102 / 107
10章 ガリ地蔵
10-1 ガリ総長の最後の講義【㊵「最強のテクニックとは声をかけることなんだ」】
しおりを挟む
「この前の大祭でガリはぶっ倒れたみてぇだな。二日連続で徹マンしてたらしいし、おっさんなのにペースを無視して飲み過ぎるからわりぃんだよ。ほんと、お騒がせな奴だな」
いやいや乳ローの泥酔の方がもっとお騒がせだったよ。っていうか、お前も口元に大根サラダのゲロをつけてポール君を抱きしめながらぶっ倒れていたじゃねぇか、という思いは心の奥にひっそりとしまっておいて、「ふーん」と答えてやった。
渋谷のスクランブル交差点では、『今日もお祭が開催されているのでは?』というくらい多くの人でごった返している。
なぜだか、乳ローが溜息を吐いてしょんぼりしている。
「どうしたんですか。乳ローさんにしては珍しく元気がなさそうですが」
「さっき、数年ぶりにガンシカされた」
「はぁ」
「この俺様がだぞ。テンション下がるわぁ。っていうか、これは不治の病であるナンパ鬱病だな」
「はいはい」といなしたが、俺もいまいちテンションが上がらない。ガリさんから色々なアドバイスを受けたが全く払拭できず、自分の迷路の中でもがき続けていた。
右手にガリ棒を持ったガリさんが、呆れた表情を見せながらこちらにやってきた。
「おいおい、そこの地蔵コンビ。地蔵がうつるから巡回でもしてこいや。ったく……。街に出るならちゃんとナンパをしろ」
「こ、この俺様が……」
まだ、言ってる。どれだけ自信過剰なんだか。
その時、とぼとぼとまあさとグースがやってきた。
「俺もダメっす。この頃いくら面白おかしく踊っても笑いが取れなくて地蔵っす……」
超絶イケメンのグースも口を開いた。
「湿気が多くて髪型が決まらず地蔵です。ハハン……」
ひょっこり十太もやってきた。
「俺はアルコールがなきゃ地蔵は当たり前……」
と言うと下を向いて凹んでいる。
「おいおい、お前らもか……。ええ加減にしろや」
腕組みをして鼻から息を吐くと、再び口を開いた。
「お前ら、全員一列に並べ! 鉄拳制裁を加える。歯を食いしばれ!」
「うそーん」と呟くと「冗談や冗談」と言われ、すぐさま諭すような顔つきに変わった。
「ま、ナンパっちゅうのはメンタルコントロールが極めて重要やからな。その調節がうまくいかないと、全ての歯車が狂い悪循環に陥ってしまうねん。ナンパにおけるメンタルというものは、わりと繊細な歯車で作られてるんやで」
「なるほど」
「とにかく自信を失ってしまったら、ナンパなんて絶対成功しない。せやから、絶好調のときの状態やナンパで成功したときのことを心に刻みつけて、自信満々で臨むことが大切なんやで」
「俺様がガンシカとは……」
まだそんなことを言ってる乳ローは放っておこうとしたが、一言毒を吐くことにした。
「復讐のためのナンパをやめれば乗り越えられるんじゃないですか」
「てめぇ。この俺様に随分生意気な口を叩くじゃねぇか」
と予想通り顔を覗き込んで凄んできたが、意外にもそれ以上攻めてこなかった。
「もう、復讐のためのナンパは卒業したんだよ。俺の未来のためにならないからな。しかし、復讐心を無くしたら調子が狂っちまったんだ。だから、この病根は結構深い……。やべぇ、声をかけることが半端なく怖くなってきた……。俺は難病であるこのナンパ鬱病に絶対負けねぇ」
と言うと、拳を固く握り締めて歯軋りをしている。
「ガリさん、自分はまだ迷路から抜け出せません」
「街に出て声をかけ続ければいずれ解決する。そこにしか答えはないんやで」
「ですよね」
「せやけど、テクニックや情報ばかりが先行し過ぎて、頭でっかちになっちゃあかんで」
「と言いますと?」
「うん。テクニックなんていうものは、ほんの些細なことやねん。一番大事なことは声をかけることなんや。声をかけることそのものに大きな力が宿ってるんや。言い換えるならば、最良のテクニックとは声をかけることなんやで」
「声を掛けるか掛けないか。それが全てなんですね」
「せや。声をかけることは人の心から求められているからこそ、それだけで意義があんねん」
人の心か……。
「スマートに声をかけることができなくても、うまく喋れずしどろもどろになろうとも構わない。せやけど、地蔵だけはしちゃあかんで。地蔵という状態は人という生き物にとって、負の要素以外に何も生み出さないねん。せやから、あれだけ一番ダメなのは地蔵心だと言うたやろ。もう、忘れちゃったのか?」
そう言うと、再びガリ棒を美味しそうに頬張った。
「ほんで、声をかけ続ければ、それぞれの人の道が自然とひらけていくんやで」
「なぜですか?」
「出会いが生まれるからや。出会いが生まれることによって人はつくられ、人生がつくられんねん。出会いがない人生は人生ではないんやで」
「ナンパだけに限る話だとは思いませんでした」
「そういうこった。人生の、いや、この世の中の全方位的にいえる話しなんやで」
俺は、深く頷いた。
「せやから、『地蔵するんじゃねぇぞ!』。わかったか?」
「わかりました。ありがとうございます」と言いながら深くお辞儀をした。
いやいや乳ローの泥酔の方がもっとお騒がせだったよ。っていうか、お前も口元に大根サラダのゲロをつけてポール君を抱きしめながらぶっ倒れていたじゃねぇか、という思いは心の奥にひっそりとしまっておいて、「ふーん」と答えてやった。
渋谷のスクランブル交差点では、『今日もお祭が開催されているのでは?』というくらい多くの人でごった返している。
なぜだか、乳ローが溜息を吐いてしょんぼりしている。
「どうしたんですか。乳ローさんにしては珍しく元気がなさそうですが」
「さっき、数年ぶりにガンシカされた」
「はぁ」
「この俺様がだぞ。テンション下がるわぁ。っていうか、これは不治の病であるナンパ鬱病だな」
「はいはい」といなしたが、俺もいまいちテンションが上がらない。ガリさんから色々なアドバイスを受けたが全く払拭できず、自分の迷路の中でもがき続けていた。
右手にガリ棒を持ったガリさんが、呆れた表情を見せながらこちらにやってきた。
「おいおい、そこの地蔵コンビ。地蔵がうつるから巡回でもしてこいや。ったく……。街に出るならちゃんとナンパをしろ」
「こ、この俺様が……」
まだ、言ってる。どれだけ自信過剰なんだか。
その時、とぼとぼとまあさとグースがやってきた。
「俺もダメっす。この頃いくら面白おかしく踊っても笑いが取れなくて地蔵っす……」
超絶イケメンのグースも口を開いた。
「湿気が多くて髪型が決まらず地蔵です。ハハン……」
ひょっこり十太もやってきた。
「俺はアルコールがなきゃ地蔵は当たり前……」
と言うと下を向いて凹んでいる。
「おいおい、お前らもか……。ええ加減にしろや」
腕組みをして鼻から息を吐くと、再び口を開いた。
「お前ら、全員一列に並べ! 鉄拳制裁を加える。歯を食いしばれ!」
「うそーん」と呟くと「冗談や冗談」と言われ、すぐさま諭すような顔つきに変わった。
「ま、ナンパっちゅうのはメンタルコントロールが極めて重要やからな。その調節がうまくいかないと、全ての歯車が狂い悪循環に陥ってしまうねん。ナンパにおけるメンタルというものは、わりと繊細な歯車で作られてるんやで」
「なるほど」
「とにかく自信を失ってしまったら、ナンパなんて絶対成功しない。せやから、絶好調のときの状態やナンパで成功したときのことを心に刻みつけて、自信満々で臨むことが大切なんやで」
「俺様がガンシカとは……」
まだそんなことを言ってる乳ローは放っておこうとしたが、一言毒を吐くことにした。
「復讐のためのナンパをやめれば乗り越えられるんじゃないですか」
「てめぇ。この俺様に随分生意気な口を叩くじゃねぇか」
と予想通り顔を覗き込んで凄んできたが、意外にもそれ以上攻めてこなかった。
「もう、復讐のためのナンパは卒業したんだよ。俺の未来のためにならないからな。しかし、復讐心を無くしたら調子が狂っちまったんだ。だから、この病根は結構深い……。やべぇ、声をかけることが半端なく怖くなってきた……。俺は難病であるこのナンパ鬱病に絶対負けねぇ」
と言うと、拳を固く握り締めて歯軋りをしている。
「ガリさん、自分はまだ迷路から抜け出せません」
「街に出て声をかけ続ければいずれ解決する。そこにしか答えはないんやで」
「ですよね」
「せやけど、テクニックや情報ばかりが先行し過ぎて、頭でっかちになっちゃあかんで」
「と言いますと?」
「うん。テクニックなんていうものは、ほんの些細なことやねん。一番大事なことは声をかけることなんや。声をかけることそのものに大きな力が宿ってるんや。言い換えるならば、最良のテクニックとは声をかけることなんやで」
「声を掛けるか掛けないか。それが全てなんですね」
「せや。声をかけることは人の心から求められているからこそ、それだけで意義があんねん」
人の心か……。
「スマートに声をかけることができなくても、うまく喋れずしどろもどろになろうとも構わない。せやけど、地蔵だけはしちゃあかんで。地蔵という状態は人という生き物にとって、負の要素以外に何も生み出さないねん。せやから、あれだけ一番ダメなのは地蔵心だと言うたやろ。もう、忘れちゃったのか?」
そう言うと、再びガリ棒を美味しそうに頬張った。
「ほんで、声をかけ続ければ、それぞれの人の道が自然とひらけていくんやで」
「なぜですか?」
「出会いが生まれるからや。出会いが生まれることによって人はつくられ、人生がつくられんねん。出会いがない人生は人生ではないんやで」
「ナンパだけに限る話だとは思いませんでした」
「そういうこった。人生の、いや、この世の中の全方位的にいえる話しなんやで」
俺は、深く頷いた。
「せやから、『地蔵するんじゃねぇぞ!』。わかったか?」
「わかりました。ありがとうございます」と言いながら深くお辞儀をした。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
ねえ、私の本性を暴いてよ♡ オナニークラブで働く女子大生
花野りら
恋愛
オナニークラブとは、個室で男性客のオナニーを見てあげたり手コキする風俗店のひとつ。
女子大生がエッチなアルバイトをしているという背徳感!
イケナイことをしている羞恥プレイからの過激なセックスシーンは必読♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる