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第三章 小花は大きな葉に包まれる

第6話

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 次の日の月曜日。

 颯希と静也は学校が終わると、小春と再会した公園に来ていた。茂明は仕事が終わったら来るということになっている。この公園に来ているのは小春がもしかしたらこの公園にまた来る可能性があると踏んでいるからだ。茂明からもよくこの公園で見かけると言っている。下手に動き回るより、この公園で小春が来るのを待った方が賢明かもしれないということになり、こうして二人はこの公園にやって来たのだった。



 二人でブランコに座り、小春が来るのを待つ。



「小春ちゃん、来ますかね?」



「どうだろうな……。でも、やたらと動き回るよりは確実かも知れないぜ?」



「そうですね……。今は小春ちゃんが来ることを信じましょう……」



 じっとその場で小春が現れるのを待つ。



 一時間が経過し、二時間が経過しようとしていた。時々声がして振り向くが、小春ではなく近場に住んでいる子供だったりしてなかなか現れない。



「今日は来ないのでしょうか……」



 颯希は小春が来ないことに項垂れてしまう。時間はそろそろ夕方の五時頃になろうとしている。茂明の仕事が終わるのが五時頃だと言っていた。六時頃には到着すると言っていたから、あと一時間くらいでここに着くだろう。出来る事なら、茂明が来る前に小春に会いたいところだが、未だに小春は現れない。



 小春が来ることを信じて颯希と静也がじっと待つ。そして、更に時間が三十分ほど経過した時だった。



 ーーーージャリ……。



 音がして颯希と静也が音のした方に顔を向ける。



 すると、そこにいたのは紛れもなく小春だった。



「小春ちゃん!!」



 颯希と静也が小春に駆け足で近付く。



「お姉ちゃんに……お兄ちゃん……」



 小春が颯希と静也を見て驚きの声を上げる。



「どうしてここに……?」



 小春は今日もまともに食べていないのか、どこかぼんやりしているように見受けられる。颯希は小春の前まで来ると、屈み込んで優しく問いかける。



「ねぇ、小春ちゃんはパパのことはどう思っていますか?」



「パパのこと……?」



 颯希の問いに小春はしばらく考えるような素振りを見せる。



「パパのことは好き……。でも、パパは小春たちを見捨てたってママが言ってた……」



「パパに会えるなら会いたいですか?」



「パパのことは好きだけど、小春たちを捨てたパパは嫌い……。どうして?」



 小春がなぜ急に父親のことを聞いてくるのかを颯希に問う。



「もし、パパが小春ちゃんたちとまた暮らしたいと言ったら暮らしますか?」



「んー……、ママがいいよって言うなら小春はまた前みたいに三人で暮らしたい……。でも……」



 小春がそこで言葉を詰まらす。



 恵美子は茂明を殺したいと思っていることを小春は知っているので、二人を合わせたら茂明が殺されるのではないかと不安でいっぱいになっているのだった。それに、この事を言ったら恵美子と本当に離れ離れにさせられてしまうかもしれない。小春はそれが嫌で口を閉ざす。



「小春ちゃん?」



 小春の様子に颯希が何かを感じるが、小春の口からきかないことには何も分からない。



「何かあったの?」



 颯希が小春の頭を撫でながら優しく問いかける。



「えっと……えっと……」



 どう言っていいか分からなくて小春が戸惑う。





「小春!!」





 そこに声が響いた。



 その声の方に顔を向けると、そこには茂明がビニールの手提げ袋をさげて立っていた。



「パ……パ……?」



 茂明は小春に駆け寄ると、力強く抱き締めた。



「小春、すまない……。パパが……パパが悪かった……」



「パパ……」



「お腹空いてないか?小春の好きなロールイチゴパンやプリンとかも買ってきたんだよ」



 茂明はビニール袋からそれらを取り出し小春に渡す。



「食べ物……」



 小春が食べ物を見てキラキラと目を輝かせる。





 ぐぅぅぅ……。





 食べ物を見て小春のお腹が反応したのか、腹の虫が大きく鳴る。そして、茂明から食べ物を受け取り、凄い勢いで頬張っていく。よっぽどお腹が空いていたのだろう……。茂明が持ってきた食べ物を全て平らげて、おにぎりの時と同じように「けぷっ!」と、音を出した。



「……よっぽどお腹が空いていたのですね」



 沢山食べて眠気が来たのか、小春の目がウトウトし出したので颯希は膝枕をしてあげる。頭を撫でながら、まだ幼い小春のためにどういう選択をした方がいいのかを考える。今回は、茂明と話して、三人で小春に会おうということになった。そして、今に至るわけだが、茂明はなんとか恵美子とちゃんと話す機会が作れないかと言う。その為にも小春の協力が必要な部分がある。しかし、颯希が小春の意思を尊重してあげて欲しいということを茂明に伝え、小春が会わせてもいいというなら会わせようということになった。



 でも、先程の小春の返事は「いいよ」と言う感じの返事ではない。どこか躊躇っているような雰囲気だ。何か理由がありそうだが無理に聞き出すわけにもいかない。



「……恵美子と話す機会を作るのは難しいのかな?」



 小春の様子で茂明が悲しそうな顔をする。



「お腹が空いていて、頭が働かなかっただけかもしれないだろ。とりあえず、起きたらもう一度聞いてみようぜ」



 静也が茂明にそう声を掛ける。茂明は頷いて、三人は小春が目を覚ますのを待つことにした。



「う……ぁ……」



 寝てから四十分ぐらいが経ち、小春が目をぼんやりと覚ました。



「起きましたか?小春ちゃん」



 颯希が優しく小春に問いかける。すると、抑えきれないのか茂明が声を発する。



「小春!ママと――――」



 バッ――――!!



 颯希が茂明を制止するように片手を広げる。その仕草と表情で「今はまだダメ!」ということが伝わり、茂明は口をつぐんだ。



「のど……乾いた……」



 小春がまだ少しぼんやりとしながら、喉の渇きを伝える。



「自販機で買ってくるよ!」



 茂明はそう言うと、公園のすぐそばにある自販機に飲み物を買いに行った。



 小春はまだぼんやりとしており、夢現の状態だ。そして、小春の口からとんでもない言葉が発せられた。







「……パパが死んじゃう……」





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