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第二章 聖杯にまつわるお話

第256話

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 周囲で収穫に勤しむ農民の皆さんによると、聖女は単独ではなく取り巻きも連れており、聖女の言葉は全肯定するタイプだとか。

「おーい、こっち、虹色の小麦があるぞー」
「食えねぇよ」
「それは別にしておけ」
「後でまとめてギルドに納品するべ」

 お喋りしながらも手は動かしているので、物凄い勢いで小麦の束が山となって積みあがっていく。
 僕は作業の邪魔にならないよう、束が積みあがる横で大人しくしています。代わりにえっちゃんが収穫された小麦のリストを作ってくれている。

 市場に出せないこともないけれど、出したら国一つぐらい買える値段が付きそうなので出さないそうです。
 こういう特殊な作物はギルドを通してアー君に申告すると特別手当が貰えるらしい、そして表に出せないかの作物はアー君が自宅で消費するとか……えっ、僕知らないうちに食べてた!?

「銀色とか美味いのか、これ」
「あの聖女を見て初めて理解したよな」
「ああこれがテンプレってやつかって。なぁもしかしてこの小麦、光ってないか」
「明るくて気付かなかったけど光ってるな」
「あの聖女の予言、何だかずれてんだ」
「そうそう、何だっけ「私が聖女よ! 隣国が攻めてくるのだって知っているんだから!」とか叫んでたよな」
「しかも聖女が叫んでた国名って神の怒りに触れて更地なったここだぞ」
「今じゃ俺らが農業やってるよ」

 今回の聖女もゲームの世界に転生したと思い込んでいるパターンっぽい、前回の聖女はダンジョンの最下層に最弱のボスとして残っているけど、今回の子はどうなるんだろう。

「黄金……黒い麦とかないか?」
「イグ様の要望のあれかぁ」
「それを育ててたのがこの辺だったんだべ」
「全滅じゃぁ」

 牛の群れがモーモー鳴きながら聖女と取り巻きをボカスカやっているのを背景に、人間と魔物達が楽しそうに収穫をしている。
 出身地はバラバラだけど、皆さん仲良くやれていて何より。

「黄金のは終わったか」
「イネス様が光ったの短い時間で良かった。長時間だったら放棄してたわ」
「銀色も終わったぞ、しかし刈り取った後から生えてきたのが普通の麦で良かったわい!」

 ガハハと笑いながら農業ドラゴンが虹色の小麦を桐箱に入れようと手を伸ばした。

「ぐあっ!!」
「親分!」
「どうしたべ!」
「手が焼けた」

 ちょっと涙目になりながら差し出された大きな手は、どうやら結構えぐい事になっているみたいで手のひらにモザイクがかかっておりました。
 慌てて農民の一人が鞄からポーションを取り出し、ドバドバと手のひらに掛けてくれている。
 おおモザイクが消えていく。

「聖属性が弱点だったの?」
「いや? 好き嫌いはないはずだが、原因が分からぬ」
「イグちゃん分かる?」
「調べようとしたら俺も手が一本もげた」
「きゃー!」
「というのは冗談だけど、そのぐらい激痛が走った」

 イグちゃんがダメージを負うほどの聖属性?
 スケルトンは大丈夫なのかな、と視線を向けたらすでにドラゴンの群れの向こう側に避難してました。
 さすがイネス達が勧誘したスケルトン、逃げ足が速い。
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