ファクト ~真実~

華ノ月

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最終章 愛されていた鳥

第10話

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 賀川の上司がそう呆れた声を出す。

 今は作業時間中なのだが、賀川は「やはりまだ体がしんどいので早退したい」という事を上司に伝えると、上司は怪訝な顔をした。

「……すみません。明日には体調を戻して頑張るので……」

 賀川が委縮しながらそう言葉を綴る。

「全く……。朝に言ったばかりだってのに……。分かったよ。早退したいなら早退するといい。だが、これが続くようならクビも考えなきゃならんことも頭に入れといてくれよ?」

「……すみません」

 賀川が上司の言葉にそう声を発する。

 そして、賀川は「失礼します」と言うと、会社を出て、ある場所に向かう。


 その後ろを一人の男がこっそりと付けていることに気付かずに……。



「確か紺色の作業着だったな……」

 男がそう小さく呟き、その作業着を元に、どこの会社なのかを探り出すためにネットで調べる。

「……あった。これだ……」

 どれくらい調べていただろうか?男が根気よく調べていると、一つのある会社が出てきた。会社名は「近藤精機株式会社」と書かれている。そして、写真を見ると、そこの作業員らしき人たちが何人か紺色の作業着を着ていた。

(……場所は塩浜か。そんなに遠くないな)

 男はそう言うと、サングラスをかけて部屋を出て行く。

 電車に乗り、その会社の近くまで行き、外からその会社の様子を眺める。すると、何人かの従業員らしき人が紺色の作業着を着ているのが見えた。

(間違いないな……、あの作業着だ……)

 男がそう心で呟く。

 そして、例の男がいないかを確認するが遠目からでは分かりにくい。

 その時だった。

 一人の男が会社から出てくるのが見える。

(あの男だ……)

 男が遠目から、その会社から出てきた男が奏とこの前の時に話していた男だと確信する。

 そして、その男の後ろをそっと追った。



「奏ちゃん!透たちは遅くなると思うから今日は先に上がるといいわよ」

 冴子がそう奏に声を掛ける。

「はい、分かりました」

 奏がそう返事をする。

 そして、帰る準備をして「お疲れさまでした」と言うと、捜査室を出て行く。そして、その足でバス停の方に向って歩きだした。



「……絵美さんの方もアリバイがあったな」

 車に戻ってきた透がそう声を発する。

「あぁ。あの時間に桑名の方にいたとなるとそこから奏の住む場所に向かうのは時間的に不可能だ」

 槙が淡々とそう言葉を綴る。

「まっ!これで、二人ともアリバイ成立だな!」

 紅蓮が意気揚々にそう言葉を綴る。

「そうだな。だとすると、他に怪しい奴がいなくなるから捜査は振り出しだ」

 槙がため息を吐きながらそう言葉を綴る。

「とりあえず、一旦署に戻ろう」

 透がそう言って、車を走らせた。



「こ……こんにちは!水無月さん!」

 奏に一人の男が声を掛ける。

「こんにちは、賀川さん」

 奏がそう言って賀川に微笑みかける。

(やっぱり女神は最高だ……)

 賀川が高揚しながら心でそう呟く。

「あの……例のハンカチなんだけど……」

 賀川がもごもごとした口調でそう口を開く。

「はい、洗ったので返すという事ですよね?」

 奏がそう声を掛ける。

「えっと……その……、洗ったらボロボロになってしまったんでお詫びに新しいのをプレゼントします……。な……なので良かったらそこの総合スーパーに一緒に買いに行きませんか?」

「え……?」

 賀川の言葉に奏が戸惑ったような声を出す。

「別に買ってまで返さなくても良いですよ?怪我をさせてしまったのはこちらの不注意もあるので……」

 奏がそう言ってやんわりと断る。

「い……いやっ!それは申し訳ないので買って返させてください!!」

「で……ですが……」

 賀川の強引さに奏が困った表情で言う。

「その……、このままでは僕の気が収まらないので……。だから、今からそこの総合スーパーに一緒に行きましょう!」

 賀川がこのままでは食い下がる様子が無かったので、奏は「分かりました」と言ってそれを受け入れて、近くの総合スーパーに足を運ぶ。

 そこへ向かう途中で一台の車とすれ違ったが、奏は気付かずに賀川に付いて行った。



(何処に向かう気だ?)

 男がそっと奏たちの後を付ける。

 すると一つの総合スーパーに入っていき、見つからないように影に隠れながらそっと様子を伺う。奏たちは生活用品に向って歩いており、ハンカチ売り場で足を止める。

(誰かのプレゼントでも選んでいるのか?)

 男がハンカチを選んでいる奏たちを見てそう推測する。

(いや……、あの様子は奏に買おうとしている感じだな……)

 奏の傍にいる男が次々と奏にハンカチを広げて見せており、奏が困ったように首を横に振っているので、男はそう考える。

 そして、会計場所に行き、ハンカチを購入して奏に渡しているところからやはり奏に買ったのだという事が分かる。そして、その場を離れようとしている奏を傍にいる男が何かを言って引き留めている様子が伺える。

 しばらくその様子を見ていると、奏たちが再度歩きだし、総合スーパーの中にあるカフェに入っていく。男もそのカフェに入り、奏たちの近くに腰を下ろし、そっと会話を盗み聞きした。



「……あんな高いハンカチじゃなくても、百均のハンカチでも良かったのですが……」

 奏が恐縮しながらにそう言葉を綴る。

 ハンカチを買ってもらい、奏はお礼を言って帰ろうとしたら賀川が「せっかくなのでそこのカフェでお茶しよう」と誘ってきたので、奏は断ろうとしたが諦めようとしない賀川に根負けして奏と賀川は総合スーパーの中にあるカフェに行くことになった。

「いえ!借りたハンカチをダメにしてしまったんですからこれくらいは当然です!」

 賀川が鼻を鳴らしながら力説するようにそう答える。

「それにお茶までごちそうして頂いて……なんだか申し訳ないです……」

 奏が申し訳なさそうな表情で言う。

「こ……こうして出会ったのも何かの縁ですから……!あっ!お腹空いてませんか?良かったら何か食べるものも……」

 賀川がそう言ってメニューを広げる。

「い……いえ!そこまでは大丈夫です!」

 奏が慌ててそれを断る。

「あ……、ちょっとすみません」

 賀川がそう言ってポケットからスマートフォンを取り出す。そして、何かを打ち込むと「お待たせしました」と言ってスマートフォンをポケットにしまう。

 そして、奏に賀川がいろいろな事を根掘り葉掘り聞いてくるので奏は戸惑いながらもその質問に一つ一つ丁寧に答えていった。



「お疲れ。はい、コーヒー」

 冴子がそう言って特殊捜査室に戻ってきた透たちにコーヒーを差し出す。透たちはそれを受け取り、ホッと一息を付く。

「まぁ、孝君と絵美ちゃんの疑いが晴れて良かったわ♪」

 冴子が弾むような口調で言葉を綴る。

「奏ちゃんは?もう帰ったの?」

 紅蓮がそう冴子に声を掛ける。

「えぇ。定時で上がってもらったわ」

 冴子がそう答える。

 その時だった。

「……おい!これを見ろ!!」


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