【R-18】執愛される女神の天上の愛と地上の恋

天上の華界 篇

悋気に湧く華妃と秘匿の寵妃の願い

御殿ごてんの〈奥宮おくみや〉。

美しい女神が一人囚とらわれている。そこには、あまりの気怠けだるさに寝台に身を投げ出す女神彩華さいかの姿。

このところ不調な日々を来たすも、堪たえられる範囲内で無理に平静を装い、最高神華王かおうを受け入れる。

さすがに不調な彩華さいかを最高神華王かおうも無理に抱いだく事はせず、ただただ労いたわり、甘やかす。

「愛いとしい我われの彩華さいかー……」

そう甘く囁ささやいては、その胸に抱いだいて、ただ共に眠りに就つく。

大人しく従順じゅうじゅんに身を任せる女神彩華さいかに、殊ことに優しい最高神華王かおうは、女神彩華さいかの「全てを手にしている」との確たる想いを信じて疑わない。

ーただ、女神彩華さいかの心中は穏おだやかではない。

(……もしかしたらー……私のお腹にはー……)

その想いが拭ぬぐえない。

込み上げるような吐き気が、それを物語る。

(……それにー……)

心なしか、胎はらの中から温かな煌きらめきを感じる。何かが芽吹めぶくようなー……そうした感覚に襲われる女神彩華さいか。

どの様な事情であれ、もしこの胎はらに芽吹めぶいた煌きらめきがあるのなら、それは守るべき大切な生命いのちの煌きらめき。

女神彩華さいかの美しい瞳からは、自然と涙が頬ほほを伝う。


そして、そうした日々に終始を打つ者が現れる。


人知れず、女神彩華さいかの〈奥宮おくみや〉へと忍び込み、結界に穴を開け入り込んだのは、最高神華王かおうの伴侶はんりょともする華妃かひ富貴ふうき。

寝台に薄衣うすぎぬだけで横たわる女神彩華さいかを視界に捉えれば、その薄衣うすぎぬを掴み、微睡まどろむ女神彩華さいかの頬ほほを打つ。

「この妖女ようじょがー……！」

「あっ……」

打たれた頬ほほを抑え、驚きに瞳めを見開く女神彩華さいか。

「そなたがー……そなたがいる所為せいでー……あの御方おかたは私わたくしを見てはくれないー……そなたなどがいる所為せいで……どうして、どうして……そなたなどがー……！」

はらはらと涙を流す華妃かひ富貴ふうき。

常に凛りんした艶あでやかさを纏まとう華妃かひ富貴ふうき。

人前で弱音を吐く姿などは決して見せない。その彼女が、人目ひとめも憚はばからずに涙を流す。

頬ほほを打たれた女神彩華さいかよりも、華妃かひ富貴ふうきの方が酷ひどく傷付いているように見える。それが女神彩華さいかの心を抉えぐる。

今や最高神華王かおうの寵愛ちょうあいを独り占めしているのは、紛れもなく女神彩華めがみ。

望むと望まざるにかかわらず、兄神華王あにがみかおうへと妹神いもうとがみ彩華さいか自身も恋情れんじょうを抱いだいた事は確か。

図はからずも互いの想いは同じで、半ば凌辱りょうじょく紛まがいに抱いだかれながらも兄神華王あにがみかおうの烈情れつじょうに流され、そして結ばれた二人。

(……でも、これ以上はー……)

兄妹神けいまいしんで添い遂げる事は、この天上世界でも赦ゆるされない禁忌きんき。それを犯している事への罪悪感が、払拭ふっしょくできないでいる女神彩華さいか。

日増しに苛さいなまれる心に胸が痛む。

最早もはや、ここらで引かなければ取り返しがつなくなる。

今は「禁域きんいき」の〈奥宮おくみや〉に囚とらわれ、秘匿ひとくとされてはいるが、事ことが公おおやけになれば、それこそ最高神華王かおうの盤石ばんじゃくな立場を穢けがしかねない。

ーだから、女神彩華さいかは心を決める。

(……もはや、兄神あにがみ様の元から去ろうー……)

それが一番良い方法と思える女神彩華さいかは、愚かな行為とも言われようとも華妃かひ富貴ふうきに縋すがってみせる。

寝台から身を起こす女神彩華さいかは、そのまま地へと平伏ひれふす。

「華妃かひ様ー……どうかお願いにございます！　私を此処ここから逃して下さい！　兄神あにがみ様の隣りに並び立つほどの貴女あなた様なら、それぐらいは容易よういのはずー……どうか、どうかー……切せつにお願いにございます……」

思いもよらない女神彩華さいかの突然の言葉に、華妃かひ富貴ふうきが驚愕きょうがくするのは当然。

「……いったい、何を言い出す？　そなたが自みずから去ると云うのかー……その様な事が信じられるとでもー……！」

華妃かひ富貴ふうきは、女神彩華さいかの薄衣うすぎぬを剥ぎ取ると、その柔肌やわはだに生々しく残る情欲じょうよくの名残なごりを見て取る。

最高神華王かおうは、目合まぐわいこそはしないまでも、「己れのもの」と知らしめるが如ごとく、常に女神彩華さいかの裸身に口付けを浴びせ、紅あかい花弁はなびらを刻み付け、その身体中からだじゅうに散らしてゆく。

「……卑いやしくも、あの御方おかたにー……これほどの証あかしを刻まれ、淫欲いんよくに溺れるそなたが自みずから去るだとー……笑わせるな！」

「誠まことにございます！　華妃かひ様……！」

遂ついには、華妃かひ富貴ふうきの鮮やかな衣装の袂たもとを掴む女神彩華さいか。ーしかし、容易たやすく振り払われれば、その衝動で「うぐっ！」と嘔吐えずく。

「そなた……まさかー……」

華妃かひ富貴ふうきが、驚愕きょうがくし身を震わせる。

女神彩華さいかは、嘔吐えずきながらもどうにか告げる。

「……だからー……だからー……兄神あにがみ様の元にはいられないのです、華妃かひ様ー……」

女神彩華さいかの美しい光彩こうさいの瞳からは、無常の涙が溢あふれては零こぼれ落ち、その頬ほほを染め上げる。