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8章 性欲ジャーナリスト
8-3 十太の講義【㊲「即ばかりにこだわるのはやめた方がいいと思うよ」】
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『おなごの家で家族と立食パーティーしてるから、すぐには合流できへんけど終わったら駆け付けるわぁ。十太が西武新宿駅前でストってるみたいやから合流してみて。他の連中はそろそろ出てくると思うで』
今日のナンパ祭は新宿。ガリさんにLINEしたところ、以上の返信が来た。何だよ、立食パーティーって。楽しそうじゃないか……。それに引き替え俺ときたら……。
『わかりました。ありがとうございます。十太さんと合流してみます』
LINEを返信して早速向かう。しばらく歩くと、日本一の歓楽街である歌舞伎町が姿を現し色取り取りのネオンが瞬きながら目に飛び込んでくる。見るからにキャバクラ嬢と思しき格好の女性が隣を通り過ぎると、新宿のドブ臭い匂いと合わさり発酵させながら鼻の奥に吸い込まれたので不快な気持ちに襲われた。
ビニール袋を持った十太さんが、煌びやかなネオンをバックに横断歩道を渡ってきたので俺は手を上げた。
「十太さん、調子はどうですか」
緑色のマッシュルームカットが風に靡いた。
「今、来たところなんだよ。これからスタートって感じ。俺は燃料を投入しないとうまくいかないからさ」
と言うと、「プシュ」という音を鳴らし蓋を開けるとすぐさまビールを飲み始めた。
「東口の方で巡回しよっか」
「そうっすね」
西武新宿駅前から新宿駅東口と東南口の中間にある通りに向かった。
「アルコールが入ると十太さんの右に出る者はいないって乳ローさんが言ってましたよ」「ハハ、それほどでもないよ。逆にアルコールがないとてんでダメなんで」
十太の声が右耳から入るとすぐに左耳から抜けてしまいいつの間にか上方を眺めていて淡いオレンジ色で映し出されているホテルの窓を一つ二つ三つとゆっくり数えていると十にさしかかるあたりで急に虚しくなりそれから先の数字が浮かばなくなったので少しずつ焦点をぼやかしながら視線の方向を変えた。
女をもっと知りたい。しかし、ナンパ師として結果を出さなければその先には進めないと思った。ナンパを始めてからこの半年間、週に三回は街に繰り出して一日平均五十声かけ、時には百を超える声かけをしているだけでなく、肉体改造のための筋トレや走り込みも続けている。
俺はガリさんの教えを自分の特性やキャラクターに合わせ自分なりのマニュアルを作り、何百回も暗記してさらには様々な脳内シミュレーションを繰り返し成功イメージを創り上げてからストリートに臨むようになった。
ガリさんが言っていたように、人間は十人十色なのでその人間の資質上いくら教えてもらったとしても吸収できるものとできないものがあることを実践を通してわかってきた。自分の場合、トークによって主導権を握ることが自分のスタイルに合っていると感じた。しかし、トーク向上のためのお笑い芸人やタレントの話芸の研究、どもりや噛まないための風呂場での早口言葉や発声練習、その他にも自己啓発などあらゆることを努力してきたが結果を出すことができなかった。
準即でもいいかと思ったが、やはり即じゃないとダメだと感じた。ナンパ師ならば一度は即をしなければいけないと思うんだ……。
イケメンではないし、やっぱ俺ではダメなのかなぁ。
十太が『んっ』という表情で覗き込んできた。
「グリーン、大丈夫か? なんか顔が引き攣ってるけど、どうしたの?」
表情や態度に出てしまっているのだろうか。恥ずかしい。
「ナンパってほんとに難しいですね。全然うまくいかないんですよ。未だに即もできません」
『なーんだ』という表情をつくり、ゆっくりと息を吐いた。
「即ばかりこだわるのはやめた方がいいと思うよ。グリーンにとっていい女が見つかれば、準即でも準々即でも、何ヶ月後でもいいんじゃないっすか?」
「確かに十太さんの言う通りだと思う。でも、ナンパ師になったからにはどうしても即というものを経験してみたいんだ」
もう、意地になっていた。即をしなければ一皮むけた本物の男になれないとさえ思い始め強迫観念みたいなものも生まれてきた。くだらないと思ってもその感情は消えなくなっていた。
「そっか。でも、ナンパって基本はお遊びだと思うよ。もっと楽しもうぜ」
十太の笑顔を見ていたら、俺は何か間違ってるかもと思ってしまった。
「ただナンパをしているだけじゃつまらなくない? ガリさんをはじめ、ナンパ仲間がいるからナンパは面白いと思うんだよね」
「確かに……。俺もそう思う」
言われるまでそんなことを考えたことがなかった。自分にとって女とは性欲とは出会いとは何か。全部自分自分自分だった。自分の努力でナンパを続けてこれたと思い込んでいたけど、そうじゃないことに気づかされた。仲間がいるからこそ続けてこれたのだと思った。
「それに、今のグリーンを見てるとひとりぼっちでつまらなさそうに見える。変に思い詰めちゃダメだぜ。リラックスリラックスリラックマ」
確実に一秒時間が止まり身体が凍えた。
「十太さん、今のマジでくっだらねぇす。とりあえずツッコんどきます」
「グリーンのためを思ってせっかくワザとボケてやったのに、この野郎、小馬鹿にしやがって」
「冗談すよ、冗談。わかってますから。感謝してますよ、本当に」
「ホントか? ま、いいけどさ。だから、たまには酔拳もいいと思うよ。力が抜けるしね」
と言うと、愛らしい表情で笑った。
「十太さん、ありがとう」
「いえいえ」
十太は残りのビールを一気に飲み干すと、入りきらなかったビールが口角から漏れてきたので慌てて乱暴にぬぐった。
今日のナンパ祭は新宿。ガリさんにLINEしたところ、以上の返信が来た。何だよ、立食パーティーって。楽しそうじゃないか……。それに引き替え俺ときたら……。
『わかりました。ありがとうございます。十太さんと合流してみます』
LINEを返信して早速向かう。しばらく歩くと、日本一の歓楽街である歌舞伎町が姿を現し色取り取りのネオンが瞬きながら目に飛び込んでくる。見るからにキャバクラ嬢と思しき格好の女性が隣を通り過ぎると、新宿のドブ臭い匂いと合わさり発酵させながら鼻の奥に吸い込まれたので不快な気持ちに襲われた。
ビニール袋を持った十太さんが、煌びやかなネオンをバックに横断歩道を渡ってきたので俺は手を上げた。
「十太さん、調子はどうですか」
緑色のマッシュルームカットが風に靡いた。
「今、来たところなんだよ。これからスタートって感じ。俺は燃料を投入しないとうまくいかないからさ」
と言うと、「プシュ」という音を鳴らし蓋を開けるとすぐさまビールを飲み始めた。
「東口の方で巡回しよっか」
「そうっすね」
西武新宿駅前から新宿駅東口と東南口の中間にある通りに向かった。
「アルコールが入ると十太さんの右に出る者はいないって乳ローさんが言ってましたよ」「ハハ、それほどでもないよ。逆にアルコールがないとてんでダメなんで」
十太の声が右耳から入るとすぐに左耳から抜けてしまいいつの間にか上方を眺めていて淡いオレンジ色で映し出されているホテルの窓を一つ二つ三つとゆっくり数えていると十にさしかかるあたりで急に虚しくなりそれから先の数字が浮かばなくなったので少しずつ焦点をぼやかしながら視線の方向を変えた。
女をもっと知りたい。しかし、ナンパ師として結果を出さなければその先には進めないと思った。ナンパを始めてからこの半年間、週に三回は街に繰り出して一日平均五十声かけ、時には百を超える声かけをしているだけでなく、肉体改造のための筋トレや走り込みも続けている。
俺はガリさんの教えを自分の特性やキャラクターに合わせ自分なりのマニュアルを作り、何百回も暗記してさらには様々な脳内シミュレーションを繰り返し成功イメージを創り上げてからストリートに臨むようになった。
ガリさんが言っていたように、人間は十人十色なのでその人間の資質上いくら教えてもらったとしても吸収できるものとできないものがあることを実践を通してわかってきた。自分の場合、トークによって主導権を握ることが自分のスタイルに合っていると感じた。しかし、トーク向上のためのお笑い芸人やタレントの話芸の研究、どもりや噛まないための風呂場での早口言葉や発声練習、その他にも自己啓発などあらゆることを努力してきたが結果を出すことができなかった。
準即でもいいかと思ったが、やはり即じゃないとダメだと感じた。ナンパ師ならば一度は即をしなければいけないと思うんだ……。
イケメンではないし、やっぱ俺ではダメなのかなぁ。
十太が『んっ』という表情で覗き込んできた。
「グリーン、大丈夫か? なんか顔が引き攣ってるけど、どうしたの?」
表情や態度に出てしまっているのだろうか。恥ずかしい。
「ナンパってほんとに難しいですね。全然うまくいかないんですよ。未だに即もできません」
『なーんだ』という表情をつくり、ゆっくりと息を吐いた。
「即ばかりこだわるのはやめた方がいいと思うよ。グリーンにとっていい女が見つかれば、準即でも準々即でも、何ヶ月後でもいいんじゃないっすか?」
「確かに十太さんの言う通りだと思う。でも、ナンパ師になったからにはどうしても即というものを経験してみたいんだ」
もう、意地になっていた。即をしなければ一皮むけた本物の男になれないとさえ思い始め強迫観念みたいなものも生まれてきた。くだらないと思ってもその感情は消えなくなっていた。
「そっか。でも、ナンパって基本はお遊びだと思うよ。もっと楽しもうぜ」
十太の笑顔を見ていたら、俺は何か間違ってるかもと思ってしまった。
「ただナンパをしているだけじゃつまらなくない? ガリさんをはじめ、ナンパ仲間がいるからナンパは面白いと思うんだよね」
「確かに……。俺もそう思う」
言われるまでそんなことを考えたことがなかった。自分にとって女とは性欲とは出会いとは何か。全部自分自分自分だった。自分の努力でナンパを続けてこれたと思い込んでいたけど、そうじゃないことに気づかされた。仲間がいるからこそ続けてこれたのだと思った。
「それに、今のグリーンを見てるとひとりぼっちでつまらなさそうに見える。変に思い詰めちゃダメだぜ。リラックスリラックスリラックマ」
確実に一秒時間が止まり身体が凍えた。
「十太さん、今のマジでくっだらねぇす。とりあえずツッコんどきます」
「グリーンのためを思ってせっかくワザとボケてやったのに、この野郎、小馬鹿にしやがって」
「冗談すよ、冗談。わかってますから。感謝してますよ、本当に」
「ホントか? ま、いいけどさ。だから、たまには酔拳もいいと思うよ。力が抜けるしね」
と言うと、愛らしい表情で笑った。
「十太さん、ありがとう」
「いえいえ」
十太は残りのビールを一気に飲み干すと、入りきらなかったビールが口角から漏れてきたので慌てて乱暴にぬぐった。
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