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3章
44-2. 騎士との遭遇 ロイド
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最初に騎士たちの接近に気づいたのは、ギルバートが来た日の翌日朝方、周辺の警戒をしていた忍者たちだった。
騎士たちが帰ったとの報告を受けるまでは遠出しないように、とゴブリンたちに伝えてあったが、忍者たちは周辺の警戒を止めなかった。森に隠れ潜んで行動する彼らが気づかれることはないだろうと高を括っていたのは認める。それに、もしも何らかの手段で見つかってしまったときは、洞窟ではない方向へ逃げて撒くように言ってあった。
実際、近づいてきた五名の騎士が、彼らを目視で捉えている忍者たちに気づいている様子はなかったという。それなのに、彼らはまるで道が分かっているかのように、村から洞窟へと通じている道なき道をまっすぐに進んでくるのだという。
「魔術か、これ。やっぱり、そういうのがあるのか!」
忍者たちが入れ替わりで持ってくる報告の中に、彼らが何らかの道具を使っている様子はないけれど、先頭に立って歩く騎士がときどき立ち止まっては妙な素振りをしている――というのがあった。その妙な素振りというのが、魔術を使うための詠唱とか印契とか、そういうやつなのだろう。
とにかく、騎士たちは着々とこちらに近づきつつある。
俺たちは洞窟に隠れることにした。
洞窟前の広場に広げてあった敷物や椅子などは洞窟内に運び入れ、竈などの動かせないものは勿体ないけれど崩した上で、広場一帯に土砂や枝葉をばらまいて、ただの荒れ地に見えるよう偽装工作をする。できるなら洞窟の出入り口にも偽装を施したかったのだけど、なまじ大きく口を開けているために、不自然さを出さずに隠すことは不可能だった。普段は大柄な戦士たちも悠々通れる広さと高さであることに感謝していたけれど、こんなときばかりは恨めしい。
「ばれるかな? ……ばれるかな」
最初のは疑問で、次のは確認だ。付加疑問文だ。
「ばれると思っているのなら、森の中に散らばって隠れたほうが良かったんじゃないですかねぇ?」
有瓜が不服げに言ってくる。
森の中で警戒網を敷いている忍者たち以外のゴブリンも全員が洞窟内に入っているので、なんとなく暑苦しい。満員電車を思い出す。有瓜が不愉快そうなのは、そのせいだろう。
といっても、この洞窟は奥行きがあるし、奥まで行ってしまえば大広間になっている。それなのに満員電車状態なのは、みんな洞窟の外が気になるせいで奥まで行かずに溜まっているせいだった。つまり自業自得だった。
「ねえ、義兄さん。やっぱり、いまからでも外に出て隠れ直しません?」
「手遅れだ。いまからじゃ鉢合わせするかもしれない」
「じゃあ、もっと奥に行きましょうよ。というか、奥に行きます!」
有瓜は宣言すると、洞窟の奥へと歩いていく。ゴブリンたちもすぐさま、それを追いかけた。
「あっ、わっわっ!?」
「姐さんたち、ゆっくりで頼みます!」
俺たちの中でアンとシャーリーだけは暗視能力がないため、それぞれ戦士にお姫様抱っこされている。なので暗闇の中を動いて転んだりすることはないのだけど、ただ運ばれているだけでもかなり怖いみたいだ。あまり騒ぐべきではないと分かっているはずだろうに、それでも声を出して互いが近くにいることを確認し合わずにはいられないのだろう。
そんなこんなで、俺たちは洞窟最深部の広間へと入った。壁、床、天井の材質が洞窟内とは一変している、明らかに人の手が入っていると分かる大広間だ。ここまで来てしまうと、洞窟外の状況を把握するのは完全に不可能になる。何事もなく騎士たちが帰っていったのなら、それを確認した忍者がここまで来て報告してくれるはずだ。俺たちはここでじっと、その報告が届けられるのを待てばいい。
――だけど、そう思い通りに物事は運んでくれないのだ。
洞窟奥の祭壇とも呼んでいる広場に着いて間もなく、入り口のほうから明りが近づいてきた。微妙に揺らめくそれは、松明の明りだった。
「入ってきたんだ……」
アンの呟きが耳に入る。それくらい、俺たちは息を潜めていた。だけど、松明の明りが引き返す素振りはない。このまま確実に、広間で見つかるだろう。
……やるしかないか。
俺は予め決めていたサインを手振りで示して、全員に指示を出した。戦士たちは広間の奥側で待機して、忍者たちは音もなく左右に散開する。
松明の光と足音、それに押し殺してはいるけれど数名の話し声が届くようになる。そのすぐ後、松明を掲げる人影が広間の入り口に姿を現した。
――まだだ。
仕掛けるのは、彼らが広間の中央まで入ってきてからだ。
「おぉ……」
「なんだ、ここは……」
そんな声が聞こえてきて、松明の火が左右に大きく動かされる。
この広間は松明数本で照らしきれるほど狭くはないから、普通なら壁際に身を潜めた忍者たちが照らし出されることはない。だが、彼らは何らかの超常的な手段でこの洞窟にやって来た。そうである以上、明りが届かないからと言って油断はできない――これ以上、後手に回るべきではない。
広間の奥で戦士たちと一緒に息を殺していた俺は、鞘に入ったままの剣を右手で振りかぶって、左手の盾に勢いよく叩きつけた。
ガァン、と鉄同士がぶつかる甲高い音が広間に響く。
「なんだ!?」
「敵だ!」
動揺する騎士たちのうち、先頭に立っていた一人がすぐさま吠えて、正面に立つ俺たちのほうに松明を向けてきた。俺と戦士たちは隠れることなく、その火が照らす中に姿を晒した。
「うっ、うわ! なんだ、この化物は!?」
「ゴブリンなのではなかったのか!?」
騎士たちが戦士ゴブリンを見て、口々に叫んでいる。暗くとも見える俺の目には、騎士たちが恐怖漫画の登場人物よろしく両目を丸々と見開かせた形相で驚愕している顔がはっきりと見えていた。
騎士たちの驚きようを見て、そういえばそうだった、と俺は苦笑してしまう。
もうすっかり馴染んでいて気にすることもなくなっていたけれど、ゴブリンは元々、俺や有瓜よりも小柄だった。戦士たちは、ゴブリンの中では大柄だったけれど、それでもいま驚いている騎士たちに比べれば、頭の位置は一回り以上低かった。
ところが、いまの戦士ゴブリンたちの上背と肉付きは、驚いている騎士たちと同じか、あるいは一回りほども上回っている。松明しか明りのないところで出会ってしまえば、ゴブリンだと思えないのも当然だった。
「話が違うぞ、ラヴィニエ!」
「だから、私は言ったではないか! ゴブリンのようだがおかしい、と。それを無視したのはどちらだ!?」
「あれのどこが、ゴブリンなのだ! 人より大きなゴブリンがいるか!」
この状況下で責任の押しつけ合いをしている豪胆な騎士たちに、俺たちは剣や棍棒を構えて躙り寄っていく。
「くっ……言い合いは後だ! 全員、逃げるぞ!」
先ほどラヴィニエと呼ばれていた、松明のひとつを持って先頭に立っていた騎士が号令を出す。言い合いの様子からして他の騎士とも同格の立場のようだったが、他の騎士たちもこの号令に異論を唱える者はなく、すぐに後退りを始める。さすがにいきなり背を向けるような無様は晒さなかったけれど、どちらにせよ、もう遅い。
先頭の騎士と、逃げ腰になっていたもう一人の騎士が持っていた松明二本が、同時にふっと火を消した。
神官ゴブリンの魔術だ。戦士や忍者が身体能力を上げているのと同じように、神官も魔術の技量や出力を上げていた。さらには、この世界でも物理法則は地球と通じているようで、俺が教えた自然科学の知識を利用することで、魔術の応用力は飛躍的に上がっていた。高校レベルの知識でも馬鹿にできないものだ。
火を消した方法は、松明の火の周りから空気を移動させて真空にしただけだ。現代知識チートというほどのことでもないけれど、騎士たちを混乱させるのには十分だった。
「なんだ!?」
「みっ、見えない……うわぁ!!」
光源を失った騎士たちの悲鳴が、広間の壁や高い天井に響く。
「狼狽えるな! すぐに明りを出す!」
暗闇の中、先頭に立っていた騎士が消えた松明を投げ捨てながら叫ぶ。そして、胸の前で両手を握って動きを止める。それは、神官が魔術を使うときの仕草とよく似ていた。
――魔術で光を作るつもりか!?
一瞬、ひやりとしたけれど、それも杞憂に終わった。
神官が松明の火を消したのと同時に動き出した忍者たちが、騎士たちの左右から速やかに襲いかかり、棍棒で臑を打って蹲ったところを、あるいは膝を裏から叩いて転ばせたところを頭部へ一撃して抵抗力を奪っていった。
頭部への一撃で意識を失った者も、朦朧としただけで済んだ者も、どちらもお構いなしに、丈夫な蔦で編んだ縄を使って縛り上げていく。
ちなみにこの縄、有瓜がなぜか欲しがって、ゴブリンたちが何本も撚ったものだ。騎士たちを後ろ手に縛っていく手際の良さも、これまた有瓜がなぜか知っていた縛り方を、ゴブリンたちが情熱的な学習意欲で学び取っていたからだった。
五分の条件で戦った場合、騎士というのがどれだけ強いのかは知らないけれど、暗闇の中では戦いとも呼べないほど一方的な展開になった。俺と一緒に控えていた戦士たちは出番がなかったこと、不服げに鼻息を鳴らしていた。
「くっ……貴様たち、ゴブリンではないな!?」
おそらく魔術の明りを作ろうとしていたのだろう騎士が、後ろ手に縛れて寝かされた姿勢で、朦朧とした頭を振りつつ吠える。俺たちに言っているのだろうが、暗さのために視線は辺りを空しく彷徨っている。
だがそんなことよりも、殴られた弾みで脱げた兜の内から露わになった顔と髪に、俺は目を奪われていた。
兜から露わになった、ショートカットながらもさらさらの金髪と、繊細な目鼻立ち。
中性的な美青年と言われたら、そう思ったかもしれない。だけど、俺はこいつの声を――声変わり前の少年みたいな声だなと思っていた声を、聞いていた。だから、分かってしまった。
こいつは女だ、と。
女騎士だ、と。
ゴブリンの住処で捕えられた女騎士だ、と。
騎士たちが帰ったとの報告を受けるまでは遠出しないように、とゴブリンたちに伝えてあったが、忍者たちは周辺の警戒を止めなかった。森に隠れ潜んで行動する彼らが気づかれることはないだろうと高を括っていたのは認める。それに、もしも何らかの手段で見つかってしまったときは、洞窟ではない方向へ逃げて撒くように言ってあった。
実際、近づいてきた五名の騎士が、彼らを目視で捉えている忍者たちに気づいている様子はなかったという。それなのに、彼らはまるで道が分かっているかのように、村から洞窟へと通じている道なき道をまっすぐに進んでくるのだという。
「魔術か、これ。やっぱり、そういうのがあるのか!」
忍者たちが入れ替わりで持ってくる報告の中に、彼らが何らかの道具を使っている様子はないけれど、先頭に立って歩く騎士がときどき立ち止まっては妙な素振りをしている――というのがあった。その妙な素振りというのが、魔術を使うための詠唱とか印契とか、そういうやつなのだろう。
とにかく、騎士たちは着々とこちらに近づきつつある。
俺たちは洞窟に隠れることにした。
洞窟前の広場に広げてあった敷物や椅子などは洞窟内に運び入れ、竈などの動かせないものは勿体ないけれど崩した上で、広場一帯に土砂や枝葉をばらまいて、ただの荒れ地に見えるよう偽装工作をする。できるなら洞窟の出入り口にも偽装を施したかったのだけど、なまじ大きく口を開けているために、不自然さを出さずに隠すことは不可能だった。普段は大柄な戦士たちも悠々通れる広さと高さであることに感謝していたけれど、こんなときばかりは恨めしい。
「ばれるかな? ……ばれるかな」
最初のは疑問で、次のは確認だ。付加疑問文だ。
「ばれると思っているのなら、森の中に散らばって隠れたほうが良かったんじゃないですかねぇ?」
有瓜が不服げに言ってくる。
森の中で警戒網を敷いている忍者たち以外のゴブリンも全員が洞窟内に入っているので、なんとなく暑苦しい。満員電車を思い出す。有瓜が不愉快そうなのは、そのせいだろう。
といっても、この洞窟は奥行きがあるし、奥まで行ってしまえば大広間になっている。それなのに満員電車状態なのは、みんな洞窟の外が気になるせいで奥まで行かずに溜まっているせいだった。つまり自業自得だった。
「ねえ、義兄さん。やっぱり、いまからでも外に出て隠れ直しません?」
「手遅れだ。いまからじゃ鉢合わせするかもしれない」
「じゃあ、もっと奥に行きましょうよ。というか、奥に行きます!」
有瓜は宣言すると、洞窟の奥へと歩いていく。ゴブリンたちもすぐさま、それを追いかけた。
「あっ、わっわっ!?」
「姐さんたち、ゆっくりで頼みます!」
俺たちの中でアンとシャーリーだけは暗視能力がないため、それぞれ戦士にお姫様抱っこされている。なので暗闇の中を動いて転んだりすることはないのだけど、ただ運ばれているだけでもかなり怖いみたいだ。あまり騒ぐべきではないと分かっているはずだろうに、それでも声を出して互いが近くにいることを確認し合わずにはいられないのだろう。
そんなこんなで、俺たちは洞窟最深部の広間へと入った。壁、床、天井の材質が洞窟内とは一変している、明らかに人の手が入っていると分かる大広間だ。ここまで来てしまうと、洞窟外の状況を把握するのは完全に不可能になる。何事もなく騎士たちが帰っていったのなら、それを確認した忍者がここまで来て報告してくれるはずだ。俺たちはここでじっと、その報告が届けられるのを待てばいい。
――だけど、そう思い通りに物事は運んでくれないのだ。
洞窟奥の祭壇とも呼んでいる広場に着いて間もなく、入り口のほうから明りが近づいてきた。微妙に揺らめくそれは、松明の明りだった。
「入ってきたんだ……」
アンの呟きが耳に入る。それくらい、俺たちは息を潜めていた。だけど、松明の明りが引き返す素振りはない。このまま確実に、広間で見つかるだろう。
……やるしかないか。
俺は予め決めていたサインを手振りで示して、全員に指示を出した。戦士たちは広間の奥側で待機して、忍者たちは音もなく左右に散開する。
松明の光と足音、それに押し殺してはいるけれど数名の話し声が届くようになる。そのすぐ後、松明を掲げる人影が広間の入り口に姿を現した。
――まだだ。
仕掛けるのは、彼らが広間の中央まで入ってきてからだ。
「おぉ……」
「なんだ、ここは……」
そんな声が聞こえてきて、松明の火が左右に大きく動かされる。
この広間は松明数本で照らしきれるほど狭くはないから、普通なら壁際に身を潜めた忍者たちが照らし出されることはない。だが、彼らは何らかの超常的な手段でこの洞窟にやって来た。そうである以上、明りが届かないからと言って油断はできない――これ以上、後手に回るべきではない。
広間の奥で戦士たちと一緒に息を殺していた俺は、鞘に入ったままの剣を右手で振りかぶって、左手の盾に勢いよく叩きつけた。
ガァン、と鉄同士がぶつかる甲高い音が広間に響く。
「なんだ!?」
「敵だ!」
動揺する騎士たちのうち、先頭に立っていた一人がすぐさま吠えて、正面に立つ俺たちのほうに松明を向けてきた。俺と戦士たちは隠れることなく、その火が照らす中に姿を晒した。
「うっ、うわ! なんだ、この化物は!?」
「ゴブリンなのではなかったのか!?」
騎士たちが戦士ゴブリンを見て、口々に叫んでいる。暗くとも見える俺の目には、騎士たちが恐怖漫画の登場人物よろしく両目を丸々と見開かせた形相で驚愕している顔がはっきりと見えていた。
騎士たちの驚きようを見て、そういえばそうだった、と俺は苦笑してしまう。
もうすっかり馴染んでいて気にすることもなくなっていたけれど、ゴブリンは元々、俺や有瓜よりも小柄だった。戦士たちは、ゴブリンの中では大柄だったけれど、それでもいま驚いている騎士たちに比べれば、頭の位置は一回り以上低かった。
ところが、いまの戦士ゴブリンたちの上背と肉付きは、驚いている騎士たちと同じか、あるいは一回りほども上回っている。松明しか明りのないところで出会ってしまえば、ゴブリンだと思えないのも当然だった。
「話が違うぞ、ラヴィニエ!」
「だから、私は言ったではないか! ゴブリンのようだがおかしい、と。それを無視したのはどちらだ!?」
「あれのどこが、ゴブリンなのだ! 人より大きなゴブリンがいるか!」
この状況下で責任の押しつけ合いをしている豪胆な騎士たちに、俺たちは剣や棍棒を構えて躙り寄っていく。
「くっ……言い合いは後だ! 全員、逃げるぞ!」
先ほどラヴィニエと呼ばれていた、松明のひとつを持って先頭に立っていた騎士が号令を出す。言い合いの様子からして他の騎士とも同格の立場のようだったが、他の騎士たちもこの号令に異論を唱える者はなく、すぐに後退りを始める。さすがにいきなり背を向けるような無様は晒さなかったけれど、どちらにせよ、もう遅い。
先頭の騎士と、逃げ腰になっていたもう一人の騎士が持っていた松明二本が、同時にふっと火を消した。
神官ゴブリンの魔術だ。戦士や忍者が身体能力を上げているのと同じように、神官も魔術の技量や出力を上げていた。さらには、この世界でも物理法則は地球と通じているようで、俺が教えた自然科学の知識を利用することで、魔術の応用力は飛躍的に上がっていた。高校レベルの知識でも馬鹿にできないものだ。
火を消した方法は、松明の火の周りから空気を移動させて真空にしただけだ。現代知識チートというほどのことでもないけれど、騎士たちを混乱させるのには十分だった。
「なんだ!?」
「みっ、見えない……うわぁ!!」
光源を失った騎士たちの悲鳴が、広間の壁や高い天井に響く。
「狼狽えるな! すぐに明りを出す!」
暗闇の中、先頭に立っていた騎士が消えた松明を投げ捨てながら叫ぶ。そして、胸の前で両手を握って動きを止める。それは、神官が魔術を使うときの仕草とよく似ていた。
――魔術で光を作るつもりか!?
一瞬、ひやりとしたけれど、それも杞憂に終わった。
神官が松明の火を消したのと同時に動き出した忍者たちが、騎士たちの左右から速やかに襲いかかり、棍棒で臑を打って蹲ったところを、あるいは膝を裏から叩いて転ばせたところを頭部へ一撃して抵抗力を奪っていった。
頭部への一撃で意識を失った者も、朦朧としただけで済んだ者も、どちらもお構いなしに、丈夫な蔦で編んだ縄を使って縛り上げていく。
ちなみにこの縄、有瓜がなぜか欲しがって、ゴブリンたちが何本も撚ったものだ。騎士たちを後ろ手に縛っていく手際の良さも、これまた有瓜がなぜか知っていた縛り方を、ゴブリンたちが情熱的な学習意欲で学び取っていたからだった。
五分の条件で戦った場合、騎士というのがどれだけ強いのかは知らないけれど、暗闇の中では戦いとも呼べないほど一方的な展開になった。俺と一緒に控えていた戦士たちは出番がなかったこと、不服げに鼻息を鳴らしていた。
「くっ……貴様たち、ゴブリンではないな!?」
おそらく魔術の明りを作ろうとしていたのだろう騎士が、後ろ手に縛れて寝かされた姿勢で、朦朧とした頭を振りつつ吠える。俺たちに言っているのだろうが、暗さのために視線は辺りを空しく彷徨っている。
だがそんなことよりも、殴られた弾みで脱げた兜の内から露わになった顔と髪に、俺は目を奪われていた。
兜から露わになった、ショートカットながらもさらさらの金髪と、繊細な目鼻立ち。
中性的な美青年と言われたら、そう思ったかもしれない。だけど、俺はこいつの声を――声変わり前の少年みたいな声だなと思っていた声を、聞いていた。だから、分かってしまった。
こいつは女だ、と。
女騎士だ、と。
ゴブリンの住処で捕えられた女騎士だ、と。
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