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4章 左目の下瞼のほくろ
4-3 モヒカン店員
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これを機に女性の見方が変わってしまったんだ。
大学生になると女性と付き合えない自分を恥だと思っていたが、生身の女と付き合おうという発想が浮かばなかった。『どうせ、俺と付き合ってくれる女性なんているわけがない』と無意識に思っていたからだろう。その欲求不満の捌け口として、より恋愛シュミレーションゲームにのめり込んでしまった。
ドキドキロマンティックのヒロインである〝乙女座かれん〟に恋をしてしまった。女の子らしい黒髪セミロングにウブそうな目元。チャームポイントはピンクのカチューシャでタータンチェックのブレザーがよく似合う。毎日ゲームをすることによって、かれんと心がとろけるほどの甘酸っぱい恋愛を何十回も繰り返した。「好き❤」と言われてしまうと、心をくすぐられてしまい虜になってしまった。
何より、ゲームは俺を決して裏切らなかった。
夢にまで愛するかれんが出てきた。夢の中では、初めて俺とかれんは同じ世界に立ち、手を繋ぎ、唇を貪り、最後の一線も超えていた。
しかし、はまればはまるほど、心に溝ができるように感じた。その心の溝を埋めるために、さらにあらゆる恋愛シュミレーションゲームをするようになった。しかし、その溝が埋まることはなく、逆に広がるように感じた。
この頃から、かれんをはじめとして、美少女ゲームのポスターを部屋中至るところに貼るようになった。確実に何かがおかしくなっているのはわかっていたが、そんな自分を直視することは一度もなかった。
尾行は失敗だったのかもしれない。これだけ歩くとは思わなかった。彼がお店に入ると、
安堵しながらイヤホンを外した。何から何まで爽やかな商品を揃えているセレクトショップだった。覚悟を決めて、このショップでシャツ、デニム、ベルト、靴、アクセサリー、全て買い揃えた。荷物の山になってしまったので、コインロッカーに分けて入れた。
次は、髪。
尾行しているときにチェックしていた美容院に行こうと決めていたので、来た道を戻った。扉の前で財布の中身を調べ、万札があることを確認する。緊張のあまり、微熱が出てきたように感じる……。
「いらっしゃいませ」
二十センチは超える激しくそそり立つモヒカンの店員が、笑顔で迎えてくれた。
「お客様、ご予約はされてますか」
「えっ……、予約はしてません。すいません」
「先ほど、キャンセルがありましたので大丈夫ですよ」
胸をなで下ろしていると、すぐさま大きな鏡の前の椅子に通された。
「今日はどうなさいますか」
「今風で……。そして、」
「はい」
「普通っぽい感じでお願いします」
「ふ・つ・うですかぁ」
モヒカンの店員は首を傾げていたが、そそり立つモヒカンも傾げているように見えた。
「私のようなモヒカンはどうですか。人生観変わりますよぉ」
「それは、ちょっと……」
人生観が変わるという文言に一瞬気持ちが揺らぎ飛びつきそうになってしまったが、すぐに冷静さを取り戻すと断る返事をしていた。それに、俺、髪短いし……。
「では、若い女の子に人気のあるドSイケメン俳優の武者小路さんみたいな感じはどうですかぁ」
「ムムム、ムシャコウジ!?」
「はい、写真をお見せしますね。無造作に立たせる爽やか金髪です」
今風で無難そうな感じがしたし、格好良く見えたのでこれに決めた。
「じゃ、その武者小路ヘアーでお願いします」
「畏まりました」
モヒカン店員もモヒカンも微笑んでいるように見えた。髪にハサミを入れ始めると、睡魔に襲われ、ゆっくりと微睡みの世界に誘われた。微睡みに身を預けると、過去の物語が続きを急かすように心の中で映像として流れていった。
いつの間にか、女性恐怖症になっていた。
面白いことは言えないし、容姿もいまいちだし、服装はダサイし、友達もいないので、女性からは相手にされない。しかも、ラブレターは皆の前に晒されて笑い物になった。だから、女性恐怖症になったのだと思っていた。
しかし、それだけでは片付けられない問題が浮上してきた。なぜ女を求めているのかわからなくなってしまったんだ。いや、なぜ女を求めなければいけないのかわからなくなってしまったんだ。
女というものが得たいの知れない怪物にしか感じられなくなってしまった俺は、やみくもに逃げた。すると、自分を待ち構えていたものはゲームしかなかった。どこか遠くに行ければ何でも良かったのだと思う。旅がしたかったんだ、旅が。それが、たとえゲームの世界の中であったとしても。
その頃から相手が機械ではなく、パソコンの回線の先に生身の人間が感じられるオンラインゲームに興味を持ち始め、その中でもMMORPG(多人数同時参加型オンラインRPG)にはまってしまった。百人や千人じゃないんだ。ウン万人という人間が同時にゲームをしているんだと思うと、あまりにも感動してしまって武者震いが止まらず寒くて死にそうなほどだった。
リアルでは得られないものが、この世界だと手に入れられる。
そう、信じて疑わなかった。
最初は、ぎこちなくモンスターを倒してレベルを上げて楽しんでいた。それだけでは飽きてきたころ、見ず知らずの人にボイスチャットで話しかけられたんだ。
大学生になると女性と付き合えない自分を恥だと思っていたが、生身の女と付き合おうという発想が浮かばなかった。『どうせ、俺と付き合ってくれる女性なんているわけがない』と無意識に思っていたからだろう。その欲求不満の捌け口として、より恋愛シュミレーションゲームにのめり込んでしまった。
ドキドキロマンティックのヒロインである〝乙女座かれん〟に恋をしてしまった。女の子らしい黒髪セミロングにウブそうな目元。チャームポイントはピンクのカチューシャでタータンチェックのブレザーがよく似合う。毎日ゲームをすることによって、かれんと心がとろけるほどの甘酸っぱい恋愛を何十回も繰り返した。「好き❤」と言われてしまうと、心をくすぐられてしまい虜になってしまった。
何より、ゲームは俺を決して裏切らなかった。
夢にまで愛するかれんが出てきた。夢の中では、初めて俺とかれんは同じ世界に立ち、手を繋ぎ、唇を貪り、最後の一線も超えていた。
しかし、はまればはまるほど、心に溝ができるように感じた。その心の溝を埋めるために、さらにあらゆる恋愛シュミレーションゲームをするようになった。しかし、その溝が埋まることはなく、逆に広がるように感じた。
この頃から、かれんをはじめとして、美少女ゲームのポスターを部屋中至るところに貼るようになった。確実に何かがおかしくなっているのはわかっていたが、そんな自分を直視することは一度もなかった。
尾行は失敗だったのかもしれない。これだけ歩くとは思わなかった。彼がお店に入ると、
安堵しながらイヤホンを外した。何から何まで爽やかな商品を揃えているセレクトショップだった。覚悟を決めて、このショップでシャツ、デニム、ベルト、靴、アクセサリー、全て買い揃えた。荷物の山になってしまったので、コインロッカーに分けて入れた。
次は、髪。
尾行しているときにチェックしていた美容院に行こうと決めていたので、来た道を戻った。扉の前で財布の中身を調べ、万札があることを確認する。緊張のあまり、微熱が出てきたように感じる……。
「いらっしゃいませ」
二十センチは超える激しくそそり立つモヒカンの店員が、笑顔で迎えてくれた。
「お客様、ご予約はされてますか」
「えっ……、予約はしてません。すいません」
「先ほど、キャンセルがありましたので大丈夫ですよ」
胸をなで下ろしていると、すぐさま大きな鏡の前の椅子に通された。
「今日はどうなさいますか」
「今風で……。そして、」
「はい」
「普通っぽい感じでお願いします」
「ふ・つ・うですかぁ」
モヒカンの店員は首を傾げていたが、そそり立つモヒカンも傾げているように見えた。
「私のようなモヒカンはどうですか。人生観変わりますよぉ」
「それは、ちょっと……」
人生観が変わるという文言に一瞬気持ちが揺らぎ飛びつきそうになってしまったが、すぐに冷静さを取り戻すと断る返事をしていた。それに、俺、髪短いし……。
「では、若い女の子に人気のあるドSイケメン俳優の武者小路さんみたいな感じはどうですかぁ」
「ムムム、ムシャコウジ!?」
「はい、写真をお見せしますね。無造作に立たせる爽やか金髪です」
今風で無難そうな感じがしたし、格好良く見えたのでこれに決めた。
「じゃ、その武者小路ヘアーでお願いします」
「畏まりました」
モヒカン店員もモヒカンも微笑んでいるように見えた。髪にハサミを入れ始めると、睡魔に襲われ、ゆっくりと微睡みの世界に誘われた。微睡みに身を預けると、過去の物語が続きを急かすように心の中で映像として流れていった。
いつの間にか、女性恐怖症になっていた。
面白いことは言えないし、容姿もいまいちだし、服装はダサイし、友達もいないので、女性からは相手にされない。しかも、ラブレターは皆の前に晒されて笑い物になった。だから、女性恐怖症になったのだと思っていた。
しかし、それだけでは片付けられない問題が浮上してきた。なぜ女を求めているのかわからなくなってしまったんだ。いや、なぜ女を求めなければいけないのかわからなくなってしまったんだ。
女というものが得たいの知れない怪物にしか感じられなくなってしまった俺は、やみくもに逃げた。すると、自分を待ち構えていたものはゲームしかなかった。どこか遠くに行ければ何でも良かったのだと思う。旅がしたかったんだ、旅が。それが、たとえゲームの世界の中であったとしても。
その頃から相手が機械ではなく、パソコンの回線の先に生身の人間が感じられるオンラインゲームに興味を持ち始め、その中でもMMORPG(多人数同時参加型オンラインRPG)にはまってしまった。百人や千人じゃないんだ。ウン万人という人間が同時にゲームをしているんだと思うと、あまりにも感動してしまって武者震いが止まらず寒くて死にそうなほどだった。
リアルでは得られないものが、この世界だと手に入れられる。
そう、信じて疑わなかった。
最初は、ぎこちなくモンスターを倒してレベルを上げて楽しんでいた。それだけでは飽きてきたころ、見ず知らずの人にボイスチャットで話しかけられたんだ。
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