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3章 地蔵してんじゃねぇよ!
3-4 指名ナンパ2【⑤大げさ且つユニークに褒めディスる】
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黙って話を聞いていた乳ローが、飽きたのか両手を天に突き上げて顔をひん曲げながら大あくびをしている。
「そんな話はどうでもいいよ。それより、今日の渋谷はほんとブスばっかだな」
「出たで、乳ローの悪い癖が」
ガリさんは、眉と唇を歪め『しょうがねぇ野郎だ』という表情を浮かべながら俺の方を向いた。
「事実だろ。まぁ、お前らにはわからないと思うけどさ」
乳ローが右手を軽くスナップさせて「あっちに行こうぜ」と言ったので、三人で移動した。
「こいつはヘアメイクをやってるから、メイクとか髪型とか服装とかおなごの外見に異常にうるさいねん」
乳ローは振り返ると、俺たちを交互に指でさしながら話し始めた。
「女は美を追究しなければいけない生き物であり務めなんだ。その任務を怠り、美に対して無頓着な女を見ると腹が立ってくるんだよ」
「でも、渋谷って綺麗な女性が多くないですか」
勇気を持って話に割り込んでみた。
「それは、お前に見る目がないからだ。ほら、あの女を見ろ」
「あれですか。綺麗な方ですねぇ」
「バカ、どう見てもブサイクだろ。メイクが下手すぎる。まず、下瞼の目尻の三角ゾーンの盛り方が微妙だし、つけまつげのバランスもおかしい。どういう感覚してるんだ。そもそも、あのノーズシャドウの入れ方はなんだ。あと、」
突然思いっきり手首を引っ張られたので、なんだろと振り返ると、そこにはガリさんの困った顔があった。
「乳ローが止まらなくなったやないか。グリーンのせいやぞ」
「えっ。乳ローさんが勝手に喋り出したんですよ……。母の化粧をよく見てたので、自分はかなり詳しい方かなと思ってたんですけど、さすがプロって感じです」
乳ローを見ると、こちらの状況を知らずに喋り続けている。しかし、すぐに気づき、「人の話を最後まで聞けよ」と言うと睨みながら寄ってきた。
「それにしても、目が良いですね。よくそこまで細かく見えますね」
交渉人気取りで、話を逸らしてみた。
「まあな。俺は視力が3・0あるからな。アフリカの友達からも認められた」
真顔であまりにも自信ありげに言うので、「すごいっすね」と言っておいた。
「おい。日が暮れるから、もう行くで」
ガリさんの進む方向を眺める。すると、西に沈みゆく太陽の振り絞るような赤色に照らされたスペイン坂が見えてきた。
「そろそろ指名ナンパを再開するか」
「はい。お願いします」
乳ローに手招きされて近くに寄る。セクシーな香水の匂いを乗せて言葉が頭上から降ってきた。
「あの女を見ろ。あの女は目を大きく見せようとして目元を囲むように黒のラインを入れている。しかし、失敗してかえって目が小さく見えてしまっているんだ。目頭から目尻にかけて光と影のグラデーションをつけて陰影を入れなきゃ。手を抜いたのかメイクを知らんのかわからんが、性格がズボラだからあんなメイクになるんだ。抜けてる女は引っかかりやすい。イケるんじゃね?」
「ごくごく普通に見えますけどね……」と言いながら向かった。しかし、乳ローを一瞬見やり、一言返したことで女性が人混みに紛れてしまい見失ってしまう。
「何やってんだよ。じゃ、あれ。デニムをグレーのニーハイブーツにインした女」
怒られてしまったが素直に「はい」と返事して、声をかけにいった。
あっ、かなり好み。
「こんにちは。すごい可愛いですね」
間があき、変な空気になる。次の言葉が何も出てこず、ガンシカされて行ってしまった。振り返ると、案の定ガリさんは腕を組んでいた。
「せやなぁ。素直に可愛いですね、って言うてもええけどさ……。最初から可愛いとか綺麗とか言うとキャッチに思われて怪しまれるんやわ。あの娘、鮮やかでお洒落なスカーフを巻いてたから、『お洒落なスカーフやね』とかさりげない褒めから入ると、ガンシカじゃなくて反応があったと思うで」
「スカーフですかぁ」
「せや。声をかけるきっかけとしては、服装やバッグなどの持ち物から入った方がガンシカされにくいし話も広げやすい。ほんでな、大げさ且つユニークに褒めディスることが大事なんやけど、詰め込み過ぎてもどうせ忘れちまうと思うから、それはまた後で教えるで」
「わかりました」
「顔や身体や雰囲気から入るならば、可愛いとかよりも『睫毛、超決まってるで。バッツンバッツンやん。その睫毛に惚れてまうわぁ』のように、工夫した方がええ。直接的なナンパは無理と思うおなごは多いので、外観から巧みにきっかけを作る方法は効果的といえるんやで」
「おら、下向いてないで、次行くぞ。あれあれ。頭をおだんごにしてバカみたいにでっかいピンクのリボンをつけてる女に行け」
「なんか、言い方が淡泊ですね」
「バカやガキは大嫌いだからな」
後ろに近づくと、3秒ルールを遵守してすぐさま声をかけた。
「こんにちは」
さっき、ガリさんから言われたことを整理できていなかったので挨拶で止まってしまった。
「キャッチですか? ごめんなさい、急いでるんで」
「あっ」
何もできずに行ってしまった。女の背中を物思いにぼんやり見ていたら、ガリさんが隣にやって来た。
「地方都市だとナンパが少ないから、そういう声かけでも立ち止まって聞いてくれることはあるで。せやけど、ここは日本最大の若者の都市、渋谷や。全国の綺麗どころやかわいこちゃんが集まってくる」
確かに。今日だけでも、アイドルやモデルを凌ぐ女性をどれだけ見たことか。
「その渋谷ではナンパする輩が腐るほどいる。ナンパだけではない。キャッチやスカウトやアンケートや宗教の勧誘など飽和状態や。つまり、おなごたちは声をかけられまくっているから、『声をかけてくる』=『うざい』『無視する』という流れになりやすい。せやから、声をかける側としても工夫が必要なんやで」
ガリさんは「ん~」と言いながら考えているので言葉を待った。
「そんな話はどうでもいいよ。それより、今日の渋谷はほんとブスばっかだな」
「出たで、乳ローの悪い癖が」
ガリさんは、眉と唇を歪め『しょうがねぇ野郎だ』という表情を浮かべながら俺の方を向いた。
「事実だろ。まぁ、お前らにはわからないと思うけどさ」
乳ローが右手を軽くスナップさせて「あっちに行こうぜ」と言ったので、三人で移動した。
「こいつはヘアメイクをやってるから、メイクとか髪型とか服装とかおなごの外見に異常にうるさいねん」
乳ローは振り返ると、俺たちを交互に指でさしながら話し始めた。
「女は美を追究しなければいけない生き物であり務めなんだ。その任務を怠り、美に対して無頓着な女を見ると腹が立ってくるんだよ」
「でも、渋谷って綺麗な女性が多くないですか」
勇気を持って話に割り込んでみた。
「それは、お前に見る目がないからだ。ほら、あの女を見ろ」
「あれですか。綺麗な方ですねぇ」
「バカ、どう見てもブサイクだろ。メイクが下手すぎる。まず、下瞼の目尻の三角ゾーンの盛り方が微妙だし、つけまつげのバランスもおかしい。どういう感覚してるんだ。そもそも、あのノーズシャドウの入れ方はなんだ。あと、」
突然思いっきり手首を引っ張られたので、なんだろと振り返ると、そこにはガリさんの困った顔があった。
「乳ローが止まらなくなったやないか。グリーンのせいやぞ」
「えっ。乳ローさんが勝手に喋り出したんですよ……。母の化粧をよく見てたので、自分はかなり詳しい方かなと思ってたんですけど、さすがプロって感じです」
乳ローを見ると、こちらの状況を知らずに喋り続けている。しかし、すぐに気づき、「人の話を最後まで聞けよ」と言うと睨みながら寄ってきた。
「それにしても、目が良いですね。よくそこまで細かく見えますね」
交渉人気取りで、話を逸らしてみた。
「まあな。俺は視力が3・0あるからな。アフリカの友達からも認められた」
真顔であまりにも自信ありげに言うので、「すごいっすね」と言っておいた。
「おい。日が暮れるから、もう行くで」
ガリさんの進む方向を眺める。すると、西に沈みゆく太陽の振り絞るような赤色に照らされたスペイン坂が見えてきた。
「そろそろ指名ナンパを再開するか」
「はい。お願いします」
乳ローに手招きされて近くに寄る。セクシーな香水の匂いを乗せて言葉が頭上から降ってきた。
「あの女を見ろ。あの女は目を大きく見せようとして目元を囲むように黒のラインを入れている。しかし、失敗してかえって目が小さく見えてしまっているんだ。目頭から目尻にかけて光と影のグラデーションをつけて陰影を入れなきゃ。手を抜いたのかメイクを知らんのかわからんが、性格がズボラだからあんなメイクになるんだ。抜けてる女は引っかかりやすい。イケるんじゃね?」
「ごくごく普通に見えますけどね……」と言いながら向かった。しかし、乳ローを一瞬見やり、一言返したことで女性が人混みに紛れてしまい見失ってしまう。
「何やってんだよ。じゃ、あれ。デニムをグレーのニーハイブーツにインした女」
怒られてしまったが素直に「はい」と返事して、声をかけにいった。
あっ、かなり好み。
「こんにちは。すごい可愛いですね」
間があき、変な空気になる。次の言葉が何も出てこず、ガンシカされて行ってしまった。振り返ると、案の定ガリさんは腕を組んでいた。
「せやなぁ。素直に可愛いですね、って言うてもええけどさ……。最初から可愛いとか綺麗とか言うとキャッチに思われて怪しまれるんやわ。あの娘、鮮やかでお洒落なスカーフを巻いてたから、『お洒落なスカーフやね』とかさりげない褒めから入ると、ガンシカじゃなくて反応があったと思うで」
「スカーフですかぁ」
「せや。声をかけるきっかけとしては、服装やバッグなどの持ち物から入った方がガンシカされにくいし話も広げやすい。ほんでな、大げさ且つユニークに褒めディスることが大事なんやけど、詰め込み過ぎてもどうせ忘れちまうと思うから、それはまた後で教えるで」
「わかりました」
「顔や身体や雰囲気から入るならば、可愛いとかよりも『睫毛、超決まってるで。バッツンバッツンやん。その睫毛に惚れてまうわぁ』のように、工夫した方がええ。直接的なナンパは無理と思うおなごは多いので、外観から巧みにきっかけを作る方法は効果的といえるんやで」
「おら、下向いてないで、次行くぞ。あれあれ。頭をおだんごにしてバカみたいにでっかいピンクのリボンをつけてる女に行け」
「なんか、言い方が淡泊ですね」
「バカやガキは大嫌いだからな」
後ろに近づくと、3秒ルールを遵守してすぐさま声をかけた。
「こんにちは」
さっき、ガリさんから言われたことを整理できていなかったので挨拶で止まってしまった。
「キャッチですか? ごめんなさい、急いでるんで」
「あっ」
何もできずに行ってしまった。女の背中を物思いにぼんやり見ていたら、ガリさんが隣にやって来た。
「地方都市だとナンパが少ないから、そういう声かけでも立ち止まって聞いてくれることはあるで。せやけど、ここは日本最大の若者の都市、渋谷や。全国の綺麗どころやかわいこちゃんが集まってくる」
確かに。今日だけでも、アイドルやモデルを凌ぐ女性をどれだけ見たことか。
「その渋谷ではナンパする輩が腐るほどいる。ナンパだけではない。キャッチやスカウトやアンケートや宗教の勧誘など飽和状態や。つまり、おなごたちは声をかけられまくっているから、『声をかけてくる』=『うざい』『無視する』という流れになりやすい。せやから、声をかける側としても工夫が必要なんやで」
ガリさんは「ん~」と言いながら考えているので言葉を待った。
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