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4章
56-1. 悪阻の解消法 ロイド
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有瓜が悪阻になった。
前日まで、その兆候は全くなかったし、日数的にもまだ妊娠二ヶ月ほどだ。俺は、悪阻というのは妊娠三ヶ月の辺りで起こるものだと思っていたから、完璧に油断していた。
有瓜はある朝起きたら具合が悪くなったきり、今日で五日目だ。容体は全く良くなっていない。
「中にいるの、竜の子だもんな。普通に考えてどうするんだよ、って話だったよ」
シャーリーとアンのときも妊娠から出産まで早かった。それに比べて、有瓜の下腹部は膨らみ方が常識的だったから油断した。
「アンの悪阻も酷かったっけな……」
でも、アンのときは村から貰ってきたお酢のおかげで乗り切ることができた。勿論、有瓜にもお酢を試してもらったけれど、駄目だった。
「酸っぱくて気持ち悪い……うっ……!」
結局、有瓜が口にできたのは、湯冷ましとユタカの実だけだった。それ以外は、肉も野菜も果物も香辛料も一切合切、受け付けなかった。
「ごめんなさい、義兄さん。こんな、急に……うっ……」
「有瓜、無理に喋らなくていい。とにかく横になってろ」
いま有瓜は、木陰に敷いた毛皮の上で仰向けになって、ゴブリンたちに団扇で扇がれている。この団扇は、椅子などを作ったときの端材に大きな葉っぱを膠で貼り付け、持ち手に毛皮の端切れを巻いたものだ。とても残念な出来映えなのだけど、ゆっくりと扇げば壊れずに微風を起こすくらいはできた。少なくとも、毛皮のパンツで扇ぐよりは百倍マシだった。
木陰で微風を受けながらも、有瓜の顔色は悪い。土気色というやつだ。アンの悪阻も酷かったけれど、これほどではなかった。
「有瓜……」
本当に大丈夫か――と言いかけて、止めた。言っても詮ないことだと気づいたからだ。
「義兄さん、酷い顔してますよ」
有瓜がくすりと笑う。土気色の笑顔だ。そんなのを見せられたら、俺はますます酷い顔になってしまうじゃないか。
「大丈夫ですよ、義兄さん。世の中、悪阻で苦しんだひとは大勢いますけど、悪阻で死んだひとはいません。だから大丈夫ですって」
「……悪阻でまともな食事ができなくなって衰弱死したひとはいるんじゃないか?」
「義兄さん、ここは健気に強がる妹に感動する場面ですよ。論破しちゃ台無しです」
「あ……悪い」
「まったく……」
有瓜は膨らませていた頬をふっと緩めて頬笑んだ……って、有瓜に気を遣わせてどうするんだよ。
「……俺にして欲しいことがあったら遠慮なく言ってくれよ」
「はい、そうします」
有瓜は寝たまま頷き、やっぱり頬笑んだ。
結局、俺にできることはなかった。
有瓜の不調を癒したのは、ゴブリンたちだった。
まあ要するに、いつも通り、セックスだった。
●
「あっ……ふぁ……♥」
有瓜の甘い吐息が、木陰から聞こえてくる。
いま毛皮の上で寝そべっているのは戦士ゴブリンだ。有瓜はそいつの腹の上で仰向けに寝そべっていた。そして勿論、有瓜の秘所は戦士の巨根で拡げられ、塞がれている。
背面座位から揃って背中を倒した体勢で、二人は派手に動くこともなく睦み合っていた。
「はあぁ……これ、癒されますよぉ……♥」
戦士ゴブリンが下からときどき、腰を、というか身体全体をゆったり揺らす動きが、いまの有瓜には丁度良いようだ。
戦士のほうもそれが分かっているようで、いつものように快感を求めるための腰使いはせず、安楽椅子であることに徹している。
「にしても、結局これで癒されちゃうわたしって、どうなんでしょうねぇ……」
「いいんじゃないのか、いつも通りで」
「義兄さん、適当です……っていうか、なんで近くで見てるんですかね? わたしにだって羞恥心というものがあるわけでして……」
「俺がいるのにヤりだしたのはそっちだろ」
いま有瓜の敷き布団になっている戦士ゴブリンは、さっきまで団扇を扇いでいたやつだ。
彼はただ健気に団扇を扇いでいただけなのに、有瓜が唐突に、
「そうです。ここは初心に返りましょう」
とか言って、彼を褥に引っ張り込んだのだった。
いや、おまえ。妊娠中はセックス自重します、とか言っていなかったか? ……まさか、自重した結果が重度の悪阻だったりするのか? おまえはセックスしないと体調崩す生き物なのか?
……色々とツッコミが追いつかないけれど、初心に返った甲斐はあったらしい。愛撫から挿入に至った時点で、有瓜の顔色は土気色を止め、心地好く半身浴しているような桜色になるまで赤味を取り戻していた。
根本的な解決にはなっていないけれど、悪阻の症状緩和ができたのは素直に良かったなと思うのだけど――
「せめて、俺が離れてからヤってほしかったな」
「んっ……だって、唐突に思いついちゃったんです、もん……んっ、ぅ……っていうか、義兄さん、べつに向こうへ行ってても、いい……ん、ですよぉ……っは、ぁ……♥」
仰向けの有瓜は両膝を曲げたり、爪先を丸めたりしながら、俺に横目を向けてくる。だが、俺は頭を振って答えた。
「それじゃ、俺が意識しているみたいじゃないか」
「意識してないほうが問題のような……ああッ!? そこっ、強すぎっ……いっ、っ♥ もっと、ゆっくりぃ♥」
俺との会話に意識を向けすぎていたためか、戦士が腰をぐいっと持ち上げた瞬間、有瓜は喉を見せるように仰け反って、戦士に腰使いを止めさせた。
なお、今日の有瓜は全裸ではなく、貫頭衣を着用している。病人への自重を求めた結果だが、
それで着衣セックスを――しかも下半身は結局丸出しになっている状況でのセックスを始めているのだから、自重もクソもなかった。
「い、意識しているわけじゃないけど……有瓜、俺は向こうで一仕事してくるから……ごゆっくり」
「あ、あっ……はい、義兄さ――んあぁ♥ そこぉ♥ そうそう、その感じでっ……あ、あっ、あぁッ♥」
「……本当にごゆっくり」
返事をするのももどかしそうな有瓜にどうにか苦笑して、俺はこの場を立ち去った。
前日まで、その兆候は全くなかったし、日数的にもまだ妊娠二ヶ月ほどだ。俺は、悪阻というのは妊娠三ヶ月の辺りで起こるものだと思っていたから、完璧に油断していた。
有瓜はある朝起きたら具合が悪くなったきり、今日で五日目だ。容体は全く良くなっていない。
「中にいるの、竜の子だもんな。普通に考えてどうするんだよ、って話だったよ」
シャーリーとアンのときも妊娠から出産まで早かった。それに比べて、有瓜の下腹部は膨らみ方が常識的だったから油断した。
「アンの悪阻も酷かったっけな……」
でも、アンのときは村から貰ってきたお酢のおかげで乗り切ることができた。勿論、有瓜にもお酢を試してもらったけれど、駄目だった。
「酸っぱくて気持ち悪い……うっ……!」
結局、有瓜が口にできたのは、湯冷ましとユタカの実だけだった。それ以外は、肉も野菜も果物も香辛料も一切合切、受け付けなかった。
「ごめんなさい、義兄さん。こんな、急に……うっ……」
「有瓜、無理に喋らなくていい。とにかく横になってろ」
いま有瓜は、木陰に敷いた毛皮の上で仰向けになって、ゴブリンたちに団扇で扇がれている。この団扇は、椅子などを作ったときの端材に大きな葉っぱを膠で貼り付け、持ち手に毛皮の端切れを巻いたものだ。とても残念な出来映えなのだけど、ゆっくりと扇げば壊れずに微風を起こすくらいはできた。少なくとも、毛皮のパンツで扇ぐよりは百倍マシだった。
木陰で微風を受けながらも、有瓜の顔色は悪い。土気色というやつだ。アンの悪阻も酷かったけれど、これほどではなかった。
「有瓜……」
本当に大丈夫か――と言いかけて、止めた。言っても詮ないことだと気づいたからだ。
「義兄さん、酷い顔してますよ」
有瓜がくすりと笑う。土気色の笑顔だ。そんなのを見せられたら、俺はますます酷い顔になってしまうじゃないか。
「大丈夫ですよ、義兄さん。世の中、悪阻で苦しんだひとは大勢いますけど、悪阻で死んだひとはいません。だから大丈夫ですって」
「……悪阻でまともな食事ができなくなって衰弱死したひとはいるんじゃないか?」
「義兄さん、ここは健気に強がる妹に感動する場面ですよ。論破しちゃ台無しです」
「あ……悪い」
「まったく……」
有瓜は膨らませていた頬をふっと緩めて頬笑んだ……って、有瓜に気を遣わせてどうするんだよ。
「……俺にして欲しいことがあったら遠慮なく言ってくれよ」
「はい、そうします」
有瓜は寝たまま頷き、やっぱり頬笑んだ。
結局、俺にできることはなかった。
有瓜の不調を癒したのは、ゴブリンたちだった。
まあ要するに、いつも通り、セックスだった。
●
「あっ……ふぁ……♥」
有瓜の甘い吐息が、木陰から聞こえてくる。
いま毛皮の上で寝そべっているのは戦士ゴブリンだ。有瓜はそいつの腹の上で仰向けに寝そべっていた。そして勿論、有瓜の秘所は戦士の巨根で拡げられ、塞がれている。
背面座位から揃って背中を倒した体勢で、二人は派手に動くこともなく睦み合っていた。
「はあぁ……これ、癒されますよぉ……♥」
戦士ゴブリンが下からときどき、腰を、というか身体全体をゆったり揺らす動きが、いまの有瓜には丁度良いようだ。
戦士のほうもそれが分かっているようで、いつものように快感を求めるための腰使いはせず、安楽椅子であることに徹している。
「にしても、結局これで癒されちゃうわたしって、どうなんでしょうねぇ……」
「いいんじゃないのか、いつも通りで」
「義兄さん、適当です……っていうか、なんで近くで見てるんですかね? わたしにだって羞恥心というものがあるわけでして……」
「俺がいるのにヤりだしたのはそっちだろ」
いま有瓜の敷き布団になっている戦士ゴブリンは、さっきまで団扇を扇いでいたやつだ。
彼はただ健気に団扇を扇いでいただけなのに、有瓜が唐突に、
「そうです。ここは初心に返りましょう」
とか言って、彼を褥に引っ張り込んだのだった。
いや、おまえ。妊娠中はセックス自重します、とか言っていなかったか? ……まさか、自重した結果が重度の悪阻だったりするのか? おまえはセックスしないと体調崩す生き物なのか?
……色々とツッコミが追いつかないけれど、初心に返った甲斐はあったらしい。愛撫から挿入に至った時点で、有瓜の顔色は土気色を止め、心地好く半身浴しているような桜色になるまで赤味を取り戻していた。
根本的な解決にはなっていないけれど、悪阻の症状緩和ができたのは素直に良かったなと思うのだけど――
「せめて、俺が離れてからヤってほしかったな」
「んっ……だって、唐突に思いついちゃったんです、もん……んっ、ぅ……っていうか、義兄さん、べつに向こうへ行ってても、いい……ん、ですよぉ……っは、ぁ……♥」
仰向けの有瓜は両膝を曲げたり、爪先を丸めたりしながら、俺に横目を向けてくる。だが、俺は頭を振って答えた。
「それじゃ、俺が意識しているみたいじゃないか」
「意識してないほうが問題のような……ああッ!? そこっ、強すぎっ……いっ、っ♥ もっと、ゆっくりぃ♥」
俺との会話に意識を向けすぎていたためか、戦士が腰をぐいっと持ち上げた瞬間、有瓜は喉を見せるように仰け反って、戦士に腰使いを止めさせた。
なお、今日の有瓜は全裸ではなく、貫頭衣を着用している。病人への自重を求めた結果だが、
それで着衣セックスを――しかも下半身は結局丸出しになっている状況でのセックスを始めているのだから、自重もクソもなかった。
「い、意識しているわけじゃないけど……有瓜、俺は向こうで一仕事してくるから……ごゆっくり」
「あ、あっ……はい、義兄さ――んあぁ♥ そこぉ♥ そうそう、その感じでっ……あ、あっ、あぁッ♥」
「……本当にごゆっくり」
返事をするのももどかしそうな有瓜にどうにか苦笑して、俺はこの場を立ち去った。
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