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最終章 そして、白い鳥たちは大空へ向かう

第11話

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 ――――ドカッ!!



 颯希と月子を助けようと近付いてきた静也と月弥に別の男が二人のお腹を思いっきり蹴る。その衝撃で静也と月弥も意識を失う。



 男たちは颯希たちを車に乗せるとその場を去っていった。







 ゴォォン……ゴォォン……。



 何かの機械の音が響く。



「……うぅ……」



 颯希がその音で目を覚ます。



 どうやらどこかの倉庫らしく、天井には豆電球のようなものが仄かに周りを照らしている。





 ――――ガチャンっ!!



 颯希が体を動かそうとして手と足が拘束されていることに気付く。周りを見ると、静也たちも同じように拘束されている。静也たちはまだ意識が戻っていない。



「みんな!しっかりしてください!!」



 颯希が大きな声で叫ぶ。



「んん……」

 

 颯希の声で静也たちが目を覚ます。



「みんな!大丈夫ですか?!」



「俺……?……そうだ!」



 静也がそこまで言って何が起こったかを思い出す。月子と月弥も状況を思い出す。



「ちょっと、何なのよこれ?!」

「誘拐……?」



 拘束されていることに月子が叫び声をあげる。月弥も状況を見て誘拐されたのかと感じる。





『……目が覚めたようだね』





 何処からか声が聞こえる。颯希たちが辺りを見回すも、人影はない。声の感じでスピーカーから音声を操作していることが分かる。



「……あれじゃない?」



 月弥がポツンの置かれている机の上のスピーカーに拘束された状態で指を差す。



「……なにが目的ですか?」



 スピーカーに向って颯希が強気の声で言う。



『今回は忠告だ。十二年前の放火事件を捜査するのはやめてもらおう。これ以上この件を調べるなら、命は無い』



 スピーカーからそう声が響く。



「……分かりました。これ以上調べるのはやめます。なので、私たちを解放して頂けませんか?」



 颯希がその声の言葉に素直に応じる。



『素直でよろしい……。よし、君たちを解放しよう……』





 ――――バチンっ!!





 声がそう言い終わると同時に部屋を仄かに照らしていた電球が切れる。



 視界が暗闇に包まれる。





「……ぐっ!!」

「……んっ!!」





 颯希たちは口に何かを当てられて、再度気を失った。







「……ん……」



 あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか?颯希たちが目を覚ますと、そこは海辺の近くに設置されているベンチだという事に気付く。颯希たちを動けなくしていた拘束は外されている。



「んん……」

「ここ……は……?」



 静也たちも目を覚まし、全員が無事だという事に颯希が安堵する。



「……この件を調べるのはやめましょう……」



 颯希が静かにそう言葉を綴る。



「そう……ね……。もう、こんな目に遭いたくないし……」



 月子が声を震わせながらそう言葉を綴る。



「……とりあえず、帰ろうぜ」



 静也の言葉でそれぞれ帰路に着くことになる。月子が恐怖からか真っ青だったので月弥が迎えの車を用意することになり、その車が来るまで颯希たちも待っていることにした。



 しばらくして、車が到着してその車に月弥が月子を支えるように乗り込む。颯希と静也は歩いて帰ると言い、月子たちとはそこでさよならした。



 颯希と静也が帰り道を無言で歩く。



「……颯希。お前、自分だけでこの事件を調べる気だろ?」



 颯希の横を歩いている静也が颯希の表情を見て静かに言葉を綴る。



「……この事件、何か裏がありそうなのです……」



 颯希が真剣な表情でそう言葉を綴る。



「颯希の事だから、やめろって言っても聞かないだろうな……」



「静也くん……」



 静也の言葉に颯希が苦しそうな表情をする。



「……俺も協力してやるよ」



「……え?」



「このまんまじゃ夢見悪そうだしな」



 静也が颯希の頭をポンポンと軽く叩きながら優しい声で言う。



「静也くん……。ありがとうございます!」



 颯希が申し訳なさと嬉しさの両方が入り混じった顔で返事をする。



「ただ、この件をまだ調べるのはあいつらには言わないでおこう。雄太たちにも言わない方がいいだろうな……。巻き込む可能性があるし……」



「……そうですね」



 静也の言葉に颯希が同意する。





 こうして、十二年前の放火事件に関しては颯希と静也の二人でこっそりと捜査することになった。







「……木津さん、この件ですがさらに黒幕がいる可能性がありそうですよ?」



 不審火のことを調べていたらそれに関連していろいろなことが分かり、呉野がそう言って、ある一つの資料を見せる。



「……これが事実だとしたら、とんでもないことになりそうだな」



「どうしますか?結城署長に伝えますか?」



「いや……、まだ確証を掴めていない。話すのは確証を得てからにしよう……」



「はい……」



 木津の言葉に呉野が返事をする。



 そして、確証を掴むために更に捜査を続行していった。







「大丈夫だよ……。落ち着くまで傍にいるから……」



 月子の部屋でベッドの上で震えている月子を月弥が包み込むように抱き締める。



 拉致されて解放されてから月子はずっと震えていた。よっぽど怖かったのだろう。顔は真っ青で呼吸も少し乱れている。



「大丈夫……大丈夫だよ……。俺が守るからね……」



 月弥が優しく頭を撫でながら言葉を綴る。



(……ずっと守るから……)



 月弥は心の中でそう呟いた。







「お昼休みですね~」



 次の日、いつものメンバーで中庭に集まりお弁当を広げる。そして、みんなでワイワイとお喋りしながら穏やかなひと時を過ごす。



「……そういや例の捜査の方はどうなんだ?」



 来斗がお弁当のおかずをかき込みながら聞く。



「特に進展はないよ」



 来斗の言葉に静也が淡々と答える。



「……そういえば、今日はあの双子はお休みしているみたいだけど、どうしたのかしらね?」



 亜里沙が月子と月弥が同時にお休みな事を不思議そうに言う。



「きっと、昨日歩き回って疲れたのでしょう。昨日はかなり歩きましたからね」



 颯希が悟られないようになるべくいつもの調子で答える。美優たちに拉致されたことを知られたら巻き込む可能性があるので、その事を勘づかれないように注意しながら言葉を選ぶ。



「そういえば、この前図書館に行ってきたんだよね?放火事件の記事はあったの?」



「八月十一日って言うことは分かったよ。後はその日に強い風が吹いていたっていうくらいかな?」



 雄太の質問に静也が答える。



「……だとすると、もしかしたら火の粉か何かが風に乗ってちょっとと遠くまで飛ばされていった可能性はあるね」



「……え?」



 雄太の言葉に颯希が疑問の声を上げる。



「何かのニュースで見たことあるんだけど、火災が起きて強い風が吹くと稀に火の付いたままの破片が遠くに飛ばされることがあるみたいだよ?それで離れた場所で二次被害が出たって言うニュースを見たことあるんだ」



 雄太がそう説明する。



 その説明に颯希と静也が顔を合わせる。



「……そうだとすれば、もしかしたら被害者がいるかもしれないという事ですよね?」



 颯希の頭の中でその火災事件の後で留学したという楓のクラスメートとバーベキューをしていて火傷を負った友理奈のことが頭をよぎる。もし、火の付いた破片が飛ばされたのだとしたら、それは一つだけとは限らない。



「……まぁ、あくまで可能性の話だけどね」



 雄太がそう締め括る。



 そんな話をしていると、午後の授業を知らせるチャイムが鳴り響いた。







「まず、楓さんにそのクラスメートの家を教えてもらいましょう……」



 放課後になり、颯希は静也と合流すると静也にそう話す。そのクラスメートはもしかしたらその放火で大やけどを負い、学校に行けなくなった可能性がある。最悪の場合、その二次被害で死亡した可能性も考えられる。





 ――――トゥルルル……トゥルルル……。





 颯希が楓に電話を掛ける。コール音がしばらく鳴り響き、楓が電話に出た。颯希が放火事件でそのクラスメートが二次被害に遭っているかもしれないと話し、家の場所を尋ねる。すると、楓は家に帰ってアルバムを見ないと分からないと言い、帰ったらその住所を伝えると言った。そして……、



『……私も一緒に行くよ』



 そう言って今度の土曜日なら仕事が休みだからその日まで待ってくれないかという事だったので颯希は了承する。



 颯希と静也は拉致されたばかりという事で土曜日までは大人しくしていようという事を話し合い、その日は一緒に帰路に着いた。





 数日は穏やかな日が続く。



 休んだ次の日からは月子と月弥も登校してくるようになった。しかし、昼休みに颯希たちがいる中庭には顔を出していない。三組の子の話では月子がまだ少し不安定らしく、月弥が心配して傍を離れないという事だった。





 ある夜。



 友理奈が窓越しに空を眺めている。次の日の天気が良いのか、空は雲一つない綺麗な空で星が瞬いている。友理奈はその星空をじっと眺めていた。



「あっ……!」



 友理奈が小さく声を上げる。



 一つの星が空から流れる。すると、それに合わせたようにいくつもの流れ星が夜空を掛ける。



 その時、ひときわ大きい星が夜空を流れた。





「……あっ……あっ……」





 友理奈の頭にある映像が流れ込む。





「そうだ……あの日……!!」



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