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第一章 白い鳥は黒いカラスに誘われる
第12話
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「はい……」
冴子の言葉に翼が素直に返事をする。
あの広場で奏は自分が特殊捜査員と言う警察官で今は詐欺事件を追っていることを話した。そして、ある掛け子の声と翼の声や喋り方が似ていることからこの掛け子が翼じゃないかと思い、翼のことを探していたことを話す。翼はその話に驚いたものの、奏が「事情を話しに行きましょう」と言い、冴子に連絡を取り、今どこにいるか聞いたら特殊捜査室にいるという事で、翼と会ったので連れて行くという話になった。こうして、今に至る。
「その拓海って人が主犯格なのね?」
「そうです……」
「そして、その拓海って人が記憶喪失の関係で何処でどう繋がっているかは分からないってことよね?」
「はい……」
冴子がそこまで聞いて少し考える。
「とりあえず、今家には誰かいるかしら?」
「母がいるはずです……」
「じゃあ、とりあえずお母さんに来てもらってもいいかしらね?もしかしたら、何か知っているかもしれないし……」
「分かりました……」
冴子が翼に自宅の番号を聞き、電話をする。すると、直ぐに母親が電話に出て、冴子が事情を説明すると電話越しに母親は「すぐ行きます」と言う返事が返ってきた。
「拓海さん。次はこちらのファイルに厳重にロックを掛けて頂けないですか?」
宮部がそう言って一つのメモリーディスクを拓海に渡す。
「……あぁ。分かった」
拓海がそれを受け取り、そのファイルをパソコンに取り込むと何重にもロックを掛けていく。
しばらくして、ロックがかけ終わると拓海は煙草を取り出し吸い始めた。
「ふー……。こんなもんかな……」
「流石ですね、拓海さん。じゃあ、次はこのファイルを元にやっていきますね」
拓海が何重にもロックを掛けたメモリーディスクを宮部が受け取り、部屋を出ていく。
「……美香と幸せに暮らしたいな……」
拓海が天井に掌を掲げながら呟いた。
「翼!!」
息を切らしながら特殊捜査室に一人の女性が入ってきた。
「お母さん……」
「あの……、一体どういうことなんですか……?」
母親は息子が警察にいると聞いて急いできたのだろう。息を切らしながら息子の傍に駆け寄り、冴子に事情を問う。
「実は――――」
そして、冴子が今起こっている詐欺事件のことを話した。
「……翼が詐欺の掛け子をしていたというの……?」
母親が話を聞いて愕然とした表情で言う。
「はい。ですが、どうやら翼君は脅されているようですね……。やらないと記憶を失う前にやっていた悪事をばらす……と……」
「なんですかそれは?!翼は悪いことはしていません!むしろ被害者です!!」
冴子の話に母親が怒りをにじませながらそう叫ぶように言葉を綴る。
「被害者と言うのはどういうことですか?」
冴子がその言葉が気になり母親に尋ねる。
「……記憶喪失になる前、どうやら誰かから暴行を受けたみたいなんです……」
「「「え?」」」
母親の言葉に奏と冴子だけでなく、翼も驚きの声を出す。
「翼が記憶を失っているため、誰が何をしたのかは未だに分からずじまいです……」
母親が苦しそうな顔でそう語る。
「良かったら発見時の状況を話してくれませんか?」
「はい……。発見されたのは――――」
母親がゆっくりとその時の事を語りだした。
翼が発見されたのは浜辺だった。衣服がかなり濡れていたことから海に転落か溺れたかしてここまで流されてきたのだろうという事だった。時期的に海水浴の時期でもないし、服装も海で泳ぐ服装ではなかったので事故ではないかと思われた。幸い、救助隊のお陰で一命は取り留めたものの、しばらくは目を覚まさない状態が続いた。一ヶ月ほど意識不明の状態が続いたが、ある日の朝、ゆっくりと目を覚ました。
その後、警察も来て、事情を聞こうとしたが、当の本人がその時のことを忘れており、何があったのかが不明になってしまったという。頭に殴られたのかどこかで打ったのか分からないような跡もあったが、事件なのか事故なのかもわからないため、特に捜査はされずにそのまま時が流れていったという事だった。
母親は話し終えると、息を深く吐いた。
「……翼は素直な子です。私たち夫婦の大切な息子です。昔から翼は親思いのいい子でした……。思いやりがあり優しい自慢の息子です……。もし……もし、誰かが暴行してそのせいで記憶を失ったのだとしたら私はその人を許しません……」
母親はそう言うと、翼を強く抱き締める。
「翼は……脅されていたとはいえ、何かの罪に問われるのでしょうか……?」
母親が翼を抱き締めながら冴子にそう問いかける。
「今の段階で何とも……。ただ、翼君が詐欺の掛け子をしていたのは事実ですが、被害者の話によると、相手を気遣う言葉かけが殆どで結局お金を要求しなかったそうです。なので、私たちも不思議な話だなと感じていました。ちなみに、翼君は掛け子として何か報酬は貰ったの?」
冴子が翼にそう問う。
「いえ……。僕は失敗してばかりだったので報酬は全く受け取ってないです……」
「そう……。その言葉に嘘偽りはないわね?」
「ありません」
冴子の言葉に翼がはっきりと否定する。
「ところで、お母さんの方は『拓海』と言う名前にお心当たりはありませんか?」
「拓海……?」
冴子の口から出た名前に母親が「誰?」と言うような顔をする。しかし、その後で声を震わせながら言葉を綴った。
「拓海って……まさか……あの――――?!」
冴子の言葉に翼が素直に返事をする。
あの広場で奏は自分が特殊捜査員と言う警察官で今は詐欺事件を追っていることを話した。そして、ある掛け子の声と翼の声や喋り方が似ていることからこの掛け子が翼じゃないかと思い、翼のことを探していたことを話す。翼はその話に驚いたものの、奏が「事情を話しに行きましょう」と言い、冴子に連絡を取り、今どこにいるか聞いたら特殊捜査室にいるという事で、翼と会ったので連れて行くという話になった。こうして、今に至る。
「その拓海って人が主犯格なのね?」
「そうです……」
「そして、その拓海って人が記憶喪失の関係で何処でどう繋がっているかは分からないってことよね?」
「はい……」
冴子がそこまで聞いて少し考える。
「とりあえず、今家には誰かいるかしら?」
「母がいるはずです……」
「じゃあ、とりあえずお母さんに来てもらってもいいかしらね?もしかしたら、何か知っているかもしれないし……」
「分かりました……」
冴子が翼に自宅の番号を聞き、電話をする。すると、直ぐに母親が電話に出て、冴子が事情を説明すると電話越しに母親は「すぐ行きます」と言う返事が返ってきた。
「拓海さん。次はこちらのファイルに厳重にロックを掛けて頂けないですか?」
宮部がそう言って一つのメモリーディスクを拓海に渡す。
「……あぁ。分かった」
拓海がそれを受け取り、そのファイルをパソコンに取り込むと何重にもロックを掛けていく。
しばらくして、ロックがかけ終わると拓海は煙草を取り出し吸い始めた。
「ふー……。こんなもんかな……」
「流石ですね、拓海さん。じゃあ、次はこのファイルを元にやっていきますね」
拓海が何重にもロックを掛けたメモリーディスクを宮部が受け取り、部屋を出ていく。
「……美香と幸せに暮らしたいな……」
拓海が天井に掌を掲げながら呟いた。
「翼!!」
息を切らしながら特殊捜査室に一人の女性が入ってきた。
「お母さん……」
「あの……、一体どういうことなんですか……?」
母親は息子が警察にいると聞いて急いできたのだろう。息を切らしながら息子の傍に駆け寄り、冴子に事情を問う。
「実は――――」
そして、冴子が今起こっている詐欺事件のことを話した。
「……翼が詐欺の掛け子をしていたというの……?」
母親が話を聞いて愕然とした表情で言う。
「はい。ですが、どうやら翼君は脅されているようですね……。やらないと記憶を失う前にやっていた悪事をばらす……と……」
「なんですかそれは?!翼は悪いことはしていません!むしろ被害者です!!」
冴子の話に母親が怒りをにじませながらそう叫ぶように言葉を綴る。
「被害者と言うのはどういうことですか?」
冴子がその言葉が気になり母親に尋ねる。
「……記憶喪失になる前、どうやら誰かから暴行を受けたみたいなんです……」
「「「え?」」」
母親の言葉に奏と冴子だけでなく、翼も驚きの声を出す。
「翼が記憶を失っているため、誰が何をしたのかは未だに分からずじまいです……」
母親が苦しそうな顔でそう語る。
「良かったら発見時の状況を話してくれませんか?」
「はい……。発見されたのは――――」
母親がゆっくりとその時の事を語りだした。
翼が発見されたのは浜辺だった。衣服がかなり濡れていたことから海に転落か溺れたかしてここまで流されてきたのだろうという事だった。時期的に海水浴の時期でもないし、服装も海で泳ぐ服装ではなかったので事故ではないかと思われた。幸い、救助隊のお陰で一命は取り留めたものの、しばらくは目を覚まさない状態が続いた。一ヶ月ほど意識不明の状態が続いたが、ある日の朝、ゆっくりと目を覚ました。
その後、警察も来て、事情を聞こうとしたが、当の本人がその時のことを忘れており、何があったのかが不明になってしまったという。頭に殴られたのかどこかで打ったのか分からないような跡もあったが、事件なのか事故なのかもわからないため、特に捜査はされずにそのまま時が流れていったという事だった。
母親は話し終えると、息を深く吐いた。
「……翼は素直な子です。私たち夫婦の大切な息子です。昔から翼は親思いのいい子でした……。思いやりがあり優しい自慢の息子です……。もし……もし、誰かが暴行してそのせいで記憶を失ったのだとしたら私はその人を許しません……」
母親はそう言うと、翼を強く抱き締める。
「翼は……脅されていたとはいえ、何かの罪に問われるのでしょうか……?」
母親が翼を抱き締めながら冴子にそう問いかける。
「今の段階で何とも……。ただ、翼君が詐欺の掛け子をしていたのは事実ですが、被害者の話によると、相手を気遣う言葉かけが殆どで結局お金を要求しなかったそうです。なので、私たちも不思議な話だなと感じていました。ちなみに、翼君は掛け子として何か報酬は貰ったの?」
冴子が翼にそう問う。
「いえ……。僕は失敗してばかりだったので報酬は全く受け取ってないです……」
「そう……。その言葉に嘘偽りはないわね?」
「ありません」
冴子の言葉に翼がはっきりと否定する。
「ところで、お母さんの方は『拓海』と言う名前にお心当たりはありませんか?」
「拓海……?」
冴子の口から出た名前に母親が「誰?」と言うような顔をする。しかし、その後で声を震わせながら言葉を綴った。
「拓海って……まさか……あの――――?!」
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