ファクト ~真実~

華ノ月

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第六章 飛べない鳥は深い穴に落ちる

第12話

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「はい……」

 瑠香から「奏と話がしたい」という事を言われて、静木がそう言葉を聞き返す。その言葉に静木は「聞いてみるわね」と言って、その場を離れた。

(あの人なら話を分かってくれるかも……)

 瑠香が心でそう呟く。

「瑠香ちゃん、水無月さん来てくれるって」

 静木が戻って来て、瑠香にそう告げる。

「来たら呼んであげるからそれまではゆっくりしているといいわよ」

 静木の言葉に瑠香は頷くと、「部屋にいますので」と言ってその場を離れていく。

(瑠香ちゃん、水無月さんの事とても気に入っているのね)

 部屋に戻っていく瑠香を見つめながら静木が心でそう呟いた。


「あっ!おかえり、お姉ちゃん!」

 瑠香が部屋に戻ってくると、裕二が満面の笑みで瑠香に抱き付く。

「ただいま、裕二。絵を描いているの?」

 瑠香が裕二が手に持っている色鉛筆を見てそう言葉を綴る。

「まだ見ちゃダメ!出来上がったら見せるね!」

 裕二がそう言って、慌てて絵を隠す。

「はいはい。出来上がった時に見せてもらうね」

「うん!」

 瑠香の言葉に裕二が笑顔で返事をする。

(少しでも、勉強の遅れを取り戻しとかなきゃ……)

 瑠香はそう心で呟くと、部屋に設置されている学習机に教科書とノートを広げて勉強に取り掛かっていった。



「……じゃあ、行ってきますね」

 奏がそう言って特殊捜査室を出て行く。同時に運転をする透も出て行った。電話は静木からで、瑠香が奏と話をしたいと言っているという事だった。最初は透も同席をしていいかを聞いたが、瑠香が「奏と話したい」という事なので、透は遠慮してもらえないかと言っていたので、奏だけで話をすることになった。透は車で待機してもらい、何かあったら駆けつけるという事になり、瑠香に会うために奏と透は施設に向かった。

「よっぽど奏の事が気に入ったんだな」

 透が車を運転しながらそう言葉を綴る。

「だとしたら嬉しいですね。私も瑠香ちゃんと話をするのは楽しいですし」

 奏がそう言葉を綴る。

「でも、事件の事で何かヒントになりそうなことが聞けそうなら聞けよ?俺たちは捜査官なんだからな」

「はい……」

 透の言葉に奏が返事をする。


 自分たちは捜査官……。

 今回の事件を解明しなきゃいけない……。


 奏が心の中で葛藤する。自分がしなきゃいけないのは今回の事件の真相を明らかにして犯人を捕まえること。いつまでも、瑠香のただのお話に付き合っていてはいけない。

(分かっているけど、瑠香ちゃんの気持ちも大切にしたいな……)

 車に揺られながら奏がそう考える。

 そうこうしている内に、車は施設に到着した。



「瑠香ちゃん!到着したわよ!」

 部屋に静木がやって来て奏が来たことを告げる。瑠香は返事をすると、静木に付いて行き、面会室に向かった。

「こんにちは、瑠香ちゃん」

 瑠香がやって来て奏が微笑みながら言う。

「こ……こんにちは」

 瑠香が少し緊張気味で言う。

「体調はどうですか?少しは落ち着いたかな?」

 面会室で奏と向かい合わせに座った瑠香にそう声を掛ける。

「はい。少しずつですが落ち着いてきています。ありがとうございます」

 瑠香がそう言葉を綴り、頭を下げる。

「良かったです。今日は何をお話しましょうか?」

「えっと……良かったら……」

 瑠香がそこまで言いかけた時だった。


「あっ!ここにいた!」

 部屋に裕二がやって来て、瑠香に駆け寄る。

「お姉ちゃん!見て!!」

 裕二がそう言って、一枚の絵を見せる。

 その絵は結婚式の絵だった。ウエディングドレス姿の女性がタキシード姿の男性にお姫様抱っこをされていて、幸せそうに微笑んでいる。

「お姉ちゃんと僕の結婚式の絵だよ!」

 裕二がそう言って満面の笑顔を見せる。

「上手に書けたね」

 瑠香が微笑みながら裕二の頭を撫でる。裕二は嬉しさからか顔を綻ばせていた。

「裕二君、瑠香ちゃんは今面会中だからまた後でね」

 やってきた施設の職員が裕二にそう声を掛けて、裕二はちょっと顔を膨らませると部屋を出て行く。

「ふふっ……。裕二君は瑠香ちゃんが大好きなんですね」

 奏がその様子を見て微笑ましそうに言葉を綴る。

「裕二は身体が弱いことから家に殆ど閉じ籠りきりだったんです。学校もあまり行けなくて……。なので、お母さんが忙しい時は私が面倒を見ていたんです」

「瑠香ちゃんは弟想いの良いお姉ちゃんですね」

 瑠香の言葉に奏が優しい声でそう言葉を綴る。

「そういえば、先程何かを言い掛けましたが何を話したかったのですか?」

 裕二が来る直前に瑠香が何かを言おうとしていたことを思い出し、そう声を掛ける。

「あ……はい……。その……、水無月さんはどうやって解決していいか分からないときって、自分でどうやってその気持ちを落ち着かせているのかなって思って……」

 瑠香が恐縮そうにそう言葉を綴る。

「そうですね……。これは私の方法ですが、私の場合はそう言うことが起こり、解決したくてもできないときは、それを物語として書いて、その物語の中で解決させますね。ちょっと、変わった方法かもしれませんが、私はそう言うことが起こった時はそれを物語にすることで自分の気持ちや感情を吐き出して落ち着かせていますよ」

「物語で……?」

 奏の言葉に瑠香がそう言葉を漏らす。

「なんだかすごい解決方法ですね。あ……でも、私にできるかな?物語なんて書いたことないし……」

 瑠香が「無理かも……」と感じながらそう言葉を綴る。

「書き方は自由です。すごく短い話になっても良いのですよ。その自分の中でぐるぐると渦巻いているものを文章として吐き出すことで少し気持ちが楽になります。確かに誰かに話すことで落ち着く人もいますが、私の場合は話すだけではその言葉が空中にフヨフヨと浮いている感じがして、ちゃんとその吐き出した言葉が終着点に降り立っていない感じがするのです。なので、文章にすることでその言葉の終着点をちゃんと作ってあげるのですよ」

 奏の語る言葉に瑠香が聞き入っている。

「じゃ……じゃあ、グルグルと自分の中で渦巻いていることを文章にして、終着点を作れば落ち着くかもしれないという事ですか?」

 瑠香がどこか希望が見えたようにキラキラと目を輝かせながら、そう言葉を綴る。

「そうですね。あくまでこれは一つの方法ですが、私はそうすることで落ち着きます」

「ありがとうございます。試してみますね!」

 瑠香が少しはにかみながらそう言葉を綴る。

「はい。良かったら試してみて下さい」

「はい!」

 奏の言葉に少し何か一筋の光は見えたのか、瑠香の表情から少しだけ明るさが見える。

「あ……、そういえばさっきの話だと、水無月さんは物語を書いているんですよね?どんな物語を書いているんですか?」

「どちらかというと私はヒューマンドラマ系ですね。私の書く物語はその話に「伝えたいこと」があります。「苦しみを分かって欲しい」、「希望を持って欲しい」、「諦めないで欲しい」と言った感じのメッセージとでも言うのでしょうかね?ネットに上げている作品もあるので、もし良かったら読んでみて下さいね」

「え?!そうなんですか?!」

 奏の言葉に瑠香が驚きの声を上げる。

 そして、奏が小説を投稿しているサイトを教えて、瑠香は「是非読んでみます!」と嬉しそうに言う。そして、面会時間が終わり、奏は施設を出た。

「おかえり、どうだった?」

 車に戻ってきた奏に透が声を掛ける。

「瑠香ちゃん……、いろいろと苦しんでいる感じです……。きっと、これからどうしたらいいのかとか考えると、分からなくて不安なんでしょうね……」

 奏が目を伏せ気味にそう言葉を綴る。

「事件の事は何か聞けたか?」

「すみません……。聞けませんでした……」

「そうか……」

 透の言葉に奏がそう言葉を綴る。透は特に咎めることなく、車のエンジンを掛ける。そして、奏たちは施設を後にした。



「……息子さんが異常に感じる?」


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