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第一章 白い鳥は黒いカラスに誘われる
第11話
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「……うん。ごめんね。良くなったらまた電話するよ」
翼はそう言って電話を切った。
拓海に電話を掛けて、まだ咳が酷いからうつしたら悪いので活動はしばらく休みたいという事を伝えると、拓海は最初渋ったが、了承してくれた。
「はぁ……。早く良くなりたいような……良くなりたくないような……複雑な気分だな……」
電話が終わり、翼がため息を吐きながら小さく呟く。熱はもう平熱に戻っていたが咳がまだ出るのは本当だった。
「ちょっとだけ、散歩に行こうかな……」
窓の外を見て翼がそうぽつりと呟く。外は日差しが明るくて散歩をするにも丁度良い気候だった。
翼はマスクをして服装もそれなりに暖かい服装に着替えると、家を出た。
「……はぁ、私としたことが……。まさかメモリースティックの容量が一杯だったなんて……」
奏がため息を吐きながら道を歩く。
物語を書いていて、切りの良いところまで書けたので万が一用にメモリースティックに保存をしておこうとしたら、メモリースティックの容量が一杯で保存することが出来なかったのだった。
(次はギガ数が多いのを買おう……)
奏が心の中でそう言ってとぼとぼと道を歩く。
「あれ?あの人……」
その時、前から歩いてくる人物を見て奏が小さく声を発する。
「こんにちは!もう大丈夫ですか?」
奏がその人が傍まで近づいてきたので声を掛ける。
「君はあの時の……」
翼が声を掛けてきたのが誰か分かって声を発する。
「体調、まだ良くないんですか?」
翼がマスクをしているので奏が心配になって声を掛ける。
「多分風邪だと思うんだけど、咳がまだ完全に収まらなくてね。それで念のため、マスクをしているだけだよ」
「そうなんですね。今はお散歩ですか?」
翼のラフな格好を見て奏がそう声を掛ける。
「うん。天気が良いからね。ちょっと軽く散歩しようと思って出てきたんだ。少しは身体を動かした方がいいと思って……」
「あの……、良かったら少しお話ししませんか?」
奏がそう言って、翼と近くの広場に向かった。
「……はい!どうぞ!」
奏がそう言ってホットのコーヒー缶を翼に差し出す。
広場のベンチに翼と並んで座り、おしゃべりをしていた。
「……そうなんですね。翼さんのところはご両親と仲が良いのですね!」
奏と翼がお互いの自己紹介を軽くして、翼が両親と仲が良いことを話す。
「うん。特に母の方は僕が記憶喪失のこともあって、凄く心配かけてる部分もあるんだけど、父も母もすごく良くしてくれるよ。申し訳ないって感じるくらいね」
翼がどこか嬉しそうな恥ずかしそうな表情で言葉を綴る。
「そう言えば、翼さんは一体何があって記憶を失ったのですか?」
奏が疑問だったことを聞く。
「それが……、その時のことを覚えていないんだ。気付いたら病院のベッドの上で警察も来て事情を聞かれたんだけど、全然分からなくて……」
翼が申し訳ない表情で語る。
「……記憶がないのはその出来事だけなんですか?」
「うーん……。なんだか、所々記憶が抜けている感じかな?自分の名前や両親のことは分かるけど、人によっては覚えていたり覚えてなかったりって感じ……で……」
奏の言葉に翼がそう説明をした後で、翼の表情がどんどん暗くなっていく。
「……僕、記憶無くなる前ってどうしてたんだろ……」
翼の表情が更に影を落とす。
「……本当に僕、悪いことしていたのかな?」
「……え?」
翼がポツリと呟いた言葉に奏が小さく声を上げる。
「あっ!ごめんね!変なこと言っちゃって!!」
翼が急に申し訳ない笑顔で言葉を綴る。
「あの……、良かったらどういうことか教えてくれませんか?」
奏がそう言葉を綴る。その言葉に翼は困った表情をするがポツリポツリと話し出した。
「その……、拓海君って人に言われたんだ……。お前は同類だって……。記憶を失っても悪いことをしたことには変わりないって……。それで……」
そこで翼が言葉を詰まらす。話をしていいのかどうかの判断が付かない。話したらもしかしたら自分だけでなく、両親も殺されるかもしれない。それを考えると話すことが出来なかった。
そうグルグルと考えている時だった。
――――ポタ……ポタ……ポタ……。
翼の瞳から涙が零れ落ちる。
「大丈夫ですか?!」
奏が声を上げる。そして、鞄からハンカチを取り出すと翼に渡した。翼はそのハンカチを受け取り、涙を拭うと声を殺しながら泣き始めた。
しばらく泣き止むまで奏が傍で見守る。翼の背中を擦りながら泣き止むのをじっと待った。
どれくらい時間が経っただろうか……。翼はしばらくすると泣き止み、ゆっくりと語りだした。
「僕はもうある事をしたくないんだ……。でも、拓海君からそれを止めたら家族も殺すって脅されていて……。他にも記憶を失う前の僕がやったことをばらすぞって脅されているんだ……。もうどうしたらいいか分からなくて、八方塞がりなんだよ……」
翼がそう語りながら苦しむ表情を見せる。
「翼さん……。落ち着いて聞いてください。実は私――――」
そう言って、奏が意を決してある事を話し始めた。
「南の島か……。行けるなら行きたいな……」
美香が部屋で夜の仕事に行く準備をしながらポツリと呟く。
「ねぇ……拓海……。本当は何をやっているの……?」
美香が誰もいない部屋で天井に向って小さく言葉を掛けた。
「じゃあ、これはあなたで間違いないのね?」
翼はそう言って電話を切った。
拓海に電話を掛けて、まだ咳が酷いからうつしたら悪いので活動はしばらく休みたいという事を伝えると、拓海は最初渋ったが、了承してくれた。
「はぁ……。早く良くなりたいような……良くなりたくないような……複雑な気分だな……」
電話が終わり、翼がため息を吐きながら小さく呟く。熱はもう平熱に戻っていたが咳がまだ出るのは本当だった。
「ちょっとだけ、散歩に行こうかな……」
窓の外を見て翼がそうぽつりと呟く。外は日差しが明るくて散歩をするにも丁度良い気候だった。
翼はマスクをして服装もそれなりに暖かい服装に着替えると、家を出た。
「……はぁ、私としたことが……。まさかメモリースティックの容量が一杯だったなんて……」
奏がため息を吐きながら道を歩く。
物語を書いていて、切りの良いところまで書けたので万が一用にメモリースティックに保存をしておこうとしたら、メモリースティックの容量が一杯で保存することが出来なかったのだった。
(次はギガ数が多いのを買おう……)
奏が心の中でそう言ってとぼとぼと道を歩く。
「あれ?あの人……」
その時、前から歩いてくる人物を見て奏が小さく声を発する。
「こんにちは!もう大丈夫ですか?」
奏がその人が傍まで近づいてきたので声を掛ける。
「君はあの時の……」
翼が声を掛けてきたのが誰か分かって声を発する。
「体調、まだ良くないんですか?」
翼がマスクをしているので奏が心配になって声を掛ける。
「多分風邪だと思うんだけど、咳がまだ完全に収まらなくてね。それで念のため、マスクをしているだけだよ」
「そうなんですね。今はお散歩ですか?」
翼のラフな格好を見て奏がそう声を掛ける。
「うん。天気が良いからね。ちょっと軽く散歩しようと思って出てきたんだ。少しは身体を動かした方がいいと思って……」
「あの……、良かったら少しお話ししませんか?」
奏がそう言って、翼と近くの広場に向かった。
「……はい!どうぞ!」
奏がそう言ってホットのコーヒー缶を翼に差し出す。
広場のベンチに翼と並んで座り、おしゃべりをしていた。
「……そうなんですね。翼さんのところはご両親と仲が良いのですね!」
奏と翼がお互いの自己紹介を軽くして、翼が両親と仲が良いことを話す。
「うん。特に母の方は僕が記憶喪失のこともあって、凄く心配かけてる部分もあるんだけど、父も母もすごく良くしてくれるよ。申し訳ないって感じるくらいね」
翼がどこか嬉しそうな恥ずかしそうな表情で言葉を綴る。
「そう言えば、翼さんは一体何があって記憶を失ったのですか?」
奏が疑問だったことを聞く。
「それが……、その時のことを覚えていないんだ。気付いたら病院のベッドの上で警察も来て事情を聞かれたんだけど、全然分からなくて……」
翼が申し訳ない表情で語る。
「……記憶がないのはその出来事だけなんですか?」
「うーん……。なんだか、所々記憶が抜けている感じかな?自分の名前や両親のことは分かるけど、人によっては覚えていたり覚えてなかったりって感じ……で……」
奏の言葉に翼がそう説明をした後で、翼の表情がどんどん暗くなっていく。
「……僕、記憶無くなる前ってどうしてたんだろ……」
翼の表情が更に影を落とす。
「……本当に僕、悪いことしていたのかな?」
「……え?」
翼がポツリと呟いた言葉に奏が小さく声を上げる。
「あっ!ごめんね!変なこと言っちゃって!!」
翼が急に申し訳ない笑顔で言葉を綴る。
「あの……、良かったらどういうことか教えてくれませんか?」
奏がそう言葉を綴る。その言葉に翼は困った表情をするがポツリポツリと話し出した。
「その……、拓海君って人に言われたんだ……。お前は同類だって……。記憶を失っても悪いことをしたことには変わりないって……。それで……」
そこで翼が言葉を詰まらす。話をしていいのかどうかの判断が付かない。話したらもしかしたら自分だけでなく、両親も殺されるかもしれない。それを考えると話すことが出来なかった。
そうグルグルと考えている時だった。
――――ポタ……ポタ……ポタ……。
翼の瞳から涙が零れ落ちる。
「大丈夫ですか?!」
奏が声を上げる。そして、鞄からハンカチを取り出すと翼に渡した。翼はそのハンカチを受け取り、涙を拭うと声を殺しながら泣き始めた。
しばらく泣き止むまで奏が傍で見守る。翼の背中を擦りながら泣き止むのをじっと待った。
どれくらい時間が経っただろうか……。翼はしばらくすると泣き止み、ゆっくりと語りだした。
「僕はもうある事をしたくないんだ……。でも、拓海君からそれを止めたら家族も殺すって脅されていて……。他にも記憶を失う前の僕がやったことをばらすぞって脅されているんだ……。もうどうしたらいいか分からなくて、八方塞がりなんだよ……」
翼がそう語りながら苦しむ表情を見せる。
「翼さん……。落ち着いて聞いてください。実は私――――」
そう言って、奏が意を決してある事を話し始めた。
「南の島か……。行けるなら行きたいな……」
美香が部屋で夜の仕事に行く準備をしながらポツリと呟く。
「ねぇ……拓海……。本当は何をやっているの……?」
美香が誰もいない部屋で天井に向って小さく言葉を掛けた。
「じゃあ、これはあなたで間違いないのね?」
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