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第二章 聖杯にまつわるお話

第313話

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 海に行ったら柴犬がいた。
 しかも黒。
 黒柴である。

 きゅるんと巻かれた尻尾、ちょっとおバカな顔、ポップコーンの香りがする肉球。
 砂浜をるんるんとした足取りでお散歩する後ろ姿。
 完璧です。
 顔二つあるけど。

 本日は海のダンジョンのプレオープンに、帝国の皇帝一家や騎士様の知り合いの家族、などなど上は神様から下は腐女神まで勢揃いです。
 帝国兄弟はすでに解き放たれて海辺を走ったり、水面を走ったり、シャチを捕まえてサーフィンを楽しんだりと好き勝手やっている。

 その中でまだ小さな皇子の後ろを追うのは双頭の黒柴、きゃわわ。
 我が家のもふもふズに新加入した双頭のフェンリル、朝起きたら黒柴になっていました。

 原因は僕です。
 キーちゃんにふられ、しょぼんとする姿に思わず柴犬を重ねたのが事故の原因。
 フェンリルから柴犬になったけど、ステータスはアップしているので許して欲しい。

「イツキ様、ワインはありませんか?」
「猫なで声を出してもあげませんからね、ノンアルコールビールにしてください」

 すり寄ってきた女神様の前によく冷えた樽を出した。
 ファンタジーでよく見るお酒入りの樽です。ドリちゃんに言ったら作ってくれました。

「違う、違うんだ。酒が飲みてぇ」
「一人飲むと皆飲みたがりますから、邪神の酒盛り始まったら目も当てられないので我慢です」
「お母さま、カクテルも美味しいですよ」
「おしゃれなおやつも用意しました」

 第四皇子が女神様に勧めたのは、綺麗なお姉さまが浜辺で飲んでいるイメージが強いトロピカルジュース。
 ちょっと派手な感じの花とオレンジが刺してあり、とても女神様が好きそうな感じです。

 おやつを用意したと誘うのは第四皇子の婚約者。
 示した先にはパラソルとシート、定番の長椅子、サイドテーブルにおしゃれな感じで盛られた果物。
 女神様、普段どんな我儘を言ったらこんな至れり尽くせりしてくれる嫁が出来るんですか?

 ワインを諦めなきゃいけない空気に押され、渋々パラソルの下に女神様が移動していった。
 皇子と婚約者よ、後はよろしく。

 婚約者の子がいるって事は、相談役さん一家もいるはずだけど、皇子や邪神、もふもふズが入り乱れて良く分からない。
 よく見たらエム、ロー、ルドを筆頭とした銀狼と子銀狼もいました。
 人間は見つけられないのに、わんこを見分けるのは一瞬です。

 あれ、そう言えば今日は皇帝も来ているはずだけど一体どこに……?
 もふもふを眺めながら木陰を歩いていたら、なぜかダンジョン内に屋台があった。

「おう、何か食ってくか?」
「ギレン……」

 最近は苦労話を聞くだけで会うのは久しぶりなギレンが頭にタオルを巻いてそこにいた。

「なにやってるの?」
「アカーシャが海の家を体験してみたいって言ってな」
「かあさま」

 屋台の横を見たらさっきはなかったはずの飲食スペースがあった。
 しかもパラソルの下に木製のテーブルと椅子が配置されたおしゃれな感じ、そこでアカーシャがカイちゃんと一緒にかき氷を食べていました。

 誘われたので一緒のテーブルに座り、僕もアイスを注文。
 本当は焼きそばとか食べてみたいけどこの後お昼があるからね。

「ここさっきなかったよね?」
「一応ダンジョン内だからね、飲食スペースには認識阻害付きの結界張ってあるんだよ」
「でもなんで海の家? アカーシャならいつでも利用出来るんじゃない?」
「忙しくて行く暇がないのと、行くと人が殺到してお店の邪魔になっちゃうからなかなか行けないんだ」

 あぁ、アカーシャは刀国でも指折りの美人さんだからね、一緒に食事取ろうと鼻息荒く押し掛ける冒険者が想像出来ました。

「せっかく作ったし、このまま休憩所として活用したい気もする。ポーションとか売ればセーフゾーンとしても有用だと思うんだ」
「バカンス感覚で楽しむダンジョンが一つぐらいあってもいいかもね、次はハイダルも一緒に連れてきたいな」
「今日はハイダル君は来なかったの?」
「帝国に侵攻派と友誼派で大臣が割れててね、会議丸投げしてきた」
「……帝国の皇帝ならあそこで子供達とビーチバレーしてるし、皇后ならパラソルの下でドリンク飲んでるよ」

 侵攻考えてるおバカさんはここに連れてくれば黙るんじゃない?
 過保護な邪神兄弟に齧られるかもしれないけど、そこはご愛嬌ってことで。
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