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第二章 聖杯にまつわるお話

第130話

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 第三回もそのうちやろう、と約束をしてその日は皆さん一旦解散。
 家に帰るかと思いきや、アー君が転移した先は皇室御用達の舞踏会会場だった。

「家に帰らないの?」
「参加者に他国の王子がいたからなのもあるけど、協力者にお金で終わらせるのも野暮だよな。って女神が言ったのが発端で、舞踏会に使う会場貸し切っての打ち上げをやることになった」

 なお開催費用は皇帝自らダンジョンに行って稼いだそうです、鍋ダンジョン攻略したかっただけじゃないの?
 えっ、鍋ダンジョンじゃなくて秋の味覚ダンジョン行ったの!?
 あっちの方が難易度高いのに、皇帝すっごいね。

「ママ」
「うん?」
「特別席用意してあるからそっち行こう」

 待ってアー君、ここ皇帝一家が使うってことは歴史ある建物だよね?
 王族も参加するって事は皆さん正装だろうし、僕もちょっと家に帰って着替えていいかな!? 必死に訴えたら「ドリアン待機させてあるから大丈夫」と言って別室に案内されました。

 本日は外での作業なので、寒くないように厚めの生地で作られたチェック柄のスライバーポンチョ着ていた。
 もちろんケモ耳なしです。

 部屋に入るなりドリアンが僕と子供達の数だけ分裂し、クリーンをかけ、髪を整え、着替えさせてくれた。
 まぁシャムスったら蝶ネクタイが可愛らしい、イネスもロイヤルブルーのリボンが素敵ね、うんうん、皆可愛いねぇでも僕の白いふわふわな兎ポンチョも可愛いと思う。
 僕が着てなければな!!

「ちょっとアー君、これどういうこと!?」

 なんで僕の正装は白兎ポンチョなの!?
 ポンチョって正装じゃないよね?

「ママ限定でポンチョが正装でも通っちゃうから大丈夫」
「僕のメンタルが大丈夫じゃないよ!」

 人前にさらされるなら白兎より、着替える前のポンチョの方がマシだったんじゃない?
 いやそもそもポンチョである必要性を感じない、一先ず深呼吸して脱いだ場合の周囲の反応を想像してみた。だめだ抵抗出来る未来が存在しない。
 素材の一つ一つ、前を止めるボタンにすら騎士様の加護が付いてるから、これがないと出席できない!

 白兎を渋々受け入れ、アー君のエスコートで皆と移動すれば会場にはすでに人が入り、賑やかな声が会場の外まで聞こえてきていた。
 僕らが移動する間にも教会関係者や冒険者がぞろぞろと入場し、広々とした会場が人で埋まっていく。

 後から聞いた話なんだけど、解散後に教会に戻ったのはスラムの人達を保護した勤務が残っている人達だけで、本日はお休みでボランティアで参加した人は馬車でここに送ってもらい、僕らと同じように別室で身なりを整えてもらっていたようです。

 冒険者は最寄りのギルドに寄り、そこで報酬を受け取り、打ち上げに参加するなら正装貸し出し、参加しない場合は食事券、お掃除に参加した人は全員参加したらしいけどね。
 アー君の改革の影響なのか冒険者のノリがとても良い。

 視界の隅で給仕の人が派手につまずいて料理がぶちまけられる。と思ったら通りがかりの冒険者がお皿をキャッチし、もう一人が給仕の人を助けていた。
 恐縮する相手にへらりと笑って立ち去る二人、何あれカッコイイ。

 アー君に連れられて特別席に移動してやっと会場を見渡す余裕ができた。
 本日のパーティーは立食形式、食材は秋の味覚ダンジョンで取れたAランク指定のものばかり、皆は立食なのに僕らには机が用意されており、椅子ももちろん各々に丁度良い高さに調節されていた。
 これがアー君の言っていた特別席だろうか。

「ドリンクは何にいたしますか?」

 僕らが椅子に座るとスッと給仕の人が横に立ったっっっほあああああ!!

『リンゴジュース!』
「私もリンゴ!」
「俺はブドウがいいな、にいちゃはー?」
「ジンジャエールを、ママは……同じで」
「承知いたしました。すぐご用意いたします」

 シャムスとイネスに涎掛けをつけるふわふわの毛並み。

「皇帝一家の皆様もご到着されました」

 アー君に耳打ちするのはちょっとお年を召した狼の獣人。

「シャムス様、何からお食べになりますか?」
『ローストビーフ!』

 シャムスの要望を聞く兎の給仕。

「イネス様、伊勢海老のフライになります」
「きゃー!」

 イネスに海老を貢ぐ獅子の獣人。

 そう、僕らの席を担当する給仕は全員獣人だったのです!
 ほわぁぁぁ、素敵! もふもふ給仕!! パラダイスはここにあった!
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