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ダンジョン

第373話

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 お迎えに行ったら我が家の幼児が二人ほど死体と化していた。

 アー君は地面に倒れ伏し「もうやらない、絶対やらない」と呪文のようにブツブツ呟き、雷ちゃんはそんなアー君を枕にぐったり、シャムスは思う存分スライムを作れた上、皆に喜ばれてにこにこ、笑顔も輝いている。

「シャムスのスライム、今日のはどんな効果があるのかな?」
「ぷるるん、ひんやりなのよ」

 暑い夜に最適だね。
 転生して数年、今更だけどこの国に温度差ってあるのかな、ずっと快適なままで暮らしている気がするけどどうなんだろう?

「あと心がふんわりするの」
「まさかの癒し効果」
「寒い時はほかほか、あとねあとね」

 拙い言葉で一生懸命解説されたのは、おまけに使われたシャムスのスライムの恐るべき高性能さだった。
 多分兄弟の中でトップクラス。

 名前を付けて大事にすれば多少育てる事が可能。
 運よく他の神様の加護をもらえればそれだけ強くなるし、もしかしたら魔法を使うぐらいの芸当は可能になる可能性も秘めている。
 攻守どちらに育つかは持ち主次第、ただひたすら大事に甘やかしても問題ない、その場合は癒しがひたすら伸びていくだけのようだ。

 さっきの後輩冒険者の子はどっちに育つんだろうか。

「お疲れ様でした。差し入れです」
「あ、あまいもの」
「金より甘い物!」
『なんだろなー?』

 マシュー君が合図するとさーっと亜人の魔物さんが現れて簡易テーブルをセット、幼児用サイズの湯飲み茶わんとお菓子が置かれた。
 あ、あれは!!

「ふふ、運営資金が潤沢になり、砂糖を大量に使えるようになったら女神様の信託が降りましてそれを参考に作られたお菓子です」

 権力の乱用っていうよりは神託の乱用?
 いや、子供達の収入になるから良い事なのかな?

「カリカリね」
「お茶うまー、ホッとする」
「これはいいな、この小さな手でも持ちやすくて食べやすい。甘さが心身に沁みる」

 細長くて長さ数センチ、濃い茶色のそのお菓子はまさかのかりん糖。
 一人一個ついている丸いお菓子はかりん糖まんじゅう、もちろんどちらも女神様に奉納済みのようです。

 お茶はすぐ飲める幼児に優しい温度の緑茶。
 お茶の葉はレイアさんにお願いされて領地の一部で栽培を始めたばかりなんだって、知り合いの神様達の子供使いの荒さよ。
 ちなみにイネスはすでに受け取り、少し離れた所でラーシャの膝の上で食べさせてもらっていた。

「マシュー君、色々仕事が増えたみたいだけど、人手足りてる? 勉強に支障ない?」
「実はシャムス様のスライムの力をお借りしています」
「ん?」
「摘み取りから乾燥まで、全てスライムが行っているんです。とても便利ですし、安価で提供できるのでもう笑いが止まらないです」

 本当にシャムスのスライム万能だな、出汁スライムも驚いたけど、お茶の精製までしちゃうのか、きっと間に色々難しい工程あるだろうに、さすがご都合主義な世界。

「今は畑を広げて、お茶の種類を増やそうとしている所です。高級品を開発して他国の貴族からお金をむしり取ろうかなと」

 マシュー君の発言が黒い。

 やれやれ、でも今日はこれでお終いかなー、さすがにもう何も起こらないだろう。
 今日も濃い一日だったなー。

「イツキ、でっかい鶏ガラ拾った!!」

 だめか、知ってた。

 さて神薙さんは何を拾って来たのかな?
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