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三食昼寝、家族付き

第955話

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 生まれた乳飲み子が、朝を迎えることなく息を引き取るような土地だった。
 それが今やこれですよ。

「さ、産婆っ、この街に産婆はっ!」
「数年前の飢饉で死んだっ!」
「かあちゃーーん!」
「うるさい、今生むから待ってろ!!」

 奥さんの出産に旦那がうろたえるのは、生む相手が女性でも男性でも変わらないようだ。

「大丈夫か、今医者を――いねぇよ!」
「いいから落ち着いて、寝床に運べバカ!」
「痛っ、なんか出る、出る、どうしよう!!」
「この状況で出るのは赤ん坊しかないだろ! だから国で待ってろって言ったのに!!」

 あのね皆さん、妊娠しているのに遠征しなくていいんですよ、刀国で大人しくヨムちゃんの神殿にお祈り捧げててください。
 巫女から神官まで、出産に関するエキスパート揃ってますよ!

「出産ラッシュ始まったけどどうしよう」
『ヨムちゃんダンス』
「ヨムー」
「ん?」

 烏龍茶の身をボリボリ食べながらヨムちゃんがこちらを向いた。
 いくら涼玉の炎で炙ったやつだとはいえ、あれって美味しいのだろうか?

「ちょっともう一踊り頼む」
「いいぞ! 悪いな涼ちゃん、今日は俺が無双デーだ」
「むぎぃぃぃ」

 なんの対決だろうか。
 戦わなくていいんだよ、お願いしたいのは安産効果だからね?
 本当に、フリじゃなくてですね。

 止める間もなく踊りだすヨムちゃん、あれはヒップホップかな?
 そして踊りに合わせるように段々と近付いてくるステップ音。

「ああああ何か来たぁ」
「ヨム、ヨム、本気出さなくていいから」
『聞いてないの』
「むぅぅぅ」
「涼玉様しっかり!」

 軽やかにステップを踏みながら登場したのは魚介類……つまり海の魔物さん、踊り、上手いですね。
 ヨムちゃんのバックダンサーが追加され、ますます力強くなるダンス。

 これって踊る必要あるの?
 音楽に合わせて効果範囲が広がるの? そりゃすごい。

「かあちゃん、今、俺らの子供がズボン貫通した!」
「あるある、良くある」
「マールス、悪いけど産湯を手伝ってあげて」
「っは!」

 言ってみたものの、僕もそろそろツッコミ疲れてきたなぁ。

「マンドラゴラ!!」
「ん?」

 涼玉の声に横を向いた瞬間、地面から何かが噴出し、シュタッとポーズを決めて着地した。
 今のあれは召喚術に入るのだろうか。

「行くぞオラー!」
「ギエエエエエエ!!」

 僕が、僕がマールスを産婆として借りてしまったばかりにっ。
 何か海の魔物VS野菜の魔物でブレイクダンスの対決始まっちゃった!!

「……アー君」
「おう」
「お腹痛い」
「ぎゃーーー!!」

 忘れてたけど僕も妊娠してた。
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