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第二章 聖杯にまつわるお話

第399話

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 戦場にやってきました。
 独特のピリッとした雰囲気がありますね。

 ファンタジーだーってワクワクしてはいけない、皆さん、眼前に広がる草原を埋め尽くすように敵がごっちゃりいますよ!
 あれ何万とか何十万規模なんじゃない!?

「何しに来た」
「見学」
「見学だ」
『イネス以外は見学です』
「ひゃー、ぺかぁとしていいですかぺかぁっと!!」

 現れたのは戦場を前にピリピリっとした感じの皇帝、僕の腕の中にはピカピカ光り始めたイネス。
 神々しさで士気とか上がらない?

「ピザ作りを続行するためにもここはイネスに任せてほしい」
「……」

 刀雲の提案に皇帝がぐっと黙った。
 戦争とピザ作りを天秤にかける皇帝がここにいる!

「兵士の命を無駄に散らす必要はない、ただ聖なる獣が暴走した。それだけの話だ」
「分かりました! 皇帝も一緒に光ればいいんです!」

 なかなか頷かない皇帝に痺れを切らせたイネスがビッカビッカと光りながら譲歩した。
 いや、これ譲歩になってるのかな?

『クリスタル林檎はいどーぞ』
「今ならシャムスの加護が与えられた林檎を食べて突撃するだけで戦争が終わります!」
「シャムス、イネス、ちょっと待とう。その林檎は加工しないと食べれない」

 切って調理すれば食べれるようにはなったけど、まだ生で食べれる硬さじゃないんだ。
 林檎なのに結構頑固です。

「ならサクッと手持ちアップルパイで!」
『霧ちゃん持ってる?』
「うむ」

 霧ちゃんが紙に包まれたアップルパイを取り出し、皇帝に押し付けるように渡した。
 そちらのアップルパイ、生地は夢の世界でドリちゃんが一から品種改良した最高級品の小麦で作りました。
 もうやりたい放題ですよ。

「さぁサクッと!」
『どーぞ』
「騒がしいと思ったらママ達来ちゃったの!?」
「わぁ皇帝そのアップルパイ食べたの、勇気あるねぇ」

 皇帝が二口でアップルパイを食べ終わったのを見計らったように、アー君と騎士様が現れた。
 後で話を聞いたところ、二人は人間の争いには関わらないスタンスだけど、皇帝になにかあったら女神様や皇子達が大変なことになるので、とりあえず負けないように薄っすらと士気を挙げたり身体強化をかけたりしていたらしいです。

 ちなみに皇帝以外の帝国の兵士達は、皇帝と神々のトークに入れず少し離れた所で待機してました。
 あと単純にイネスが眩しかったのもあると思う。

 食べ終わった皇帝がふわふわっとした感じで緩やかに発光し始めた。

「あれ、騎士様より光が弱いね」
「騎士様に食べさせた林檎は朝一番に収穫した一番品質が良くて、一番聖属性がえげつない数値の林檎でした!」
「そんなの俺に食べさせたの!?」
「パパごめん、シャムスの好奇心を満たすためだったんだ」
『眩しかったの』
「もうちょっと光らせた方が神々しいだろ、もっとないのか?」

 刀雲が積極的に皇帝を光らせようとしている。
 ……あぁそうか、涼玉置いてきたから早めに合流したいのか。
 じゃあこれを出そう、ドリちゃん特製神秘の林檎三種を使ったアップルティーです。さぁグイっと。

 僕が渡したアップルティーを飲んだ皇帝が、騎士様ほどではないけど目に優しくない感じに眩く光り始めた。
 ついでにイネスもどうぞ。

「滾ってきました! 皇帝、行きましょう!」
「うむ」
「へ、陛下お待ちを!!」

 馬より一回り大きいサイズになったイネスが、背に皇帝を乗せて戦場に突撃していった。
 刀雲がシャムスに「俺には食べさせないでくれよ」と念を押していました。うん、一言言っておかないと隙あらば食べさせようとしそうだよね。

「あれで死者が一人もいないんだからイネスすげぇ」
『イネス楽しそうねー』

 死者がいない代わりに片っ端から魅了されているらしいです、あと僕らの背後で帝国の将軍らしき人が「陛下の神々しさを後世に残すのだ!」と叫びながら兵士達に記録するように指示を飛ばしている。
 そこは皇帝の後に続けじゃないの!?

 まぁあの勢いに追いつけたとしても弾き飛ばされそうだもんね。
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