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第三章 小花は大きな葉に包まれる
第10話
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「哲さ~ん!!」
突然名前を呼ばれて哲司は声がした方向に顔を向けた。すると、颯希と静也がこちらに向かって走ってくる。
「やぁ、颯希ちゃんに静也くんじゃないか!」
やってきた颯希と静也を見て哲司が声を上げる。
「珍しいね、日曜日じゃないのにこんなところにいるなんて。今日はどうしたんだい?」
この地区は学校から離れており、颯希や静也の家の方向とは反対方向だったので、哲司が驚くのも無理はない。
「この人は哲さんの知り合いなんですか?!」
哲司の問いに答えずに颯希が男を指さし、哲司に問う。
「あぁ、この人は役所の生活安全課に在籍している工藤さんだよ」
「役所の人……?」
颯希が工藤と呼ばれる男に振り向く。すると工藤は優しく微笑むと自己紹介をした。
「こんにちは。生活安全課の工藤 大河です。君たちは栗本さんの知り合いかな?」
「工藤さん、話したことあるでしょ?中学生がパトロールしているっていう話」
「じゃあ、この子たちがそうなのかい?」
「ええ、そうですよ。ほら、颯希ちゃんも静也くんも自己紹介、自己紹介♪」
哲司が嬉しそうに言いながら颯希たちに自己紹介を求める。颯希たちは小春たちの部屋から出てきた男であるため一瞬戸惑うが、哲司の知り合いなら大丈夫だろうと思い、それぞれ名を名乗った。
「初めまして!中学生パトロール隊員、結城颯希です!」
「同じく、斎藤静也です!」
二人がきりっとした顔で敬礼をしながら自己紹介をする。
「まさか、噂の中学生パトロール隊に会えるなんて嬉しいね。もし、困ったことがあれば生活安全課に来るといいよ。生活面のことなら相談に乗るからね」
「「ありがとうございます!!」」
工藤の言葉に颯希たちは警戒心が取れたのか、ちょっと安心した様子で雑談を繰り広げる。
話していくと、工藤は役所でも一目置かれているらしく、人柄の良さと頭が切れることから周りからの人望も厚いという。そんな人がなぜ恵美子の部屋から出てきたかは謎だが、役所の人間ということは何か用事があって恵美子の部屋にいただけかもしれない。
「工藤さん、例の女性と今同棲しているって聞きましたよ?」
「あぁ。私なんかにはもったいないくらいのおしとやかな女性でね。とても、気が利く素敵な人だよ」
「またまた~。工藤さんも立派じゃないですか。エリート大学出ていて出世コースまっしぐらって聞きましたよ?」
「いやいや、相変わらずお世辞が上手だね」
哲司と工藤が世間話に花を咲かせている。やはり、工藤は仕事の関係で恵美子の家に行っただけで男女の関係ではないということが分かる。
その時、あることを思い出したように哲司が言葉を発した。
「そういえばさっき、工藤さんと知り合いなのかどうか聞いていなかった?」
哲司の言葉に、颯希が「えっと……」と、言葉を詰まらす。自分たちが尾行していたとは言えない。
颯希と静也はどう説明すべきか悩んでいると、工藤がくすくすと笑いながら優しく言葉を綴った。
「もしかして、私に熱視線を送っていたのは君たちかな?」
工藤の言葉で尾行が気付かれていたことに颯希たちは慌てふためく。
「えっと……その……えーっと……」
どう答えるべきかぐるぐると頭を働かせるが、いい言葉が見つからない。
「す……すみませんでした!!」
颯希が観念して工藤を尾行していたことを謝る。静也も颯希と一緒に謝った。
「どういうことだい?」
哲司は颯希たちが工藤を尾行していたことを不思議に思い尋ねる。
そして、颯希たちがあのアパートから尾行をしていたことを伝えて、てっきり工藤が恵美子の恋人だと思い、何処の誰かを突き止めるために後を付けたことを話した。
「……ふーむ。てことは、君たちは花島親子のことを知っているということだね?」
工藤の言葉に颯希たちは頷く。
「ちなみに、花島親子については何処まで知っているんだい?」
工藤の更なる質問に颯希と静也は何処まで話していいか分からず、目を合わせて「どうしよう……」と悩む。
「……その様子だと、大体のことは分かっているみたいだね」
颯希たちの表情から何かを読み取ったのか、工藤は花島親子について話しだした。
「実はね、一か月半前からアパートの隣の部屋からの住人から連絡があったんだ。隣の部屋から何かを破壊しているような音が夜になると響いている時があるってね。それで、私がその件を担当することになり、あの部屋に訪れるようになったんだ。君たちは部屋を見たことはあるかい?」
「はい、一度だけあります。その時は割れた食器が散乱していました……」
「そうか……」
「その……、小春ちゃんからママがお酒を飲むと叫びながら食器とかを壁に投げつけているって聞いています」
「娘とも面識があるのかい?」
「はい……」
颯希は工藤に小春と会った経緯を話した。フラフラになっているところを見つけて、心配になって見ていたらコケてしまい、足に怪我をしたので手当して家まで送っていったこと。その時に部屋を見て驚き、小春が心配になってちょこちょこと小春と会って様子を見ていたこと。そして、父親とも会ったこと……。
「花島さんは近くに住んでいるのかい?!」
小春の父親が近くに住んでいて、その父親と颯希たちが面識ある事に工藤が驚く。
「花島親子も旦那は何処にいるか分からないと言っていたのに、嘘をついていたってことか……」
工藤の言葉に颯希が慌てて言葉を発する。
「あ、あの!小春ちゃんが父親と会ったのはついこの間のことなんです。それまではずっと会ってなかったみたいで……。それに、母親の方は近くにいるということを知らないと思います。父親である茂明さんが連絡はしていないと言っていましたから……」
「そうなのか?なら、何処に住んでいるかは分からないんだな……。住んでいるところが分かれば連絡が取れるのだが……」
工藤はそう言いながら頭を搔く。
すると、颯希が鞄から一枚の紙を取り出した。
「あの……、茂明さんの住んでいる場所なら分かりますが……」
突然名前を呼ばれて哲司は声がした方向に顔を向けた。すると、颯希と静也がこちらに向かって走ってくる。
「やぁ、颯希ちゃんに静也くんじゃないか!」
やってきた颯希と静也を見て哲司が声を上げる。
「珍しいね、日曜日じゃないのにこんなところにいるなんて。今日はどうしたんだい?」
この地区は学校から離れており、颯希や静也の家の方向とは反対方向だったので、哲司が驚くのも無理はない。
「この人は哲さんの知り合いなんですか?!」
哲司の問いに答えずに颯希が男を指さし、哲司に問う。
「あぁ、この人は役所の生活安全課に在籍している工藤さんだよ」
「役所の人……?」
颯希が工藤と呼ばれる男に振り向く。すると工藤は優しく微笑むと自己紹介をした。
「こんにちは。生活安全課の工藤 大河です。君たちは栗本さんの知り合いかな?」
「工藤さん、話したことあるでしょ?中学生がパトロールしているっていう話」
「じゃあ、この子たちがそうなのかい?」
「ええ、そうですよ。ほら、颯希ちゃんも静也くんも自己紹介、自己紹介♪」
哲司が嬉しそうに言いながら颯希たちに自己紹介を求める。颯希たちは小春たちの部屋から出てきた男であるため一瞬戸惑うが、哲司の知り合いなら大丈夫だろうと思い、それぞれ名を名乗った。
「初めまして!中学生パトロール隊員、結城颯希です!」
「同じく、斎藤静也です!」
二人がきりっとした顔で敬礼をしながら自己紹介をする。
「まさか、噂の中学生パトロール隊に会えるなんて嬉しいね。もし、困ったことがあれば生活安全課に来るといいよ。生活面のことなら相談に乗るからね」
「「ありがとうございます!!」」
工藤の言葉に颯希たちは警戒心が取れたのか、ちょっと安心した様子で雑談を繰り広げる。
話していくと、工藤は役所でも一目置かれているらしく、人柄の良さと頭が切れることから周りからの人望も厚いという。そんな人がなぜ恵美子の部屋から出てきたかは謎だが、役所の人間ということは何か用事があって恵美子の部屋にいただけかもしれない。
「工藤さん、例の女性と今同棲しているって聞きましたよ?」
「あぁ。私なんかにはもったいないくらいのおしとやかな女性でね。とても、気が利く素敵な人だよ」
「またまた~。工藤さんも立派じゃないですか。エリート大学出ていて出世コースまっしぐらって聞きましたよ?」
「いやいや、相変わらずお世辞が上手だね」
哲司と工藤が世間話に花を咲かせている。やはり、工藤は仕事の関係で恵美子の家に行っただけで男女の関係ではないということが分かる。
その時、あることを思い出したように哲司が言葉を発した。
「そういえばさっき、工藤さんと知り合いなのかどうか聞いていなかった?」
哲司の言葉に、颯希が「えっと……」と、言葉を詰まらす。自分たちが尾行していたとは言えない。
颯希と静也はどう説明すべきか悩んでいると、工藤がくすくすと笑いながら優しく言葉を綴った。
「もしかして、私に熱視線を送っていたのは君たちかな?」
工藤の言葉で尾行が気付かれていたことに颯希たちは慌てふためく。
「えっと……その……えーっと……」
どう答えるべきかぐるぐると頭を働かせるが、いい言葉が見つからない。
「す……すみませんでした!!」
颯希が観念して工藤を尾行していたことを謝る。静也も颯希と一緒に謝った。
「どういうことだい?」
哲司は颯希たちが工藤を尾行していたことを不思議に思い尋ねる。
そして、颯希たちがあのアパートから尾行をしていたことを伝えて、てっきり工藤が恵美子の恋人だと思い、何処の誰かを突き止めるために後を付けたことを話した。
「……ふーむ。てことは、君たちは花島親子のことを知っているということだね?」
工藤の言葉に颯希たちは頷く。
「ちなみに、花島親子については何処まで知っているんだい?」
工藤の更なる質問に颯希と静也は何処まで話していいか分からず、目を合わせて「どうしよう……」と悩む。
「……その様子だと、大体のことは分かっているみたいだね」
颯希たちの表情から何かを読み取ったのか、工藤は花島親子について話しだした。
「実はね、一か月半前からアパートの隣の部屋からの住人から連絡があったんだ。隣の部屋から何かを破壊しているような音が夜になると響いている時があるってね。それで、私がその件を担当することになり、あの部屋に訪れるようになったんだ。君たちは部屋を見たことはあるかい?」
「はい、一度だけあります。その時は割れた食器が散乱していました……」
「そうか……」
「その……、小春ちゃんからママがお酒を飲むと叫びながら食器とかを壁に投げつけているって聞いています」
「娘とも面識があるのかい?」
「はい……」
颯希は工藤に小春と会った経緯を話した。フラフラになっているところを見つけて、心配になって見ていたらコケてしまい、足に怪我をしたので手当して家まで送っていったこと。その時に部屋を見て驚き、小春が心配になってちょこちょこと小春と会って様子を見ていたこと。そして、父親とも会ったこと……。
「花島さんは近くに住んでいるのかい?!」
小春の父親が近くに住んでいて、その父親と颯希たちが面識ある事に工藤が驚く。
「花島親子も旦那は何処にいるか分からないと言っていたのに、嘘をついていたってことか……」
工藤の言葉に颯希が慌てて言葉を発する。
「あ、あの!小春ちゃんが父親と会ったのはついこの間のことなんです。それまではずっと会ってなかったみたいで……。それに、母親の方は近くにいるということを知らないと思います。父親である茂明さんが連絡はしていないと言っていましたから……」
「そうなのか?なら、何処に住んでいるかは分からないんだな……。住んでいるところが分かれば連絡が取れるのだが……」
工藤はそう言いながら頭を搔く。
すると、颯希が鞄から一枚の紙を取り出した。
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