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第一章 白い鳥は黒いカラスに誘われる
第1話
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~プロローグ~
「やっぱりこんな事できないよ……」
一人の男が悲痛な顔でもう一人の黒ずくめの男に言う。
「今さら何を言ってるんだよ。言っただろ?お前は記憶を失う前は悪い奴だったって……」
黒ずくめの男が嘲笑うかのようにそう言葉を綴る。
「……次はへまするんじゃねぇぞ……」
黒ずくめの男がそう言葉を投げかける。その言葉に男は何も言えない。
「次はこの番号に電話を掛けて息子を名乗れ。そして、ここに金を振り込むように誘導しろ。いいな?」
黒ずくめの男は一枚の紙を男に渡し、その場を離れていく。
男は何も言えないまま、その番号に電話をするために紙に書かれた番号のボタンを押した。
1.
「は……初めまして!本日付で特殊捜査員になりました水無月奏です!よろしくお願いします!!」
奏が緊張したまま、頭を深く下げて最初の挨拶をする。
あの後、門野から相棒として紹介された透に連れてこられて、奏はこの特殊捜査室にやってきた。
「初めましてー!俺は進藤 紅蓮って言うんだ!紅蓮って呼んでな!君が奏ちゃんだよね?!この特殊捜査室で分からないことがあったら何でも聞いてね!この、カッコよくクールなイケメン紅蓮にな!!」
かなりテンションの高い紅蓮と名乗る男が最後の言葉は決め顔で言う。その紅蓮の態度に奏がどう返事をしていいか分からずにたじろぐ。身長は高い方だろう。年齢も二十代半ばくらいで顔も悪くはないが「自画自賛」とも取れる言葉を並べる所からかなりのナルシストなのではないかと思えてくる。その紅蓮が急に左手で奏の顎を持ち上げた。
「お近づきの印に口づけを……」
――――スパーン!!!
スーツを着こなしたカッコイイとも取れる三十代くらいであろう背が高めの女性がハリセンで紅蓮の頭を思いきりはたく。
「このナルシスト男が……。そういうことはここではするなって言ってるだろ……」
カッコイイ系の女性が怒りモードで紅蓮の襟首を掴みながら鬼の形相で言う。
「す……すいません!冴子さん!その……ちょっとした冗談ですよ~」
紅蓮が冴子と呼ぶ女性に必死で謝る。
「今度こんな事をしたら埋めるから覚悟しときなさいね……」
目を光らせながら冴子が言葉を綴る。
「冴子さん、どうせなら今から埋めましょう」
「あら、槙♪今から埋めてもいいけど、埋めるときは手伝ってね♪」
「了解です。その時は喜んで協力致します!」
「えぇ、よろしくね♪」
槙と呼ばれた少し小柄な二十代前半くらいの男がご丁寧にシャベルを持って冴子と怖い会話を繰り広げる。
「なんでシャベルがあるんだよ?!」
紅蓮が槙の手に持っているシャベルを見て突っ込みを入れる。
「おちゃらけ男をいつでも埋められるように準備は怠っていない」
槙が冷たい目で紅蓮を見ながら淡々と言葉を吐く。
「酷いわ!相棒に対してその言い草!!」
紅蓮がオネェのような喋り方で言葉を綴る。
「俺はお前みたいなのが相棒だとは思いたくないがな」
槙はその話し方が普通なのか、淡々と言葉を綴る。
「槙!年下のくせに生意気だぞ!年上を敬え!」
「敬えるわけないだろ。お前みたいなバカ男を」
「女性経験のない奴に言われたくねえよ!」
「うるさい。女たらしが」
怒鳴り散らす紅蓮と冷静な槙の言い合いが熱を帯びる。
「まぁまぁ、槙。そのくらいにしておきなさい。槙の言うことは一理あるけどね♪」
「冴子さん!酷いですよ!」
「ホントの事だから仕方ないじゃない♪」
紅蓮の言葉に冴子がニコニコ顔で言葉を返す。
「……冴子さん、新人が呆けていますよ?」
「「「え?あっ……」」」
奏の存在をすっかり忘れていたのか、紅蓮たちが透の言葉で新人が来ていたことを思い出す。奏は目の前で繰り広げられている展開に付いて行けずに、目が点のまま固まっていた。
「あははっ!ごめんごめん。自己紹介が遅れたわね。私はこの特殊捜査室の室長で小宮山 冴子と言うの。冴子さんって呼んでね♪で、このアホ面したナルシスト男が進藤 紅蓮。紅蓮はこう見えて銃を得意とするのよ。犯人を追い詰めて銃撃戦になった時が彼の出番って感じかしら?そして、こっちが岡島 槙。彼はパソコンが大の得意でね。パソコンを使って分析や解析を行なったり、時には犯人を捕まえるためのソフトの開発も行って貰っているわ。そして、もう自己紹介があったと思うけど、あなたの相棒になった彼は結城 透。彼は考察に長けていてね。事件から犯人像を考察して犯人を追跡してもらっているわ。メンバーはこれで全部よ。ちなみにここではファーストネームで呼び合っているから、あなたのことも名前で呼ばせてもらうわね。改めまして、特殊捜査室にようこそ♪よろしくね♪奏ちゃん♪」
それぞれの自己紹介を冴子が行い最後には満面の笑みで奏に微笑みかける。
「よ……よろしくお願いします!!」
奏が冴子の言葉に慌ててお辞儀をする。
(……なんか、とんでもないところに来ちゃったかも……?)
奏が一抹の不安を抱えながら、そう心で言葉を綴る。しかし、それと同時にワクワクしている自分もいた。
「……じゃあ、今日も例の事件の捜査会議を開始するわよ」
冴子がそう言って、メンバー揃っての会議を開始した。
例の事件とは、最近起こっている詐欺事件の事だ。どうやらグループで詐欺を行っているようなのだが、尻尾が掴めないでいる。狙われているのは老人が多く、独り身を狙っているという事。詐欺の手口としては古典的だが息子や娘を名乗っているらしい。しかし、その名乗っている名前がその老人の本当の息子や娘の名前らしく、被害者は騙されやすくなっているという事だった。
「……で、そのグループだと思われるところからある老人に電話があったらしいのだけど、なんというか、妙な事があったみたいよ……」
「妙な事?」
冴子の言葉に透が言葉を繰り返す。
「えぇ。その老人の話だと、確かに息子と名乗る人物から電話があったみたい。その後でその息子の奥さんがいつものように様子を見に来た時にその息子のことを老人が話して、奥さんの方が詐欺じゃないかと言って警察に通報があったのよ。でも、妙なのはその老人の話では息子さんが事故を起こしてしまって示談金にお金がいるから立て替えてもらえないかと言う内容だったのだけど……」
「それのどこが妙なんですか?」
その言葉に槙が疑問を問う。
冴子の話は何処にでもあるような詐欺の手口で妙な事は感じられない。
「それが、急にその電話の相手が「やっぱりいいよ。自分で何とかするからお金は大事にしてね」って言ったそうなのよ」
「確かにそれは妙ですね……」
槙が神妙な顔で言う。
「その掛け子はやりたくないのにやらされているかもしれないってことか?」
紅蓮が言う。
「あり得るかもしれないな。何かしらの理由で強制的に掛け子をさせられているのかもしれない……」
紅蓮の言葉に透が同意するように言葉を綴る。
「まぁ、その可能性が高いでしょうね……。その掛け子とコンタクトが取れればいいのだけど、何処の誰かも全く分からないから探しようがないわ……」
冴子がため息を吐きながら言う。
「冴子さん、その掛け子からの電話の録音はありますか?」
槙が冴子にそう尋ねる。
「……残念ながらその老人の家の電話には録音機能が無いから残ってないそうよ」
「……そうですか」
冴子の言葉に槙が落胆の声を出す。
「残っていたらそれを分析してもらって何か手掛かりがつかめると思ったのだけどね……」
冴子も槙と同様に落胆しながら言葉を綴る。
どういうことかと言えば、その時の録音があれば槙にパソコンで分析してもらい、声だけではなく、周囲の音から何かしら手掛かりが見つかる可能性が出てくるからだ。しかし、その録音は無い。八方塞がりの状態だが、かといってここで投げ出すわけにはいかない。
「とりあえず、こういった事件は通報されないと闇に埋もれるわ……。また、動きがあったらその時は報告します」
冴子がそう告げ、今日の捜査会議を終了する。
「……と、いうわけで♪今から奏ちゃんの歓迎パーティーにいつもの店にレッツゴーよ♪」
こうして、冴子の一声で奏の歓迎パーティーをするためにいつもの店に出向いた。
「「「カンパーイ!!!」」」
奏の歓迎を祝ってみんなで乾杯する。
ここは冴子たちの行きつけの居酒屋らしく、たまにみんなで事件が無事解決したりすると、ここでお疲れ様パーティーをするらしい。冴子が奏に飲み物を何にするか聞かれたので、とりあえず甘めのサワーをお願いした。冴子はビールを注文し、透と紅蓮はハイボール、槙はレモンサワーをそれぞれ注文した。
「へい!お待ち!!」
居酒屋の店主が飲み物を運んでくる。かなりガタイのいい店主でどことなく昔の江戸っ子とでも言うような雰囲気を漂わせていた。
「ありがとう♪難波さん♪」
「冴子さんたちは常連さんだからな!後でサービスのちょっとした料理も持ってくるよ!おや?初顔だな……。新入りかい?」
難波が奏を見てそう言葉を綴る。
「えぇ♪今日から私たちのところに来た奏ちゃんよ♪」
「わっはっはっ!そうかそうか!まぁ、ゆっくりしてってくれよ!!」
難波が笑いながら楽しそうに言う。
「あっ!そうだ。難波さん、ちょっとお願いがあるんだけど……」
「なんだ?」
冴子がそう言って難波にある事を耳打ちする。
「……あぁ、それは構わないがいったい何に使うんだ?」
「ちょっとね♪もしかしたら、必要になるかも……だから♪」
冴子のお願いに難波の頭の上ではてなマークが飛び交う。
難波は冴子のお願いを聞き「後で持ってくる」と言うと、その場を去っていった。
「へぇ~……。奏ちゃん、彼氏いるんだ」
紅蓮が奏に付き合っている人がいないかを聞いてきたので奏は恋人がいることを伝える。
「あら♪いいわね♪何の仕事をしているの?♪」
冴子も興味があるのか、その恋人のことを聞く。
「フリーで仕事をしている方です。これからの世代の子供たちのために世界中を飛び回っているんですよ」
「世界?!ってことは全然会えないじゃん!それで付き合っているって言えるの?!」
奏の言葉に紅蓮が驚いたように言葉を発する。
「その……、ずっと海外にいるのではなくて、海外に行くのはたまになんです。こっちにいる時は会ってますよ?」
「じゃあ、今はどっちにいるんだ?」
奏の言葉に今度は槙が聞いてくる。
「今は、海外にいます。来週には戻ってきますよ」
奏が笑顔で言葉を綴る。
「でも凄いわね♪これからの子供たちのための仕事だなんて♪」
冴子が感心したように言葉を綴る。
「はい!彼の事はとても尊敬しています。本当に素晴らしいお仕事だと思って応援したいって思っているのです」
奏が少し頬を染めながら嬉しそうに話す。
「妬けるぜ……、全く……。ちくしょぉぉぉ~!俺の方がいい男なのにぃぃぃ~!!」
紅蓮がハイボールをがぶ飲みしながら悔し紛れの声を上げる。
「そういえば、透の彼女は元気なのか?」
槙が思い出したようにその言葉を綴る。
「あぁ。元気だよ」
透が素っ気なく答える。
「透さんもお付き合いしている方がいるんですね!」
奏が嬉しそうにそう言葉を綴る。
「そうよ♪芹香ちゃんって言ってね♪割と背の高い面白い子よ♪」
透の代わりに冴子が答える。
「まぁ、天然バカだけどな」
透が興味なさげのように言葉を綴る。
「いいよなぁ~。確か幼馴染だったよな?」
「そうだな」
紅蓮の言葉にも透は相変わらずそっけなく答える。
「そういえば、紅蓮の彼女はまた変わったんだってな」
透が紅蓮にそう問いかける。
「相変わらずころころ女が変わるやつだな」
槙が淡々と答える。
「安心しろ!次の彼女は間違いない!」
「「「毎回それを言っていないか???」」」
紅蓮の言葉に透と冴子と槙が同時に突っ込む。
「でも、奏ちゃんなら欲しいかも♪」
紅蓮が奏にキラキラ顔を向けて言葉を発する。
「奏ちゃん。どう?俺みたいな男ならあんな事やこんな事でも退屈させないよ?」
紅蓮が奏の手を取り、キラキラモードでそう言葉を掛ける。
――――ガコーン!!
「いい加減にせんか!」
冴子が紅蓮の頭を空になっているビール瓶で叩く。
「イッテェェェェ!!」
頭を叩かれた紅蓮が叫び声をあげる。
「なんでビール瓶があるんだよ?!」
紅蓮がそのことを不思議に思い、声を発する。
「さっき、難波さんに頼んでおいたから♪」
冴子が得意そうな笑顔を浮かべてそう言葉を綴る。
どうやら難波に耳打ちしていたのはこの事だったらしい。紅蓮の事だから奏にまた何かを言うか何かするかもしれないと思った冴子は空になったビール瓶をそっと持ってくるようにお願いしてあったのだった。
――――ガラガラガラ……。
店の扉が開き、二人組の男の客が入って来る。
「そう言えばさ、あの例の子はどうなんだよ?」
「使い物にならねぇよ……。また別の使い道を考えないとな」
「あんな甘ちゃんにできるのかよ?」
「させるんだよ……。戻れねぇようにな……」
「悪い奴だな」
「ははっ。お前に言われたくねぇよ」
そんな会話をしながら席に着く。
「どうしたんだ?」
奏が何かをじっと見ているのに気付いた透が声を掛ける。
「今の人たちって……」
「やっぱりこんな事できないよ……」
一人の男が悲痛な顔でもう一人の黒ずくめの男に言う。
「今さら何を言ってるんだよ。言っただろ?お前は記憶を失う前は悪い奴だったって……」
黒ずくめの男が嘲笑うかのようにそう言葉を綴る。
「……次はへまするんじゃねぇぞ……」
黒ずくめの男がそう言葉を投げかける。その言葉に男は何も言えない。
「次はこの番号に電話を掛けて息子を名乗れ。そして、ここに金を振り込むように誘導しろ。いいな?」
黒ずくめの男は一枚の紙を男に渡し、その場を離れていく。
男は何も言えないまま、その番号に電話をするために紙に書かれた番号のボタンを押した。
1.
「は……初めまして!本日付で特殊捜査員になりました水無月奏です!よろしくお願いします!!」
奏が緊張したまま、頭を深く下げて最初の挨拶をする。
あの後、門野から相棒として紹介された透に連れてこられて、奏はこの特殊捜査室にやってきた。
「初めましてー!俺は進藤 紅蓮って言うんだ!紅蓮って呼んでな!君が奏ちゃんだよね?!この特殊捜査室で分からないことがあったら何でも聞いてね!この、カッコよくクールなイケメン紅蓮にな!!」
かなりテンションの高い紅蓮と名乗る男が最後の言葉は決め顔で言う。その紅蓮の態度に奏がどう返事をしていいか分からずにたじろぐ。身長は高い方だろう。年齢も二十代半ばくらいで顔も悪くはないが「自画自賛」とも取れる言葉を並べる所からかなりのナルシストなのではないかと思えてくる。その紅蓮が急に左手で奏の顎を持ち上げた。
「お近づきの印に口づけを……」
――――スパーン!!!
スーツを着こなしたカッコイイとも取れる三十代くらいであろう背が高めの女性がハリセンで紅蓮の頭を思いきりはたく。
「このナルシスト男が……。そういうことはここではするなって言ってるだろ……」
カッコイイ系の女性が怒りモードで紅蓮の襟首を掴みながら鬼の形相で言う。
「す……すいません!冴子さん!その……ちょっとした冗談ですよ~」
紅蓮が冴子と呼ぶ女性に必死で謝る。
「今度こんな事をしたら埋めるから覚悟しときなさいね……」
目を光らせながら冴子が言葉を綴る。
「冴子さん、どうせなら今から埋めましょう」
「あら、槙♪今から埋めてもいいけど、埋めるときは手伝ってね♪」
「了解です。その時は喜んで協力致します!」
「えぇ、よろしくね♪」
槙と呼ばれた少し小柄な二十代前半くらいの男がご丁寧にシャベルを持って冴子と怖い会話を繰り広げる。
「なんでシャベルがあるんだよ?!」
紅蓮が槙の手に持っているシャベルを見て突っ込みを入れる。
「おちゃらけ男をいつでも埋められるように準備は怠っていない」
槙が冷たい目で紅蓮を見ながら淡々と言葉を吐く。
「酷いわ!相棒に対してその言い草!!」
紅蓮がオネェのような喋り方で言葉を綴る。
「俺はお前みたいなのが相棒だとは思いたくないがな」
槙はその話し方が普通なのか、淡々と言葉を綴る。
「槙!年下のくせに生意気だぞ!年上を敬え!」
「敬えるわけないだろ。お前みたいなバカ男を」
「女性経験のない奴に言われたくねえよ!」
「うるさい。女たらしが」
怒鳴り散らす紅蓮と冷静な槙の言い合いが熱を帯びる。
「まぁまぁ、槙。そのくらいにしておきなさい。槙の言うことは一理あるけどね♪」
「冴子さん!酷いですよ!」
「ホントの事だから仕方ないじゃない♪」
紅蓮の言葉に冴子がニコニコ顔で言葉を返す。
「……冴子さん、新人が呆けていますよ?」
「「「え?あっ……」」」
奏の存在をすっかり忘れていたのか、紅蓮たちが透の言葉で新人が来ていたことを思い出す。奏は目の前で繰り広げられている展開に付いて行けずに、目が点のまま固まっていた。
「あははっ!ごめんごめん。自己紹介が遅れたわね。私はこの特殊捜査室の室長で小宮山 冴子と言うの。冴子さんって呼んでね♪で、このアホ面したナルシスト男が進藤 紅蓮。紅蓮はこう見えて銃を得意とするのよ。犯人を追い詰めて銃撃戦になった時が彼の出番って感じかしら?そして、こっちが岡島 槙。彼はパソコンが大の得意でね。パソコンを使って分析や解析を行なったり、時には犯人を捕まえるためのソフトの開発も行って貰っているわ。そして、もう自己紹介があったと思うけど、あなたの相棒になった彼は結城 透。彼は考察に長けていてね。事件から犯人像を考察して犯人を追跡してもらっているわ。メンバーはこれで全部よ。ちなみにここではファーストネームで呼び合っているから、あなたのことも名前で呼ばせてもらうわね。改めまして、特殊捜査室にようこそ♪よろしくね♪奏ちゃん♪」
それぞれの自己紹介を冴子が行い最後には満面の笑みで奏に微笑みかける。
「よ……よろしくお願いします!!」
奏が冴子の言葉に慌ててお辞儀をする。
(……なんか、とんでもないところに来ちゃったかも……?)
奏が一抹の不安を抱えながら、そう心で言葉を綴る。しかし、それと同時にワクワクしている自分もいた。
「……じゃあ、今日も例の事件の捜査会議を開始するわよ」
冴子がそう言って、メンバー揃っての会議を開始した。
例の事件とは、最近起こっている詐欺事件の事だ。どうやらグループで詐欺を行っているようなのだが、尻尾が掴めないでいる。狙われているのは老人が多く、独り身を狙っているという事。詐欺の手口としては古典的だが息子や娘を名乗っているらしい。しかし、その名乗っている名前がその老人の本当の息子や娘の名前らしく、被害者は騙されやすくなっているという事だった。
「……で、そのグループだと思われるところからある老人に電話があったらしいのだけど、なんというか、妙な事があったみたいよ……」
「妙な事?」
冴子の言葉に透が言葉を繰り返す。
「えぇ。その老人の話だと、確かに息子と名乗る人物から電話があったみたい。その後でその息子の奥さんがいつものように様子を見に来た時にその息子のことを老人が話して、奥さんの方が詐欺じゃないかと言って警察に通報があったのよ。でも、妙なのはその老人の話では息子さんが事故を起こしてしまって示談金にお金がいるから立て替えてもらえないかと言う内容だったのだけど……」
「それのどこが妙なんですか?」
その言葉に槙が疑問を問う。
冴子の話は何処にでもあるような詐欺の手口で妙な事は感じられない。
「それが、急にその電話の相手が「やっぱりいいよ。自分で何とかするからお金は大事にしてね」って言ったそうなのよ」
「確かにそれは妙ですね……」
槙が神妙な顔で言う。
「その掛け子はやりたくないのにやらされているかもしれないってことか?」
紅蓮が言う。
「あり得るかもしれないな。何かしらの理由で強制的に掛け子をさせられているのかもしれない……」
紅蓮の言葉に透が同意するように言葉を綴る。
「まぁ、その可能性が高いでしょうね……。その掛け子とコンタクトが取れればいいのだけど、何処の誰かも全く分からないから探しようがないわ……」
冴子がため息を吐きながら言う。
「冴子さん、その掛け子からの電話の録音はありますか?」
槙が冴子にそう尋ねる。
「……残念ながらその老人の家の電話には録音機能が無いから残ってないそうよ」
「……そうですか」
冴子の言葉に槙が落胆の声を出す。
「残っていたらそれを分析してもらって何か手掛かりがつかめると思ったのだけどね……」
冴子も槙と同様に落胆しながら言葉を綴る。
どういうことかと言えば、その時の録音があれば槙にパソコンで分析してもらい、声だけではなく、周囲の音から何かしら手掛かりが見つかる可能性が出てくるからだ。しかし、その録音は無い。八方塞がりの状態だが、かといってここで投げ出すわけにはいかない。
「とりあえず、こういった事件は通報されないと闇に埋もれるわ……。また、動きがあったらその時は報告します」
冴子がそう告げ、今日の捜査会議を終了する。
「……と、いうわけで♪今から奏ちゃんの歓迎パーティーにいつもの店にレッツゴーよ♪」
こうして、冴子の一声で奏の歓迎パーティーをするためにいつもの店に出向いた。
「「「カンパーイ!!!」」」
奏の歓迎を祝ってみんなで乾杯する。
ここは冴子たちの行きつけの居酒屋らしく、たまにみんなで事件が無事解決したりすると、ここでお疲れ様パーティーをするらしい。冴子が奏に飲み物を何にするか聞かれたので、とりあえず甘めのサワーをお願いした。冴子はビールを注文し、透と紅蓮はハイボール、槙はレモンサワーをそれぞれ注文した。
「へい!お待ち!!」
居酒屋の店主が飲み物を運んでくる。かなりガタイのいい店主でどことなく昔の江戸っ子とでも言うような雰囲気を漂わせていた。
「ありがとう♪難波さん♪」
「冴子さんたちは常連さんだからな!後でサービスのちょっとした料理も持ってくるよ!おや?初顔だな……。新入りかい?」
難波が奏を見てそう言葉を綴る。
「えぇ♪今日から私たちのところに来た奏ちゃんよ♪」
「わっはっはっ!そうかそうか!まぁ、ゆっくりしてってくれよ!!」
難波が笑いながら楽しそうに言う。
「あっ!そうだ。難波さん、ちょっとお願いがあるんだけど……」
「なんだ?」
冴子がそう言って難波にある事を耳打ちする。
「……あぁ、それは構わないがいったい何に使うんだ?」
「ちょっとね♪もしかしたら、必要になるかも……だから♪」
冴子のお願いに難波の頭の上ではてなマークが飛び交う。
難波は冴子のお願いを聞き「後で持ってくる」と言うと、その場を去っていった。
「へぇ~……。奏ちゃん、彼氏いるんだ」
紅蓮が奏に付き合っている人がいないかを聞いてきたので奏は恋人がいることを伝える。
「あら♪いいわね♪何の仕事をしているの?♪」
冴子も興味があるのか、その恋人のことを聞く。
「フリーで仕事をしている方です。これからの世代の子供たちのために世界中を飛び回っているんですよ」
「世界?!ってことは全然会えないじゃん!それで付き合っているって言えるの?!」
奏の言葉に紅蓮が驚いたように言葉を発する。
「その……、ずっと海外にいるのではなくて、海外に行くのはたまになんです。こっちにいる時は会ってますよ?」
「じゃあ、今はどっちにいるんだ?」
奏の言葉に今度は槙が聞いてくる。
「今は、海外にいます。来週には戻ってきますよ」
奏が笑顔で言葉を綴る。
「でも凄いわね♪これからの子供たちのための仕事だなんて♪」
冴子が感心したように言葉を綴る。
「はい!彼の事はとても尊敬しています。本当に素晴らしいお仕事だと思って応援したいって思っているのです」
奏が少し頬を染めながら嬉しそうに話す。
「妬けるぜ……、全く……。ちくしょぉぉぉ~!俺の方がいい男なのにぃぃぃ~!!」
紅蓮がハイボールをがぶ飲みしながら悔し紛れの声を上げる。
「そういえば、透の彼女は元気なのか?」
槙が思い出したようにその言葉を綴る。
「あぁ。元気だよ」
透が素っ気なく答える。
「透さんもお付き合いしている方がいるんですね!」
奏が嬉しそうにそう言葉を綴る。
「そうよ♪芹香ちゃんって言ってね♪割と背の高い面白い子よ♪」
透の代わりに冴子が答える。
「まぁ、天然バカだけどな」
透が興味なさげのように言葉を綴る。
「いいよなぁ~。確か幼馴染だったよな?」
「そうだな」
紅蓮の言葉にも透は相変わらずそっけなく答える。
「そういえば、紅蓮の彼女はまた変わったんだってな」
透が紅蓮にそう問いかける。
「相変わらずころころ女が変わるやつだな」
槙が淡々と答える。
「安心しろ!次の彼女は間違いない!」
「「「毎回それを言っていないか???」」」
紅蓮の言葉に透と冴子と槙が同時に突っ込む。
「でも、奏ちゃんなら欲しいかも♪」
紅蓮が奏にキラキラ顔を向けて言葉を発する。
「奏ちゃん。どう?俺みたいな男ならあんな事やこんな事でも退屈させないよ?」
紅蓮が奏の手を取り、キラキラモードでそう言葉を掛ける。
――――ガコーン!!
「いい加減にせんか!」
冴子が紅蓮の頭を空になっているビール瓶で叩く。
「イッテェェェェ!!」
頭を叩かれた紅蓮が叫び声をあげる。
「なんでビール瓶があるんだよ?!」
紅蓮がそのことを不思議に思い、声を発する。
「さっき、難波さんに頼んでおいたから♪」
冴子が得意そうな笑顔を浮かべてそう言葉を綴る。
どうやら難波に耳打ちしていたのはこの事だったらしい。紅蓮の事だから奏にまた何かを言うか何かするかもしれないと思った冴子は空になったビール瓶をそっと持ってくるようにお願いしてあったのだった。
――――ガラガラガラ……。
店の扉が開き、二人組の男の客が入って来る。
「そう言えばさ、あの例の子はどうなんだよ?」
「使い物にならねぇよ……。また別の使い道を考えないとな」
「あんな甘ちゃんにできるのかよ?」
「させるんだよ……。戻れねぇようにな……」
「悪い奴だな」
「ははっ。お前に言われたくねぇよ」
そんな会話をしながら席に着く。
「どうしたんだ?」
奏が何かをじっと見ているのに気付いた透が声を掛ける。
「今の人たちって……」
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