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第二章 聖杯にまつわるお話

第176話

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 白銀のジャッカルとシャムスがキャッキャウフフと駆け回っているのを眺めていたら、セティに呼び出されたアー君が、釣れた。釣れたと鼻歌を歌いながら戻ってきた。
 ただし後ろに続くウルガを始めとした戦士は真っ青な顔だったし、泉近くで足を止めた後も不安そうにオロオロしている。
 アー君一体何をしたの?

「ママ!」
「はぁい」
「一緒に来て」

 ぴょいんと転移で連れて行かれたのは、泉を中心に聖域と化した森の入り口を見下ろせる崖の上。
 先に来ていたセティが宙に向かって鞭をビシバシしていた。

 一人プレイかと思ったけど、地上には一つ目巨人、空には炎を吐くドラゴンがいました。

「砂漠にいたのを連れてきた!」
「なんでぇ!?」

 そりゃ蛮族の戦士もオロオロするよね!

「だってこの荒野で生き残ってる生物だぜ、聖域の番人にピッタリ!」
「なるほど!」

 アー君のセリフに思わず頷いたら、セティが攻撃の加減を間違えてドラゴンを地面に叩きつけてしまった。
 涼しい顔しているけど眉間に皺が寄っているし、あれは笑いをこらえている表情だ!

「しかもサイクロプスは手先が器用で鍛冶職人な一面もあるっていう設定があるんだ! つまり、仲間にすれば荒野における仕事が発生するんだよ!」
「わぁすごーい!」
「アー君……」
「っし!」

 セティが何か言いかけたのを片手で止め、再び僕に向き直った。

「困った顔でこっちを見てるあのドラゴンは炎属性だから暑さに強い、つまり砂漠でのドラゴン便に使える!」
「なるほど、サイちゃんで武具を作って、ドラゴン便で運送するんだね!」

 鍛冶といえばハンマーだろうか、仲間になってもらえたらアー君のタブレットで出してもらえばいいかな?

「ついでに言うとあのサイクロプスはボスだから部下がいる! 俺らの仲間にしちゃえば人間が侵攻してきても一ひねり、逆に蛮族が戦争仕掛けようとしても潰してくれるので、帝国の憂いが一つ消えます!」
「アー君凄い! 名案!」
「だろ~」

 ドラゴン君も仲間になってもらおう!

「でも説得するならシャムスがいた方がいいんじゃない?」
「もう懐柔は終わった」
「え!?」
「いやー、ママ最高」

 セティの呟きに崖の下を見ると、サイちゃんとドラゴンが肩を並べて黄昏ていた。
 なぜだろう、哀愁が漂っています。

「これでウルガの部族も蛮族と呼ばれることはなくなるだろうし、流通の目途も立った。後は何を売るかまで世話した方が安心だな」
「豆じゃだめなの?」
「特産品にするにはちょっと弱い、ラミアの領地と被るしな。もういっそ、サイクロプスの伸びた爪とか切って売りさばいた方が儲かる」
「爪?」
「使用用途は消費者が決めるとして刀国でならそこそこ売れると思う、あいつら面白いもの好きだから。後爪が長いと細かい作業の邪魔だろ?」
「うん確かに!」
「……オイ、サイクロプスが落ち込んでドラゴンが慰め始めたぞ」

 言われて覗き込んだら、サイちゃんが両手で顔をおおってメソメソし、ドラゴンがギャウギャウ鳴いている様子が見えました。
 意外とメンタルが繊細なんですね。
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