ファクト ~真実~

華ノ月

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第五章 羽を失った鳥は猛獣をエサにする

第8話

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 ママの言葉に麗美がそう声を出す。

「……指名を受けたのは私ですよ?」

 ママの言葉が理解できなくて麗美がそう言葉を発する。

「先程のお客様がね、『麗美ちゃんはもういいからこのまま眞子ちゃんでよろしく』って言っていたのよ。だから、その席には行かなくていいわ」

 ママの言葉に麗美の顔が蒼白になっていく。

「そんな……」

 麗美が絞り出すようにそう言葉を出す。

(透さんとお話しできるチャンスだったのに……)

 麗美が心の中でそう呟く。

(ママが呼ばなかったら透さんの近くに居れたのに……)

 麗美が唇を噛み締めながらどこか呪うようにそう心で呟く。

「……何を突っ立っているの?早く店に戻りなさい」

「……はい」

 ママの言葉に麗美が低い声でそう返事をした。



「すみません!私まで頂いてしまって!」

 眞子が水割りを飲みながら嬉しそうにそう言葉を綴る。

「おっ♪眞子ちゃん、いい飲みっぷりだね♪」

 紅蓮が眞子の飲み方に感嘆の声を上げる。

 眞子の飲み方は、おしとやかとは程遠い飲み方だが、性格がポジティブで明るいのもあって、グイッと飲む姿が逆に眞子の良さを引き出しているようにも見える。

「よしっ!眞子ちゃん!今度は俺が作ってやるよ!」

 紅蓮がそう言って眞子のグラスを受け取り、水割りを作る。

「……お前、結構この子のこと気に入っているだろ」

 透が紅蓮の楽しそうな様子を見て半分呆れ気味にそう言葉を綴る。しかし、透の表情からも先程麗美がいた時とは違って穏やかに見える。

「あんまり飲ませすぎるなよ?」

 透がそう釘を刺すが、紅蓮は「分かってるって♪」と答えるだけで、本当に分かっているかどうか不安になる。そして、三人で楽しく飲みながら雑談をする。

「……ふぅ、ちょっとすみません」

 眞子がそう言って膝の上に置いているポーチから何かのケースを取り出す。

「ちょっと失礼しますね」

 眞子がそう言って、グラスに水を注ぎ、ケースの中にあるカプセルを一つ取り出し口に放り込む。

「……それは?」

 眞子が飲んだものが何かが気になって紅蓮がそう尋ねる。

「これですか?ちょっと疲れた時や飲み過ぎた時に飲むといいよって言って真奈美さんがくれたサプリメントですよ!」

 眞子が嬉しそうにそう言葉を綴る。

「ごめんね!もしかして飲ませすぎちゃったかな?」

 眞子の話に紅蓮が慌てた様子でそう言葉を掛ける。

「いえっ!私も楽しくてつい飲み過ぎてしまったので!でも、安心してください!大丈夫です!」

 眞子がそう言って笑顔でブイサインをする。

「その真奈美さんって人、本当にいい人なんだね」

 透が微笑みながらそう言葉を綴る。

「ちなみに真奈美さんってどの人なの?」

「あぁ……、えっと……」  

 紅蓮の言葉に眞子が店を見渡して真奈美を探す。

「あ……、あの人ですよ。あの濃いブルーのドレスを着ている人」

 眞子が指を差した方向に紅蓮と透が視線をそちらに向ける。そこには、穏やかに客と話している品がよさそうな女性がいた。遠目でも、その女性からは放っている気品の良さが伝わってくる。

「真奈美さんはこのクラブではかなり人気があるんですよ。お客さんでも真奈美さんを指名する人はかなりいるんです。でも、だからと言ってその事を鼻にかける人じゃない上に、ここで働いている女の子たちにもとても優しいので慕われています」

 眞子が尊敬の念を表しながら嬉しそうにそう言葉を綴る。

「真奈美さん、よく他の子にも気遣ってこのサプリメントを渡しているのを見たことがあるんですよ。本当にいい人だなぁ~って思っちゃいます。真奈美さんは私の憧れです。私も真奈美さんのように優しく、親切な人になりたいって思っているんです」

 眞子が笑顔でそう言葉を綴る。

「……まぁ、性格は違いすぎますけどね!」

 眞子が「あははっ!」と笑いながら言う。

「いやっ!眞子ちゃんには眞子ちゃんの良さがあるからいいと思うよ!」

 紅蓮が拳を握り締めながら真剣な表情で力説する。

(……紅蓮のやつ、マジ惚れしていないか?)

 透がその様子に少し不安になる。

(捜査で来ているってこと……分かっている……よな?)

 透が一抹の不安を覚えながら水割りを口に運んだ。



「透さん、紅蓮さん、お疲れ様です」

 店から出てきた二人に奏がそう声を掛ける。

「今日はえらい長かったな。何か有力な情報でもあったのか?」

「いや……その……」

 槙の言葉に透が困ったような声を出しながら話す。

 実は、あの後も捜査と言うよりその場を紅蓮が楽しんでいる感じであまり有力な情報は得られていなかった。

「……何をしてるんだ?」

 槙が半ば呆れ気味で声を出す。

「お前……、遊びで来ているんじゃなくて捜査で来ているという事をちゃんと分かっているのか?女にうつつを抜かす場面ではないだろ……。それなのに、そのホステスが気に入って飲みまくっていただけだと……?」

「わ~っ!!すまん!!つい……!!」

 槙が目をキュピーンと光らせながら獲物を狙うハンターのごとく紅蓮に掴みかかりながら顔を鬼のようにして言葉を綴る。

「まぁ、全く情報が得られなかったわけじゃない。ちょっと気になる情報を仕入れたよ」

「気になる情報?」

 透の言葉に奏がそう言葉を聞き返す。

「まぁ、あるとは言い切れないんだが、もしかしたらと思う事があって……」

 透がそう言ってある一つの仮説を話す。

「……そうだな。一応確認してみるか」

 その話を聞いて槙がそう言葉を綴る。

「あ、そういえば、麗美から貰った紙にはなんて書いてあったんだ?」

「「紙??」」

 紅蓮の言葉に奏と槙が同時に声を出す。

「……あぁ、これか」

 透がそう言ってその紙を見せる。


『透さん、良かったら店以外の場所でも会いませんか?透さんならサービスします』


 紙にはそうメッセージが書かれており、電話番号まで書いてある。

「……なんか、いかにもそういうことしませんか?って言う感じだな」

 紅蓮がその紙を見てうんざりとした目をする。

「その麗美って女、かなりヤバい奴じゃないのか?」

 槙も紅蓮と同様、うんざりしたような声でそう言葉を綴る。

「……かもしれないな」

 透はそう言ってその紙をポケットにしまった。



「……ふぅ、疲れたな……」

 店が終わり、マンションの部屋に戻ってきた麗美がそう声を出す。あの後、別の席で他の客を相手していたが、その客が最悪だった。その上、自分が元々いた席から聞こえてくる楽しそうな話し声に苛立ちを感じていた。

(本当なら私が透さんと楽しく過ごしていたはずなのに……)

 そう考えると苛つく自分がいる。そして、唇を噛み締める。

(……あんな子に負けるなんて……)

 その席にいた眞子を心の中で恨むように言葉を吐き捨てる。

(透さんだって、あんな子より私の方がいいに決まっている……)

 そう心で呟く。

「あっ……」

 そこまで考えてある事に気が付いた。

「あいつを何とかしなきゃ……」

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