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第二章 聖杯にまつわるお話

第152話

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 ダメだった。
 素早いうえに岩の狼は呪いに包まれているようで、人間の手に負えない凶悪さで大暴れしている。

 死人は出ていないものの、中々凄惨な現場になっているようで僕の視界がモザイクだらけ。

「アー君、俺が出るか?」
「刀雲パパだと倒しちゃうからなぁ、おーいお前らー生きてるかぁー」
「生きてまぁす」
「もうすぐ死にそうでぇーす」
「助けてぇ」
「将軍、無理、助けて、助けて」
「俺の盾が、ダンジョンで手に入れたレアなのに」

 アー君の声に帰ってくる情けない声の数々。

「アー君、そもそも何で今日に限ってこんなに魔物が溢れ出たの? 女神様が変態発動した?」
「ママ……否定しきれないものがあるけど、今日は違うよ、刀雲パパの力を試すために魔物を倒しに来たけど、ママとシャムスがいる時点で普通には襲ってこないでしょ、ここから遠くで神薙様とレイア様が暴れて追い立ててくれてるんだ」
「わぁ、だから死に物狂いだったんだね」

 普通にダンジョンではダメだったんだろうか、聞いたら夕食調達も兼ねているとのことでした。

「でもあの狼は違う気がする、うーん偽聖女がまた関わってるのかな」
「アルジュナ様ぁぁ」
「ポーション切れました!」
「俺は肋骨逝きました」
「足が変な方向向いてます!」
「アー君、皆を助けなくていいの?」
「ちょっと想定より強すぎるよな、うーんママちょっと和んでくれない?」
「無茶言うね」

 人の悲鳴が飛び交う中でどう和めと。

「おらロデオだぜー!」
「あれ、涼玉!?」
「涼!?」

 アー君が悩んでいたらいつの間にかどこかへ遊びに行っていたらしい涼玉が、暴れ牛に乗りながらこちらへ突進してきた。
 危ないから、涼玉危ないから!
 マールスうちの子止めて、と言いながら周囲を見渡したら、牛の速度に置いて行かれたらしいマールスが遠くから走ってくるのが見えた。

「突撃ー!」
「ブオオオオオオ!!」
「ギャオオオオ!!」

 猛然と突撃する牛、牛に気付いて回避しようとしたけれど間に合わず腹に激突された狼。

「わぁ凄い、あの岩の狼を弾き飛ばしたよ」
「あの牛、涼玉が乗るために魔改造を重ねた上に、謎能力の恩恵も受けてるからな」
「でもアー君、地面に転がってる人達も弾き飛ばしてるよ」
「……どんまい」

 ただ謎能力特有のサービス機能とでも言うべきか、謎能力の影響を受けたもふもふに轢かれた人って潰されたりせずにギャグみたいに弾き飛ばされて空を舞うんだよねぇ。
 あれでケガしないのだから誰をどう褒めていいのか分からない。

「ロデオに弾かれた奴ら、何気に安全圏に飛ばされてるのがすげぇ」
「アー君、涼玉は大丈夫なのか?」
「ただ暴れるだけの獣に謎能力の影響受けた魔物が負けるわけないよ」

 オロオロする刀雲にアー君が力強く頷く。
 アー君の土台になっている騎士様は微動だにしないけど、寝てないよね? 起きてるよね?
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