フットサル、しよ♪

本郷むつみ

文字の大きさ
上 下
6 / 61

現状把握しています♪

しおりを挟む
 理沙が教室に戻ると志保は自分の机の上で頭を抱えていた。

「ほら、志保。帰るぞ」

 自分のカバンを持ち、志保の側に歩み寄る。しかし、志保はまったく自分の声に反応しない。

「本当に帰るぞ」

「うえ~ん、理沙~。メンバー集めるのにどうしたらいいのか全然わかんないよ~」
 
 顔を上げた志保は涙目になっていた。

「どうやってメンバーって集めたらいいの?」
 
 そう言いながら抱きついてくる志保は自分の胸に顔を埋めてきた。

「あ~はい、はい。そんなことだろうと思った。だから、帰ってメンバーを集める為のアイディアを考えようって言っているんだろ。早くメンバー募集をしないと他の部に取られる」

 胸の中で泣く志保の頭をなでて落ち着かせる。こういう所が志保の可愛いところであった。

「……うん。帰る」

「じゃあ、今から私の家に行くぞ。進学校だから勉強を優先するのは間違いない。部活をやっても良いって人は少ないと思う。だから部員は取り合いになる事は必至だからな。明日から行動しないと」

「わかったよ、理沙」

 そう言って志保はカバンを用意して自分の元にやってくる。そして、2人は急ぎ足で教室を後にした。

「でもさ、本当に何をしたらいいんだろうね?」

「そうだな、とりあえず絶対にしないといけないのは勧誘ポスターだな」

「おぉ~理沙、頭いい~」

「志保さ、この廊下を歩いていて何にも気づかないのか?」

 下駄箱まで向かう廊下には至る所に勧誘ポスターが貼ってあった。そんなポスターを見て志保は

「あっ、本当だ。野球部、バレー部、吹奏楽部……。見て、見て、軽音部なんてのもあるよ。私、ここにしようかな~」

「うん、ないよ。このボケはないよ~。フットサル部じゃないのかよ!」

 志保の天然ボケに呆れて何も言えなくなる理沙。

「あっ、そうか、えへへ」

「って言うか、今日の朝からポスターあったぞ。今まで気づかなかったのか?」

「うん、全然。全く目に入らなかったよ」
 
 真顔で理沙の問いに答える志保。

(この勧誘ポスターを書いた人の努力はどこへ行けば…… 興味が無くても見るぐらいはしてあげるべきだろ)

 理沙は志保に背中を見せ悲しんだ。が、当の本人の志保は理沙がなぜ背中を見せて肩を震わせているのか分からず、頭の上に?マークが浮かんでいる。

「まあいい。とりあえず、勧誘ポスターは必須だから、今から帰ってすぐに作るぞ」

 立ち直り気合を入れ直した理沙が志保の手を引っ張り、下駄箱まで連れて行く。

「うん、頑張って作ろうね」

 志保のノンビリ口調に気合が抜けていく理沙。もう少し気合を入れてほしいのだが、それが志保だから仕方がないと諦める。2人が下駄箱に到着すると校庭から様々な声が聞こえてきた。

「なに? なんかあったの?」

「志保、行けば分かるからとりあえず靴を履け」

「なんか、理沙、お母さんみたい」

「いいから履け」

 靴を履き終わった理沙が玄関前で志保を待っている。志保も慌てて靴を履き、急いで後に続く。志保達が校庭に出ると色んな部活の生徒たちが勧誘ポスターを配っていた。あまりの勧誘の多さに志保と理沙は唖然とするしかなかった。

「こんなに部活の勧誘しているんだ? まるでTVで見た大学並み」

「理沙は相変わらず博識だね」

「そんなこと言っている場合じゃないぞ!」

「顔が近いよ、理沙。まあ落ち着いて」

「本当に落ち着いている場合じゃないわよ。志保ちゃん」

 いつの間にか志保と理沙の後ろに立っていたゆかりがそう言った。

「どわぁぁぁ~、びっくりした。本気でびっくりした」

 いきなりのゆかりの登場に2人は後ろに飛び退き、心臓を押さえる。

「い、いつからいたんですか?」

「理沙、私、心臓が痛い……。わ、私がいなくなっても、フットサル部は永遠……だ……か……ら……」

「し、志保ぉぉぉ~! って、フットサル部はまだ出来てないぞ!」

 理沙が倒れた志保を抱えながらツッコミを入れる。が、それを見ていたゆかりは冷静に事態を収拾させた。

「私はこのコントをいつまで見てればいいのかな?」

「大丈夫です。これで終わりですので。それでどうゆう意味ですか、ゆかり先生?」

「そうですよ、落ち着いている場合じゃないって?」

 今度は2人がかりゆかりに詰め寄って質問攻めにする。

「いや、だから落ち着いて。と言うか、2人とも変わり身早いわね……。とりあえず、はい、深呼吸~」

 ゆかりが志保と理沙に深呼吸するように促し、落ち着いたのを確認してからゆかりが2人に説明をし始めた。

「あのね、一応うちは市内では数少ない進学校なの。だから部活よりも勉強。就職より大学。部活や就職を考える学生は市外の高校に行ってしまう。だから部活に入部する人が絶対的に少ない。どの部活も部員確保に必死なのよ。5人以下になったら同好会に格下げで部費も出ないし、部室も使用禁止。次の部活定例会に部活として報告しないと1年間は同好会だからね」

「へえ~そうなんだ」

ノンビリした口調で志保がそう言った。

「お前、絶対に状況を飲み込めてないだろ?」

「えへへ」

 頭をかきながら照れ笑いする志保を見て理沙はがっかりする。

「駄目だ。志保はやっぱり駄目な子だ」

 その様子を見たゆかりも(この子、本当に部活、作れるのかしら)と、思いながら肩を落とす。

「やっぱり部活をする人って少ないんですね。先生、ありがとうございます。私達、頑張りますから」

 ゆかりの方に振り返り、拳を握り締めて志保が力強く宣言する。

「はい、頑張って。先生、応援しているから。それから部活定例会議は5月のGW明けだから。時間はちょっと余裕があるけど、部活をする生徒は本当に、本当に少ないから頑張ってね」

 ゆかりが理沙に向かって優しい声で伝える。その言葉を聞いた理沙の顔が青ざめていく。

「こんな事をしている場合じゃないぞ、志保。行くぞ!」

 志保の後ろ首を掴み、ダッシュで帰宅しようとする理沙。理沙にされるがまま、志保は

「先生、さようなら~」

 と、理沙に引っ張られながらゆかりに挨拶をした。ゆかりは2人の背中に声をかけ、温かく見つめた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

GIVEN〜与えられた者〜

菅田刈乃
青春
囲碁棋士になった女の子が『どこでもドア』を作るまでの話。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

青天のヘキレキ

ましら佳
青春
⌘ 青天のヘキレキ 高校の保健養護教諭である金沢環《かなざわたまき》。 上司にも同僚にも生徒からも精神的にどつき回される生活。 思わぬ事故に巻き込まれ、修学旅行の引率先の沼に落ちて神将・毘沙門天の手違いで、問題児である生徒と入れ替わってしまう。 可愛い女子とイケメン男子ではなく、オバちゃんと問題児の中身の取り違えで、ギャップの大きい生活に戸惑い、落としどころを探って行く。 お互いの抱えている問題に、否応なく向き合って行くが・・・・。 出会いは化学変化。 いわゆる“入れ替わり”系のお話を一度書いてみたくて考えたものです。 お楽しみいただけますように。 他コンテンツにも掲載中です。

令和の中学生がファミコンやってみた

矢木羽研
青春
令和5年度の新中学生男子が、ファミコン好きの同級生女子と中古屋で遭遇。レトロゲーム×(ボーイミーツガール + 友情 + 家族愛) 。懐かしくも新鮮なゲーム体験をあなたに。ファミコン世代もそうでない世代も楽しめる、みずみずしく優しい青春物語です!  第一部・完! 今後の展開にご期待ください。カクヨムにも同時掲載。

勇者の日常!

モブ乙
青春
VRゲームで勇者の称号を持つ男子高校生の日常を描きます

Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説

宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。 美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!! 【2022/6/11完結】  その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。  そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。 「制覇、今日は五時からだから。来てね」  隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。  担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。 ◇ こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく…… ――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――

処理中です...