上 下
556 / 750
第三章 世界に降りかかる受難

第545話

しおりを挟む
 本日は予定通りお城の食堂に行こうとして、阻まれました。
 今、働く騎士様の腕の中にいるの。

 騎士様はお弁当持参なので食堂に行かないという罠。
 振り払って食堂に行きたい所だけど、いい子にしてたらアルパカに乗っていいと言われた。
 迷いなくいい子にしてます。

 騎士様の主なお仕事はアー君たちが宝物庫に放り込んだ財宝の鑑定、選別、書類に書き起こしなどなど。
 出勤場所は宝物庫の手前に増設された鑑定ルーム、広くて大きい頑丈な机の上に金銀財宝が乱雑に置かれていて机の上が見えないです。
 黙々と鑑定をする騎士様はさながら鑑定マシーンのようだ。

 他にも国王様と一緒に国政に関わる書類処理、たまに刀雲のいる騎士団に行って指導もしてるみたいだけど、今日はここに缶詰めなんだって。
 そんな騎士様のお仕事っぷりを腕の中で眺めるだけ、騎士様は書類を捌いたり、鑑定したりと忙しいけど、僕は暇です。
 せめて騎士様がもふもふしていれば……。

「あれ? 何か頭がもぞもぞする」
「耳生えてますよ」

 仕分けされ、箱に入れられた財宝を取りに来た職員さんが指摘して去っていった。
 あの箱はバザーに出すか、商業ギルドに卸すかなど決める部署に運ばれるらしい。

「狼の耳ですな」
「え?」

 目線を上げたら本当に騎士様にケモ耳が生えております。おおおー!

「尻尾も生えてますよ、次この箱です」
「えっ、待って何でそんなに普通なの!? 異常事態だよね?」
「仕事捌くほうが大事ですから」
「最低限終わらせないと、また宝物庫の床抜けたら困るんですよ」
「失礼します。パーティーの予算が通ったので確認お願いします、あっ、耳似合ってますよ」

 仕事第一、騎士様の異変は二の次、刀国の役人さん強い。
 耳はお仕事の邪魔になるから触れないけど、尻尾ならいいよね、もふもふもふもふもふ。

「犯人、樹か!?」
「もふもふです」
「戻そう!?」
「ブラッシングします、気にしないでください」
「樹ちゃーーん!!」
「騎士様うっさいですよ、早く承認印下さい」
「帰宅したけりゃ手を動かしてくださいよ、次の箱持ってきてもいいですか」
「休憩を所望する! いいよね、朝から働きっぱなし!」
「起きたまま寝言やめてください、あっこっちの書類は置いていくので目を通しておいてください」

 ちょっとゴワゴワなのはお疲れだからだろうか、うーんでもこのゴワゴワ感が狼っぽくてとても良いです。

「鬼っ! 鬼しかいないのかよこの職場!!」

 泣き言を叫ぶ騎士様、休憩すら許さず仕事を強要する役人、神様もびっくりなブラックな職場です。
 あっ、そうか、叫んでいるから尻尾がぶわーってなっているんだね。

「じゃあお昼、早弁で!」
「片手で食べれるものを持たせてくれと、将軍を通して依頼してあるのでご安心を」
「少なくともお見合いパーティーが無事に終了するまでは、ろくに休憩取れないと思ってください」

 九尾の狐っているよね。
 でも異世界だし、九尾の狼もいてもいいんじゃない?
 騎士様は特別な存在だし……。

「きゃーー! 尻尾が増えたぁあぁ!!」
「叫んでもいいけど手は動かしてください」
「ハイハイ、尻尾の一本や二本で騒がない」
「失礼する。樹を迎えに来た」

 騎士様の尻尾をブラッシングしていたら刀雲が現れました。

「刀雲っ!」
「……似合っていると思う」

 騎士様の頭を見た刀雲が目線を逸らしながらそう呟いた。肩震えてる。

「イツキ、炎虎が背中に乗せてくれるそうだ」
「乗る!!」

 炎をまとった虎さん、お城の厨房から夜間警備までこなすプロフェッショナル。
 一日中あちこちを回っているのでお城に来ても滅多に見れない虎さん、乗るに決まっています!

「騎士様バイバイ」
「そんなぁぁ」

 虎さんの背中から騎士様に手を振ったら、立ち上がろうとして職員さんに押さえつけられてました。
 相手が雲の上の存在だろうとも容赦ないのです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ

中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。 ※ 作品 「男装バレてイケメンに~」 「灼熱の砂丘」 「イケメンはずんどうぽっちゃり…」 こちらの作品を先にお読みください。 各、作品のファン様へ。 こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。 故に、本作品のイメージが崩れた!とか。 あのキャラにこんなことさせないで!とか。 その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

【R18】溺愛される公爵令嬢は鈍すぎて王子の腹黒に気づかない

かぐや
恋愛
公爵令嬢シャルロットは、まだデビューしていないにも関わらず社交界で噂になる程美しいと評判の娘であった。それは子供の頃からで、本人にはその自覚は全く無いうえ、純真過ぎて幾度も簡単に拐われかけていた。幼少期からの婚約者である幼なじみのマリウス王子を始め、周りの者が シャルロットを護る為いろいろと奮闘する。そんなお話になる予定です。溺愛系えろラブコメです。 女性が少なく子を増やす為、性に寛容で一妻多夫など婚姻の形は多様。女性大事の世界で、体も中身もかなり早熟の為13歳でも16.7歳くらいの感じで、主人公以外の女子がイケイケです。全くもってえっちでけしからん世界です。 設定ゆるいです。 出来るだけ深く考えず気軽〜に読んで頂けたら助かります。コメディなんです。 ちょいR18には※を付けます。 本番R18には☆つけます。 ※直接的な表現や、ちょこっとお下品な時もあります。あとガッツリ近親相姦や、複数プレイがあります。この世界では家族でも親以外は結婚も何でもありなのです。ツッコミ禁止でお願いします。 苦手な方はお戻りください。 基本、溺愛えろコメディなので主人公が辛い事はしません。

処理中です...