ファクト ~真実~

華ノ月

文字の大きさ
上 下
15 / 140
第一章 白い鳥は黒いカラスに誘われる

第11話

しおりを挟む
「……うん。ごめんね。良くなったらまた電話するよ」

 翼はそう言って電話を切った。

 拓海に電話を掛けて、まだ咳が酷いからうつしたら悪いので活動はしばらく休みたいという事を伝えると、拓海は最初渋ったが、了承してくれた。

「はぁ……。早く良くなりたいような……良くなりたくないような……複雑な気分だな……」

 電話が終わり、翼がため息を吐きながら小さく呟く。熱はもう平熱に戻っていたが咳がまだ出るのは本当だった。

「ちょっとだけ、散歩に行こうかな……」

 窓の外を見て翼がそうぽつりと呟く。外は日差しが明るくて散歩をするにも丁度良い気候だった。

 翼はマスクをして服装もそれなりに暖かい服装に着替えると、家を出た。



「……はぁ、私としたことが……。まさかメモリースティックの容量が一杯だったなんて……」

 奏がため息を吐きながら道を歩く。

 物語を書いていて、切りの良いところまで書けたので万が一用にメモリースティックに保存をしておこうとしたら、メモリースティックの容量が一杯で保存することが出来なかったのだった。

(次はギガ数が多いのを買おう……)

 奏が心の中でそう言ってとぼとぼと道を歩く。

「あれ?あの人……」

 その時、前から歩いてくる人物を見て奏が小さく声を発する。


「こんにちは!もう大丈夫ですか?」

 奏がその人が傍まで近づいてきたので声を掛ける。

「君はあの時の……」

 翼が声を掛けてきたのが誰か分かって声を発する。

「体調、まだ良くないんですか?」

 翼がマスクをしているので奏が心配になって声を掛ける。

「多分風邪だと思うんだけど、咳がまだ完全に収まらなくてね。それで念のため、マスクをしているだけだよ」

「そうなんですね。今はお散歩ですか?」

 翼のラフな格好を見て奏がそう声を掛ける。

「うん。天気が良いからね。ちょっと軽く散歩しようと思って出てきたんだ。少しは身体を動かした方がいいと思って……」

「あの……、良かったら少しお話ししませんか?」

 奏がそう言って、翼と近くの広場に向かった。



「……はい!どうぞ!」

 奏がそう言ってホットのコーヒー缶を翼に差し出す。

 広場のベンチに翼と並んで座り、おしゃべりをしていた。

「……そうなんですね。翼さんのところはご両親と仲が良いのですね!」

 奏と翼がお互いの自己紹介を軽くして、翼が両親と仲が良いことを話す。

「うん。特に母の方は僕が記憶喪失のこともあって、凄く心配かけてる部分もあるんだけど、父も母もすごく良くしてくれるよ。申し訳ないって感じるくらいね」

 翼がどこか嬉しそうな恥ずかしそうな表情で言葉を綴る。

「そう言えば、翼さんは一体何があって記憶を失ったのですか?」

 奏が疑問だったことを聞く。

「それが……、その時のことを覚えていないんだ。気付いたら病院のベッドの上で警察も来て事情を聞かれたんだけど、全然分からなくて……」

 翼が申し訳ない表情で語る。

「……記憶がないのはその出来事だけなんですか?」

「うーん……。なんだか、所々記憶が抜けている感じかな?自分の名前や両親のことは分かるけど、人によっては覚えていたり覚えてなかったりって感じ……で……」

 奏の言葉に翼がそう説明をした後で、翼の表情がどんどん暗くなっていく。

「……僕、記憶無くなる前ってどうしてたんだろ……」

 翼の表情が更に影を落とす。

「……本当に僕、悪いことしていたのかな?」

「……え?」

 翼がポツリと呟いた言葉に奏が小さく声を上げる。

「あっ!ごめんね!変なこと言っちゃって!!」

 翼が急に申し訳ない笑顔で言葉を綴る。

「あの……、良かったらどういうことか教えてくれませんか?」

 奏がそう言葉を綴る。その言葉に翼は困った表情をするがポツリポツリと話し出した。

「その……、拓海君って人に言われたんだ……。お前は同類だって……。記憶を失っても悪いことをしたことには変わりないって……。それで……」

 そこで翼が言葉を詰まらす。話をしていいのかどうかの判断が付かない。話したらもしかしたら自分だけでなく、両親も殺されるかもしれない。それを考えると話すことが出来なかった。

 そうグルグルと考えている時だった。


 ――――ポタ……ポタ……ポタ……。


 翼の瞳から涙が零れ落ちる。

「大丈夫ですか?!」

 奏が声を上げる。そして、鞄からハンカチを取り出すと翼に渡した。翼はそのハンカチを受け取り、涙を拭うと声を殺しながら泣き始めた。

 しばらく泣き止むまで奏が傍で見守る。翼の背中を擦りながら泣き止むのをじっと待った。

 どれくらい時間が経っただろうか……。翼はしばらくすると泣き止み、ゆっくりと語りだした。

「僕はもうある事をしたくないんだ……。でも、拓海君からそれを止めたら家族も殺すって脅されていて……。他にも記憶を失う前の僕がやったことをばらすぞって脅されているんだ……。もうどうしたらいいか分からなくて、八方塞がりなんだよ……」

 翼がそう語りながら苦しむ表情を見せる。

「翼さん……。落ち着いて聞いてください。実は私――――」

 そう言って、奏が意を決してある事を話し始めた。



「南の島か……。行けるなら行きたいな……」

 美香が部屋で夜の仕事に行く準備をしながらポツリと呟く。

「ねぇ……拓海……。本当は何をやっているの……?」

 美香が誰もいない部屋で天井に向って小さく言葉を掛けた。



「じゃあ、これはあなたで間違いないのね?」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友よ、お前は何故死んだのか?

河内三比呂
ミステリー
「僕は、近いうちに死ぬかもしれない」 幼い頃からの悪友であり親友である久川洋壱(くがわよういち)から突如告げられた不穏な言葉に、私立探偵を営む進藤識(しんどうしき)は困惑し嫌な予感を覚えつつもつい流してしまう。 だが……しばらく経った頃、仕事終わりの識のもとへ連絡が入る。 それは洋壱の死の報せであった。 朝倉康平(あさくらこうへい)刑事から事情を訊かれた識はそこで洋壱の死が不可解である事、そして自分宛の手紙が発見された事を伝えられる。 悲しみの最中、朝倉から提案をされる。 ──それは、捜査協力の要請。 ただの民間人である自分に何ができるのか?悩みながらも承諾した識は、朝倉とともに洋壱の死の真相を探る事になる。 ──果たして、洋壱の死の真相とは一体……?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

旧校舎のフーディーニ

澤田慎梧
ミステリー
【「死体の写った写真」から始まる、人の死なないミステリー】 時は1993年。神奈川県立「比企谷(ひきがやつ)高校」一年生の藤本は、担任教師からクラス内で起こった盗難事件の解決を命じられてしまう。 困り果てた彼が頼ったのは、知る人ぞ知る「名探偵」である、奇術部の真白部長だった。 けれども、奇術部部室を訪ねてみると、そこには美少女の死体が転がっていて――。 奇術師にして名探偵、真白部長が学校の些細な謎や心霊現象を鮮やかに解決。 「タネも仕掛けもございます」 ★毎週月水金の12時くらいに更新予定 ※本作品は連作短編です。出来るだけ話数通りにお読みいただけると幸いです。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。 ※本作品の主な舞台は1993年(平成五年)ですが、当時の知識が無くてもお楽しみいただけます。 ※本作品はカクヨム様にて連載していたものを加筆修正したものとなります。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

母からの電話

naomikoryo
ミステリー
東京の静かな夜、30歳の男性ヒロシは、突然亡き母からの電話を受け取る。 母は数年前に他界したはずなのに、その声ははっきりとスマートフォンから聞こえてきた。 最初は信じられないヒロシだが、母の声が語る言葉には深い意味があり、彼は次第にその真実に引き寄せられていく。 母が命を懸けて守ろうとしていた秘密、そしてヒロシが知らなかった母の仕事。 それを追い求める中で、彼は恐ろしい陰謀と向き合わなければならない。 彼の未来を決定づける「最後の電話」に込められた母の思いとは一体何なのか? 真実と向き合うため、ヒロシはどんな犠牲を払う覚悟を決めるのか。 最後の母の電話と、選択の連続が織り成すサスペンスフルな物語。

幽子さんの謎解きレポート~しんいち君と霊感少女幽子さんの実話を元にした本格心霊ミステリー~

しんいち
キャラ文芸
オカルト好きの少年、「しんいち」は、小学生の時、彼が通う合気道の道場でお婆さんにつれられてきた不思議な少女と出会う。 のちに「幽子」と呼ばれる事になる少女との始めての出会いだった。 彼女には「霊感」と言われる、人の目には見えない物を感じ取る能力を秘めていた。しんいちはそんな彼女と友達になることを決意する。 そして高校生になった二人は、様々な怪奇でミステリアスな事件に関わっていくことになる。 事件を通じて出会う人々や経験は、彼らの成長を促し、友情を深めていく。 しかし、幽子にはしんいちにも秘密にしている一つの「想い」があった。 その想いとは一体何なのか?物語が進むにつれて、彼女の心の奥に秘められた真実が明らかになっていく。 友情と成長、そして幽子の隠された想いが交錯するミステリアスな物語。あなたも、しんいちと幽子の冒険に心を躍らせてみませんか?

雨の向こう側

サツキユキオ
ミステリー
山奥の保養所で行われるヨガの断食教室に参加した亀山佑月(かめやまゆづき)。他の参加者6人と共に独自ルールに支配された中での共同生活が始まるが────。

処理中です...