ナイフと心

めい湖

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七日目 二〇XX年二月二十一日

三十七、

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 武衛は、ゆっくりと腰を進めていった。自分でもわかるほど柔らかく蕩けたそこを、丹念に撫でて、押して、擦られる。正面からの足を開いて武衛が覆いかぶさってくるのを受け入れるのは、身動きを封じられているふうさえあった。もっと決定的な刺激が欲しいのに、鈍い動きは快楽を引き延ばす。
 ゆっくりとした挿入に、阿貴も知らない奥の奥まで、重く、深く、武衛の侵入を許したような気分になる。途中で、気持ちよすぎるのと訳の分からない反射で足が跳ねて、中の武衛を締め付ける。ひりつくような快感に、阿貴の性器の先から濁った粘液がこぼれ出た。勢いのない射精は、長くて圧迫感のある快楽をもたらす。
 武衛は最後まで納め切ると、じっと動かず、阿貴の顔にキスをする。武衛の性器と阿貴の内臓がなじんで、一つになって、境界線を失うのを待つかのような時間に、阿貴はさらに武衛を抱きしめる両手足の力を強くした。汗をにじませた肌同士が重なり、内側と、表面の両方で、二人の境界線は失われていく。
 やがて、武衛が動き始めても、触れた部分は癒着して、その動きは緩やかだった。奥のところを押し込むような動きに、阿貴は息を吐いて涙をこぼす。
「武衛さ、ん、ああ、もう、いっ、……」
 イク、と快楽の水面まで押し上げられて、その際きわで酸素を与えられずにもがく。その一番高いところで、胸の先や、首筋まで触られて、阿貴の身体は貪欲にもう一歩を駆け上ろうとする。内臓すべてがきゅうっと収縮して、皮膚が震えて、―武衛の身体が阿貴を押し上げるような動きとともに、吐精して、全身でその絶頂を浴びた。
 けれども、武衛の手は鋭敏になった阿貴をそのまま落ち着かせてくれはしなかった。濡れた性器をまた撫でて、痛みに近い、しかしその奥の強烈な快感を阿貴に与える。沸騰したようにうねる直腸の肉を、硬い欲芯で押し上げて、蹂躙をやめない。阿貴の身体は絶頂をきわめてもなお、その頂きから降りきれずに、次の山を登り始める。自分でも聞いたことのないような、甲高くて、濡れた声が漏れて、その口を武衛のくちびるでふさがれて、その濡れた舌で触れられた口の中から、また頭の奥をかき混ぜられる快感に前後を失っていく。
 自分の身体がばらばらになってしまうような、燃えてしまうような、おぼれてしまうような、苦しくて切ない感覚がずっと続いて、それを気持ちいいと感じるようになってしまった。靄のかかる意識の中で、自分の身体がヒートアップして壊れた機械のようだとぼんやりと考えたが、その考えも一瞬で霧散する。そしてまた、その気持ちよさをずっと追いかける旅が始まった。


 *


 いつの間にか意識を失っていたのかわからない。肌寒さと、腰が静かにけいれんする違和感に、意識が浮上する。窓の外はすでに暗く、何時かも確認するために身体を起き上がらせることもできない。全身の血液がのろのろとしか動かなくて、内側のそのめぐりだけで、肌が敏感に震えてしまうような気すらした。
「まだ寝てな、阿貴」
 頭上の濃い影が、柔らかい声でそう言って、阿貴のむき出しの肩に布団をかける。その布の肌触りが心地よくて、また目を閉じてしまう。
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