1 / 29
天上の華界 篇
仲の良い兄妹神と切ない想い
しおりを挟む
此処は〈華界〉と呼ばれる美しい天上の世界。
人ならざる華神や女神、華精が集う世界には、色とりどりの美しい花々が咲き乱れ、男神たる華界の最高神華王が統べている。
最初こそ一人であった最高神の男神の華王は、咲き誇る一輪の淡い桃色の大華に自らの生命を分け与え、まずは美しい妹神を造り「彩華」と名付け、情愛を注ぐ。
共に並び立つのは、「艶やかな黒曜の髪」に「光彩を放つ黒曜の瞳」を併せ持つ美しい兄妹神。
次いで最高神華王は、咲き乱れる花々に生命の息吹きを与え、数多の華精を造り、色鮮やかな美しい世界は、こうして出来上がる。
そうした中でも、最高神の兄神と妹神はとても仲睦まじく、常に行動を共にするほど。
「兄神様……! 兄神様……!」
愛らしい声音で駆け寄る妹神彩華。
「ふふっ、どうした彩華……?」
むぎゅっと兄神へと抱きつく彩華。
「ふふっ……何でもないのー……ただ、兄神様とこうしていたいだけー……」
妹神彩華の幸せは、ずっと変わらず兄神の側に共にいる事。そう信じて疑わない。
また兄神の幸せも、この愛しい妹神を護り、その手の内に留めては、ずっとずっと見守り続ける事こそ幸せ。
(我だけの美しい華、彩華ー……おまえが愛おしい……)
兄神華王の秘めた想い。
秘めた想いは、決して口には出さない。
兄妹で睦み合う事は禁忌とされるこの世界。
赦されざる恋情。
(この愛らしい妹神の彩華を、どれほどに愛していることかー……)
美しい美しい華界。
憂いも哀しみもなく、美しいものを愛で、歌や舞いをし、睦み合う者らは番い、豊かな日常を緩やかに生きる。
それがこの世界。
兄神を慕う妹神彩華も「この幸せ」を信じて疑わない。
ずっと続くとー……。
そう思っていた矢先、恋慕う兄神が、ここに来て対となる華妃を迎え入れる。
天上に一つの世界が出来れば、それを統べる神が存在し、男神がいれば女神もいる。
最高神の兄神は、牡丹の花から生まれた女神富貴を伴侶に迎え、より良い華界にするべく、夫婦神として華界を統べる。
折しも、後日に最高神華王と華妃富貴の〈花燭の祭典〉が催される。
此処は〈華王庭園〉の祝いの場。
最高神華王の妹神たる彩華は、華界における順列一位の女神。それ故に、妹神から兄神への祝いの舞いを奉納しなければならない。
「兄神様ー……どうしてー……どうしてー……」
妹神彩華の声は震え、溢れる涙をどうにか押し留め、ただただ祝いの舞いを捧げる。
心は泣くも、顔には笑みを湛え、極上の舞い奉納する妹神彩華。
それを複雑ながらも熱く一心に見つめる兄神華王の心中は、誰にも推し量れない。
次いで、傍らに寄り添う華妃富貴の悋気に湧く心も、妹神彩華には預かり知らぬこと。
最初こそ、華界には兄神と妹神しかおらず、ずっと「自分だけの兄神」と思い、疑いもしなかった妹神彩華。
僅か前。
〈花燭の祭典〉の前夜に、兄神の御殿の寝所へと忍び込む妹神彩華の姿がある。
(……兄神様、どうしてー……どうして今頃になって伴侶を迎えるの? 兄神様の心が何処にあるのかー……彩華は知りたい……)
ーしかし、そこには我が目を疑う辛い光景が彩華を襲う。
兄神華王の広く瀟洒な寝台の上。
薄い紗の垂れ幕の向こうには、睦み合う美しい男神と女神の姿。
最早、それが「誰かー」などは言わずもがな。
甘く艶やかに啼く華妃富貴を寝台に組み敷き、荒々しいまでに男根で貫く兄神華王の姿。
(……兄神様っ! 嗚呼っ、どうしてー……ああっ……)
ぎしぎしと軋む寝台。
兄神の腰が激しく揺れれば、ぬちゅぬちゅと卑猥な音がこだまし、更に喘ぐ華妃富貴の悩ましい姿。
目合う二人には、もはや二人だけの世界がある。
「……あっ、あっ、華王様ー……ああっ! もっと! もっと! 下さいませー……あっ、あっ、あっ、いい……いいの! あっ、あああああっ……! ああんっ……!」
華妃富貴が、惜しみなく喘ぎ快がる。
「……っ!」
うぐっ! 思わず嘔吐く彩華は、その場から一心不乱に逃げ出す。
もはや打ちのめされ、走り去る妹神彩華。
方や、その彩華の惨めな姿を勝ち誇った笑みを湛えては、密かに見つめていた華妃富貴。
兄神の御殿の中にある自身の居室へと戻った彩華。
二人の密な目合いを思い出しては、再び嘔吐き、寝台へと倒れ込む。そして、辛く哀しい現実に涙する。
〈花燭の祭典〉で素晴らしい舞い奉納する妹神彩華。
それが祝いの舞いではなく、「哀しみの舞い」であったとは誰も知らない。
人ならざる華神や女神、華精が集う世界には、色とりどりの美しい花々が咲き乱れ、男神たる華界の最高神華王が統べている。
最初こそ一人であった最高神の男神の華王は、咲き誇る一輪の淡い桃色の大華に自らの生命を分け与え、まずは美しい妹神を造り「彩華」と名付け、情愛を注ぐ。
共に並び立つのは、「艶やかな黒曜の髪」に「光彩を放つ黒曜の瞳」を併せ持つ美しい兄妹神。
次いで最高神華王は、咲き乱れる花々に生命の息吹きを与え、数多の華精を造り、色鮮やかな美しい世界は、こうして出来上がる。
そうした中でも、最高神の兄神と妹神はとても仲睦まじく、常に行動を共にするほど。
「兄神様……! 兄神様……!」
愛らしい声音で駆け寄る妹神彩華。
「ふふっ、どうした彩華……?」
むぎゅっと兄神へと抱きつく彩華。
「ふふっ……何でもないのー……ただ、兄神様とこうしていたいだけー……」
妹神彩華の幸せは、ずっと変わらず兄神の側に共にいる事。そう信じて疑わない。
また兄神の幸せも、この愛しい妹神を護り、その手の内に留めては、ずっとずっと見守り続ける事こそ幸せ。
(我だけの美しい華、彩華ー……おまえが愛おしい……)
兄神華王の秘めた想い。
秘めた想いは、決して口には出さない。
兄妹で睦み合う事は禁忌とされるこの世界。
赦されざる恋情。
(この愛らしい妹神の彩華を、どれほどに愛していることかー……)
美しい美しい華界。
憂いも哀しみもなく、美しいものを愛で、歌や舞いをし、睦み合う者らは番い、豊かな日常を緩やかに生きる。
それがこの世界。
兄神を慕う妹神彩華も「この幸せ」を信じて疑わない。
ずっと続くとー……。
そう思っていた矢先、恋慕う兄神が、ここに来て対となる華妃を迎え入れる。
天上に一つの世界が出来れば、それを統べる神が存在し、男神がいれば女神もいる。
最高神の兄神は、牡丹の花から生まれた女神富貴を伴侶に迎え、より良い華界にするべく、夫婦神として華界を統べる。
折しも、後日に最高神華王と華妃富貴の〈花燭の祭典〉が催される。
此処は〈華王庭園〉の祝いの場。
最高神華王の妹神たる彩華は、華界における順列一位の女神。それ故に、妹神から兄神への祝いの舞いを奉納しなければならない。
「兄神様ー……どうしてー……どうしてー……」
妹神彩華の声は震え、溢れる涙をどうにか押し留め、ただただ祝いの舞いを捧げる。
心は泣くも、顔には笑みを湛え、極上の舞い奉納する妹神彩華。
それを複雑ながらも熱く一心に見つめる兄神華王の心中は、誰にも推し量れない。
次いで、傍らに寄り添う華妃富貴の悋気に湧く心も、妹神彩華には預かり知らぬこと。
最初こそ、華界には兄神と妹神しかおらず、ずっと「自分だけの兄神」と思い、疑いもしなかった妹神彩華。
僅か前。
〈花燭の祭典〉の前夜に、兄神の御殿の寝所へと忍び込む妹神彩華の姿がある。
(……兄神様、どうしてー……どうして今頃になって伴侶を迎えるの? 兄神様の心が何処にあるのかー……彩華は知りたい……)
ーしかし、そこには我が目を疑う辛い光景が彩華を襲う。
兄神華王の広く瀟洒な寝台の上。
薄い紗の垂れ幕の向こうには、睦み合う美しい男神と女神の姿。
最早、それが「誰かー」などは言わずもがな。
甘く艶やかに啼く華妃富貴を寝台に組み敷き、荒々しいまでに男根で貫く兄神華王の姿。
(……兄神様っ! 嗚呼っ、どうしてー……ああっ……)
ぎしぎしと軋む寝台。
兄神の腰が激しく揺れれば、ぬちゅぬちゅと卑猥な音がこだまし、更に喘ぐ華妃富貴の悩ましい姿。
目合う二人には、もはや二人だけの世界がある。
「……あっ、あっ、華王様ー……ああっ! もっと! もっと! 下さいませー……あっ、あっ、あっ、いい……いいの! あっ、あああああっ……! ああんっ……!」
華妃富貴が、惜しみなく喘ぎ快がる。
「……っ!」
うぐっ! 思わず嘔吐く彩華は、その場から一心不乱に逃げ出す。
もはや打ちのめされ、走り去る妹神彩華。
方や、その彩華の惨めな姿を勝ち誇った笑みを湛えては、密かに見つめていた華妃富貴。
兄神の御殿の中にある自身の居室へと戻った彩華。
二人の密な目合いを思い出しては、再び嘔吐き、寝台へと倒れ込む。そして、辛く哀しい現実に涙する。
〈花燭の祭典〉で素晴らしい舞い奉納する妹神彩華。
それが祝いの舞いではなく、「哀しみの舞い」であったとは誰も知らない。
44
お気に入りに追加
154
あなたにおすすめの小説
義兄様に弄ばれる私は溺愛され、その愛に堕ちる
一ノ瀬 彩音
恋愛
国王である義兄様に弄ばれる悪役令嬢の私は彼に溺れていく。
そして彼から与えられる快楽と愛情で心も身体も満たされていく……。
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
腹黒王子は、食べ頃を待っている
月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。
つがいの皇帝に溺愛される幼い皇女の至福
ゆきむら さり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨読んで下さる皆様のおかげです🧡
〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。
完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話。加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は、是非ご一読下さい🤗
ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン💗
設定などは独自の世界観でご都合主義となります。
稚拙な私の作品📝にお付き合い頂き、本当にありがとうございます🧡
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
【R-18】私と彼の八年間〜八年間付き合った大好きな人に別れを告げます〜
桜百合
恋愛
葵は高校の頃から8年間付き合っている俊の態度の変化に苦しんでいた。先の見えない彼との付き合いに疲れ果てた葵は、同棲していた家を出て彼と別れる決心をする。
長年付き合った彼女をおざなりにした結果、失って初めてその大切さに気づくよくあるテンプレのお話。
最初は彼女視点からスタートし、最後に彼氏視点が入ります。
ムーンライトノベルズ様でも「私と彼の八年間」というタイトルで掲載しております。Rシーンには※をつけます。
※10/29、ムーンライトノベルズ様の日間総合ランキングで2位になりました。
ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて
木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。
前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
指輪の跡が消えた時。
王冠
恋愛
今日は付き合って10回目の記念日。 でもあと5分で終わってしまう。 遥は仕事で遅れると言う彼、颯人を待って居たが結局颯人は現れなかった。 そんな颯人に、遥が思う事とは…。 ※かなりゆるゆるなご都合主義の物語ですので、笑って許して下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる