上 下
1,013 / 1,127
三食昼寝、家族付き

第1002話

しおりを挟む
 アー君が大の字でお風呂に浮いている。
 死体のようだけど生きています、拗ねてるだけです。

「にいちゃ元気出せ! 俺なんて文字として認めて貰えなかった!」
「前世が役に立たない日が来るなんて」
「アー君、学園に通いたいならまず文字を練習しようね」

 騎士様の追い打ちにアー君が尻尾でお湯をバシバシ殴っている。
 あれはアー君が復活した時に気が済むまで悪戯されるやつだね、騎士様も懲りないなぁ。

「刀雲、他の家では読み書きってどうやって教えてるの?」

 ファンタジーあるあるだと、そもそも一般庶民は文字の読み書き出来ない事が多いけど、刀国は違う、騎士様が日本に学校を持っていて教師育成機関として使用しているのもあり、日本の学校に似たり寄ったりな所が多いんだよね。

「俺は孤児だったからなぁ、こう神薙様に頭を鷲掴みにされ、知識をガッて注入された」

 ツッコミどころが多い上に参考にならない。
 そう言えば忘れてたけど刀雲って赤ちゃんの時に境内に捨てられてて、危うく神薙さんのおやつになるところだったんだよね、つまり神薙さんは刀雲の義理のお父さん、つまり……僕にとってもお義父さん!?

「シャムス目を閉じて」
『あい』

 シャムスは満点のご褒美に本日いっぱい刀雲独占権をおねだり、現在は頭から尻尾の先まで洗ってもらっているところ、お風呂から上がったら乾かしてもらって、牛乳を飲ませてもらい、寝る前は絵本を読んでもらう予定らしいです。
 いつもやっている事と相違ないと思いきや、いつもはシャムスを洗ったら次に涼玉やアー君、三匹が待っていたり僕に手渡されたりするので、通して刀雲を独占していることはまずないと主張されました。

「王子は幼児に負けたってへこんでたね、僕も参加してたら何点になってたんだろう」
「アカーシャならいい線いったんじゃない?」
「父様に問題を見せてもらったけど、抜き打ちテストがあのぐらいの難易度」

 商業ギルドの打ち合わせで帰宅が遅れていたアカーシャが見たのは、文字が判別不可で実質0点を取ったアー君が騎士様に八つ当たりしている光景だった。
 本気ではない甘噛みだったみたいだけど、騎士様の服に噛みついて唸るアー君は駄々をこねる子供そのもので可愛かった。

 前世では魔力を使う際に魔法陣を描くことはあれど、文字を書く機会なんてなかった! というのがアー君の主張です。

「はい、ルド終了」
「ロー兄様も終わったよ、お風呂入ろう」
「シャムスも入ろうな、エムも行くぞ」
『あーい』
「わふん」

 ワンコ三兄弟を洗い終え、広々としたお風呂に入ると、アー君が泳いで僕のところに来た。
 こちらに来る時に尻尾でお湯を騎士様に掛けているのを僕は見たよ。八つ当たりしまくっている。

 そうそう、双子と王子は遊び倒してから留学先に戻っていったよ。
 留学先変更に関しては一晩じっくり考えさせてほしいと、帰り際に騎士様に頭を下げてました。

 準備云々ではなく、テストで幼児に負けた現実にショックを受けて正常な判断が出来ないというのが理由みたいです。
 最も、学園に行ったらガチの天才がその辺にいるし、それが平民の場合もあるので、自分の頭がいいと思っているなら早めに鼻を折られてかえって幸せかもしれないとはアカーシャ談。

 刀国にも当然天才はいるけれど、分かり合える仲間と青春を謳歌しているらしい。
 孤高の存在であろうとするのは他国から来た留学生、天才ゆえの孤独なんて誰にも理解できない……という感じに中二病っぽい何かを背負っている感じだったけど、うちの双子がさらに上を行き、鼻は折るわ情緒を踏み荒らしていくわでプライドも自信もバッキバキにされたとか。
 今は双子の信者というかファンクラブ筆頭、双子が王になった際はその右手として治世を支えると豪語しているようです。

 ……ごめんね天才君、多分あの子らが王様になる頃には君の寿命は尽きて、少なくとも一回は転生している可能性が高い。
 王太子やりたいだけで、王様やる気あるかもちょっと怪しいと最近は思ってる。

「アー君、明日から夕食後にちょっとずつ文字の練習しようか」
「うぎぃぃぃ」
「それとも山小屋通ってみる? 子供の友達出来るかもよ」
「山小屋?」

 曰く、塾のようなもので、基本的な文字の読み書きを教える場所らしい。
 学園とは違い費用はかかるし、食事も自分持ち、教師は学園と違って無資格だし、下手すれば近所のおじいちゃんだったりするけど、最低限の読み書きを習得することが出来る。
 学園に通うのはハードルが高い冒険者や、入学前の子供などが通っていて、場所は主に各地域にある教会とかギルドの裏庭とか、とりあえず人が集まれる場所があればいいみたい。

 山小屋と呼ばれるその場所は、国王様と騎士様が一番最初に子供を集めて文字を教えた場所で、教育者の聖地扱いされて、教会の総本山の敷地内で管理、保護されているんだって。
 使わないと傷むからと今も実用されていて、たまに教師として国王様が現れることで有名らしい。すげぇな刀国、どこまでも自由。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

処理中です...