ファクト ~真実~

華ノ月

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第五章 羽を失った鳥は猛獣をエサにする

第2話

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「……まぁ、その男が犯人だとは睨んでいるよ」

「でも、その容疑者は否定しているのよね?」

 本山の言葉に冴子がそう口を挟む。

「まぁな……。揉み合いになったのは確かみたいだが、急に胸を押さえて苦しそうにしていたと供述している。だが、その話は容疑者が罪を逃れるための嘘なんじゃないかと俺は思っているんだ」

「……ちなみに動機は?」

 本山の言葉に冴子がそう尋ねる。

「容疑者の男、久我くが 義人よしとは殺された木戸きど 零士れいじの事を普段から目の敵にしていたらしい。木戸はそのホストクラブでナンバー2のホストなんだが、話ではいろんな女性からそのクラブ以外でも会い、金を貢がせていたそうだ。まぁ、確かにイケメンの類ではあるんだが、久我は木戸のそういう行動が気に食わなかったらしい。それで、昨夜もその事で木戸に食い掛かったらしく、揉み合いになった……とは言っている」

「動機があると言えばあるってことなのね……。ただ……」

 本山の話に冴子が何処か思案するようなそぶりを見せる。

「どうした?」

「突き飛ばしたという事が本当だとしても、それで死亡するまでに至るかしら?」

 冴子はどうやらそこが引っ掛かるらしい。

「打ち所が悪かったんだろ……。まぁ、不運な奴だな……」
 
 本山がため息を吐きながらそう言葉を綴る。

「本山さん、良かったらその事件、私たちは私たちで単独で捜査してもいいかしら?」

 冴子の言葉に本山は唖然とする。

「……まぁ、お前の事だから駄目だって言っても勝手に捜査するんだろ……」

「よくお分かりで♪」

 本山の言葉に冴子がにっこりと笑いながらそう答える。

「……その代わり、何かもし情報を掴んだらこっちにも報告しろ」

「了解♪」


 こうして、この事件は本山と杉原とは別行動で冴子の率いる特殊捜査班でも捜査をすることになった。



(これはもう処分しても良さそうね……)

 一人の女が何かに使ったと思われる道具の数々をゴミ袋に入れ、その袋をマンションの敷地内にある共同集積所に捨てる。

 そして、部屋に戻ると出勤するための支度を始める。鏡を見ながら付けまつ毛やアイライナーなどをして綺麗に見えるようにメイクしていく。そして、クローゼットを開き、丈の短いドレスを選び、それを身に付けて行く。

「……そろそろ行かなきゃ」

 女はそう言って玄関でハイヒールを履くと、忘れ物がないか、カバンの中身を確認する。そして手帳を開き、一枚の写真のようなものを眺め、そっと声を掛ける。

「……お仕事、行ってくるね」

 そして、女は夜の仕事をするために部屋を出て行った。



「……ニュース見たよ。例のホスト、殺されたんだってね」

 一人の男がホテルの一室でバスローブを羽織りながらウイスキーを飲んでいる。

「えぇ……。なんか、予定外だったけど……」

 男の隣に座るバスローブを羽織った女が男からグラスを受け取り、ウイスキーのロックを作る。

「……でも、約束は約束だ。それは守って貰うよ……」

 男が女からウイスキーのロックを受け取り、そう言葉を綴る。

「えぇ……、分かっているわ……」

「……じゃあ、ベッドに行こうか……」

 男がそう言ってベッドのある所に女を促す。

 女はそれを受け入れて、大人しくベッドに行く。女がベッドで横になると、男は女に覆いかぶさった。



「……と!言うわけで、今回はこの事件を捜査するわよ♪」

 特殊捜査室に戻って来た冴子が奏たちに意気揚々とそう言葉を発する。

「……それは構いませんが、その久我って男が言った言葉が本当とは限らないんじゃないですか?」

 透がそう言葉を綴る。

 冴子が気になったのは、容疑者である久我が供述で「急に胸を押さえて苦しそうにしていた」と言う言葉だった。確かに、遺体は念のため解剖したようだが毒のような類は確認されなかったという。しかし、冴子の中ではどこか腑に落ちないのだろう……。

「……遺体の写真を見せてもらったのだけど、その顔がね……なんか引っ掛かるのよ……。打ち付けた痛さと言うよりはもがき苦しんだように見えたのよね……」

「……成程な。その久我って男の供述も嘘ではない可能性があるってことか……」

 紅蓮が冴子の話を聞いてそう言葉を綴る。

「まぁ、あくまで可能性の話なんだけど、な~んか引っ掛かってね……。そういうことだから、よろしくね♪」

 冴子の言葉に奏たちが頷く。

「とりあえず、その木戸って男がどういう奴だったかを調べますか?」

「そうね。久我の話だといろんな女から貢がせていたみたいだから、そこらへんで何か手掛かりがつかめるかもしれないわ」

 槙の言葉に冴子がそう答える。

「じゃあ、まずはその木戸の身辺を洗ってみますか!」

 紅蓮がそう言葉を綴る。その表情は何故か意気揚々としている。

(……多分、紅蓮さんの事だから女を騙すような人の粗探しが楽しいんだろうな……)

 奏が心の中でそう呟く。

「じゃ♪明日からよろしくね♪今日は時間まで書類整理よ♪」


 こうして、奏たちは木戸の身辺を探るために捜査に乗り出すことになった。



「おはよう、真奈美まなみちゃん」

「おはようございます、ママ。今日もよろしくお願いします」

 着物姿をしたその店のママが出勤してきた真奈美に笑顔で挨拶をする。真奈美はママに深々とお辞儀をして「今日も頑張りますね」と、笑顔で答える。

「おはようございまーす」

 そこへ、もう一人の女性が出勤してくる。

「おはよう、麗美れみちゃん。ちょっと寝ぼけ眼だけど、大丈夫?」

「あー、はい。大丈夫です。ちょっと出勤前から疲れただけで……」

 ママの言葉に麗美がちょっとぼんやりしている頭でそう答える。

「おっはようございまーす!」

 そこへ、元気よく店の扉を開けて一人の女性が入ってくる。

「おはよう、眞子まこちゃん。いつも元気があっていいわね」

「えへへ♪それが取り柄ですから♪」

 ママの言葉に眞子がにかっと笑いながら答える。

「おはようございます」
「おはようございまーす」

 そこへ、他のホステスも出勤してきて、しばらくして店が開店した。



「俺じゃない……俺じゃないんだ……」

 警察署の中にある独房で義人が悲痛な表情を浮かべながら呟く。

 義人は零士殺しの容疑を掛けられていた。あの後、同じクラブのホストが警察に通報して、やって来た警察官に「義人が零士を殺した」と言う説明をしたらしい。そして、その時に警察官が他のホストにも聞き込みをしたら、普段から義人は零士の事をよく思ってなかったという話が多数上がり、警察官は義人が犯人で間違いないだろうという結論を出し、義人を逮捕した。

「なんで……なんで俺の話を誰も聞いてくれないんだよぉ……」


 誰も聞いてくれない……。

 誰も自分の話を信じてくれない……。


 そんな思いが義人の心の中をぐるぐると蠢かせていた……。



「……もぉ~、何言っているのよ」

 夜の店、「クラブ フェリチタ」でホステスが客の言葉にそう声を上げる。

「いいじゃん……。そんな冷たいこと言わないでよ……。ボトル入れるからさ……」

「え~、どうしようかなぁ~」

 ホステスと客のそんなやり取りが聞こえる。

「あらあら、この店はそういう事は禁止していますから困りますよ?カスガ様、ウチの女の子にそう言った手は出さないでくださいね」

 その席にママが来て優しく微笑みながら客を制止させる。

「えぇ~……。ちぇっ……しゃあないかぁ~……」

 男が悔しそうにそう言葉を吐く。

「ウチはそういう客引きは一切禁止していますのでね。お店で楽しむだけにしてくださいね」

 ママの言葉に男が唇を尖らせる。

「まぁ、ゆっくりしていってくださいな♪」

 ママがそう言ってその場を離れていく。


 ――――チリーン……。


 そこへ店のベルが鳴って客が入ってくる。

「いらっしゃいませー」

 ママが入ってきた客に声を掛ける。

「麗美ちゃん、いる?」

 入ってくるなり客がそう尋ねる。

「えぇ、いますよ。少々お待ちくださいね、今お呼び致します」

 ママがそう言って麗美がいるテーブルに行き、「指名よ」と声を掛ける。

「いらっしゃいませ~♪西田にしださん、お久しぶりです♪」

 麗美がそう言って西田の横に腰を下ろす。

「久しぶりだね、麗美ちゃん。今日も綺麗だよ~。とりあえずボトルを入れるね」

「や~ん♪嬉し~♪もう、西田さん大好き~♪ありがとうございまーす♪」

 西田の言葉に麗美が嬉しそうにそう言葉を綴る。

 西田は麗美をお気に入りにしている客だが、年齢でいけば六十歳をとうに過ぎている白髪交じりの男性だ。

「……ところでさ、麗美ちゃん……」

 西田が麗美の耳元である言葉を囁く。

「それは……また今度で……ね?」

 麗美が手を合わせながらそう言葉を綴る。

 西田はその言葉に何処か納得のいかない表情をした。



「……よし!じゃあ零士の事を探るために聞き込みに出発だ!!」

 次の日、紅蓮が目を輝かせながら意気揚々にそう声を上げる。

「あの……、良かったら一つお願いがあるのですが……」

 そこで、奏がおずおずと手を挙げながらそう言葉を発した。


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