上 下
90 / 107
9章 あの日本一の誠実系ナンパ師、子凛が逮捕!?

9-7 「児童買春や淫行で捕まる奴なんてほんの一部であり、氷山の一角や」

しおりを挟む
「校長はどんな人でした?」
「ごく普通のおじさんでしたよ。決して悪い人にも見えなかった。魔が差した、いや、魔物にのまれてしまったのでしょう」
 魔物。テストステロンという名の魔物。性欲の正体。
 末吉は、日本酒が入れられているお猪口に唇をつけた。酔いたい気分なのだろう。それを見ていた俺は疑問点が浮かんできたので質問してみた。
「ガリさんガリさん。じゃ、例えば、こういうのはどうなんですか」
「んあっ?」
「ツイッターで出会った女性とラブホに入りましたが、JKっぽく感じたのでエッチをせず、お金も払わず、十五分ほどでラブホから出て帰ったとします。その女性がもし実際には十六歳だとして、ツイッターやLINEで十六歳だと知っていたというやり取りもなし。これだけで逮捕される可能性はあるのですか?」
「児童買春の冤罪で逮捕される可能性ということで話を進めるで」
「はいはい」
「『○○とパパ活をした』というおなごの供述さえあれば、逮捕されることがあるから逮捕される可能性はあるといえる。これは、児童買春や淫行、はたまた痴漢のような性犯罪に限らず一対一型犯罪の場合に共通することやし、信憑性の高い供述をする方が勝つんやから(2)」
「女の供述だけで逮捕されちゃうのか……」
「せや。などの客観証拠があっても、実際にどうだったかは二人にしかわからへん。せやから、重要な客観証拠がなくても、おなごの供述にある程度信用性があれば逮捕状は出るんやで(3)」
「そうなんすか……」
「さっきも言うたけど、捕まったときに『十六歳と言いました』という調書ができてるから、これを供述だけで崩すのは至難しなんわざ。せやから、SNSやサイト等におけるやり取りなど、裏付けの証拠を集めて残しておくことが必要になってくるんやで」
「ガリさん、確かに可能性があるという意味では否定しませんが、こんなことで逮捕されることは滅多にないと思いますよ」
「ご名答。さすがグリーンさん。ま、そもそものことを言っちゃうと、児童買春や淫行で捕まる奴なんてほんの一部であり、氷山の一角や。せやけど、みんな捕まる前はそう言うねん。『こんなので捕まらない。俺だけは大丈夫。運の悪い奴しか捕まらない』ってね。な、末吉?」
 ガリさんが末吉に視線を向けると、「そうっすね」と言いながら居たたまれない表情で首を何度も縦に振った。
「末吉はたった一回キリで捕まったんだっけ?」
「そうです……」
「ツイてへんなぁ。めっちゃヤリまくっても捕まらない男もいるっちゅうのに」
 末吉は下を見たまま固まってしまった。「ま、そんなこと言うてもしゃーないけどさ」と言うと、視線を俺に向けて喋り始めた。
「年齢によって罪の重さというのも変わってくんねん。末吉が相手したおなごは十七歳。逮捕はされたが、略式起訴の罰金刑が相場といえる。しかし、十七歳や十六歳の高校生よりも十五歳や十四歳の中学生だと起訴されて正式裁判になる可能性が出てくる。余罪の数が多かったり犯行内容が悪質な場合は、よりその確率は高まってくる。それだけやなく、逮捕される確率もグンと上がってくるんや。もう一つ年齢が下がり十三歳未満だと、合意の上でもさらに重い処罰が下されるんやで」
「あれ、性交同意年齢は改正されたのでは?」
「よう気づいたやないか、ご名答。性交同意とは、をいうんやが、十三歳から十六歳に引き上げられた(十三歳以上十六歳未満は、加害者と五歳以上の年齢差があり年上の場合に適用。同年代の恋愛処罰を除外するため)。改正後は、同年代(五歳差)以外の十六歳未満への性行為は合意の上でも不同意性交等罪が適用されるんやで」
「じゃ、校長は?」
「十四歳を児童買春した校長は改正後ならば、不同意性交等罪で処罰される可能性がある。しかし、改正前やから、児童買春罪において正式裁判で執行猶予が相場やろうと思うが、どうだ末吉?」
「そうですね……」
 普通の問いかけのように見えたが、なぜだか末吉は口ごもった。
「学校のボスである校長の性犯罪は、どう考えても心証が悪そうですね」
「せやな。末吉や校長のような教員がもし教え子に手を出した場合は、児童福祉法・児童淫行罪という重罪に科せられる可能性が出てくるんやで」
「さすがに教え子には手を出さないっす」
「他にも、関連のある犯罪はぎょうさんあんねん。もし、末吉がそのおなごの裸体などの写真を撮っていれば児童ポルノ製造罪に問われる可能性が出てくる。もし、末吉がそのおなごと二十三時から朝四時の間で連れ回していたら、それだけで東京都青少年条例・第十五条の四、深夜外出の制限に触れてしまう。ほとんどの都道府県で二十三時(中には二十二時)~朝四時までの時間帯に青少年(十八歳未満〈東京都は十六歳未満>)を保護者の同意を得ずに連れ出すことを禁じているんやで」
「エッチしなくても捕まっちゃうんですよね」
「もちろん」
「せやから、深夜で若そうだと感じたら不用意に声をかけるべきではないということや」
「にしても、いろいろあるんですね」
「せやな。他には、東京都迷惑防止条例第五条の二(つきまとい行為等の禁止)、軽犯罪法第一条第二十八号(追随等の禁止)というのがある。普通のナンパならば適用されないが、あまりにもしつこくつきまとうと適用されんねん。ちなみに、大学のキャンパス内で関係者以外の輩がナンパして通報されれば、建造物侵入の疑いで逮捕されるんやで」
「ナンパも気軽にできない時代になってきているんですね」
「そういうことやな」
 ガリさんは末吉に視線を向けた。
「末吉のような逮捕や十日間の勾留というのは確かにキツい。しかし、逮捕をまぬがれ、任意同行で在宅捜査になった場合も消化不良でグレーな毎日が続くんやで」
「グレーってどういうことですか?」
「うん。逮捕されていない在宅捜査の場合、時間的制約がなく他の身柄事件を優先的にやるから、どうしても処理が後回しになんねん。何ヶ月も放っておかれて、忘れた頃に検察官から連絡があるということが時々起こんねん。半年なんてざらやで。在宅での取調べは数回で合計十時間ほどだが、終わるまでは長い時間がかかることもあるんやで。逮捕されれば十日で終わるんやけどな」
「確かにグレーな毎日になりそうですね」
「せや。刑が確定するまでは落ち着かないやろな」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

無垢で透明

はぎわら歓
現代文学
 真琴は奨学金の返済のために会社勤めをしながら夜、水商売のバイトをしている。苦学生だった頃から一日中働きづくめだった。夜の店で、過去の恩人に似ている葵と出会う。葵は真琴を気に入ったようで、初めて店外デートをすることになった。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

ひとりむすめ

山下真響
現代文学
高校三年生になった千代子にはパートナーがいます。声が小さすぎる『夫』との共同生活をする中で、ある特殊な力を手に入れました。池に棲む鯉が大海に出るまでのお話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

わたしの幸せな部屋

師走こなゆき
現代文学
 わたし(彩香。中学2年生女子)は仁美さん(二十八歳女性)と狭いアパートの部屋で一緒に住んでいる。仁美さんは従姉妹のお姉さんで、わたしの一番好きな人。仁美さんと一緒に居られれば、わたしは幸せ。他には何にもいらない。  それなのに最近、仁美さんは家を開けることが多くなった。わたしに隠して男の人と電話してるのも知ってる。  そんなの……。 ※他サイトからの推敲&転載です。 ※百合描写あり ※流血描写あり

雌伏浪人  勉学に励むつもりが、女の子相手に励みました

在江
恋愛
束縛系の親から逃れるため、大学を目指す俺は、その一歩として、家から遠い予備校へ入学した。すでに色々失敗している気もするが、雌伏一年ということで。 念願の一人暮らしを満喫しようと思ったら、目付け役を送りまれた。そいつも親の無茶振りに閉口していて、離反させるのは訳なかった。 予備校で勉強に励むつもりはあったが、仲間と出かけた先で美人姉妹にナンパされ、至福の瞬間を味わった。もっと欲しいとナンパに励んだら、一癖ある女ばかり寄ってきた。

処理中です...