央さんは元バスケ部で全国にも言った事ある選手です。バスケのマークはフットサルにも使えます。奈央さんは条件さえ揃えば僕でも抜けないぐらいの人です。ましてやフットサルはサッカーの約4分の1しかないコート。ポニーテールの子が抜くにはスペースが無さ過ぎる」
素人のゆかりには健の言っている事の半分しかわからなかった。しかし、志保が奈央と呼ばれる子に苦戦しているのはゆかりの目から見ても明らかだった。
「奈央さんにはドリブルだけ気をつければ良いって言ってあります。パスはあのポニーの子から常に出ます。と言う事はドリブルを止めた後は必ずパスになる。そこを狙えばボールが取れるって事です。ましてや、あの子以外は素人。ボールを受ける身体の向きや位置、走りこむタイミングなどがわかっていない。だから、あのポニーの子が無理してでもパスコースを作らないといけないって事です。でも、無理をすると……」
そういった瞬間、奈央が志保からボールを奪った。
「カウンター!」
健が大きな声を出し、指示を飛ばす。だが、指示が出る前にスクラッチの女性陣は走り出していた。ゆかりがハラハラしながら小さく悲鳴を上げる
「あっ! 駄目」
奈央と呼ばれる子が舞と1対1でシュートを打った。舞は果敢に前に飛び出し、身体にボールを当てシュートを防いだ。(ほっ)とため息を付き、安堵の表情を浮かべるゆかり。
そしてある疑問を口に出し、健に話しかけた。
「でも、さっきの試合じゃみんなもっと動けていたのに。何で?」
ゆかりに質問に健が笑顔で答え始めた。
「さっきの試合は、うちの連中が上手くみんなの特徴を引き出してボールを回していたからです。例えば柚季ですが、柚季は小回りが効いて脚も速い。だから動き回れるスペースをうちの野郎共が作っていた。あの茶髪の子もそうです。負けん気が強くて、身体の使い方は上手い。だから、上手く足元に柔らかいパスを送ってあげていた。柚季は走るスペースを消してやればいい。茶髪の子は動きながらのトラップは下手だから動くように仕向ければいい」
健が淡々とゆかりに説明をする。健の説明は長所と短所を挙げたので素人のゆかりにもわかりやすかった。
(しかし、あれだけの短い時間でよくみんなの事を見ているわね)
健の観察眼に感心するゆかり。しかし、そんな事も気にせずに健は説明を続ける。
「あのポニーの子が1番後ろでボールを持っている限り、攻め手は無いです。そしてこっちはポニーの子からボールを奪えばすぐに攻撃に移れます。いくら経験者のゴレイロでもそう何回も1対1を止める事は出来ません」
そういった瞬間、またもや志保が自陣でボールを奪われ、シュートを打たれるとボールは舞の脚の下を通り抜け、ゴールに吸い込まれていった。
「やった~」
そう言ってハイタッチをして喜びまわるスクラッチの女性陣。一方で失点して対象に落ち込み肩を落とす生徒達。そんな生徒達を見て、ゆかりが声をかけようとすると、その前に舞がみんなに声をかけた
「まだ負けたわけじゃない。これから、これから。切り替えていこう」
「ごめん、私が悪い。もっとパス回していくね」
志保がみんなに謝りながら気合を入れ直した。その様子を見てゆかりが安堵の表情を浮かべた。
「おっ、自分たちの欠点に気が付いたかな?」
ベンチに座っていた健が少し前のめりになり、志保と理沙を見ながらそう呟いた。
その言葉を聞いたゆかりも試合をしっかり見始めた。確かにゆかりの目から見ても志保のプレーが変わったのがわかる。今まではドリブルで相手を崩そうと無理にドリブルで仕掛けていた志保だったが、ここにきて無理にボールを保持しなくなった。
「理沙、近くに来て」「亜紀ちゃん、真ん中に入ってきて」
志保が指示を出してなるべく簡単に、そして相手にボールを取られないようにボールを回す。
パスを出した志保は必死にみんなのフォローに回る。しかし、なかなかシュートまでは持ち込めないでいた。
「う~ん、もう少し。60点って感じかな」
健が独り言のように呟いた。ゆかりはその言葉を聞き逃さずに健に質問した。
「あと40点は何が足りないんですか?」
いきなり質問された健は驚きながらもゆかりの質問に答えた。
「色々ありますが、決定的に駄目な事が1つあります。でも、教えません。僕は監督でもコーチでもないですから。あの子達にはあの子達の考えがあると思うんで。部外者の僕が否定するかもしれないので言いません」
教えてもらえない事にゆかりは少し怒りを覚えたが、健の真剣な顔と返答に何も言えなくなった。
そんな中、試合終了のブザーが体育館に鳴り響いた。
「そんな心配しないでください。どうせ試合にならないですから」
と、ゆかりの元にやってきた鳳斗がそう言って声をかける。可愛い教え子を侮辱された感じしたゆかりが憤然として怒り出した。
「それ、どういう意味ですか?」
「気を悪くしないでください。でも、試合をした事の無い彼女たちにいきなり勝利はさすがにないですよ。良くてドローです。これは冷静な分析です」
言葉使いは丁寧だが、ゆかりにとっては大切な生徒たちが侮辱されているようにしか聞こえない。
怒りが顔に出たゆかりを見て健は苦笑する。
「すいません。でも、試合経験の差があり過ぎるのは確かです」
「私達には全国クラスの志保ちゃんと舞ちゃんがいるし、技術的には失礼ですが、そちらのチームの方々には劣っていないと思います」
そう言いながらゆかりはコートの中で走り回っている生徒たちに目を移した。
志保と舞が中心に声を出し、他の3人が動き回っている。ボールをキープして試合をコントロールする志保。素人のゆかりから見ても志保の技術はコート内の誰よりも1つ上のランクにあるように思えた。
(ほら、負けていないじゃない)
どうだ、と言う顔を健に見せるゆかりだったが、健の顔は全然焦りの色は浮かんでいなかった。
「技術は絶対に必要です。サッカーの技術じゃなく、フットサルの技術ですけどね。でも、それと同じぐらい重要なのが、戦術と戦略の2つです」
健がそう言った瞬間、志保からパスを受けた亜紀がミスをしてボールを奪われる。慌てて自陣に戻る生徒たちだが、スクラッチの女性陣はボールをゆっくりと回しながらジリジリと舞が守るゴールへと迫っていく。
「今、ボールと取ったのは偶然だと思います?」
ゆかりに健が質問していく。急に話しかけられたゆかりは少し驚きながらも自分の思った事を正直に話し始めた。
「その言い方だと必然だって事ですか?」
「スクラッチからすると取るべくして取りました。狙い通りです」
フットサルは攻守交替の早い競技。
健とゆかりが話をしている間にボールはまたもや志保がキープしていた。ゆかりが心の中で生徒たちに声援を送る。
(志保ちゃん、理沙ちゃん、みんな、頑張れ)
少しずつ相手陣内に攻め込んで行く。しかし、ある程度の所まで行くと小柄な女性が志保をマークし始める。さっきから見ていると志保がドリブルで抜こうとするのだが、その女性のマークを外せないでいる。
(どうして? 志保ちゃんはサッカーでは全国レベルの選手なのに?)
ゆかりに不安の色が浮かんでくる。そんなゆかりを横目で見ていたのか、健が解説をし始めた。
「あのポニーテールの子がサッカー経験者だっていうのはプレーを見てすぐに分かりました。かなりのレベルの選手っていうのも。あの子のポジションがフィクソって言うのも聞きましたしね。だから、あの子のマークはこっちもエースの奈央さんなんです。奈央さんは元バスケ部で全国にも言った事ある選手です。バスケのマークはフットサルにも使えます。奈央さんは条件さえ揃えば僕でも抜けないぐらいの人です。ましてやフットサルはサッカーの約4分の1しかないコート。ポニーテールの子が抜くにはスペースが無さ過ぎる」
素人のゆかりには健の言っている事の半分しかわからなかった。しかし、志保が奈央と呼ばれる子に苦戦しているのはゆかりの目から見ても明らかだった。
「奈央さんにはドリブルだけ気をつければ良いって言ってあります。パスはあのポニーの子から常に出ます。と言う事はドリブルを止めた後は必ずパスになる。そこを狙えばボールが取れるって事です。ましてや、あの子以外は素人。ボールを受ける身体の向きや位置、走りこむタイミングなどがわかっていない。だから、あのポニーの子が無理してでもパスコースを作らないといけないって事です。でも、無理をすると……」
そういった瞬間、奈央が志保からボールを奪った。
「カウンター!」
健が大きな声を出し、指示を飛ばす。だが、指示が出る前にスクラッチの女性陣は走り出していた。ゆかりがハラハラしながら小さく悲鳴を上げる
「あっ! 駄目」
奈央と呼ばれる子が舞と1対1でシュートを打った。舞は果敢に前に飛び出し、身体にボールを当てシュートを防いだ。(ほっ)とため息を付き、安堵の表情を浮かべるゆかり。
そしてある疑問を口に出し、健に話しかけた。
「でも、さっきの試合じゃみんなもっと動けていたのに。何で?」
ゆかりに質問に健が笑顔で答え始めた。
「さっきの試合は、うちの連中が上手くみんなの特徴を引き出してボールを回していたからです。例えば柚季ですが、柚季は小回りが効いて脚も速い。だから動き回れるスペースをうちの野郎共が作っていた。あの茶髪の子もそうです。負けん気が強くて、身体の使い方は上手い。だから、上手く足元に柔らかいパスを送ってあげていた。柚季は走るスペースを消してやればいい。茶髪の子は動きながらのトラップは下手だから動くように仕向ければいい」
健が淡々とゆかりに説明をする。健の説明は長所と短所を挙げたので素人のゆかりにもわかりやすかった。
(しかし、あれだけの短い時間でよくみんなの事を見ているわね)
健の観察眼に感心するゆかり。しかし、そんな事も気にせずに健は説明を続ける。
「あのポニーの子が1番後ろでボールを持っている限り、攻め手は無いです。そしてこっちはポニーの子からボールを奪えばすぐに攻撃に移れます。いくら経験者のゴレイロでもそう何回も1対1を止める事は出来ません」
そういった瞬間、またもや志保が自陣でボールを奪われ、シュートを打たれるとボールは舞の脚の下を通り抜け、ゴールに吸い込まれていった。
「やった~」
そう言ってハイタッチをして喜びまわるスクラッチの女性陣。一方で失点して対象に落ち込み肩を落とす生徒達。そんな生徒達を見て、ゆかりが声をかけようとすると、その前に舞がみんなに声をかけた
「まだ負けたわけじゃない。これから、これから。切り替えていこう」
「ごめん、私が悪い。もっとパス回していくね」
志保がみんなに謝りながら気合を入れ直した。その様子を見てゆかりが安堵の表情を浮かべた。
「おっ、自分たちの欠点に気が付いたかな?」
ベンチに座っていた健が少し前のめりになり、志保と理沙を見ながらそう呟いた。
その言葉を聞いたゆかりも試合をしっかり見始めた。確かにゆかりの目から見ても志保のプレーが変わったのがわかる。今まではドリブルで相手を崩そうと無理にドリブルで仕掛けていた志保だったが、ここにきて無理にボールを保持しなくなった。
「理沙、近くに来て」「亜紀ちゃん、真ん中に入ってきて」
志保が指示を出してなるべく簡単に、そして相手にボールを取られないようにボールを回す。
パスを出した志保は必死にみんなのフォローに回る。しかし、なかなかシュートまでは持ち込めないでいた。
「う~ん、もう少し。60点って感じかな」
健が独り言のように呟いた。ゆかりはその言葉を聞き逃さずに健に質問した。
「あと40点は何が足りないんですか?」
いきなり質問された健は驚きながらもゆかりの質問に答えた。
「色々ありますが、決定的に駄目な事が1つあります。でも、教えません。僕は監督でもコーチでもないですから。あの子達にはあの子達の考えがあると思うんで。部外者の僕が否定するかもしれないので言いません」
教えてもらえない事にゆかりは少し怒りを覚えたが、健の真剣な顔と返答に何も言えなくなった。
そんな中、試合終了のブザーが体育館に鳴り響いた。
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