上 下
884 / 1,127
女神の呪い

第874話

しおりを挟む
 お正月恒例行事、餅つき大会が行われた。

 主催:刀雲。
 参加は自由。

 本年はえっちゃんがやる気満々で、前日から餅を搗く練習をしていた。
 そして当日。

「仕事が、終わった!」
「搗きたてを食べながら酒飲みたい!」

 疲労困憊の騎士様がバタリと縁側に倒れこんだ。
 双子に会いにお城に行ったら文官集団に捕まり、仕事をあれこれ押し付けられていたようです。

 一緒にやってきたのは樽を担いだレイアさん、樽の中身はマシュー君の所で作った果実酒の試作品と上機嫌で教えてくれた。

「ただ作物を出荷するだけでなく、それらを使った特産品を作って消費量を増やそうとレモン国の王子が発案したらしい。凶作知らずの領地を前に研究者魂が火を噴いたみたいだな」
「一口飲みたい」

 しゅるりと闇から湧き出るように神薙さんが登場、新年を前に神社にも奉納品が山のように届いて忙しいらしいけれど、そちらの処理は専属ドリアンと副官さん、副官さんの部下が総出でやっているようです。
 神薙さんが忙しいのは届けられた食べ物の仕分け。
 一人で一気に食べるか、保存してダラダラ食べるか、みんなでキャッキャッと食べるか……悩みの内容に思わず口元が緩んだ。

「タイガ、ラセンは?」

 臼を割らないようイメージトレーニングしているタイガに声をかけたら、今年はラセン不参加だと教えてくれた。
 全身から湯気が出ているよ、ちょっと力み過ぎだと思う。

「領地に魔物が押し寄せてな」
「え!? スタンピード? 大丈夫?」
「いや、アラクネの群れが移住を許可された話を聞いて、自分達も街で暮らしたいと申し出る魔物が後を絶たなくてな……我は簡単に許可しそうだからと追い出された」

 うちのタイガって何だか追い出される率高くない?
 嫁強いなぁ。

「タイガやるぞー」
「おう」

 刀雲の声にタイガが深呼吸をする、緊張してると体に力が入りすぎて今年も臼破壊しちゃうよ?

「刀雲俺も何かやりたい!!」
「よっしゃ、私が杵を持つからお前が相棒やれ!」
「えーーレイア絶対に神速で搗くつもりでしょ! やだよ!」

 微笑ましい親子の横で騎士様とレイアさんがギャアギャア騒いでいる。

「ママ、俺らも何かやりたい!」
『捏ねる?』
「シャム兄が捏ねたら餅スライムになるな、神薙様に食べられる!!」
「そうだなぁ、じゃあ……」

 メニュー画面を展開、お餅のお供を選ぶ画面を表示させた。

「これ、一緒に選ぼうか」
「俺アイスがいいなー」
『海苔!』
「俺はどうしよっかなー?」

 僕は大根おろしやきな粉で食べるのが好きなので、昨日のうちに確保済み。
 神薙さんはあんこ各種、むしろ臼ごと食べたいとおっしゃっておりました。やめてください。

「樹ー、レイアが臼破壊したー」
「わりぃ」

 謝るレイアさんの背後には蒸した餅米だけが地面に落ちている。
 どうやら破損を通り越して粒子となり、風に吹かれて飛んで行ってしまったらしい。スラちゃんが片付けるより早くえっちゃんが回収してしまった。

「騎士様にダメージを与えられるレイアさんが力を込めれば当然の結果ですよね」

 むしろ臼だけで済んで良かったと思おう。
 地面にヒビも入ってないし、セーフですよ、セーフ。

「マールス、レイア様とこーかん、お前の安定した力強さを見せてやれー!」
「右コーナー、軍神マーーールーーース!!」
「左こーなー、えっちゃーーん!!」
「ドリアンこっちに臼一つ出してくれる?」

 盛り上がる庭、子供達は餅つき見学に興味を持っていかれてしまったので、付ける具はドリちゃんと選んでこよう。
 チーズとか載せて焼いても美味しいんだよね、あとお雑煮に入れるでしょ、うどんにー。

「全く、どいつもこいつも力加減がなっちゃいないね。私に任せな」
「くはははは、シャムス様への忠誠を今こそ見せよう! 才蔵はここで待つである!」
「うむ」

 乱入してきたのはヘラ母さん夫婦と、才蔵をお姫様抱っこしたドラゴニュートの二組だった。
 でも餅つきをするのはヘラ母さんとドラゴニュートみたい、初顔合わせな気がするけど大丈夫?

「わたしもやりたい! ギレンが相棒な!」
「テメェに任せたら脳髄打ち砕かれる未来しか見えねぇなァ」
「ギレン使えない! じいちゃんやろう!」
「おうおう、任せろ」
「ネヴォラは餅を切り分けるのを頼むゾ」
「頑張るーー!!」

 ギレンの肩に乗って登場したのはネヴォラ、後ろにはいつものゴブリン集団もいる。
 餅つきやるってどこかで聞いて集まって来たのかな?

「イツキ、アカーシャは?」
「モールで餅つきイベントしてる」
「えっ。今日ここに来いって言ったのはアカーシャなのにっ!!」

 なるほど、自分が参加出来ないからギレンを戦力として手配しておいてくれたんだね。
 ありがとう、アカーシャ。

 遠慮なく使わせていただきます!!
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

【完結】囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。

竜鳴躍
BL
サンベリルは、オレンジ色のふわふわした髪に菫色の瞳が可愛らしいバスティン王国の双子の王子の弟。 溺愛する父王と理知的で美しい母(男)の間に生まれた。兄のプリンシパルが強く逞しいのに比べ、サンベリルは母以上に小柄な上に童顔で、いつまでも年齢より下の扱いを受けるのが不満だった。 みんなに溺愛される王子は、周辺諸国から妃にと望まれるが、遠くから王子を狙っていた背むしの男にある日攫われてしまい――――。 囚われた先で出会った騎士を介抱して、ともに脱出するサンベリル。 サンベリルは優しい家族の下に帰れるのか。 真実に愛する人と結ばれることが出来るのか。 ☆ちょっと短くなりそうだったので短編に変更しました。→長編に再修正 ⭐残酷表現あります。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

処理中です...