35 / 128
第三章 小花は大きな葉に包まれる
第6話
しおりを挟む
次の日の月曜日。
颯希と静也は学校が終わると、小春と再会した公園に来ていた。茂明は仕事が終わったら来るということになっている。この公園に来ているのは小春がもしかしたらこの公園にまた来る可能性があると踏んでいるからだ。茂明からもよくこの公園で見かけると言っている。下手に動き回るより、この公園で小春が来るのを待った方が賢明かもしれないということになり、こうして二人はこの公園にやって来たのだった。
二人でブランコに座り、小春が来るのを待つ。
「小春ちゃん、来ますかね?」
「どうだろうな……。でも、やたらと動き回るよりは確実かも知れないぜ?」
「そうですね……。今は小春ちゃんが来ることを信じましょう……」
じっとその場で小春が現れるのを待つ。
一時間が経過し、二時間が経過しようとしていた。時々声がして振り向くが、小春ではなく近場に住んでいる子供だったりしてなかなか現れない。
「今日は来ないのでしょうか……」
颯希は小春が来ないことに項垂れてしまう。時間はそろそろ夕方の五時頃になろうとしている。茂明の仕事が終わるのが五時頃だと言っていた。六時頃には到着すると言っていたから、あと一時間くらいでここに着くだろう。出来る事なら、茂明が来る前に小春に会いたいところだが、未だに小春は現れない。
小春が来ることを信じて颯希と静也がじっと待つ。そして、更に時間が三十分ほど経過した時だった。
ーーーージャリ……。
音がして颯希と静也が音のした方に顔を向ける。
すると、そこにいたのは紛れもなく小春だった。
「小春ちゃん!!」
颯希と静也が小春に駆け足で近付く。
「お姉ちゃんに……お兄ちゃん……」
小春が颯希と静也を見て驚きの声を上げる。
「どうしてここに……?」
小春は今日もまともに食べていないのか、どこかぼんやりしているように見受けられる。颯希は小春の前まで来ると、屈み込んで優しく問いかける。
「ねぇ、小春ちゃんはパパのことはどう思っていますか?」
「パパのこと……?」
颯希の問いに小春はしばらく考えるような素振りを見せる。
「パパのことは好き……。でも、パパは小春たちを見捨てたってママが言ってた……」
「パパに会えるなら会いたいですか?」
「パパのことは好きだけど、小春たちを捨てたパパは嫌い……。どうして?」
小春がなぜ急に父親のことを聞いてくるのかを颯希に問う。
「もし、パパが小春ちゃんたちとまた暮らしたいと言ったら暮らしますか?」
「んー……、ママがいいよって言うなら小春はまた前みたいに三人で暮らしたい……。でも……」
小春がそこで言葉を詰まらす。
恵美子は茂明を殺したいと思っていることを小春は知っているので、二人を合わせたら茂明が殺されるのではないかと不安でいっぱいになっているのだった。それに、この事を言ったら恵美子と本当に離れ離れにさせられてしまうかもしれない。小春はそれが嫌で口を閉ざす。
「小春ちゃん?」
小春の様子に颯希が何かを感じるが、小春の口からきかないことには何も分からない。
「何かあったの?」
颯希が小春の頭を撫でながら優しく問いかける。
「えっと……えっと……」
どう言っていいか分からなくて小春が戸惑う。
「小春!!」
そこに声が響いた。
その声の方に顔を向けると、そこには茂明がビニールの手提げ袋をさげて立っていた。
「パ……パ……?」
茂明は小春に駆け寄ると、力強く抱き締めた。
「小春、すまない……。パパが……パパが悪かった……」
「パパ……」
「お腹空いてないか?小春の好きなロールイチゴパンやプリンとかも買ってきたんだよ」
茂明はビニール袋からそれらを取り出し小春に渡す。
「食べ物……」
小春が食べ物を見てキラキラと目を輝かせる。
ぐぅぅぅ……。
食べ物を見て小春のお腹が反応したのか、腹の虫が大きく鳴る。そして、茂明から食べ物を受け取り、凄い勢いで頬張っていく。よっぽどお腹が空いていたのだろう……。茂明が持ってきた食べ物を全て平らげて、おにぎりの時と同じように「けぷっ!」と、音を出した。
「……よっぽどお腹が空いていたのですね」
沢山食べて眠気が来たのか、小春の目がウトウトし出したので颯希は膝枕をしてあげる。頭を撫でながら、まだ幼い小春のためにどういう選択をした方がいいのかを考える。今回は、茂明と話して、三人で小春に会おうということになった。そして、今に至るわけだが、茂明はなんとか恵美子とちゃんと話す機会が作れないかと言う。その為にも小春の協力が必要な部分がある。しかし、颯希が小春の意思を尊重してあげて欲しいということを茂明に伝え、小春が会わせてもいいというなら会わせようということになった。
でも、先程の小春の返事は「いいよ」と言う感じの返事ではない。どこか躊躇っているような雰囲気だ。何か理由がありそうだが無理に聞き出すわけにもいかない。
「……恵美子と話す機会を作るのは難しいのかな?」
小春の様子で茂明が悲しそうな顔をする。
「お腹が空いていて、頭が働かなかっただけかもしれないだろ。とりあえず、起きたらもう一度聞いてみようぜ」
静也が茂明にそう声を掛ける。茂明は頷いて、三人は小春が目を覚ますのを待つことにした。
「う……ぁ……」
寝てから四十分ぐらいが経ち、小春が目をぼんやりと覚ました。
「起きましたか?小春ちゃん」
颯希が優しく小春に問いかける。すると、抑えきれないのか茂明が声を発する。
「小春!ママと――――」
バッ――――!!
颯希が茂明を制止するように片手を広げる。その仕草と表情で「今はまだダメ!」ということが伝わり、茂明は口をつぐんだ。
「のど……乾いた……」
小春がまだ少しぼんやりとしながら、喉の渇きを伝える。
「自販機で買ってくるよ!」
茂明はそう言うと、公園のすぐそばにある自販機に飲み物を買いに行った。
小春はまだぼんやりとしており、夢現の状態だ。そして、小春の口からとんでもない言葉が発せられた。
「……パパが死んじゃう……」
颯希と静也は学校が終わると、小春と再会した公園に来ていた。茂明は仕事が終わったら来るということになっている。この公園に来ているのは小春がもしかしたらこの公園にまた来る可能性があると踏んでいるからだ。茂明からもよくこの公園で見かけると言っている。下手に動き回るより、この公園で小春が来るのを待った方が賢明かもしれないということになり、こうして二人はこの公園にやって来たのだった。
二人でブランコに座り、小春が来るのを待つ。
「小春ちゃん、来ますかね?」
「どうだろうな……。でも、やたらと動き回るよりは確実かも知れないぜ?」
「そうですね……。今は小春ちゃんが来ることを信じましょう……」
じっとその場で小春が現れるのを待つ。
一時間が経過し、二時間が経過しようとしていた。時々声がして振り向くが、小春ではなく近場に住んでいる子供だったりしてなかなか現れない。
「今日は来ないのでしょうか……」
颯希は小春が来ないことに項垂れてしまう。時間はそろそろ夕方の五時頃になろうとしている。茂明の仕事が終わるのが五時頃だと言っていた。六時頃には到着すると言っていたから、あと一時間くらいでここに着くだろう。出来る事なら、茂明が来る前に小春に会いたいところだが、未だに小春は現れない。
小春が来ることを信じて颯希と静也がじっと待つ。そして、更に時間が三十分ほど経過した時だった。
ーーーージャリ……。
音がして颯希と静也が音のした方に顔を向ける。
すると、そこにいたのは紛れもなく小春だった。
「小春ちゃん!!」
颯希と静也が小春に駆け足で近付く。
「お姉ちゃんに……お兄ちゃん……」
小春が颯希と静也を見て驚きの声を上げる。
「どうしてここに……?」
小春は今日もまともに食べていないのか、どこかぼんやりしているように見受けられる。颯希は小春の前まで来ると、屈み込んで優しく問いかける。
「ねぇ、小春ちゃんはパパのことはどう思っていますか?」
「パパのこと……?」
颯希の問いに小春はしばらく考えるような素振りを見せる。
「パパのことは好き……。でも、パパは小春たちを見捨てたってママが言ってた……」
「パパに会えるなら会いたいですか?」
「パパのことは好きだけど、小春たちを捨てたパパは嫌い……。どうして?」
小春がなぜ急に父親のことを聞いてくるのかを颯希に問う。
「もし、パパが小春ちゃんたちとまた暮らしたいと言ったら暮らしますか?」
「んー……、ママがいいよって言うなら小春はまた前みたいに三人で暮らしたい……。でも……」
小春がそこで言葉を詰まらす。
恵美子は茂明を殺したいと思っていることを小春は知っているので、二人を合わせたら茂明が殺されるのではないかと不安でいっぱいになっているのだった。それに、この事を言ったら恵美子と本当に離れ離れにさせられてしまうかもしれない。小春はそれが嫌で口を閉ざす。
「小春ちゃん?」
小春の様子に颯希が何かを感じるが、小春の口からきかないことには何も分からない。
「何かあったの?」
颯希が小春の頭を撫でながら優しく問いかける。
「えっと……えっと……」
どう言っていいか分からなくて小春が戸惑う。
「小春!!」
そこに声が響いた。
その声の方に顔を向けると、そこには茂明がビニールの手提げ袋をさげて立っていた。
「パ……パ……?」
茂明は小春に駆け寄ると、力強く抱き締めた。
「小春、すまない……。パパが……パパが悪かった……」
「パパ……」
「お腹空いてないか?小春の好きなロールイチゴパンやプリンとかも買ってきたんだよ」
茂明はビニール袋からそれらを取り出し小春に渡す。
「食べ物……」
小春が食べ物を見てキラキラと目を輝かせる。
ぐぅぅぅ……。
食べ物を見て小春のお腹が反応したのか、腹の虫が大きく鳴る。そして、茂明から食べ物を受け取り、凄い勢いで頬張っていく。よっぽどお腹が空いていたのだろう……。茂明が持ってきた食べ物を全て平らげて、おにぎりの時と同じように「けぷっ!」と、音を出した。
「……よっぽどお腹が空いていたのですね」
沢山食べて眠気が来たのか、小春の目がウトウトし出したので颯希は膝枕をしてあげる。頭を撫でながら、まだ幼い小春のためにどういう選択をした方がいいのかを考える。今回は、茂明と話して、三人で小春に会おうということになった。そして、今に至るわけだが、茂明はなんとか恵美子とちゃんと話す機会が作れないかと言う。その為にも小春の協力が必要な部分がある。しかし、颯希が小春の意思を尊重してあげて欲しいということを茂明に伝え、小春が会わせてもいいというなら会わせようということになった。
でも、先程の小春の返事は「いいよ」と言う感じの返事ではない。どこか躊躇っているような雰囲気だ。何か理由がありそうだが無理に聞き出すわけにもいかない。
「……恵美子と話す機会を作るのは難しいのかな?」
小春の様子で茂明が悲しそうな顔をする。
「お腹が空いていて、頭が働かなかっただけかもしれないだろ。とりあえず、起きたらもう一度聞いてみようぜ」
静也が茂明にそう声を掛ける。茂明は頷いて、三人は小春が目を覚ますのを待つことにした。
「う……ぁ……」
寝てから四十分ぐらいが経ち、小春が目をぼんやりと覚ました。
「起きましたか?小春ちゃん」
颯希が優しく小春に問いかける。すると、抑えきれないのか茂明が声を発する。
「小春!ママと――――」
バッ――――!!
颯希が茂明を制止するように片手を広げる。その仕草と表情で「今はまだダメ!」ということが伝わり、茂明は口をつぐんだ。
「のど……乾いた……」
小春がまだ少しぼんやりとしながら、喉の渇きを伝える。
「自販機で買ってくるよ!」
茂明はそう言うと、公園のすぐそばにある自販機に飲み物を買いに行った。
小春はまだぼんやりとしており、夢現の状態だ。そして、小春の口からとんでもない言葉が発せられた。
「……パパが死んじゃう……」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
聖霊流し ――君の声が聞こえたら――
さかなで/夏之ペンギン
青春
ある冬の朝、庭で拾った手紙…。真っ白な封筒に、ただ『さま』と書かれていた。誰に宛てたものか、どこから来たのかもわからない。ただ、手紙はなにかを呼びかけるように、いつまでも少女の手元にあった。それはきっと、違う世界から来た手紙だと、彼女はいつしか思うようになった。自分の世界とはまるで違う未来から…。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
妹は双子、カノジョである。~双子がダブるってマ!?~
沢鴨ゆうま
青春
兄・彼氏・同級生……オレってどれ!?
知らない人はいない程に綺麗な双子の妹と、男女問わず惹かれる美人な弟。
そいつらの兄がこのオレ、藍原サダメ。
そんな中、兄であるオレは海外での仕事で不在な両親の代わりをすることに。
弟妹はめっちゃモテる!
日中、高校生であるオレが中学生である弟妹を守ることは不可能。
心配し過ぎて神経をすり減らし、授業を受けるのもやっとということもよくある。
でも、帰宅すれば三人から愛の剛速球を受け取れる、と思いたいのだけど。
家では疲労が癒されるや否や、三人から愛の応酬、愛・愛・愛――――
オレとしては癒される程度の愛が欲しいんだ。
それなのにアイツらったら……。
シスコン&ブラコンな藍原家を中心に描かれるイチャラブコメディ。
(小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿中)
※この作品は全てフィクションです。それを前提にお読みくださいませ。
© 2019 沢鴨ゆうま All Rights Reserved.
転載、複製、自作発言、webへのアップロードを一切禁止します
タグ: 日常 高校生 血縁 姉妹 兄弟 ほのぼの キス ホームコメディ 学園 同級生 ヤンデレ メンヘラ
シスコン ブラコン 中学生 学校 溺愛
陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!
みずがめ
青春
杉藤千夏はツンデレ少女である。
そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。
千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。
徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い!
※他サイトにも投稿しています。
※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。
顔と名前を覚えることが苦手な私が出会ったお爺さんは、私とよく似た人を忘れられなかったようです
珠宮さくら
青春
三千華は結婚して家庭を持ってから、思い出深い季節が訪れて大学生の頃のことを思い出すことになった。
家族以外の人の顔と名前を覚えることが苦手な三千華は、そこで自分の顔にそっくりな女性と間違い続けるお爺さんとボランティアを通じて出会うことになるのだが、その縁がより自分に縁深いことを知ることになるとは思ってもみなかった。
モブキャラだった俺は受験勉強の息抜きにヤンキー狩りを始めました。
きんちゃん
青春
ヤンキーなんぞ時代遅れだ?軽犯罪集団を美化するな?
いやいや、そんなに目くじらを立てないでやって下さいな。彼らは彼らで、この九条九郎に狩られるという立派な存在意義があるのですから。
とはいえ、私自身も単なるしがないガリ勉のモブキャラ。ヤンキー狩りを楽しめるようになるまでには、それなりに努力も工夫もしたのです。
お暇な方はそんな私の成長日記を見ていって下さいな。
※※※
自称モブキャラの九条九郎はとある事件をきっかけにヤンキーへの復讐を決意する。
しかもあえてヤツらの土俵であるケンカの道でだ。
勝ち目のない戦いになるかと思いきや、持ち前の考える力で九郎は勝利をもぎ取ってゆく。果たしてその先に何が待っているのだろうか?
死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?
わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。
ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。
しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。
他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。
本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。
贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。
そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。
家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる