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第四章 青い炎は恵みの雨を受ける

第16話

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「じゃあ、出掛けてきますね!」



 日曜日。大河と簡単な昼ご飯を済ませると、玲奈が出掛ける準備をし、お気に入りの靴を履いた。そして、玄関まで見送りに来ている大河に嬉しそうな笑顔で出掛けることを伝える。



「美容院の予約を入れたんだっけ?更に綺麗になった玲奈さんを楽しみにしているよ」



 大河の言葉に玲奈が「えぇ」と言って微笑み返す。実際は彰人のために美容室に行くのだが、大河の様子から全く疑っていないと確信しているのか、心の中で大河のことを見下す。



(ふふっ♪あんたとの生活は今日で終わりよ。私は今日最高の相手にプロポーズされるんだから♪)



 微笑みながら心の中で大河に毒を吐く。



「じゃあ、大河さんも今日の勉強会楽しんで下さいね」



 玲奈はそう言うと、玄関を出ていった。



 そして、大河はある人物にメッセージを送る。



 すぐに返信が来て、今から向かうという事が書かれていた。







「じゃあ、頼んだぞ……」



「あぁ、任せとけ!」



 友成が家に来ている彰人に今日のことを再度お願いする。彰人は、胸を張って言葉を綴る。



「いよいよこの日が来たな……。あの女を地獄に叩き落として、友成がようやく救われる……」



「あぁ………。長かった……。彰人まで巻き込んで本当にすまない……」



「なぁに……、大切な親友の為だ……。俺にとって友成は一番の親友だからな……」



「彰人……」



「大切な親友をこんな目に合わせたんだ……。俺もあの女は絶対に許さねぇ……」



「ありがとう……、彰人……」



「じゃあ最後の仕上げといこうぜ、友成」



「あぁ………!」



 お互いガッツポーズを作り、拳を叩き合う。





「「あの女を地獄に……!!」」







 その頃、颯希と静也はいつものようにパトロールをしていた。そこへ、颯希の携帯が鳴り、メッセージを確認する。



「誰からなんだ?」



 静也が颯希の様子で誰からメッセージが来たのかを聞く。



「工藤さんからです。静也くんと一緒に今から来れませんか?って、書いてあります」



「何か話があるかもしれないな……。行こうぜ」



「はい!」



 颯希がすぐに行くという旨のメッセージを送る。



 パトロールを中断し、颯希たちは大河の家に向かうことにした。







「ふぅ……」



 大河がソファーでため息を吐きながら颯希たちが来るのを待っていた。



 玲奈の本当の姿を知って、最初は信じることができなかったが、颯希たちの言葉を聞いて、やはり本当じゃないかと思う自分がいる。昔、読んだ本にこんなことが書かれていた。



『純粋な子供の中には本能的に「悪」を見分ける目を持っている』



 颯希たちの雰囲気は本当に純粋な雰囲気だ。そして、どちらも正義感が強く、真っ直ぐで、悪を絶対に許さない心を持っている。大河との出会いもその性格故に、真実を突き止めて、小春を救おうとしていた。あそこまで純粋な子たちなら、本当の「悪」を見分けられる目を持っていてもおかしくない。



「……僕はとんでもない相手を選んでしまったな……」



 小さな声で呟く。そして、玲奈と出会った駅のホームでの出来事や、過ごした日々を思い返していく……。



 自分が知っている「玲奈」と言う女性は全て偽りだった……。



 玲奈の本性を見抜けなかった自分を恥じる……。



 生活安全課で人々を守る仕事をしていながら、伴侶として選んだ女性が人々を苦しめるような存在だったと分かり、自分の愚かさを呪った。





 ――――ピンポーン。





 そこへ、チャイムが鳴り響き、大河はソファーから立ち上がり来訪者を招き入れた。





「……今日の夜七時ですか?」



 大河が颯希たちに友成がその時間に玲奈を埠頭近くの倉庫に呼び出しているという事を告げる。



「……どうしてそのことが分かったのですか?」



 颯希の質問に大河は話し始めた。



「実は、例の封筒の中に青木さんの手紙と共に携帯番号が書かれてあったんだ。そして、連絡が欲しいという事が手紙に書かれてあったから電話したんだよ。そしたら、今日のことを教えてくれた」



「じゃあ、その時間に工藤さんもその場所に行くという事ですか?」



 静也がそう問いかける。



「あぁ、真実を突き止めようと思っている。最初は玲奈さんがそんな人だとは信じられなかったが、書かれてある事が本当だとしたら放っておくわけにもいかない。玲奈さんの口から真実を聞き、場合によっては裁きを受けてもらおうと思っている……」



 大河が真剣な眼差しでそう告げる。



「工藤さん、お願いがあります……」





 颯希が真剣な顔つきで大河にある事をお願いした。







「……じゃあ、髪色とセットはこれでよろしいでしょうか?」



 美容室の店員が背中部分もどのようになっているかを見てもらうために玲奈の背後で鏡を広げる。



「えぇ!これでいいわ」



 髪を綺麗に染めて服装に合ったヘアメイクを施してもらい、玲奈は嬉しそうに答える。



「今日は何か記念日なんですか?」



 嬉しそうな玲奈に店員が声を掛ける。



「えぇ。今日、旦那になる人からプロポーズを受けるのよ」



 彰人の言う「最高のプレゼント」を完全にプロポーズだと思っている玲奈は気分を高揚させながら嬉しそうに言う。



「あら!それは素敵ですね!それでしたら、こちらのパールのバレッタを付けてみてはどうでしょうか?」



 店員がそう言って、鏡で玲奈にも分かるように髪の上の方にバレッタを置いて見せる。



「いいわね!ぜひ、お願いするわ!」



 鏡越しに髪に置かれたバレッタを見て感嘆の声を出す。そして、そのバレッタをセットしてもらい、会計を済ませると、待ち合わせの場所に向かうために歩きだす。



(ふふっ♪最高の日になりそうね♪)



 歩きながら鼻歌を鳴らす。 



 これが、玲奈を地獄に落とすための罠だとも知らずに……。







「……じゃあ俺は、現地で合流するよ」



 静也はそう言うと、マンションを出ていった。



 颯希は家に電話し、大河のところにいて帰りが少し遅くなる旨を伝える。



「……本当に来るのかい?」



 大河が心配そうに言う。



 颯希が大河にお願いしたのは、自分たちもその場所に連れて行って欲しいという事だった。大河は悩んだが、颯希たちもこの件に関して許せないという思いを聞き、一緒に行くことを許可した。そして、静也がその関連で家に取りに行きたいものがあると言うので、現地で合流することになり、颯希は大河と共にその現地に向かうことになった。



 少し早めに現地に行くことになり、六時に大河の家を出発する。







 一方、玲奈は〇〇駅のところで彰人が来るのを待っていた。



 頬を染め、何度も時計を見ながら彰人が現れるのを待つ。



「……ごめんね、待った?」



 そこへ、玲奈の後ろから彰人が声を掛けた。



「待たせてしまって、ごめんね。ちょっと仕度に手間取ってしまったんだ……」



「いえ!全然!」



 彰人がそう言いながら玲奈に詫びる。時間は約束の五時を回っていたが玲奈はそれに対してまったく気にしていない。なぜなら、彰人がいつもと違って仕立てのいいスーツを着ている姿を見て、やはりプロポーズの言葉を受け取れると思い、気分が高揚しているからだ。



「それじゃあ、行こうか」



「はい!」



 彰人の隣に玲奈が並んで二人仲良く歩きだす。



「ちょっと遠いけどいいかな?」



「はい!大丈夫です!」





 そして、玲奈をある場所に連れて行った……。







 颯希たちが埠頭に着くと、丁度そこへ静也も到着した。



 静也の背中にあるものを颯希が指を差して聞く。



「……それは何のために必要なのですか?」

「なんとなく」

「別にいらないと思うのですが……」

「もしかしたら、必要になるかもしれないと思ってな……」

「それを取りに家に戻ったのですか?」

「あぁ」



 静也が取りに行ったものに颯希は頭にはてなマークを浮かべている。そして、何処で待機するか考えている時だった。



「……やっぱり来たか、工藤さん」



 どこから現れたのか、友成が歩きながら近づいてくる。そこに、颯希たちもいることを不思議に感じたが、それに関しては何も言わない。



 そして、友成が大河とやり取りをし、颯希たちもそれを了承した。





 指定された場所で彰人と玲奈をじっと待つ……。



 すると、遠くから歩いてくる二つの人影を捉えた。





「……まだ、着かないのですか?」



 玲奈が思っていた場所とは違うところに彰人が歩いて行くので、不思議に思い始める。



「もう少しだよ。……ほら、着いた」



 彰人が指を差した場所に玲奈はその建物を見上げながら呟く。



「倉庫……?」



 一体どういうことなのか分からないという玲奈に彰人が微笑みながら言う。



「この中に、玲奈さんに渡す最高のプレゼントがあるんだ。入ってごらん!」



 彰人に促されて、玲奈が不思議に思いながらも倉庫の扉を開ける。



 そして、中に入っていく。



「……何処に最高のプレゼントがあるの?」



 倉庫の中には、乱雑に置かれている海に使うであろう網や古びたボートがあるだけで、プレゼントが置いてあるようには見えない。





「……よく来たな、木原玲奈……」





 突然声がして、玲奈が声のした方向に顔を向ける。暗がりで誰なのかよくわからない。その人物がゆっくりと玲奈に向って歩いてくる。



 そして、その人物の顔が分かるところまで来た時に玲奈が叫ぶように口を開いた。







「あんた!あの時の……!!」





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