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7章 性欲の中心には魔物が棲んでんねん
7-25 ガリ総長の締めの講義4【㊱セックスとは一体なんなのか】
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「グリーン。唐突だけど、セックスするときに一番大事なことは何だと思う?」
乳ローから「こんなこともわからねぇのかよ」と嫌味を言われたが、すぐにガリさんからも「今のお前でもできることやで」と重ねて言われてしまった。
「何でしょうか。ほんと、バカですいません。師匠、教えて下さい!」
「愛することなんやで」
「あ・い・す・る、ことですか……」
コンドームおばあさんも似たようなことを言っていたな。
「せやねん。何かご不満でも?」
「いいえ。意外にも普通のアドバイスをされたんで拍子抜けしたんですけど」
「セックスは日本語に言い換えると、性交だけでなく性愛という意味もある。性交だけのセックスをしても人は満たされない。性愛とは、性行が伴った愛を確かめる行為をいうねん。せやから、愛することは大切なんやで」
「わかりました……」
「なんや?」
「いえ、大丈夫です……」
「訊いてええんやぞ」
「はい……。笑われるかもしれませんが、セックスって何となくわかるのですが、よく考えるとわからなくなってしまうというか……」
「そっか。ま、セックスなんて誰も細かく教えてくれへんし、超プライベートなことだからとんでもなく個人差が大きいしな」
「そうだと思います」
「まず、セックスというのは肉体面と精神面で分けて論じることができる。肉体面におけるスタートはテストステロンの存在や。テストステロンがあるから、性欲や性衝動というものが生まれ、『セックスをしたい』という感情が生まれんねん。では、ゴールはなんやと思う?」
「……射精ですか?」
「せやねん。つまり、排泄なんや」
「でも、排泄だけならば、マスターベーションと大して変わらないような気がしますが……」
「ご名答。そこで精神面に話を移していく。そもそも男ってのは狩猟する生き物なんやで」
「よくわかりません……。どういうことですか?」
「さっき、『男は多くの種を播く性』と言うたやろ?」
「はい」
「そういう性分が備わってるから、男は『どれだけ播くことができたのか』、くだらないとは思いつつも気になってしまうねん。せやから、男はおなごを数で判断する側面があるんやで」
「数というのは?」
「うん。男の論理では、経験人数が少ない男より多い方が評価されるし、少なければサバを読む男も少なくない」
乳ローが割り込んできた。
「女をたくさんオトしたことがある男とそうでない男では、自信やオーラが全く違うんだよ。俺とグリーンの差は、そこに集約されているともいえるんだよ」
「せやな。表向きには侮蔑していても、心の中では『千人斬り』や『二千人斬り』を達成してる男は一目置かれるもんや。そこまでいかなくても、男はおなごをオトすことで、男としての達成欲が得られる生き物なんや。これは、おなごにはわからん男だけに存在する感覚なんやで」
「だから、男と女はすれ違いが多いのだと思いました」
「相変わらず青臭ぇな。よく聞け、グリーン。ナンパとは、この排泄欲や達成欲が得られる点が醍醐味であり、オスが存在する以上、絶対になくなることはないんだぜ」
「全否定する気は更々ありませんが……、ただ、それだけだと空しく感じるのですが」
乳ローの話を聞いて呆れ顔のガリさんが、一息ついてから口を開いた。
「ナンパ師の中にはゲット数を競うために活動してる輩がいるが、おなごを数字でしか見れなくなったりそこにしか価値がおけなくなると、おなごとセックスすることが心の通わない作業になってくんねん」
「それを続けるとどうなるのですか?」
「乳ロー、言うてみ。前に言うたよな?」
しょうがねぇなぁ、という表情を残して口を開いた。
「ちゃんと覚えているよ。『女を欺き、物扱いして、短時間で性行為に至る行動を繰り返すと、そこには人間としての成長や向上が感じられず、ただ排泄行為を繰り返すだけのループに陥り病んでしまうし、女を信用できなくなり蔑視感が強まってしまう』だろ。ガリ?」
「ちゃんと諳んじることができたやん?」
乳ローは唇を少し尖らせた。
「せやけど、そういう輩を全否定しようとは思わん。なぜなら、セックスや性欲というものは、その男の過去、つまり、劣等感や挫折や失敗などの感情と密接にリンクしているんやから」
ガリさんが乳ローを見つめると、乳ローは視線を逸らした。
「セックスって難しいですね」
「せやな。セックスとは、その人間の身体だけでなく、心も丸裸にされて表出されてしまうし、その人間の全人生が反映されてしまうものなんやで」
「なるほど……。だからこそ、排泄欲と達成欲だけでは足りないと思うのですが……」
「ご名答。それだけだと、どうしても射精してしまうと空しくなることが多い。空しくなるということは相手の存在を無視しているから。それだと、マスターベーションとなんら変わらない。そこで、性交欲というものが大切になってくるんやで」
「それは何なのですか?」
「相手を慮るセックスのことをいうねん。『抱き合いたい』『わかりあいたい』『愛し愛されたい』『相手の女性と気持ちの通いあったセックスをしたい』と言い換えることもできる」
「なるほど……。話を聞いていると、自分も『認めてほしい』『受け入れてほしい』という感情があると思ってしまいました。恥ずかしいのですが……」
「その感情はしょうがないねん。セックスにおいて、承認欲求は一つのポイントなんやで」
「承認欲求とは何ですか?」
「人に認めてもらいたい—他者承認欲求。自分を自分で認めたい—自己承認欲求。認め合いたい—承認欲求による確認行為の一つがセックスなんやで」
「しかし、承認欲求が強すぎると、それはまた、マスターベーションと似たものになってしまいそうですね」
「その通り。気をつけなあかんで」
「はい」
「でもな、人間は神のように完璧には生きられんし、弱いから一人じゃ生きられん。子どもの教育において、心をこめて抱きしめるだけで奥深い安心感や非常事態における心の支えを与えられるように、セックスにはそういう面も含まれてくんねん。理屈だけで説明できるものではないねん。せやから、人間はスキンシップを求める。人肌の温もりは何よりも代えがたいものなんやから」
「ぬくもり……」
「会話によるコミュニケーションを通してセックスを高めていくことは大事や」
「それはわかります」
「しかし、セックスというものは、身体を通して会話する行為でもあるんやで」
「セックスって、ノンバーバルコミュニケーションでもあるんですね。人間という生き物にとって、会話だけでは限界があるということでしょうか……」
「単に裸なのではなく、お互いの心も裸にしないとできないコミュニケーションなんや。せやから、信頼感や安心感が生まれるんやで」
「性交欲の話を聞いていて……、何となくわかりますし、とても納得しました」
「お前に何がわかるんだよ」
不満そうな表情で乳ローが割り込んできた。
「ほぼチェリーボーイのお前に何がわかるの? 例えば? 何でもいいから言ってみ?」
「えっーと……、会話だけでは知ることのできない相手の深いところを知りたい。会話では得られない感覚を共有したい……。そんな感情が浮かんできます」
「ふーん」と言うと、乳ローは明後日の方向を向いてまたもや唇を尖らせた。
「せやねん。人間の言語化できない感情を心から解き放ち、お互いの身体を重ねて一つにするセックスが真の性交欲といえるかもしれへんな」
「こころですか……」
「『心から求められる心のためのセックス』と言うこともできる。今は心の時代や。だからこそ、心のためのセックスが求められているのかもしれへんな」
ガリさんは、ドヤ顔で残りのクリームソーダを飲み干した。
「おい、ガリ。だいぶ宗教臭くなってきたぞ。そろそろガリ教を立ち上げるのか?」
乳ローがガリさんを拝んだので、俺も真似をした。
「お前らな……。まあええわ。今の時代は、あらゆる性の快楽を容易に手に入れられる。せやから、心から求められるセックスはハードルの高いものになってんねん。それに、心から求められるセックスからしか得られないぬくもりは、愛が必要な人間にとってとても大切なものなんやから」
「へー。ま、俺はそんなの興味ないけどな」
と乳ローは言い放ったが、ガリさんもそれ以上は何も言わなかった。
「でも、性交欲の話を聞いていると、実践することはそんなに簡単ではないような気もしましたが……」
「ま、セックスを分けて論じてきたが、人間の感情を単純に分けることなんてでけへん。『性交欲』と『排泄欲』がごっちゃになって構わないんやで。特に男の場合は、性交欲ばかり気にしていると楽しめなかったり、プレッシャーで勃たなくなったりもするし、そもそも『排泄欲』がなければセックスをする気が起きんからな」
「だから男女において、セックスのすれ違いがあるのでしょうね」
「せやねん。どうしても、性差によるズレは生じる。おなごは『性交欲』を求めやすい。男は『排泄欲』を求めやすい。性差があるからこそ、男女の理解には限界があんねん。せやけど、その性差をお互いが乗り越えようとすることに価値があるし、その分だけわかりあえるともいえんねん。そのズレを埋めるためにコミュニケーションがあるんやから。難しくても、互いが話し合い、身体で話し合い、乗り越えることが大切なんやで」
「確かに」
「『性交欲』と『排泄欲』を織り交ぜ、相乗効果させながらセックスすりゃええねん。それが一番気持ちええセックスなんやから」
「そこに二人で乗り越えた感情も加わったら、さらなる快感が得られるのでしょうね」
「せや。セックスはあらゆるものが直結するし、複雑な構造で創られている。だからこそ、オキシトシンという物質が分泌されるんやで」
「人間って不思議ですね」
「せやなぁ……」
「確か、前にガリは女を物格化すんなって言ってたよな?」
「言うた。おなごを『排泄欲や達成欲』を得るだけの術だと思うな。装飾物や、己の補完物だと思うな。おかんの代わりだと思うな。要するに、心ない物扱いをすんなっちゅうことやねん。おなご本人の心を深く見つめることが大切なんやで」
「なるほど」
「せやから、たとえ一夜だけの恋人であっても、相手のことを慮り、心の底から本気で愛してセックスをすることが大事なんやで」
「わかりました」
「そういうセックスをすれば、触れたことのない刺激的でトリップした世界が訪れるし、オキシトシンの分泌も増加するだろう」
「でも、後腐れないセックスをしたいんだったら、オキシトシンが出ない方がいいけどな。変な女に気に入られてもめんどくさいだけだからよ」
「せやから、ホンマに気に入ったおなごにだけ声をかけろといつも言うてるやろ」
「ふわーい。わかりましたー」
「最後にオチもつきましたし、お後がよろしいようで……」
「……。どうでもええわ」
タバコを咥え肺の奥に気持ち良く吸い込むと、終了の合図かのように上空に向けてゆっくりと心をこめて吐き出していった。
「やっべ、ねじの思い出して興奮MAXでムラムラしてきた。いや、あの姉ちゃんのまむしラーメンのせいかもしれねぇな。まずいけどやるじゃねぇか、あの姉ちゃん。お礼に抱いてやろうかな」
と言うと、不敵な笑みを浮かべ唾液を啜った。
「やっぱ、やめた。もっといい女にしよ。おい、これからストろうぜ!」
興奮を抑えきれない乳ローが、俺たちに唾を飛ばしながら言った。
「せやな。ほんなら、駅前に行こか」
「行きましょう、行きましょう」
乳ローから「こんなこともわからねぇのかよ」と嫌味を言われたが、すぐにガリさんからも「今のお前でもできることやで」と重ねて言われてしまった。
「何でしょうか。ほんと、バカですいません。師匠、教えて下さい!」
「愛することなんやで」
「あ・い・す・る、ことですか……」
コンドームおばあさんも似たようなことを言っていたな。
「せやねん。何かご不満でも?」
「いいえ。意外にも普通のアドバイスをされたんで拍子抜けしたんですけど」
「セックスは日本語に言い換えると、性交だけでなく性愛という意味もある。性交だけのセックスをしても人は満たされない。性愛とは、性行が伴った愛を確かめる行為をいうねん。せやから、愛することは大切なんやで」
「わかりました……」
「なんや?」
「いえ、大丈夫です……」
「訊いてええんやぞ」
「はい……。笑われるかもしれませんが、セックスって何となくわかるのですが、よく考えるとわからなくなってしまうというか……」
「そっか。ま、セックスなんて誰も細かく教えてくれへんし、超プライベートなことだからとんでもなく個人差が大きいしな」
「そうだと思います」
「まず、セックスというのは肉体面と精神面で分けて論じることができる。肉体面におけるスタートはテストステロンの存在や。テストステロンがあるから、性欲や性衝動というものが生まれ、『セックスをしたい』という感情が生まれんねん。では、ゴールはなんやと思う?」
「……射精ですか?」
「せやねん。つまり、排泄なんや」
「でも、排泄だけならば、マスターベーションと大して変わらないような気がしますが……」
「ご名答。そこで精神面に話を移していく。そもそも男ってのは狩猟する生き物なんやで」
「よくわかりません……。どういうことですか?」
「さっき、『男は多くの種を播く性』と言うたやろ?」
「はい」
「そういう性分が備わってるから、男は『どれだけ播くことができたのか』、くだらないとは思いつつも気になってしまうねん。せやから、男はおなごを数で判断する側面があるんやで」
「数というのは?」
「うん。男の論理では、経験人数が少ない男より多い方が評価されるし、少なければサバを読む男も少なくない」
乳ローが割り込んできた。
「女をたくさんオトしたことがある男とそうでない男では、自信やオーラが全く違うんだよ。俺とグリーンの差は、そこに集約されているともいえるんだよ」
「せやな。表向きには侮蔑していても、心の中では『千人斬り』や『二千人斬り』を達成してる男は一目置かれるもんや。そこまでいかなくても、男はおなごをオトすことで、男としての達成欲が得られる生き物なんや。これは、おなごにはわからん男だけに存在する感覚なんやで」
「だから、男と女はすれ違いが多いのだと思いました」
「相変わらず青臭ぇな。よく聞け、グリーン。ナンパとは、この排泄欲や達成欲が得られる点が醍醐味であり、オスが存在する以上、絶対になくなることはないんだぜ」
「全否定する気は更々ありませんが……、ただ、それだけだと空しく感じるのですが」
乳ローの話を聞いて呆れ顔のガリさんが、一息ついてから口を開いた。
「ナンパ師の中にはゲット数を競うために活動してる輩がいるが、おなごを数字でしか見れなくなったりそこにしか価値がおけなくなると、おなごとセックスすることが心の通わない作業になってくんねん」
「それを続けるとどうなるのですか?」
「乳ロー、言うてみ。前に言うたよな?」
しょうがねぇなぁ、という表情を残して口を開いた。
「ちゃんと覚えているよ。『女を欺き、物扱いして、短時間で性行為に至る行動を繰り返すと、そこには人間としての成長や向上が感じられず、ただ排泄行為を繰り返すだけのループに陥り病んでしまうし、女を信用できなくなり蔑視感が強まってしまう』だろ。ガリ?」
「ちゃんと諳んじることができたやん?」
乳ローは唇を少し尖らせた。
「せやけど、そういう輩を全否定しようとは思わん。なぜなら、セックスや性欲というものは、その男の過去、つまり、劣等感や挫折や失敗などの感情と密接にリンクしているんやから」
ガリさんが乳ローを見つめると、乳ローは視線を逸らした。
「セックスって難しいですね」
「せやな。セックスとは、その人間の身体だけでなく、心も丸裸にされて表出されてしまうし、その人間の全人生が反映されてしまうものなんやで」
「なるほど……。だからこそ、排泄欲と達成欲だけでは足りないと思うのですが……」
「ご名答。それだけだと、どうしても射精してしまうと空しくなることが多い。空しくなるということは相手の存在を無視しているから。それだと、マスターベーションとなんら変わらない。そこで、性交欲というものが大切になってくるんやで」
「それは何なのですか?」
「相手を慮るセックスのことをいうねん。『抱き合いたい』『わかりあいたい』『愛し愛されたい』『相手の女性と気持ちの通いあったセックスをしたい』と言い換えることもできる」
「なるほど……。話を聞いていると、自分も『認めてほしい』『受け入れてほしい』という感情があると思ってしまいました。恥ずかしいのですが……」
「その感情はしょうがないねん。セックスにおいて、承認欲求は一つのポイントなんやで」
「承認欲求とは何ですか?」
「人に認めてもらいたい—他者承認欲求。自分を自分で認めたい—自己承認欲求。認め合いたい—承認欲求による確認行為の一つがセックスなんやで」
「しかし、承認欲求が強すぎると、それはまた、マスターベーションと似たものになってしまいそうですね」
「その通り。気をつけなあかんで」
「はい」
「でもな、人間は神のように完璧には生きられんし、弱いから一人じゃ生きられん。子どもの教育において、心をこめて抱きしめるだけで奥深い安心感や非常事態における心の支えを与えられるように、セックスにはそういう面も含まれてくんねん。理屈だけで説明できるものではないねん。せやから、人間はスキンシップを求める。人肌の温もりは何よりも代えがたいものなんやから」
「ぬくもり……」
「会話によるコミュニケーションを通してセックスを高めていくことは大事や」
「それはわかります」
「しかし、セックスというものは、身体を通して会話する行為でもあるんやで」
「セックスって、ノンバーバルコミュニケーションでもあるんですね。人間という生き物にとって、会話だけでは限界があるということでしょうか……」
「単に裸なのではなく、お互いの心も裸にしないとできないコミュニケーションなんや。せやから、信頼感や安心感が生まれるんやで」
「性交欲の話を聞いていて……、何となくわかりますし、とても納得しました」
「お前に何がわかるんだよ」
不満そうな表情で乳ローが割り込んできた。
「ほぼチェリーボーイのお前に何がわかるの? 例えば? 何でもいいから言ってみ?」
「えっーと……、会話だけでは知ることのできない相手の深いところを知りたい。会話では得られない感覚を共有したい……。そんな感情が浮かんできます」
「ふーん」と言うと、乳ローは明後日の方向を向いてまたもや唇を尖らせた。
「せやねん。人間の言語化できない感情を心から解き放ち、お互いの身体を重ねて一つにするセックスが真の性交欲といえるかもしれへんな」
「こころですか……」
「『心から求められる心のためのセックス』と言うこともできる。今は心の時代や。だからこそ、心のためのセックスが求められているのかもしれへんな」
ガリさんは、ドヤ顔で残りのクリームソーダを飲み干した。
「おい、ガリ。だいぶ宗教臭くなってきたぞ。そろそろガリ教を立ち上げるのか?」
乳ローがガリさんを拝んだので、俺も真似をした。
「お前らな……。まあええわ。今の時代は、あらゆる性の快楽を容易に手に入れられる。せやから、心から求められるセックスはハードルの高いものになってんねん。それに、心から求められるセックスからしか得られないぬくもりは、愛が必要な人間にとってとても大切なものなんやから」
「へー。ま、俺はそんなの興味ないけどな」
と乳ローは言い放ったが、ガリさんもそれ以上は何も言わなかった。
「でも、性交欲の話を聞いていると、実践することはそんなに簡単ではないような気もしましたが……」
「ま、セックスを分けて論じてきたが、人間の感情を単純に分けることなんてでけへん。『性交欲』と『排泄欲』がごっちゃになって構わないんやで。特に男の場合は、性交欲ばかり気にしていると楽しめなかったり、プレッシャーで勃たなくなったりもするし、そもそも『排泄欲』がなければセックスをする気が起きんからな」
「だから男女において、セックスのすれ違いがあるのでしょうね」
「せやねん。どうしても、性差によるズレは生じる。おなごは『性交欲』を求めやすい。男は『排泄欲』を求めやすい。性差があるからこそ、男女の理解には限界があんねん。せやけど、その性差をお互いが乗り越えようとすることに価値があるし、その分だけわかりあえるともいえんねん。そのズレを埋めるためにコミュニケーションがあるんやから。難しくても、互いが話し合い、身体で話し合い、乗り越えることが大切なんやで」
「確かに」
「『性交欲』と『排泄欲』を織り交ぜ、相乗効果させながらセックスすりゃええねん。それが一番気持ちええセックスなんやから」
「そこに二人で乗り越えた感情も加わったら、さらなる快感が得られるのでしょうね」
「せや。セックスはあらゆるものが直結するし、複雑な構造で創られている。だからこそ、オキシトシンという物質が分泌されるんやで」
「人間って不思議ですね」
「せやなぁ……」
「確か、前にガリは女を物格化すんなって言ってたよな?」
「言うた。おなごを『排泄欲や達成欲』を得るだけの術だと思うな。装飾物や、己の補完物だと思うな。おかんの代わりだと思うな。要するに、心ない物扱いをすんなっちゅうことやねん。おなご本人の心を深く見つめることが大切なんやで」
「なるほど」
「せやから、たとえ一夜だけの恋人であっても、相手のことを慮り、心の底から本気で愛してセックスをすることが大事なんやで」
「わかりました」
「そういうセックスをすれば、触れたことのない刺激的でトリップした世界が訪れるし、オキシトシンの分泌も増加するだろう」
「でも、後腐れないセックスをしたいんだったら、オキシトシンが出ない方がいいけどな。変な女に気に入られてもめんどくさいだけだからよ」
「せやから、ホンマに気に入ったおなごにだけ声をかけろといつも言うてるやろ」
「ふわーい。わかりましたー」
「最後にオチもつきましたし、お後がよろしいようで……」
「……。どうでもええわ」
タバコを咥え肺の奥に気持ち良く吸い込むと、終了の合図かのように上空に向けてゆっくりと心をこめて吐き出していった。
「やっべ、ねじの思い出して興奮MAXでムラムラしてきた。いや、あの姉ちゃんのまむしラーメンのせいかもしれねぇな。まずいけどやるじゃねぇか、あの姉ちゃん。お礼に抱いてやろうかな」
と言うと、不敵な笑みを浮かべ唾液を啜った。
「やっぱ、やめた。もっといい女にしよ。おい、これからストろうぜ!」
興奮を抑えきれない乳ローが、俺たちに唾を飛ばしながら言った。
「せやな。ほんなら、駅前に行こか」
「行きましょう、行きましょう」
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