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湯水のごとくお金を使おう

第697話

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 銀ちゃんのおやつタイムなので僕も水を出して休憩。
 トカちゃんに体を預け、鬱蒼としたとした森林をぼんやりと眺める。

 ちなみに実は僕ら刀国から出ていません。
 今いる場所は魔王領の一部、魔王様が領地であって国じゃないと主張するのでここは刀国です。
 騎士様や女神様が滅ぼした土地を魔王様に丸投げしているので、領土の広さは……国何個分って言ってたっけ?
 覚えてないや。

 そんな訳で魔王領の8割以上が未開の地です。
 マシュー君の領地と、ヘラ母さんのいるダンジョン、ドリアードの地、神薙さんの神域などがあるけどまだまだ土地が余っているらしい。

 あとは――そうそう、最北端だっけかな?
 その辺りにラセンの納める魔物の街がある。

 僕が把握している地理はこの程度、刀国の人間はもうちょっと開拓を頑張ってもいいと思う。
 
「ぴぃぴぃ」
「食べ終わった? じゃあ……どうしようか」

 のんびりしていたら周囲を魔物の群れに囲まれました。
 いざとなればトカちゃん飛べるけど、まぁそんな不穏なことにはならないだろう、だって僕だし。

 現れたのは上半身が人間、下半身が蜘蛛の魔物、アラクネ。
 アラクネは女性の魔物だった気がするけれど、そこは女神様の呪いの影響で男性です。
 違う意味で危険な魔物が来ましたよ、いざとなったら銀ちゃんに殲滅してもらおう。

 身振り手振りで何かアピールされている。
 ごめんね、魔物の言葉分からない、そして人語を話せる子もいない。

「困ったね、誰か進化して通訳してくれないかなぁ」

 同意を求めてトカちゃんを見上げたら「任せろ」と言わんばかりにウィンクを返された。

 そして秒で進化を遂げたトカちゃん、外見が蜥蜴からドラゴンっぽくなりました。
 安易な名付けをしてごめんなさいとしか言えない……。

「『住む場所を失った、助けてほしい』と言っている」
「トカちゃんの声渋いね! あと通訳ありがと」

 落ち着いた渋い声が素敵!
 喋り方も丁寧だよね、最初はマールスも厳かな感じだったんだけど、速攻で崩れたなぁ。

「僕はよそ者だと思うんだけど」
「『この辺は黒き邪神の縄張り、貴方から近しい気配を感じる』。我が主にそれ以上近寄るな」
「黒ちゃんのことかな、銀ちゃんのお兄ちゃん何かかっこいい呼び方されてるねー」
「ぴっ!」

 照れたのかちょっと頬が赤く染まった。

 あとトカちゃんに威嚇されたそこのアラクネさん、真剣なお話しているはずなのに段々息が荒くなっているのはなんでしょうね。
 こっち来ないでください、むしろもっと離れて欲しい。

「僕より黒ちゃんに助け求めればいいのに」
「『出会ったら最後、食われる』、同情はするが、離れろ」
「そう言えば間引きもお仕事の一環だっけ、そうだなぁ、銀ちゃんの鱗一枚もらえる?」
「きゅぃー」

 ぺりっと一枚はがして手に乗せてくれた。

「クルちゃん、これあの蜘蛛さんに渡して」

 僕らは近寄りたくないのでごめんよ。
 周囲にいる蜘蛛の魔物はほんわかしてきているのに、目の前のアラクネだけ発情してるんだもん、これ以上関わりたくない!
 おのれ女神の影響を受けた魔物にろくなのいないな!!

「それ持っていれば黒ちゃんに襲われないから、話しかけるか暮らしている街に行って助けてもらってね! トカちゃん行こう!」

 銀ちゃんとクルちゃんを回収し、急いでトカちゃんの背に乗り上げる。
 襲われる前に逃げます。

「出発!」

 号令をかけたら飛び上がる直前、トカちゃんが尻尾でアラクネをぶん殴って木に叩きつけた。

「我が主は貴様の子など産まぬわ!!」

 やっぱりぃぃぃ!!
 蜘蛛の子供なんて産みたくない!

「トカちゃん、早く、早く!!」

 起き上がったアラクネはピンピンしていた。
 さらにうっとりとした表情をトカちゃんに向けているじゃありませんか、なんか違う扉を開いたっぽい、怖いから逃げよう。

 蜘蛛の魔物って言えば上質な糸が定番だから、タイガに任せれば芸術的な何かを作ってもらえるだろう。
 だから――ラセンあとよろしく!
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