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可愛い子には旅をさせよ

第277話

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 その日はアカーシャが屋台にも寄らず真っ直ぐ帰って来てくれた。
 佐助の背に乗って。

「ただいま! 母様、身体は大丈夫? あと今日大きな地震あったけど大丈夫だった?」

 身軽になったので運動代わりに家の中を適当に歩いていたら、帰宅したアカーシャに抱きしめられた。
 最近のアカーシャってなんだかいい香りするんだよね。

「アカーシャおかえり、大丈夫だよありがと」

 ぎゅーっと抱きしめ返したらへにゃりと気が抜けた笑顔を返された。
 心配かけてごめんね。

「弟はどこ?」
「縁側でお昼寝中」

 神薙さんと。と言う前にパタパタと走って行ってしまった。

 少年に逆行する前は淫靡で神秘的な雰囲気をまとっていたのに、今のアカーシャはちょっと色っぽい感じの元気な少年だ。
 あと時々オカン。

 双子が生まれた時はちょっとした予知?っぽいものもしたけれど、あれってもしかして無意識にシャムスの力を利用したのかもしれない。
 あの時だけなんだよね、双子を「兄」と表現したの。

「母様……」
「どうしたの?」

 書庫にでも行こうかなーって思った所で、おずおずとアカーシャが声をかけて来た。

「鱗が、あるんだけど」
「簡単に説明するとね」

 メロンから出産までの事をさらっと説明した。

「あの地震、神薙様だったんだ」
「学園は大丈夫だった? 何か倒れたりとか、怪我人とか」
「双子が一瞬だけ時間停止してくれたから被害はなかったよ、ただ二人が魔力枯渇で早退した」

 時間停止って……そんな魔法使えたんだ。
 さすがチートの化身のご子息!

 もしかして騎士様が戻って来てくれたのも、双子の異変を察知したからなのかな?
 屋敷の周辺結界を手直ししたらまたどこかに出掛けちゃったけど。

「ままはらへったー!」

 お昼寝から起きたのだろう、元気な声に呼ばれた。

「元気な子だね」
「うん」
「名前決まった?」
「ううんまだ。どうしようかなぁ」

 話ながら部屋に入ったら懐にどーんと突撃された。

「まま、まま!」

 するすると体をよじ登られ、胸をまさぐられる。
 まずい。

「待って、ちょっと待とうねー」
「はらへったー」
「神薙さんパス!」
「ん」

 実は神薙さんも母乳出るんです、いつも飲んでいると副官さんにこっそり自慢されたから知っている。
 神薙さんの魔力を飲んでいるせいかあの人もさらに人外じみて来たけどね!

「ままのがいいー!」
「はいはい」

 うきーっとワガママを言う息子を抱きしめ、乳を飲ませ始めた神薙さん、助かった、一瞬で魔力枯渇になるところだった。

「今のうちに夕ご飯作っちゃおう」
「そうだね」

 子供、ギリギリで神薙さんに乗っ取られたからお詫びと慰めも兼ねて、刀雲の好きなものをたくさん作ろう。
 がっつり系と、あと自棄酒もするだろうからおつまみとー。アカーシャと刀雲の好物で何を作ろうか話ながら僕らは台所へと向かった。

「父、おれの真名まな伏羲ふっき、主様が父に教えておけって」
「分かった。主様以外には内緒の名前」
「おう」

 こそっと重要な事を囁くと、産まれたばかりの子はまた神薙の乳を飲みだした。
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