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第六章 飛べない鳥は深い穴に落ちる
第17話&エピローグ
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「……奏ちゃん、大丈夫?」
紅蓮が青ざめている奏を見てそう言葉を綴る。
あの後、奏と透は一度、署に戻った。そして、特殊捜査室に戻ってきた奏の表情を見て、冴子たちが驚く。冴子はホットコーヒーを準備して「とりあえず、心を落ち着かせなさい」と言いながらホットコーヒーを奏に手渡した。
「……一体、何があったの?」
冴子が心配そうにそう口を開く。
「……この事件……真実を……明らかにしなくちゃ……いけないです……か……?」
奏がポロポロと涙を流しながらそう言葉を綴る。
「私たちは捜査官よ?事件を明らかにするのが私たちの仕事でもあり使命よ……」
冴子が静かな口調でそう言葉を綴る。
「何があったかを話してくれる……?」
冴子の言葉に奏が頷く。
そして、裕二が書いた物語を冴子たちに話した。
「――――で、その物語を読んでいた瑠香ちゃんの顔がみるみる青ざめていったんです……」
奏が話した内容に透たちは驚きを隠せない。
「……それが、真相かも知れないな……」
透がそう言葉を綴る。
「でも、なんでそんな事を……」
紅蓮がその言葉にそう疑問を呈す。
「きっと……、許せなかったのだと思います……」
奏が涙を流しながらそう言葉を綴る。
「本山さんと杉原さんに報告するわ……」
冴子がそう言って電話を取った。
夕刻。
「……よし、行くぞ……」
車から降りてきた本山がそう言葉を発する。
その横には杉原もいる。そして、透と奏も車から降りてくる。
そして、四人は施設に入っていった。
「……奏ちゃん、大丈夫かな?」
特殊捜査室に残った紅蓮がそうポツリと呟く。
「心配と言えば心配だけどね……。でも、それが真実だとしたらきちんと罪は償うべきよ……」
冴子が静かにそう言葉を綴る。
「奏には辛いかもしれないが、それが俺たちの任務だ……」
槙がそう言葉を綴る。
「……今は連絡を待ちましょう」
冴子がそう言って締め括り、奏たちが戻ってくるのをじっと待った……。
「……事件の日の事を話してもらえますか?」
本山が静かだが、力強い声でそう言葉を綴る。
面会室で本山の前には瑠香と裕二が座っている。瑠香はどこか怯えた様子で、裕二は何のことか分かっていないのか、画用紙に絵をかきながら楽しそうな表情をしている。
「……あの日、何があったんですか?」
本山がそう低い声で言葉を綴る。しかし、瑠香は怯えながら何も言葉を発しない。近くで待機している静木も瑠香の様子に気が気じゃない様子だ。
「瑠香ちゃん……」
本山の隣に座る奏がそう口を開く。
「裕二君の書いた物語が……事件の真相……ですよね……?」
「……っ!!」
奏の言葉に瑠香が声を詰まらす。
「……裕二君の物語は悪い化け物を退治するお話でした。お姫様を助けるために、まず、魔法使いが魔法を使って沢山のナイフを化け物に刺し向けます……。そして、その一つが化け物に刺さります……。その後、雷が光って大きな石が降って来てその石が魔法使いの頭を直撃して魔法使いは死んでしまいます……。そして、姫を庇うように立っている勇者がナイフが刺さって倒れている化け物に足で更に深く刺して化け物の息の根を止める……。そして、最後は勇者と姫が結ばれる……」
奏がそこまで話して、一旦言葉を切る。そして、深呼吸をして再度口を開く。
「化け物は父親である元樹さん……。魔法使いは母親である文代さん……。お姫様は瑠香ちゃん……。そして……、勇者は裕二君……ですよね?」
奏が静かな声でそう言葉を綴る。
「あ……あ……」
瑠香が声にならない声を出す。
「……あの日の事を話してくれませんか?」
奏がそう口を開く。
「……あの日――――」
瑠香が観念して、あの日に何があったのかを話し始めた。
回想
「……おいおい、なんだよ話って……」
元樹がリビングでそう言いながらビールを口に運ぶ。
「……あの子を苦しめた報いは受けてもらうわ……」
文代がそう言って柄の部分にハンカチを巻き付けた包丁を元樹に向ける。
その様子を瑠香はリビングを出たすぐのところで隠れるように息を潜んで見ている。
「どうしたんだよ?包丁なんか持ち出して……。俺が何をしたって言うんだよ」
元樹はどこか平然としながらそう言葉を綴る。
「やめとけやめとけ。お前に殺しなんてそんなことできねぇよ」
元樹がどこか嘲笑うようにそう言葉を綴る。
「……私は本気よ……」
文代がそう言いながらゆっくりと元樹に近付く。
「はっ!やれるもんならやってみやがれ!!」
元樹がそう叫ぶ。
次の瞬間――――。
――――ドスッ……。
「ぐっ………」
元樹の腹に包丁が刺さり、その場に倒れ込む。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
文代が息を荒くしながら、その場に座り込む。しかし、ぐずぐずして入れられないと思い、部屋を強盗に見せかけるために荒らし始める。
「うぅ……」
元樹は完全に死に至っていないので呻き声を上げる。
「お……お母さん……」
瑠香が震えながら文代の近くに寄る。
「大丈夫……。大丈夫よ……」
文代がそう言って瑠香を抱き締める。
その時だった。
「化け物を退治したの?」
音で気付いたのだろうか?寝ていたはずの裕二がリビングにやって来てそう声を出す。
「ゆ……裕二?!」
瑠香が驚いてそう声を上げる。
「……化け物、まだ死んでないね」
裕二が倒れている元樹を見下ろしながらそう言葉を綴る。その表情はどこか冷めた表情だ。
「……お姉ちゃんを傷つける化け物は死んじゃえ」
裕二がそう口を開き、右足を上げる。
次の瞬間……。
――――ガッ!!!
上げた方の足の足裏で刺さっていた包丁を更に深く沈める。
「がっ…………」
その衝撃で元樹は声を上げるとその場で息絶えた。
「ゆ……裕……二……」
その光景に瑠香が愕然としながら声を出す。瑠香の隣にいる文代もガタガタと体を震わせている。
――――フラッ……。
文代があまりの衝撃的な状況に体がふらつき、近くの棚に体をぶつける。
棚に体が当たった衝撃で棚の上の方に置いてある石でできたすり鉢がぐらつく。
そして……。
――――ガコッ……!!!
そのすり鉢が文代の頭の上に落ちてきて、文代がその場に倒れる。
「「お母さん!!」」
瑠香と裕二が同時に声を上げる。
文代を抱きかかえるが、文代は目を見開いたまま全く動かなかった……。
「――――その後、私が救急車を呼んだら、警察にも連絡がいったんです……」
瑠香が話し終えて深く息を吐く。
瑠香の言葉に奏たちは何も言葉が発せなかった。
刺したのは文代だが、最後にとどめを刺したのは裕二だった……。
「……裕二君、右足を見せてくれる?」
奏が裕二にそう声を掛ける。その言葉に裕二が描いている絵から顔をあげて「いいよ」と言いながら履いている靴下を脱ぐ。
すると、そこには確かに何かを強く踏み付けた跡がくっきりと残っていた。大きさからして包丁の柄の部分で間違いないだろう……。
だが、裕二は先程の瑠香の話を聞いている間も絵を書いていて、自分がやったことの重大さを分かっていないようにも感じる。右の足裏を見せてもらった時も特に慌てることなくすんなりと見せてくれた。
「裕二君……。お父さんを足で踏みつけたの……?」
奏が裕二にどこか戸惑いながら、優しい声でそう問い掛ける。
「お父さんじゃないよ?僕は化け物を退治したんだ!お姉ちゃんを虐めていた化け物をやっけたんだよ!」
裕二が笑顔でそう言葉を綴る。
その笑顔に奏たちがどう声を掛けていいか分からない……。
裕二はきっと何かが歪んだまま成長してしまった……。
やっていいこととやってはいけないことの区別がついていない……。
それは、病弱故に学校にもほとんど行けずに狭い枠組みの中で育ってしまったからなのか……?
それとも、姉である瑠香が大好きな故にそうなってしまったのか……?
「裕二……」
瑠香が涙を流しながら裕二を抱き締める。
(守り切れなくてごめんね……)
そう心で静かに呟いた……。
「裕二、今日は一緒に寝ようか?」
部屋で瑠香が裕二にそう声を掛ける。
「うん!」
その言葉に裕二が嬉しそうに返事をする。
あの後、本山は明日に再度裕二を迎えに来ることを伝えると、奏たちと共に帰っていった。それは、「最後の姉弟の時間」を与えたからだった……。あのまま裕二を連れていくことは可哀想だと思い、本山は時間を与えた……。本山なりの気遣いだったのだろう……。瑠香はその事にお礼を言うと、裕二と共に面会室を出て行った。
「子守唄、歌ってあげるね……」
ベッドに入ると二人で横になり、瑠香が裕二を包み込むように抱き締めながら優しくそう言葉を綴る。
優しい歌声が響く……。
(元気でね……裕二……)
瑠香は裕二に気付かれないように静かに涙を流しながら子守唄を歌った……。
~エピローグ~
「……裕二君、無事に更生機関に連れていったそうよ……」
次の日、奏たちが出勤すると冴子がそう口を開いた。
「……なんだか、複雑な心境だな……」
紅蓮がそう言葉を綴る。
「そうだな。解決したとはいえ、発端を考えると確かに複雑になるな……」
透が言う。
「それでも、事件が起こったら真相を解明するのが俺たちの仕事だ。私情を持ち込むわけにはいかない」
槙がそう言葉を綴る。
「奏ちゃん、大丈夫?」
冴子が奏の辛そうな表情を見てそう声を掛ける。その言葉に奏は頷くだけで言葉を発しない。
「……奏ちゃん、今日はもう帰るといいわ……。ゆっくり休みなさい……」
冴子が奏を気遣ってそう声を掛ける。
その言葉に奏は頷くと、特殊捜査室を出て行く。
そして、署を出たところで広斗にメッセージを送り、帰っていった。
「奏ちゃん……、相当参っているよね……」
紅蓮が書類整理をしながらそう言葉を漏らす。
「きっと、自分のせいだって思っているんだろうな……。自分が今回の事件を「おかしい」と言って捜査にならなければ、未解決のまま「強盗殺人事件」として終わっていたかもしれない……って考えているんじゃないか?」
透がそう言葉を綴る。
「でも、これからもそういう事は出てくるだろう。奏も捜査官なんだ。持ち直していくれると信じたい」
槙がそう言葉を綴る。
「そうね……」
その言葉に冴子がそう声を漏らす。
その時、捜査室の電話が鳴り響き、冴子は電話に出ると、「ちょっと行ってくるわ」と言って、捜査室を出て行った。
「奏!!」
奏の家の前に一台の車が止まり、広斗が慌てた様子で車から出てくる。
「広斗……さん……」
奏がそう声を出しながら広斗に駆け寄り抱き付く。
「私……私……」
奏が涙を流しながらそう言葉を綴る。
「何も言わなくていい……。辛かったね……」
広斗がそう言葉を綴りながら奏を抱き締めた……。
「例の人物が刑期を終えて出てきたそうだ……」
署長の門野が署長室で冴子と本山にそう言葉を発した……。
そして、この日を境にある事件が動きだす……。
静かに……。
ゆっくりと……。
最後の「真実」が暴き出される……。
(最終章に続く)
紅蓮が青ざめている奏を見てそう言葉を綴る。
あの後、奏と透は一度、署に戻った。そして、特殊捜査室に戻ってきた奏の表情を見て、冴子たちが驚く。冴子はホットコーヒーを準備して「とりあえず、心を落ち着かせなさい」と言いながらホットコーヒーを奏に手渡した。
「……一体、何があったの?」
冴子が心配そうにそう口を開く。
「……この事件……真実を……明らかにしなくちゃ……いけないです……か……?」
奏がポロポロと涙を流しながらそう言葉を綴る。
「私たちは捜査官よ?事件を明らかにするのが私たちの仕事でもあり使命よ……」
冴子が静かな口調でそう言葉を綴る。
「何があったかを話してくれる……?」
冴子の言葉に奏が頷く。
そして、裕二が書いた物語を冴子たちに話した。
「――――で、その物語を読んでいた瑠香ちゃんの顔がみるみる青ざめていったんです……」
奏が話した内容に透たちは驚きを隠せない。
「……それが、真相かも知れないな……」
透がそう言葉を綴る。
「でも、なんでそんな事を……」
紅蓮がその言葉にそう疑問を呈す。
「きっと……、許せなかったのだと思います……」
奏が涙を流しながらそう言葉を綴る。
「本山さんと杉原さんに報告するわ……」
冴子がそう言って電話を取った。
夕刻。
「……よし、行くぞ……」
車から降りてきた本山がそう言葉を発する。
その横には杉原もいる。そして、透と奏も車から降りてくる。
そして、四人は施設に入っていった。
「……奏ちゃん、大丈夫かな?」
特殊捜査室に残った紅蓮がそうポツリと呟く。
「心配と言えば心配だけどね……。でも、それが真実だとしたらきちんと罪は償うべきよ……」
冴子が静かにそう言葉を綴る。
「奏には辛いかもしれないが、それが俺たちの任務だ……」
槙がそう言葉を綴る。
「……今は連絡を待ちましょう」
冴子がそう言って締め括り、奏たちが戻ってくるのをじっと待った……。
「……事件の日の事を話してもらえますか?」
本山が静かだが、力強い声でそう言葉を綴る。
面会室で本山の前には瑠香と裕二が座っている。瑠香はどこか怯えた様子で、裕二は何のことか分かっていないのか、画用紙に絵をかきながら楽しそうな表情をしている。
「……あの日、何があったんですか?」
本山がそう低い声で言葉を綴る。しかし、瑠香は怯えながら何も言葉を発しない。近くで待機している静木も瑠香の様子に気が気じゃない様子だ。
「瑠香ちゃん……」
本山の隣に座る奏がそう口を開く。
「裕二君の書いた物語が……事件の真相……ですよね……?」
「……っ!!」
奏の言葉に瑠香が声を詰まらす。
「……裕二君の物語は悪い化け物を退治するお話でした。お姫様を助けるために、まず、魔法使いが魔法を使って沢山のナイフを化け物に刺し向けます……。そして、その一つが化け物に刺さります……。その後、雷が光って大きな石が降って来てその石が魔法使いの頭を直撃して魔法使いは死んでしまいます……。そして、姫を庇うように立っている勇者がナイフが刺さって倒れている化け物に足で更に深く刺して化け物の息の根を止める……。そして、最後は勇者と姫が結ばれる……」
奏がそこまで話して、一旦言葉を切る。そして、深呼吸をして再度口を開く。
「化け物は父親である元樹さん……。魔法使いは母親である文代さん……。お姫様は瑠香ちゃん……。そして……、勇者は裕二君……ですよね?」
奏が静かな声でそう言葉を綴る。
「あ……あ……」
瑠香が声にならない声を出す。
「……あの日の事を話してくれませんか?」
奏がそう口を開く。
「……あの日――――」
瑠香が観念して、あの日に何があったのかを話し始めた。
回想
「……おいおい、なんだよ話って……」
元樹がリビングでそう言いながらビールを口に運ぶ。
「……あの子を苦しめた報いは受けてもらうわ……」
文代がそう言って柄の部分にハンカチを巻き付けた包丁を元樹に向ける。
その様子を瑠香はリビングを出たすぐのところで隠れるように息を潜んで見ている。
「どうしたんだよ?包丁なんか持ち出して……。俺が何をしたって言うんだよ」
元樹はどこか平然としながらそう言葉を綴る。
「やめとけやめとけ。お前に殺しなんてそんなことできねぇよ」
元樹がどこか嘲笑うようにそう言葉を綴る。
「……私は本気よ……」
文代がそう言いながらゆっくりと元樹に近付く。
「はっ!やれるもんならやってみやがれ!!」
元樹がそう叫ぶ。
次の瞬間――――。
――――ドスッ……。
「ぐっ………」
元樹の腹に包丁が刺さり、その場に倒れ込む。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
文代が息を荒くしながら、その場に座り込む。しかし、ぐずぐずして入れられないと思い、部屋を強盗に見せかけるために荒らし始める。
「うぅ……」
元樹は完全に死に至っていないので呻き声を上げる。
「お……お母さん……」
瑠香が震えながら文代の近くに寄る。
「大丈夫……。大丈夫よ……」
文代がそう言って瑠香を抱き締める。
その時だった。
「化け物を退治したの?」
音で気付いたのだろうか?寝ていたはずの裕二がリビングにやって来てそう声を出す。
「ゆ……裕二?!」
瑠香が驚いてそう声を上げる。
「……化け物、まだ死んでないね」
裕二が倒れている元樹を見下ろしながらそう言葉を綴る。その表情はどこか冷めた表情だ。
「……お姉ちゃんを傷つける化け物は死んじゃえ」
裕二がそう口を開き、右足を上げる。
次の瞬間……。
――――ガッ!!!
上げた方の足の足裏で刺さっていた包丁を更に深く沈める。
「がっ…………」
その衝撃で元樹は声を上げるとその場で息絶えた。
「ゆ……裕……二……」
その光景に瑠香が愕然としながら声を出す。瑠香の隣にいる文代もガタガタと体を震わせている。
――――フラッ……。
文代があまりの衝撃的な状況に体がふらつき、近くの棚に体をぶつける。
棚に体が当たった衝撃で棚の上の方に置いてある石でできたすり鉢がぐらつく。
そして……。
――――ガコッ……!!!
そのすり鉢が文代の頭の上に落ちてきて、文代がその場に倒れる。
「「お母さん!!」」
瑠香と裕二が同時に声を上げる。
文代を抱きかかえるが、文代は目を見開いたまま全く動かなかった……。
「――――その後、私が救急車を呼んだら、警察にも連絡がいったんです……」
瑠香が話し終えて深く息を吐く。
瑠香の言葉に奏たちは何も言葉が発せなかった。
刺したのは文代だが、最後にとどめを刺したのは裕二だった……。
「……裕二君、右足を見せてくれる?」
奏が裕二にそう声を掛ける。その言葉に裕二が描いている絵から顔をあげて「いいよ」と言いながら履いている靴下を脱ぐ。
すると、そこには確かに何かを強く踏み付けた跡がくっきりと残っていた。大きさからして包丁の柄の部分で間違いないだろう……。
だが、裕二は先程の瑠香の話を聞いている間も絵を書いていて、自分がやったことの重大さを分かっていないようにも感じる。右の足裏を見せてもらった時も特に慌てることなくすんなりと見せてくれた。
「裕二君……。お父さんを足で踏みつけたの……?」
奏が裕二にどこか戸惑いながら、優しい声でそう問い掛ける。
「お父さんじゃないよ?僕は化け物を退治したんだ!お姉ちゃんを虐めていた化け物をやっけたんだよ!」
裕二が笑顔でそう言葉を綴る。
その笑顔に奏たちがどう声を掛けていいか分からない……。
裕二はきっと何かが歪んだまま成長してしまった……。
やっていいこととやってはいけないことの区別がついていない……。
それは、病弱故に学校にもほとんど行けずに狭い枠組みの中で育ってしまったからなのか……?
それとも、姉である瑠香が大好きな故にそうなってしまったのか……?
「裕二……」
瑠香が涙を流しながら裕二を抱き締める。
(守り切れなくてごめんね……)
そう心で静かに呟いた……。
「裕二、今日は一緒に寝ようか?」
部屋で瑠香が裕二にそう声を掛ける。
「うん!」
その言葉に裕二が嬉しそうに返事をする。
あの後、本山は明日に再度裕二を迎えに来ることを伝えると、奏たちと共に帰っていった。それは、「最後の姉弟の時間」を与えたからだった……。あのまま裕二を連れていくことは可哀想だと思い、本山は時間を与えた……。本山なりの気遣いだったのだろう……。瑠香はその事にお礼を言うと、裕二と共に面会室を出て行った。
「子守唄、歌ってあげるね……」
ベッドに入ると二人で横になり、瑠香が裕二を包み込むように抱き締めながら優しくそう言葉を綴る。
優しい歌声が響く……。
(元気でね……裕二……)
瑠香は裕二に気付かれないように静かに涙を流しながら子守唄を歌った……。
~エピローグ~
「……裕二君、無事に更生機関に連れていったそうよ……」
次の日、奏たちが出勤すると冴子がそう口を開いた。
「……なんだか、複雑な心境だな……」
紅蓮がそう言葉を綴る。
「そうだな。解決したとはいえ、発端を考えると確かに複雑になるな……」
透が言う。
「それでも、事件が起こったら真相を解明するのが俺たちの仕事だ。私情を持ち込むわけにはいかない」
槙がそう言葉を綴る。
「奏ちゃん、大丈夫?」
冴子が奏の辛そうな表情を見てそう声を掛ける。その言葉に奏は頷くだけで言葉を発しない。
「……奏ちゃん、今日はもう帰るといいわ……。ゆっくり休みなさい……」
冴子が奏を気遣ってそう声を掛ける。
その言葉に奏は頷くと、特殊捜査室を出て行く。
そして、署を出たところで広斗にメッセージを送り、帰っていった。
「奏ちゃん……、相当参っているよね……」
紅蓮が書類整理をしながらそう言葉を漏らす。
「きっと、自分のせいだって思っているんだろうな……。自分が今回の事件を「おかしい」と言って捜査にならなければ、未解決のまま「強盗殺人事件」として終わっていたかもしれない……って考えているんじゃないか?」
透がそう言葉を綴る。
「でも、これからもそういう事は出てくるだろう。奏も捜査官なんだ。持ち直していくれると信じたい」
槙がそう言葉を綴る。
「そうね……」
その言葉に冴子がそう声を漏らす。
その時、捜査室の電話が鳴り響き、冴子は電話に出ると、「ちょっと行ってくるわ」と言って、捜査室を出て行った。
「奏!!」
奏の家の前に一台の車が止まり、広斗が慌てた様子で車から出てくる。
「広斗……さん……」
奏がそう声を出しながら広斗に駆け寄り抱き付く。
「私……私……」
奏が涙を流しながらそう言葉を綴る。
「何も言わなくていい……。辛かったね……」
広斗がそう言葉を綴りながら奏を抱き締めた……。
「例の人物が刑期を終えて出てきたそうだ……」
署長の門野が署長室で冴子と本山にそう言葉を発した……。
そして、この日を境にある事件が動きだす……。
静かに……。
ゆっくりと……。
最後の「真実」が暴き出される……。
(最終章に続く)
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