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第三章 世界に降りかかる受難

第507話

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 薄暗い森の中、荒い息遣いと木々の間を駆け抜ける音が響き渡る。

「もう、だめ、僕を置いて行って」
「出来るわけないだろう!」

 後ろから追いかけて来るのはAランク指定の雷獣。
 伴侶でもある相棒と森を探索中、彼らの縄張りに知らず足を踏み入れてしまい、怒りを買ってしまった。

「そんなっ」

 走って走って、何時間も走り続け、見えた終わりは行く手を阻む高い崖だった。
 絶望に心が折れた相棒が、その場に座り込んでしまった。

 このままでは二人とも無残に死ぬしかない。
 でもどうにか相棒だけは生き延びてほしい、必ず逃がしてみせる。

「GURUUUU」

 迫る雷獣に強く奥歯を噛みしめ、覚悟を決めた。

「聞け相棒、俺がアイツを引き付ける。その間にお前は逃げろ」
「出来ない、出来ないよ」

 ほろほろと流れる涙をぬぐってやりたい、だがもうその時間はなかった。
 短剣を抜き取り、心臓に向けて構える。

「恐み恐みも白す」

 紡ぐのはギルドの講習で伝えられた緊急時の祝詞。
 命と心を捧げて唱える事で神々が助けてくれる可能性が上がると教えられた。

 ふざけて使うと普通に邪神様に食われるとも言われ、恐れ多くて使う者はあまりいない。
 それでも、自分の命一つで愛する者を救えるならいくらでも差し出そう。

「我が命と引き換えで構いません、どうか我が願い聞き届け給え」
「あい」
「ぎゃぅ」

 願いを口にする前に神が通りかかった。
 同時に雷獣がひっくり返り、へそ天で媚を売っている。

 シリアスが退場したのを男は確信した。

「雷獣ふわふわ」
『いい子、いい子』
「これだけデカい個体だとロデオ出来るんじゃないか?」

 へそ天している雷獣の腹を小さな手で撫でまわす二人の幼児と、それを見守るでかい男が二人。
 ついでに言うと筋肉の塊のような牛の魔物もいて、その上には卵の殻を履いた小さなドラゴンが乗っている。

「雷獣さん、背中に乗っていいですかー?」
「ぐるぅん」
『おっけぇよ』
「よし、じゃあ目的地まで競争な!」

 起き上がった雷獣の背中に乗り上げた二人の幼児と同時に牛が猛スピードで走り去っていった。

「帰還後、神々への奉納品を忘れぬように」

 そう一言告げると、残っていた青年は霧となって姿を消した。

 街へ辿り着いた二人は教会へ直行し、持っている素材で最もレアなアイテムを奉納したが、その場で陣痛が起きて出産、すぽーんと生まれた事に唖然としていたら司祭に「あぁ神のご加護ですねぇ」とのほほんと言われ、レアアイテムをもう一つ追加で奉納して帰宅したという。
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